ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

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旅路

ハナ協会北部支部 オフィス

 

白を基調としたオフィスは、

今日も北部地域の清廉な空気を映すように静かで整然としていた。

 

図書館での接待を終えたクリフジが、

静かに扉を開けて入ってきた。

 

クリフジ

「……ただいま戻りました」

 

青紫の衣装には、細かな傷と埃が残り、

いつも腰に携えてる太刀はない

しかしその瞳には、わずかに——ほんのわずかに、

以前とは異なる光が宿っていた。

 

セントライトは書類から顔を上げ、

優しく、しかし心配そうに微笑んだ。

 

セントライト

「クリフジ、無事でしたか」

 

クリフジは埃を軽く払い、

セントライトのデスクに近づく。

 

クリフジ

「ええ、赤い霧とバトルすることになり、

 図書館の接待を受けてきました」

 

メジロラモーヌは書類を置いて、

興味深く身を乗り出した。

 

メジロラモーヌ

「赤い霧と?

 ……それは、聞かないわけにはいかないわね」

 

エクリプスも紅茶のカップを静かに置き、

クリフジを正面から見据えた。

 

エクリプス

「……話してもらえるかしら。ゆっくり座って」

 

クリフジは椅子に腰を下ろし、

淡々と、しかし一つひとつを噛み締めるように語り始めた。

 

---

 

外郭の図書館。

アンジェラの冷ややかな歓迎。

総記の階で出会ったローランの飄々とした態度。

そして——言語の階の司書、ゲブラー。

赤い大剣「ミミック」の重圧が空気を震わせ、

溶鉱炉の熱気が肌を焦がす。

 

ゲブラーの一撃は重く、床を抉る。

クリフジの太刀は軽やかで、正確に隙を突く。

 

「望・壱」「望・弐」「快刀乱麻」——

クリフジの心と望が金色の光輪を放ち、

ゲブラーの炎を切り裂く。

 

互いの武器が火花を散らし、

最終技が激突する轟音。

煙が晴れた時、二人は互いの首元に刃を寸止めしていた。

 

引き分け。

 

ゲブラーの言葉——

「見事だったクリフジ。

 私がここまで追い込まれたのは生前調律者と戦った時を除けばお前が初めてだ」

 

クリフジの返答——

「いい戦いが出来て良かったです」

 

言葉を選ばず、

誇張もせず、

事実だけを積み重ねていく語り。

 

---

 

エクリプスは感嘆の息を吐き、

カップを軽く回した。

 

エクリプス

「……そう、最後は赤い霧と引き分けに終わったのね」

 

クリフジ

「ええ……でも、楽しかったです。

 私の刀も最後まで持ってくれましたし、

 ムク工房でもギリギリ修復は可能な範囲だと」

 

メジロラモーヌ

「流石ね。

 かの赤い霧と双璧を成したと噂された実力……伊達じゃないわ」

 

セントライトは少し心配そうに、

クリフジの袖を軽く見つめる。

 

セントライト

「ええ……それにしてもクリフジっていつの間に心と望を使えるようになっていたのですか?」

 

クリフジ

「大体1年前には」

 

エクリプス

「心と望ね……今となっては特色の標準ステータスみたいなものだけど、

 実際使い手はどれだけいるのかしらね」

 

メジロラモーヌ

「まあ大体の特色は2望〜3望ぐらいなら余裕で出せるはずよ。

 ……クリフジ、貴女は?」

 

クリフジは静かに答えた。

 

クリフジ

「一応5望が現在の最高です。ただ反動もあるので4望までしか普段は使いません」

 

エクリプス

「それは凄いわね……

 それにしてもクリフジは望を使ったのに赤い霧は望なしで互角の戦いをしたんでしょう?

 ……E.G.Oっていうのはそんなに強かったのね」

 

クリフジ

「ええ……あれは私ではまだ真似出来そうにはありませんね」

 

メジロラモーヌ

「赤い霧の伝説の所以が分かるわね」

 

一段落したところで、

クリフジは静かに口を開いた。

 

クリフジ

「……そういえばエクリプスさん、

 貴女もかなり特色としての歴は長いそうですね」

 

エクリプス

「ええ、といっても大半の期間は隠居してた時期もあったけど。

 ハナの協会長が北部支部長の席が空くから就任してほしいって頼んできたから復帰したのよ」

 

クリフジ

「……貴女はどのような特色で?」

 

エクリプス

「まあ任務も色々やってきたけど、

 それ以外はもっぱら後進育成に力を注いだわ」

 

クリフジ

「後進育成?」

 

エクリプス

「この間ここに来たステイゴールドでしょ?

 あと紫の涙のイオリと深紅の天女マルゼンスキーね。

 3人とも今や一流の特色よ」

 

クリフジ

「そのマルゼンスキーという方は知りませんがイオリは知っています。

 ……なんでも、優秀な指導者だとか」

 

エクリプス

「ええ、よくご存知ね。

 かの赤い霧や青い残響、黒い沈黙など様々な特色や1級フィクサーを育てたわ」

 

クリフジ

「……赤い霧の師匠ですか……さぞかし強いんでしょうね」

 

エクリプス

「ええ。でもあの子都市のあちこちを移動してるから、

 よっぽどでもない限り会えないのよね。

 呼び出しにも応じるかは気まぐれだし」

 

クリフジ

「……ふむ、その紫の涙の師匠は貴女ということですが、強さに自信は?」

 

エクリプス

「まああるにはあるけど、赤い霧とタメを張った貴女には敵わないわ。

 昔の全盛期なら私だって五本指を正面から倒すことも出来たけど、

 もう私だってそれなりに歳だからね……

 イオリたちの世代でギリギリ現役といったところかしら?

 私の同期たちもほとんどは隠居してるか協会の管理職で表には滅多に出ないし……

 あとは自由に余生を過ごしてるかね」

 

クリフジ

「見たところかなり若いように見えますが」

 

エクリプス

「ウマ娘だからね、見た目だけなら若いわ。

 でもこれでも歳は取ってるのよ。

 ……とはいえ、そんじょそこらの1級フィクサーよりは強い自信はあるけどね。

 腐っても特色だし」

 

クリフジ

「……そうですか……教えていただきありがとうございます」

 

セントライトはくすりと笑い、

クリフジの袖を軽く引いた。

 

セントライト

「ふふ、クリフジは他の特色に興味があるのですか?」

 

クリフジ

「……最近街を歩いてると私を見て特色ということに気づくものが増えました。

 ……今まで興味はなかったのですが、

 特色というのはそんなに凄いのかと気になって」

 

メジロラモーヌ

「良くも悪くも特色のネームバリューは凄いわ。

 例えば普段芸術に厳しい薬指辺りが貴賓扱いしてくれるもの、

 1級の私からすれば羨ましいわね」

 

エクリプス

「ラモーヌももう少し強くなれば特色になれるわよきっと。

 ……話を戻すと、貴女が目立つようになったのは表舞台に出るようになって

 貴女の噂が広まってるからでしょうね。

 かつては知る者からは赤い霧に匹敵するとまで言われたんだし、

 実力が知れ渡れば否応なしに有名になるしかないわ」

 

クリフジ

「……そうですか、あまり噂されるのも苦手なんですがね……」

 

セントライト

「わたくしは誇らしいですわ、

 クリフジの実力は間違いなく現在の都市でトップクラスになりますから」

 

クリフジ

「……でも、他の特色だって強い者はおるのでしょう?」

 

エクリプス

「ええ、ちょっとまってて……」

 

エクリプスがハナ協会が管理する特色フィクサーの記録ファイルを引き出しから取り出す。

 

エクリプス

「……ベテランな特色だとかなり強さを誇る者も多いわ。

 大体調律者とまでは言わずとも頭の処刑者とタイマン張れたりね。

 ……まあもちろん特色だってピンキリだから下の方だとちょっと強めの1級フィクサーってぐらいの者もいるけどね」

 

クリフジ

「……一応聞きますが現在1番新しい特色は?」

 

エクリプス

「えっと……1ヶ月半ぐらい前に認定された『黄色い銛』のベスパ・グラブロね。

 特色の新人だけど強さは折り紙つきよ。

 今はリンバスカンパニーっていう会社で働いてるわ」

 

クリフジ

「なるほど……教えていただきありがとうございます」

 

メジロラモーヌ

「確かリンバスカンパニーにはマルゼンもいるはずよね」

 

エクリプス

「ええ、ただ最近は忙しいみたいだから連絡が少ないけど……

 少し前にリンバスカンパニーで一悶着あったみたいなのよね」

 

クリフジ

「そうなんですか……弟子のことが心配ですか?」

 

エクリプス

「まあマルゼンなら多分大丈夫よ。

 あの子特色でも上澄みだし、いざとなれば自分の身ぐらい守れるわ」

 

クリフジ

「……弟子を信頼してるのですね」

 

エクリプス

「ふふ、まあね。

 ……とはいえ、この間自宅で特色の身分証を無くしたと言ってきた時は本気で怒ったけどね」

 

セントライト

「ああ、この間支部長が電話で物凄く怒っていた件ですわね」

 

メジロラモーヌ

「まあ本来特色フィクサーの身分を証明する大事なものだもの、当然よね」

 

クリフジ

「そんなことが……」

 

エクリプス

「クリフジ、貴女は持ってるわよね?」

 

クリフジは懐から、

彼岸花のロゴと「Violet Loneliness」の文字が刻まれた身分証を取り出した。

 

クリフジ

「ええ、こちらに」

 

メジロラモーヌ

「彼岸花のロゴ……何か意味があるのかしら?」

 

クリフジ

「彼岸花は1本1本が独立して生えています。

 私にとっては孤独の象徴とともに……愛した方への想いでもあります」

 

エクリプス

「そうなのね……良いじゃないのクリフジ、切ないけど素敵よ」

 

クリフジ

「ありがとうございます」

 

クリフジが身分証を仕舞う。

 

エクリプス

「……それで貴女はこれからどうするの?

 もう自分の意志で行動は出来るのでしょう?」

 

クリフジは静かに息を吐き、

初めて、強い意志を込めて答えた。

 

クリフジ

「ひとまずムク工房で修理中の太刀が手元に戻り次第旅に出ようと思います」

 

セントライト

「旅にですか?」

 

クリフジ

「ええ……ただ何も考えずに都市のあちこちをフラフラしていた時期とは違って、

 考える意志を持って都市を見て回りたいと思ったんです」

 

メジロラモーヌ

「そう……それは良いわね」

 

クリフジ

「ええ、まずは23区にでも行ってきます」

 

エクリプス

「へえ、23区に……23区!?」

 

クリフジ

「はい、赤い霧の出身地とのことなので……」

 

セントライト

「い、いきなりハードな場所を選びますのね……」

 

メジロラモーヌ

「ふふ。まあ、貴女なら大丈夫そうね。気をつけて行ってらっしゃい」

 

クリフジ

「はい」

 

数日後

 

W社23区 ワープ列車プラットホーム

 

荒涼とした風が吹き抜けるプラットフォーム。

遠くにそびえる無数の工場が、灰色の空に溶け込んでいる。

都市で最も危険な区——

裏路地では特に抗争が絶えない場所。

 

修復されたムク工房の太刀を腰に携え、

クリフジは静かに列車を降り立った。

 

クリフジ

「……よし、行きましょうか」

 

恐れはない。

ただ、静かな覚悟だけがある。

 

かつての孤独は、

自分の意志で再び歩み始めた。

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