都市西部 F社6区 ― 裏路地
都市西部、F社6区。
表通りから一本外れただけで、空気は一変する。
建物の隙間を縫うように伸びる裏路地。
ネオンは切れ、街灯は点滅し、地面には乾いた血痕と用途不明の残骸が転がっている。
ここでは、
「速さ」と「強さ」――その両方を持たぬ者は生き残れない。
その裏路地を、
二つの影が風を切るような速度で駆け抜けていた。
青緑色の制服。
胸元には「9」の刻まれたエンブレム。
第9協会、ヂェーヴィチ協会所属フィクサー。
一人は、
異様なまでに大きなハンマーを軽々と担ぐ芦毛のウマ娘。
もう一人は、
稲妻を帯びた短槍と、巨大な配達鞄を背負った同じく芦毛のウマ娘だった。
オグリキャップ
「タマ、次の配達予定時刻まで、あとどれくらいだ?」
淡々とした声で問いかけるのは、オグリキャップ。
タマモクロス「あと二時間や!」
即座に返るのは、タマモクロスの関西弁。
タマモクロス
「グズグズしてたら、給料から差っ引かれるで!
今回の依頼、遅延ペナルティ重いんやから!」
オグリキャップ
「……分かっている」
オグリキャップは頷き、足取りを緩めることなく前を見据える。
オグリキャップ「なら、急ぐとしよう」
裏路地の奥――
人影が、いくつも蠢いた。
タマモクロス「……オグリ」
タマモクロスが槍を低く構える。
タマモクロス
「正面、複数人や。
殺意……ビンビンに感じるわ」
オグリキャップ「了解した」
オグリキャップの返答は短い。
オグリキャップ「手早く終わらせる」
次の瞬間、
彼女は地面を強く蹴った。
ハンマーが、唸りを上げる。
オグリキャップ「ふん!」
鈍い破壊音。
最前列にいた男が、骨ごと砕かれて吹き飛ぶ。
「ぐはぁっ!?」
悲鳴が上がるより早く、
オグリキャップは次の一撃を振り抜いていた。
オグリキャップ「はぁ!」
横薙ぎの一振り。
裏路地の壁に叩きつけられ、泥棒たちは動かなくなる。
――戦闘は、数秒で終わった。
オグリキャップは一切立ち止まらず、
ハンマーを肩に担ぎ直し、そのまま走り続ける。
タマモクロス「流石やな、オグリ!」
タマモクロスは感嘆混じりに叫ぶ。
タマモクロス「この調子なら、予定より早く着きそうやわ!」
オグリキャップ「そうか」
オグリキャップは息一つ乱さない。
オグリキャップ「分かった」
タマモクロス「ポル!」
タマモクロスが配達鞄に声をかける。
タマモクロス「ルートはどんな感じや?」
ポルードニツァ『目的地まで、道なりです』
無機質な女性の声――
デリバリーキャリアに搭載された簡易AI、ポルードニツァ。
ヂェーヴィチ協会フィクサーに支給される配達鞄には、
都市の禁忌に抵触しない範囲で作られた簡易AIが組み込まれている。
状況次第では戦闘補助。
あるいは経路最適化。
業務外で雑談に付き合う個体すら存在する。
――もっとも。
その融通の効き具合は、完全に個体差だ。
業務外では一切喋らないポルードニツァも、決して珍しくない。
タマモクロス「よっしゃ!」
タマモクロスは歯を見せて笑う。
タマモクロス
「流石やな!
それならガンガン行くで、オグリ!」
オグリキャップ「分かった」
オグリキャップは、さらに速度を上げる。
二人のウマ娘は、
まるで風そのもののように裏路地を駆け抜けていく。
荷物は重さを感じさせず、
殺意は振り切り、
危険は叩き潰す。
西部ヂェーヴィチ協会――
最強と名高いコンビの仕事は、まだ終わらない。
オグリキャップ「……それにしても」
走りながら、オグリキャップはふと口にした。
オグリキャップ「タマは、相変わらずポルの戦闘補助機能を使わないな」
タマモクロス「あったりまえや!」
タマモクロスは即答する。
タマモクロス
「少しでも稼がなあかんねん!
給料天引きされる戦闘補助なんか、使ってられるかいな!」
『……』
ポルードニツァは、何も言わなかった。
その沈黙すらも、
都市を生き抜く日常の一部だった。