ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

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最強

ハナ協会西部支部。

都市西部の裏路地において、「二代目赤い霧」という名が半ば都市伝説のように囁かれるようになって、しばらくが経っていた。

 

広報活動は順調だった。

危険度の高い依頼で赤い霧を思わせる紅色の閃光が目撃されるたび、裏路地の住人やフィクサーたちの間で噂が膨らんでいく。

 

――だが、その当人は。

 

西部支部オフィスの一角で、

スティルインラブはパソコンの画面をじっと見つめたまま、微動だにしていなかった。

 

モニターに映っているのは、

かつて都市最強と謳われた伝説の特色フィクサー――赤い霧、カーリーの戦闘記録。

 

「スティルさん?」

 

隣のデスクから声をかけられ、

スティルインラブは少し肩を揺らして顔を上げた。

 

スティルインラブ

「あ、はい……すみません。ちょっと、赤い霧のデータを……」

 

「ほう。赤い霧のですか」

 

スティルインラブ

「ええ……当時の戦闘映像とか、使っていた技とかを見ていまして……」

 

言葉を選ぶように、一瞬だけ視線を落とす。

 

スティルインラブ

「……真似をしたい、というわけではないんです。ただ、強くなるための参考になるかなって……」

 

「なるほど。研究、ですね。良い姿勢だと思いますよ」

 

その言葉に、スティルインラブは小さく頷いた。

 

スティルインラブ

「そう思って見ていたんですけど……その……」

 

歯切れが悪くなる。

 

スティルインラブ

「……あまり、参考にならないというか……」

 

「……?」

 

怪訝そうにしながら、隣のフィクサーは画面を覗き込んだ。

 

そこに表示されていたのは、

赤い霧が使用していたとされる技の一覧と、簡素極まりない解説文だった。

 

・赤い霧の技一覧(解説付き)

 

縦斬り

 なんか良い感じに縦に斬る

 

突き

 なんか良い感じの部位を素早く突く

 

横斬り

 なんか良い感じに横に斬る

 

気合い

 気合いで防御して力を得る

 

突進

 一人を倒したらその勢いで殲滅する

 

大切断・縦

 気合いを入れてすごい力でぶった斬る

 

大切断・横

 面倒な複数人相手の時にE.G.Oを発現させて得た力で纏めてぶった斬る

 

「…………」

 

しばし、沈黙。

 

「……こ、これは……」

 

言葉を選ぼうとして、選べなかった。

 

「……確かに、参考にするのは……難しいですね……」

 

スティルインラブ

「ええ……あまりにも、シンプルすぎて……」

 

画面を見つめながら、苦笑する。

 

スティルインラブ

「……やっぱり、カーリーさんって……凄かったんですね……」

 

「凄い、というのは間違いないですけど……これはもう……」

 

言い淀みながら、正直な感想を口にする。

 

「……ふんわりしすぎというか……説明を放棄してるというか……」

 

そのとき。

 

ハイセイコー

「あれ? スティルちゃん、何してるの?」

 

明るい声とともに、

西部支部長――ハイセイコーが背後から顔を出した。

 

スティルインラブ

「あっ、支部長……。今、カーリーさんの技を調べていまして……」

 

ハイセイコー

「カーリーちゃんの技? ……あー、なるほどね……」

 

ハイセイコーも画面に目を通し、

次の瞬間、思わず苦笑いを浮かべた。

 

ハイセイコー

「……うん。これはね……」

 

「カーリーさんって……もしかして、かなり脳筋な方だったんですか……?」

 

ハイセイコー

「うーん……それはちょっと違うかな」

 

腕を組み、少し考える素振り。

 

ハイセイコー

「カーリーちゃんも頭は良かったよ。戦闘センスも抜群だったし、ちゃんと考えて戦ってた」

 

スティルインラブ

「……では、どうしてこんな……」

 

ハイセイコー

「考えなくても勝てちゃったから、かな」

 

その一言が、重く響いた。

 

ハイセイコー

「カーリーちゃんはね……本人のパワーが、考える必要がないレベルで強かったの」

 

「……なるほど……」

 

ハイセイコー

「だから、結果的に“なんか良い感じに斬る”で全部説明できちゃった。

それが、都市最強の恐ろしいところなんだよ」

 

スティルインラブ

「……それでも、この“気合い”の説明は……」

 

指を差す。

 

スティルインラブ

「……少し、おかしいような……」

 

ハイセイコー

「あー……でも、それ、間違ってないんだよね……」

 

「え?」

 

ハイセイコー

「カーリーちゃん、気合いを入れると防御が上がるだけじゃなくて……」

 

少し間を置いて。

 

ハイセイコー

「……次の攻撃の威力も、なぜか上がってたの」

 

「……流石、都市最強にして、デタラメな伝説……」

 

スティルインラブ

「……私も、気合いを入れたら攻撃力、上がるでしょうか……」

 

小さく、本気で考える声。

 

ハイセイコー

「それは……やめておいた方がいいかな……」

 

即答だった。

 

「スティルさんは、そのままでいいですよ……

……こんなデタラメが、また現れたら……正直、怖いです」

 

スティルインラブ

「そ、そうですか……」

 

ハイセイコー

「しかもね……カーリーちゃんの攻撃って、弱点がほとんどなかったの」

 

スティルインラブ

「……え……?」

 

ハイセイコー

「縦斬り、横斬り、突き。

この三つだけで、打撃・斬撃・貫通……全部カバーしてたんだよ」

 

驚きに、スティルインラブの目が見開かれる。

 

ハイセイコー

「普通なら、無理やり属性を合わせると威力が落ちるんだけど……」

 

肩をすくめる。

 

ハイセイコー

「カーリーちゃんは、素のパワーが異常だから問題にならなかった」

 

スティルインラブ

「……本当に……デタラメな方だったんですね……」

 

「……都市最悪の裏路地、23区出身って聞きますけど……

生き残れた理由が、よく分かります……」

 

ハイセイコー

「……私としてはね」

 

少しだけ、声を落として。

 

ハイセイコー

「治安が悪い以外は、どこにでもある裏路地から……

こんな怪物が生まれたっていう事実の方が、怖いかな」

 

静かな沈黙が、オフィスに落ちた。

 

スティルインラブは、画面を見つめながら、

そっと胸元に手を当てる。

 

スティルインラブ

「……私は、赤い霧にはなれません」

 

小さく、しかしはっきりと。

 

スティルインラブ

「……でも、紅色の衝動として……私にできる戦い方を、見つけます」

 

誰に言うでもなく、

それは自分自身への宣言だった。

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