ハナ協会南部本部 ― 二課オフィス
ハナ協会南部支部。
ここは単なる一支部ではない。
ハナ協会の本部――
すべての支部を束ね、都市に存在するあらゆるフィクサー、協会、事務所、特色、
そして都市災害に関する最終的な判断が下される場所。
各区から集まる膨大な報告書。
ねじれの発生報告。
特色フィクサーの動向。
協会間の調整案件。
それらはすべて、この南部本部を通過していく。
二課のオフィスも例外ではなかった。
机の上に積み上がった書類を前に、
白髪のウマ娘――ビワハヤヒデは、静かにペンを走らせていた。
ビワハヤヒデ「……ふぅ」
一息つき、眼鏡越しに書類の山を見渡す。
ビワハヤヒデ
「何とか……終わりが見えてきたな。
この束を片付けたら、一区切りつけて昼休みにするとしよう」
南部二課所属、一級フィクサー。
だがその肩書き以上に、彼女は管理者としての顔を持っている。
戦闘よりも、判断と整理。
都市を“回す”ための歯車のひとつ。
――その時だった。
ウイニングチケット「ハヤヒデ〜!!」
廊下に響く、やけに元気な声。
ナリタタイシン
「……うるっさ……。
もうちょっと静かにしてよ……」
続いて聞こえたのは、棘のある低い声。
扉が開き、
南部四課所属のウイニングチケットとナリタタイシンが姿を現す。
ビワハヤヒデ「ん? チケットにタイシンか」
ビワハヤヒデは顔を上げる。
ビワハヤヒデ「二課に何か用か?」
ウイニングチケット
「うん! 昼休みだからさ!
ハヤヒデと一緒にご飯食べようと思って!」
ウイニングチケットは満面の笑みで言った。
ナリタタイシン
「……アタシは別に……」
ナリタタイシンは腕を組み、そっぽを向く。
ナリタタイシン
「チケットが変なことしないか見張ってないといけないから、仕方なく同伴するだけだし……」
ビワハヤヒデ「そうか」
ビワハヤヒデは小さく笑みを浮かべる。
ビワハヤヒデ
「なら、ちょうどいい。
私も区切りがついたところだ。行こうか」
休憩室
休憩室では、それぞれが持参した弁当やおにぎりを広げ、
短いながらも貴重な休息を取っていた。
ビワハヤヒデは箸を進めながら、ふと二人に視線を向ける。
ビワハヤヒデ
「チケット、タイシン。
四課の様子はどうだ?」
ナリタタイシン
「特に問題は起きてないよ」
答えたのはナリタタイシンだった。
ナリタタイシン
「二年前の図書館の件でも、
四課は十二区の封鎖が主な任務だったし。
その後も目立った被害はない」
ウイニングチケット「そうそう」
ウイニングチケットも頷く。
ウイニングチケット
「ハヤヒデの二課も、
当時は都市の星だった“八人のシェフ”の捜索と討伐が主だったよね?」
ビワハヤヒデ「ああ」
ビワハヤヒデは静かに答える。
ビワハヤヒデ
「もっとも、発見時にはすでに全員死亡していた。
実質的には報告書の作成だけで済んだがな」
ナリタタイシン
「……なら、今南部支部で一番問題なのは……」
ナリタタイシンが言葉を濁す。
ウイニングチケット「一課……だよね」
ウイニングチケットが、少し声を落として続けた。
ビワハヤヒデは頷いた。
ビワハヤヒデ
「残響楽団によって、
僅かな生存者を残して壊滅状態に追い込まれた。
復興には、まだ時間がかかるだろう」
ナリタタイシン
「三課は図書館に行ったけど、
最終的には全員戻ってきたしね」
ナリタタイシンは箸を止める。
ビワハヤヒデ
「一課だけが、いまだに被害を回復しきれていない……
正直、悩ましい状況だよ」
ウイニングチケット「でもでも!」
ウイニングチケットが、少し明るく言った。
ウイニングチケット
「この前、特色の人が応援に来て、
かなり改善されたって聞いたよ!
エナス部長も、少し元気になったって!」
ビワハヤヒデ「ああ」
ビワハヤヒデは思い出す。
ビワハヤヒデ
「青紫の孤独……。
あの方のおかげで、一課の再建もようやく軌道に乗ったそうだ。
時間はかかるにしても、光明が見えたのは喜ばしいな」
ナリタタイシン「とはいえさ」
ナリタタイシンは肩をすくめる。
ナリタタイシン
「最近は、都市でねじれの発生が増えてる。
アタシたちも、しばらくは忙しくなりそうだけどね」
ビワハヤヒデ
「ねじれに加えて、
近頃はE.G.Oを発現するフィクサーも増えている」
ビワハヤヒデは淡々と続ける。
ビワハヤヒデ
「その扱いをどうするか……
本部長や協会長も頭を悩ませているらしい」
ウイニングチケット「でもさ」
ウイニングチケットが首を傾げる。
ウイニングチケット
「紫の涙が、
E.G.O持ちフィクサーで構成された
“十三番目の協会”を作ればいいって進言したって聞いたけど?」
ナリタタイシン
「……そう簡単にいくわけないでしょ」
ナリタタイシンが即座に返す。
ナリタタイシン
「頭への申請、各協会との調整、
手続きだけでも山ほどあるんだから」
ビワハヤヒデ「長年、十二協会体制でやってきた」
ビワハヤヒデも補足する。
ビワハヤヒデ
「いきなり十三番目を作れば、反発も大きい。
現実的には、慎重にならざるを得ないだろうな」
ウイニングチケット「うーん……そっかぁ」
ウイニングチケットは少し残念そうに唸った。
――その時。
ドリームジャーニー
「確かに、十三番目の協会の件は、
まだ手続きの途中ですね」
穏やかな声が、背後から聞こえた。
振り返ると、
そこにはハナ協会本部長――ドリームジャーニーが立っていた。
ビワハヤヒデ「本部長!」
三人は思わず姿勢を正す。
ドリームジャーニー「畏まらなくていいですよ」
ドリームジャーニーは微笑む。
ドリームジャーニー
「今は昼休みですから。
……ねじれやE.G.Oの話をしていたんですね?」
ナリタタイシン「はい」
ナリタタイシンが答える。
ナリタタイシン「どの課も、その対応に追われています」
ドリームジャーニー「そうですか……ご苦労さまです」
ドリームジャーニーは静かに頷いた。
ドリームジャーニー
「現状、一課が満足に動けない以上、
しばらくは一課の仕事を二課から六課で分担することになります」
一瞬、空気が引き締まる。
ドリームジャーニー「とはいえ」
すぐに柔らかく続けた。
ドリームジャーニー
「無理は禁物です。
適度な休息も、立派な仕事の一部ですから」
ウイニングチケット「分かったよ!」
ウイニングチケットが元気よく返事をする。
ドリームジャーニー「ふふ……その調子です」
ドリームジャーニーは微笑み、休憩室の奥へと向かっていった。
昼食を終え、立ち上がる三人。
ビワハヤヒデ「さて……そろそろオフィスに戻るとしよう」
ビワハヤヒデが言う。
ナリタタイシン「じゃあ、アタシとチケットは四課に戻るから」
ナリタタイシンが歩き出す。
ウイニングチケット「ハヤヒデも、頑張ってね!」
ウイニングチケットが振り返って手を振った。
ビワハヤヒデ
「ああ。
二人もな」
こうして今日も、
ハナ協会南部の“日常”は静かに流れていく。
ねじれも、E.G.Oも、都市災害も。
すべてを管理し、押し留めながら。