ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

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E.G.O.ミミック

ハナ協会 西部支部 オフィス

 

西部ハナ協会の朝は、常に騒がしい。

 

統括協会として都市全体を監督する立場にある以上、

日の出と同時に報告書が積み上がり、

未処理の案件が雪崩のように押し寄せてくる。

 

白いコートに身を包んだフィクサーたちが、

足早に廊下を行き交う中――

 

控えめな足音と共に、一人のウマ娘が出勤してきた。

 

スティルインラブ

「……おはようございます……」

 

その声は小さいが、確かに通る。

 

「おはようございます、スティルさん。

 今日もよろしくお願いします」

 

スティルインラブ

「はい……今日も、仕事は溜まっていますからね……」

 

淡々とした口調。

だが、その奥には疲労よりも覚悟がにじんでいた。

 

「統括協会ですからね。

 それに……紫の涙が進言した“十三番目の協会”の件もあって、最近は忙しさが倍増ですよ」

 

スティルインラブ

「……そうですね。

 でも、サボるわけにはいきません……

 しっかり、やりましょう」

 

「もちろんです。

 ……あ、そういえば」

 

職員が思い出したように言う。

 

「さっき支部長が

 『スティルさんが出勤したら、支部長室に来るように言っておいて』って言ってましたよ」

 

スティルインラブ

「……ハイセイコー支部長が、ですか……」

 

一瞬だけ、表情が曇る。

 

スティルインラブ

「分かりました……では、行ってきます」

 

支部長執務室

 

コンコン、と控えめなノック。

 

スティルインラブ

「失礼します……

 支部長、お呼びでしょうか……?」

 

扉の向こうから、

弾むような声が返ってきた。

 

ハイセイコー

「あっ!スティルちゃん!

 来てくれたのね!」

 

室内は、書類の山と

場違いなほど明るい雰囲気に満ちている。

 

スティルインラブ

「はい……

 あの、何か御用でしょうか……?」

 

ハイセイコー

「うん!

 実はね、スティルちゃんに

 渡したいものがあるの!」

 

スティルインラブ

「……渡したい、もの……?」

 

ハイセイコー

「ちょっと待ってね……

 あ、あったあった!

 はい、これ!」

 

机の下から引き出されたのは――

 

赤い肉塊の大剣。

 

刃と呼ぶには歪すぎた形状。

表面には複数の“目”が蠢くように開閉し、

脈打つ鼓動のような音が、かすかに聞こえた。

 

スティルインラブ

「……っ!

 こ、これは……」

 

ハイセイコー

「そう!

 かの“赤い霧”が使ってた武器だよ!

 ディエーチ協会の資料だと

 E.G.O【ミミック】って呼ばれてるの!」

 

スティルインラブ

「……どうやって、手に入れたんですか……?

 確かそれは

 “何もない”という幻想体から

 抽出しないと……」

 

ハイセイコー

「うん、そこはね――」

 

ハイセイコーは一度言葉を区切り、

慎重に説明を始める。

 

ハイセイコー

「最近、リンバスカンパニーや

 翼の一つであるN社が、

 旧ロボトミー社のE.G.O技術を

 再現・流用し始めてるのは知ってるよね?」

 

スティルインラブ

「……はい……」

 

ハイセイコー

「ハナ協会としてもね、

強力な装備であるE.G.Oを扱えるフィクサーを

最低限は確保しておきたいの

 

もちろん、自分の心から発現したE.G.Oが

一番安全で理想なんだけど……

それが出来ない子も多いからね。幻想体からE.G.Oを抽出することが必要になる

 

だから、ディエーチ協会やセブン協会と協力して……

何とか一つだけ確保できたの」

 

一拍、沈黙。

 

ハイセイコー

「……正真正銘、

 何もないから抽出されたミミックだよ。」

 

スティルインラブ

「……製造過程については……?」

 

ハイセイコー

「……言えないかな。

 ごめんね」

 

その言葉だけで、

どれほど危険な手段が使われたかは察せた。

 

スティルインラブ

「……それで……

 なぜ、これを私に……?」

 

ハイセイコー

「E.G.Oはね、使いすぎると

 幻想体に侵食される危険があるの。

だから任せるなら、特色級の実力者じゃないとダメ

 

その中でも……

普段から闘争本能と向き合ってるスティルちゃんなら

耐えられるんじゃないかって。

 

だからお願い!

これを任務で使ってみて、

使用感や精神への影響を報告してほしいの!」

 

スティルインラブ

「……なるほど……

 では、試験運用、ということですね……」

 

ハイセイコー

「そうそう!

 まずは都市疾病か都市悪夢レベルでお願いね!

 流石に都市の星は……

 何が起きるか分からないから!」

 

ハイセイコーは、

ミミックをスティルインラブに手渡した。

 

スティルインラブ

「……思っていたより、軽い……」

 

手にした瞬間、

胸の奥がざわつく。

 

――もっと振るえ。

――もっと壊せ。

 

そんな声が、

聞こえた気がした。

 

ハイセイコー

「うんうん!

 今のスティルちゃん、

 ちょっと赤い霧っぽいよ!」

 

スティルインラブ

「……そ、そうでしょうか……」

 

ハイセイコー

「……あ、そうだ!

 言い忘れてた!」

 

スティルインラブ

「……な、なんでしょうか……?」

 

ハイセイコー

「このミミックね、

 見た目は立派なんだけど……

 性能は本来の五分の一以下なの」

 

スティルインラブ

「……え……?」

 

ハイセイコー

「正直、質はかなり悪いよ。

 赤い霧が使ってたのも正規品に比べたら粗悪品だったそうなんだけど、

 これはそれよりもさらに劣化してる...

 だから使い勝手も凄く悪いと思う……気をつけてね」

 

スティルインラブ

「……分かりました……」

 

オフィス

 

スティルインラブがミミックを背負ってオフィスに戻ると、周囲のフィクサーたちが一斉に視線を向けた。

 

「……それで、そのミミックを渡されたんですね……」

 

スティルインラブ

「はい……

 皆さんから見て、どうでしょうか……」

 

「様にはなってますよ。

 赤い霧を思わせる風格はあります」

 

「それより……

 侵食は大丈夫ですか?

 E.G.Oって、精神を乗っ取ることも……」

 

スティルインラブ

「……少し、落ち着かない感じはします……

 でも、今のところは……」

 

自分に言い聞かせるような言葉。

 

「これから都市疾病の鎮圧ですよね?

 今、西部で起きてる案件なら……

 この辺が良いかと」

 

書類を受け取る。

 

スティルインラブ

「……ありがとうございます……

 では、行ってきます……」

 

「お気をつけて、スティルさん」

 

扉を出る直前――

ミミックの“目”が、

一斉にスティルインラブを見つめた。

 

――走れ。

――壊せ。

――愛せ。

 

スティルインラブは、

その声を無言で押し殺し、

西部の街へと駆け出した。

 

――赤い霧の遺産を背負った紅色の衝動は、

今日も都市の闇へと足を踏み入れる。

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