ハナ協会西部支部 オフィス
午後の陽光が、窓から斜めに差し込んでいた。
ハナ協会西部支部のオフィスは、いつものように活気に満ちている。
机の上には書類が積まれ、端末のキーボード音が軽快に響き、
時折、誰かが小さく笑う声や、ため息が混じる。
時計の針が定時を指した瞬間、
ハイセイコーが椅子から立ち上がり、明るく手を叩いた。
ハイセイコー
「それじゃあ皆、今日もお疲れ様!
用意が出来た人から帰って良いからね!」
その声は、まるで歌うように軽やかだった。
オフィス中にいるフィクサーたちが、一斉に顔を上げる。
「ハイセイコー支部長って……優しいよな〜。
ちょっと惚れそうかも……」
「うんうん! しかもすごく強い!
何しろ都市悪夢や都市の星だろうが、どんな都市災害にも負け知らず!」
「流石特色フィクサー『桃色の偶像』、
あの方は西部支部の誇りだな」
誰かが呟いた言葉に、
周囲がくすくすと笑う。
ハイセイコーは照れたように手を振った。
ハイセイコー
「もう〜、みんな褒めすぎだよぉ。
恥ずかしいからやめてってば!」
笑い声が広がる中、
ハイセイコーは軽やかな足取りで支部長室へと向かった。
支部長室
扉を閉め、ハイセイコーは大きく息を吐いた。
ハイセイコー
「ふぅ、今日も疲れた〜。
でも、皆頑張ってくれたし。
後は軽く書類だけでも終わらせようかな」
デスクに腰を下ろし、
山積みの書類に目を向ける。
都市災害の報告書、フィクサーの昇格申請、
各課からの業務連絡……。
ハイセイコー
「……はぁ、相変わらず多いなぁ」
ペンを手に取り、最初の書類を開いた瞬間——
コンコン。
控えめなノック音。
スティルインラブ
「失礼します……」
扉がゆっくり開き、
紅色の髪を下ろしたウマ娘、1課所属の特色フィクサー「紅色の衝動」スティルインラブが、そっと顔を覗かせた。
ハイセイコー
「あら、スティルちゃん。
なにかあった?」
スティルインラブは両手に小さな紙袋を抱え、
少し緊張した様子で入室する。
スティルインラブ
「いえ……この間の休みにお菓子を作りましたので……
良ければ支部長にも差し上げようと思いまして……」
ハイセイコー
「本当!? それならいただくね!」
目を輝かせて手を差し出すハイセイコー。
スティルインラブは、袋をそっと渡した。
スティルインラブ
「はい……喜んでもらえてなによりです……」
ハイセイコーは袋を開け、
中から丁寧にラッピングされたクッキーを取り出す。
ハイセイコー
「わぁ、すっごく可愛い!
スティルちゃんのお菓子っていつも人気だよね〜。
1課でもよくみんなにあげてるみたいだし」
スティルインラブは、恥ずかしそうに微笑む。
スティルインラブ
「はい……少しでも皆さんが喜んで貰えたらと思って……」
その笑顔は優しい。
だが——どこか、陰りがあった。
ハイセイコー
「……スティルちゃん、何かあった?」
スティルインラブは一瞬だけ目を伏せ、
小さく首を振った。
スティルインラブ
「いえ……ただ、アルヴさんにも差し上げたんですけど……
あまり喜んでもらえなくて……」
ハイセイコー
「アドマイヤグルーヴちゃんね……
まあアルヴちゃんの気難しさは有名だから……
スティルちゃんはなんでアルヴちゃんにそこまでするの?
同期だから?」
スティルインラブ
「……それもありますが……
アルヴさんには昔、都市疾病の任務で助けてもらったことがあったので……
せめてもの恩返しと思って……
アルヴさんが覚えてるかは分かりませんけど……」
ハイセイコー
「……そうなのね。
……ひとまず、アルヴちゃんにも食べてもらえたのでしょう?」
スティルインラブ
「は、はい……」
ハイセイコー
「なら大丈夫じゃない?
少なくとも明確な拒絶はされてないんだし」
スティルインラブ
「……そうでしょうか……」
その時——
アドマイヤグルーヴ
「失礼します」
青髪のウマ娘が、静かに扉を開けた。
スティルインラブ
「あっ、アルヴさん……」
アドマイヤグルーヴは、スティルインラブを一瞥し、
淡々とハイセイコーに向き直る。
アドマイヤグルーヴ
「……スティルさん、支部長に何か用だったの?」
スティルインラブ
「え、えっとその……」
ハイセイコーは、慌ててフォローする。
ハイセイコー
「ああ、大丈夫だよアルヴちゃん。
ただスティルちゃんからお菓子を貰ってただけだから」
アドマイヤグルーヴの目が、わずかに細くなる。
アドマイヤグルーヴ
「お菓子……」
スティルインラブは、縮こまるように肩を落とした。
アドマイヤグルーヴ
「スティルさん、お菓子作りをしてる暇があったら、
フィクサーとしての仕事に専念する方がいいわ。
貴女は特色なんでしょう?」
スティルインラブ
「あ、アルヴさん……」
アドマイヤグルーヴ
「……特色ならもっと相応しい行動をした方がいいわよ」
スティルインラブ
「うう……」
ハイセイコーが慌てて間に入る。
ハイセイコー
「ま、まあまあアルヴちゃん……!
私は気にしていないから……!」
アドマイヤグルーヴは、少しだけ表情を緩めた。
アドマイヤグルーヴ
「……支部長がそう言うなら」
ハイセイコー
「……それでアルヴちゃんは何か用かな?」
アドマイヤグルーヴ
「……はい、今月新たに発生した都市怪談、都市伝説の分類が終わりましたので、
持ってきました」
アドマイヤグルーヴが、書類を差し出す。
ハイセイコー
「ありがとうね……うん、分かった。
いつも通り各協会に仕事を振り分けておいて」
アドマイヤグルーヴ
「分かりました」
アドマイヤグルーヴは礼をすると、すぐに退室する。
ハイセイコーは、ため息をついた。
ハイセイコー
「アルヴちゃん……仕事は優秀なんだけどね……」
スティルインラブ
「……でも、4課では慕われてるんですよね」
ハイセイコー
「まあね。部下の子たちも、なんだかんだで頼りに出来る人って言ってたし。部長なだけあって指揮も的確で統率力も優れてるんだよね」
スティルインラブ
「……それでは私も失礼します。
お疲れ様でした支部長」
ハイセイコー
「うん、気をつけてね」
スティルインラブが退室する。
ハイセイコーは、机に残ったクッキーを手に取り、
一口かじる。
ハイセイコー
「うーん……アルヴちゃんももう少し素直になれたら良いのにな〜」
甘いクッキーの味が、
少しだけ、今日の疲れを癒してくれた。