ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

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紫の涙

ハナ協会 北部支部 オフィス

 

窓の外には、北部特有の灰白色の雪景色が広がっていた。

降り積もった雪は、都市の鉄とコンクリートを覆い隠し、

まるでこの区画だけが世界から切り離されたかのような錯覚を与える。

冷たい風が窓ガラスを叩き、微かな音を立てる中、

オフィス内は暖かな照明が灯り、書類の山と端末の画面が淡々と業務をこなすフィクサーたちの姿を照らしていた。

 

ハナ協会北部支部。

都市でも屈指の実力者が集う場所でありながら、

オフィスの空気は驚くほど静かだった。

 

書類を捲る音、端末を叩く音。

それらが淡々と流れる中、ふと一人のウマ娘が視線を落とす。

 

セントライト

「……クリフジは、今頃どこで何をしているのでしょうか……」

 

白を基調とした装束に身を包んだ彼女――白い聖光。

その声音には、無意識の不安が滲んでいた。

彼女は窓辺の席に座り、紅茶のカップを手に、遠くの雪景色を眺めていた。

カップから立ち上る湯気が、彼女の穏やかな表情をぼんやりと覆う。

 

メジロラモーヌ

「さあね」

 

隣の席で足を組み、優雅に紅茶を口にする。

メジロラモーヌは、テーブルに肘をつき、

淡い金色の髪を軽くかき上げながら答えた。

 

メジロラモーヌ

「でも、この間連絡は来たばかりでしょう?

 心配するには、まだ早いんじゃないかしら」

 

エクリプス

「そうそう」

 

支部長席から視線を上げ、赤褐色の髪を揺らしながら言う。

エクリプスはデスクに山積みの書類を片付けながら、

穏やかに二人を見た。

 

エクリプス

「彼女は、あの赤い霧と正面から渡り合った特色よ。

 そう簡単に死ぬタマじゃないわ」

 

セントライト

「……それは、分かっています」

 

それでも、セントライトの声は沈んでいた。

彼女はカップを机に置き、

指先で軽く縁をなぞった。

 

セントライト

「ですが……都市は、危険が多すぎます。

 何か、取り返しのつかないことに巻き込まれていないかと……」

 

メジロラモーヌ

「まあ、確かに」

 

カップを置き、少しだけ表情を曇らせる。

メジロラモーヌは窓の外に視線を移し、

降り続く雪を眺めながら続けた。

 

メジロラモーヌ

「彼女ほどの実力者なら、

 利用しようとする組織があっても不思議じゃないわね……」

 

エクリプス

「裏路地の動きは一応監視してるけど……

 今のところ、怪しい動きはないわ。

 結局のところ――」

 

少し間を置き、続ける。

エクリプスは椅子に深く腰を沈め、

天井を見上げた。

 

エクリプス

「クリフジを、信じるしかないのよ」

 

その時。

 

静かなオフィスに、扉の開く音が響いた。

重い木製の扉がゆっくりと開き、

冷たい外気が少しだけ入り込む。

 

クリフジ

「失礼します」

 

振り向いた先に立っていたのは――

青紫の和装に身を包んだ、一人のウマ娘。

 

特色フィクサー。

青紫の孤独――クリフジ。

 

彼女の姿は、雪景色に溶け込むように静かで、

腰の太刀がわずかに光を反射していた。

 

セントライト

「……クリフジ!?」

 

思わず立ち上がり、目を丸くするセントライト。

彼女の白い装束が、興奮でわずかに揺れた。

 

メジロラモーヌ

「あら……噂をすれば、ね」

 

メジロラモーヌはカップを置き、

優雅に髪をかき上げながら微笑んだ。

 

エクリプス

「クリフジ。もう旅は終わったの?」

 

エクリプスは書類から視線を外し、

穏やかに尋ねた。

 

クリフジ

「いえ」

 

穏やかな声で、首を横に振る。

クリフジはオフィスを見回し、

静かに一歩進んだ。

 

クリフジ

「近くを通ったので、少し寄っただけです。

 すぐに、また出立しますので……お気遣いなく」

 

セントライト

「ご無事で……」

 

立ち上がり、彼女の姿を確かめるように見つめる。

セントライトの瞳に、喜びと安堵が混じった。

 

セントライト

「見たところ、怪我ひとつないようで……」

 

クリフジ

「はい」

 

淡々と答える。

クリフジはコートを軽く払い、

皆の視線を受け止めた。

 

クリフジ

「裏路地で、何度か襲われかけましたが……

 全員、返り討ちにしました」

 

メジロラモーヌ

「ふふ……流石ね」

 

メジロラモーヌはくすりと笑い、

紅茶を一口飲んだ。

 

エクリプス

「どんな旅をしてきたの?」

 

エクリプスは興味深そうに尋ね、

椅子に背を預けた。

 

クリフジ

「都市の西部、南部、東部を回りました」

 

視線を少し遠くへ向けながら語る。

クリフジの声は静かで、

旅の記憶を思い浮かべるようにゆったりとしていた。

 

クリフジ

「フィクサー、組織の人間、一般人……

 どれも、私の知らない世界ばかりでした」

 

エクリプス

「そう……それなら、何よりよ」

 

エクリプスは満足げに頷いた。

 

セントライト

「……クリフジ」

 

ふと、彼女の変化に気づいたように言う。

セントライトはクリフジの顔をじっと見て、

少し声を柔らかくした。

 

セントライト

「以前より……表情が分かりやすくなりましたわ」

 

クリフジ

「ええ」

 

微かに微笑む。

クリフジの目元が、わずかに緩んだ。

 

クリフジ

「……自分でも、変わったと思います」

 

セントライト

「……心を閉ざす前の、貴女を思い出しました」

 

声が震える。

セントライトの瞳に、涙が少し浮かんだ。

 

セントライト

「本当に……良かった……」

 

クリフジ

「……セントライト」

 

困ったように目を伏せる。

クリフジは少し照れた様子で、

視線を逸らした。

 

クリフジ

「あまり泣かないでください。恥ずかしいですから……」

 

セントライト

「ふふ……申し訳ありません」

 

その、しんみりとした空気を――

あからさまに破壊する声が響いた。

 

エクリプス

「……で、いつまで柱の影に隠れてるのよ、イオリ?」

 

オフィスの柱の影が、わずかに動いた。

 

「チッ」と舌打ちにも似た音と共に、柱の影から現れる人物。

 

紫のスーツ。

腰には、三振りの剣。

 

イオリ

「いやぁ……入りにくい空気だったからさ。タイミングを待ってたのさ」

 

彼女の声は、軽やかだがどこか鋭い。

 

セントライト

「あ……イオリさん……」

 

メジロラモーヌ

「またアポなしで来たの?」

 

エクリプス

「相変わらずね……」

 

クリフジ

「……皆さん、お知り合いですか?」

 

エクリプス

「ええ」

 

肩をすくめる。

 

エクリプス

「私の一番弟子で――

 特色フィクサー、紫の涙のイオリよ」

 

クリフジ

「……紫の涙」

 

クリフジは静かに呟く。

彼女の目が、少し鋭くなった。

 

クリフジ

「青い残響、黒い沈黙、赤い霧……

 その師匠と噂される方ですね?」

 

イオリ

「そうさ。まあ、今は昔の話だけどね」

 

クリフジ

「……」

 

イオリは飄々とした様子でオフィスを見回し、

皆の視線を集める。

 

エクリプスが尋ねる。

 

エクリプス

「それで、今日は何の用?」

 

イオリ

「十三番目の協会の件を聞きに来ただけさ」

 

エクリプス

「まだ無理よ」

 

即答だった。

 

エクリプス

「他の協会との交渉も残ってるし、

 頭からの認可も下りてない」

 

イオリ

「おやおや……私としては、さっさと進めてほしいんだけどね」

 

エクリプス

「無茶言わないの」

 

イオリ

「まあ、それとは別に――」

 

にやりと笑う。

 

イオリ

「実は私新しい弟子を取ることにしたから、それも言いに来たよ」

 

エクリプス

「……また?」

 

イオリ

「ああ、ドデカ協会西部四課のリバティアイランドって言うんだけどね。

 なんか燻ってたから、鍛えてやろうと思ってね。

 協会長のドゥラメンテにも許可は取った」

 

エクリプス

「……ならいいわ」

 

少し溜息。

 

エクリプス

「好きにしなさい」

 

イオリ

「感謝するよ」

 

そして、クリフジを見る。

 

イオリ

「それと――クリフジ。あんたにひとつ、頼みがある」

 

クリフジ

「……なんでしょう?」

 

イオリ

「私と、手合わせしないかい?

 青紫の孤独の実力……

 ぜひ、この目で見てみたくてね」

 

クリフジ

「……構いませんよ」

 

即答だった。

 

ハナ協会訓練所

 

訓練所は、支部の地下に広がる広大な空間だった。

強化された床、衝撃吸収材の壁、

そして天井から吊るされた監視カメラ。

ここは、フィクサーたちが技を磨き、

実戦を想定した訓練を行う場所。

 

雪の降りしきる外とは違い、

室内は暖房が効き、わずかな熱気が立ち上っていた。

 

クリフジ

「……よろしくお願いします」

 

青紫の和装に身を包んだクリフジが、

ムク工房の太刀をゆっくりと構える。

彼女の周囲に、淡い心のオーラが纏わりつき、

静かな威圧感を放つ。

 

イオリ

「こちらこそ」

 

イオリは紫のスーツを翻し、

刀を手に構える。

彼女の周囲にも、心のオーラがゆらゆらと立ち上り、

三振りの剣が静かに待機している。

 

メジロラモーヌ

「紫の涙の戦い方ってどんな感じだったかしら?」

 

メジロラモーヌが観戦席から尋ねる。

 

エクリプスが解説する。

 

エクリプス

「イオリは刀、刺剣、大剣の3種類の武器を瞬時に持ち替えて戦うのよ。

 刀で斬る斬撃、刺剣で貫く貫通、大剣で叩き潰す打撃攻撃ってな具合で」

 

セントライト

「クリフジはムク工房の太刀ひとつだけのストロングスタイルですが……大丈夫でしょうか」

 

両者が構える。

 

エクリプス

「それじゃあ……始め」

 

エクリプスの合図で二人が攻撃を仕掛け、試合が始まる。

 

イオリ

「まずは様子見さ、『蛇剣術』」

 

イオリの刀が蛇のようにくねり、

素早い斬撃を放つ。

 

クリフジ

「む……」

 

クリフジは太刀を振るい、

それを正確に防ぐ。

金属音が訓練所に響き、

火花が散る。

 

イオリ

「紫の剣」

 

イオリの刀が紫の軌跡を残し、

連続斬撃を繰り出す。

 

クリフジ

「……彼岸斬り」

 

クリフジの太刀が青紫の光を纏い、

イオリの攻撃を切り返す。

 

イオリ

「蛇裂き」

 

イオリがさらに加速し、

刀を横薙ぎに振るう。

 

クリフジ

「……仄かな刃」

 

クリフジは体を低く沈め、

カウンターの斬撃を放つ。

 

イオリ

「ほう、流石だね。ならこれはどうだい?」

 

イオリが瞬時に武器を刺剣に持ち替える。

剣先が鋭く輝き、

突きの連続を繰り出す。

 

イオリ

「蛇の標的」

 

刺剣が風を切り、

クリフジの急所を狙う。

 

クリフジ

「……快刀乱麻」

 

クリフジは体を捻り、

避けつつ反撃を繰り出す。

太刀の刃が空気を切り裂く。

 

イオリ

「裂傷」

 

イオリの刺剣がさらに加速し、

クリフジの肩をかすめる。

 

クリフジ

「狂い咲き」

 

クリフジの太刀が弧を描き、

イオリの防御を崩す。

 

イオリ

「受け流し」

 

イオリが体を回転させ、

攻撃を流す。

 

技の応酬が続く中……

 

イオリ

「それじゃあこいつも使うとするさね」

 

イオリが最後の大剣に持ち替える。

重い剣身が空気を震わせ、

凄まじい速度で振り下ろされる。

 

イオリ

「振り下ろす」

 

大剣が地面を叩き、

衝撃で床にひび割れが走る。

 

クリフジ

「……む」

 

クリフジは紙一重で避け、

体勢を崩さない。

 

イオリ

「まだまだだよ、巨大な蛇の衝激」

 

イオリの大剣が横薙ぎに振るわれ、

衝撃波を放つ。

 

クリフジ

「彼岸迎え」

 

クリフジの太刀が青紫の光を纏い、

ギリギリで応戦する。

 

イオリ

「それじゃあそろそろ必殺技と行くよ」

 

クリフジ

「……いつでも」

 

両者が構え、武器に望の光輪がそれぞれ纏わりつく。

イオリの剣に4つの光輪が輝き、

クリフジの太刀に5つの光輪が宿る。

 

イオリ

「幻影乱舞・4望」

 

イオリの剣が幻影のように分身し、

連続攻撃を放つ。

 

クリフジ

「乱斬撃・5望」

 

クリフジの太刀が青紫の嵐を巻き起こし、

イオリの攻撃を迎え撃つ。

 

互いの必殺技がぶつかる。

衝撃波が訓練所を揺らし、

空気が震える。

 

そしてしばらくして煙が晴れる……

 

そしてイオリの喉元に刀を添えるクリフジの姿があった。

 

クリフジ

「……私の勝ちです」

 

イオリ

「……そうみたいだね。」

 

エクリプス

「そこまで、見事だったわよ二人とも」

 

セントライト

「今更ながらイオリさんも凄まじい強さでしたわ……」

 

メジロラモーヌ

「まあ、特色の名は伊達ではないってことね」

 

イオリ

「それでも、参ったよ。流石今の都市最強候補だね。

 ……どうやら私もそろそろ歳みたいさね」

 

クリフジ

「……本気を出してるようには見えなかったですが」

 

イオリ

「さて、なんのことか分からないね」

 

イオリは飄々とした様子で答える。

 

イオリ

「それじゃあ私はそろそろお暇するから、邪魔して悪かったね」

 

メジロラモーヌ

「次からはアポを取ってちょうだい」

 

イオリ

「善処するよ」

 

イオリが去る。

 

クリフジ

「では私もそろそろ旅に戻ります、皆さんありがとうございました」

 

セントライト

「お気をつけてクリフジ」

 

クリフジも去る。

 

エクリプス

「それじゃあ仕事に戻りましょうか」

 

メジロラモーヌ

「そうね」

 

セントライト

「分かりましたわ」

 

オフィスの静けさが、再び訪れる。

雪は、変わらず降り続けていた。

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