ハナ協会東部支部 オフィス
ハナ協会東部支部のオフィスは、他の支部と変わらず、
今日もフィクサーたちの静かな作業音で満たされていた。
端末のキーボードを叩く音、
書類をめくる紙の擦れる音、
時折交わされる短い業務連絡。
東部3課部長のシーザリオは、
デスクに山積みの書類と向き合い、
真剣な表情でペンを走らせていた。
シーザリオ
「……ふぅ、今月の都市災害の発生も多いな。
だが、休んでいる暇はない。
各協会、事務所に適切な仕事を割り振るのがハナ協会の役目だからな……」
彼女の声は低く、落ち着いていた。
青い髪を靡かせ、
制服の白いコートが肩にぴったりと収まっている。
部下の一人が、書類の束を抱えて近づいてきた。
部下
「シーザリオ部長、規律違反をしたフィクサーたちの書類を纏めておきました」
シーザリオは視線を上げず、
手を差し出す。
シーザリオ
「ああ、ありがとう。
フィクサーたちの処分はこちらで処理しておく。
場合によってはウーフィ協会への委託もするから置いておいてくれ」
部下
「わかりました」
その時、
オフィスに昼休みの時報が鳴り響いた。
シーザリオはペンを置き、
一瞬で表情を変える。
シーザリオ
「……む、昼休みか。
……それじゃあみんな、仕事が一段落した人から休んでいいからね!」
明るく、軽やかな声。
先程までの厳格さが嘘のように、
笑顔が弾ける。
そのあまりの切り替えの素早さと変化の違いのため、
東部支部フィクサーたちの間では、
それぞれ“オンザリオ”と“オフザリオ”と呼ばれている状態だった。
部下たち
「あっ! はい! わかりました!」
「……やっぱりシーザリオ部長の切り替えの速さは凄いな」
「もう別人クラスだもんね〜。
二重人格って言われても不自然じゃないし……」
「オンザリオ状態の時は厳しいけどオフになったらめっちゃ甘いよな〜。
まあだからこそのギャップ萌えもあるけど……」
くすくすと笑いが広がる。
その時——
シンボリクリスエス
「失礼する……」
東部支部長、シンボリクリスエスが静かに入ってきた。
部下たち
「クリスエス支部長!」
その場にいたフィクサーたちが、全員一斉に礼をする。
シーザリオ
「クリスエスさん!」
シンボリクリスエスは、ゆっくりとオフィスを見回し、
静かに頷いた。
シンボリクリスエス
「シーザリオ……皆も……ご苦労だな……」
シーザリオ
「はい! クリスエスさんは何か御用ですか?」
シンボリクリスエス
「いや……近くを通ったから様子を見に来た……
3課の様子はどうだ……?」
シーザリオ
「問題ないですよ!
皆一生懸命に働いてくれてます!」
シンボリクリスエスは、わずかに目を細め、
静かに言った。
シンボリクリスエス
「そうか……それなら……いい……
でも、無理はしないようにな……
体調管理も……大事な仕事だ……」
シーザリオ
「分かりました、体調と仕事の両立は欠かしません」
(あっ、オンザリオだ)
部下たちの視線が、そっと交錯する。
シンボリクリスエスは、ゆっくりとシーザリオに近づき、
彼女の綺麗な青髪を優しく撫でた。
シンボリクリスエス
「そうか……シーザリオ……いつも……感謝する……」
シーザリオの頰が、ぱっと赤らむ。
シーザリオ
「えへへ! ありがとうございます!」
(一瞬でオフザリオに……)
部下たちは、くすくすと笑いを堪える。
シンボリクリスエス
「では……私は……失礼する……
皆……休息はしっかり……取るんだぞ……」
シンボリクリスエスが去っていく。
シーザリオは、しばらくぼんやりと髪に触れ、
幸せそうな溜息を吐いた。
シーザリオ
「はぁ〜……クリスエスさんに……撫でられた……」
部下の一人が、小声で呟く。
「……シーザリオ部長ってクリスエス支部長に惚れてるんだよな……」
「有名な話だけどね、本人はバレてないつもりっぽいけど……」
「まあシーザリオ部長、支部長の前だとめっちゃ緩んでるもんな……」
すると——
ラインクラフト
「あっ、シーザリオ!」
エアメサイア
「シーザリオさん」
シーザリオ
「あっ、メサイアさんにクラフト、3課に何か用?」
東部2課部長のラインクラフトと、
東部5課部長のエアメサイアが、やってきた。
ラインクラフト
「うん、私は東部地域にいる特色の動向の共有にね」
エアメサイア
「私はハートさんからタクトさんの任務報告書を受け取った帰りに、
たまたまクラフトさんと出会ったので……」
シーザリオ
「そっか。クラフト、特色フィクサーたちの動向はどう?」
ラインクラフト
「うん、ちょっと前に黒緑の愛『ラヴズオンリーユー』が暴れてた1件以降は問題ないよ。
その赤い愛と廃業処分になった旧創始事務所の子たちも裏路地でまた1歩ずつ進んでるみたいだし、
大丈夫そうだね」
シーザリオ
「分かった、メサイアさんの方は?」
エアメサイア
「タクトちゃんの任務報告書も不備はなく、
しっかりどこからどんな依頼を受けたのかも書かれていたので、
次の任務をする許可を出しました。
……ハートさんの苦労が滲み出ていた文章でしたけどね……」
シーザリオ
「あはは……まあタクトちゃんって依頼とはいえ裏路地の住民たちを狩り続けてるからある程度はね……」
ラインクラフト
「でもタクトちゃんって若いのに特色なんて凄いよね〜。
……仕事、もうちょっとマシなものすればいいのに」
シーザリオ
「うーん……まあどんな仕事もするのがフィクサーだし……
それを言ったらシ協会の人達の主な仕事は暗殺だからね……」
ラインクラフト
「それもそっか……」
シーザリオは立ち上がり、
明るく提案した。
シーザリオ
「ひとまずお昼休みだし、昼食でも食べに行こっか」
ラインクラフト
「そうだね」
エアメサイア
「分かりました」
三人でオフィスを出て行く。
残った部下たちが、くすくすと笑う。
「……確かラインクラフト部長とエアメサイア部長はシーザリオ部長の同期なんだよな……」
「そうそう、あと華彩事務所のデアリングハート所長もね。
空色の狩人が所属してるあそこ」
「空色の狩人か〜……
裏路地の連中を狩って23区に卸売するなんて大分やばいけど、かつての青い残響に比べたらまあマシってなるの感覚麻痺してきたよな……」
「まあ特色の管理とかを考えるのは部長たちの仕事だし、
私たちも昼休憩にしよっか」
「だな」
東部支部の昼休みは、
穏やかに始まっていた。