ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

73 / 198
特色の待遇

ハナ協会西部支部――オフィス。

 

今日もフィクサーたちは黙々と書類を片付け、依頼の振り分けを行っていた。

裏路地の情勢、指の動向、翼の新規技術。都市は今日も騒がしい。

 

その中で、ひときわ華やかな存在が小さく唸る。

 

ハイセイコー「うーん……これ、どうしようかな……」

 

支部長、ハイセイコー。

特色フィクサー《桃色の偶像》。

 

可憐な見た目とは裏腹に、西部でも屈指の実力者である彼女が、珍しく眉を寄せていた。

 

---

 

スティルインラブ「支部長? 何かあったのですか……?」

 

控えめな声で問いかけたのは、赤髪のウマ娘――

特色フィクサー《紅色の衝動》、スティルインラブ。

 

ハイセイコー

「あっ、スティルちゃん。……実はね、ちょっと困った問題があるの。

空色の狩人って知ってるよね?」

 

スティルインラブ

「は、はい……西部地域ではある意味一番有名な特色ですからね……特に、その……W社23区で……」

 

空気がわずかに重くなる。

 

「ああ……人肉料理店との繋がりが噂されてる特色だろ」

「住所はB社2区だけど、活動はほぼ都市全域だな」

 

ハイセイコーは小さく頷く。

 

ハイセイコー

「そう。あの悪名高い23区とも関係が深い、

特色フィクサー《空色の狩人》――デアリングタクトちゃん。」

 

朗らかで礼儀正しい。

しかし“都市の倫理”を完全に受け入れている狩人。

 

スティルインラブ「その空色の狩人がどうしたのですか?」

 

ハイセイコー

「本部からの報告なんだけどね……

ここ最近、彼女への依頼件数が急増してるの。しかも、ほぼ全部“狩り”。

そのせいで裏路地の組織がざわついてる。」

 

スティルは静かに目を伏せる。

 

スティルインラブ「……具体的な影響は?」

 

ハイセイコー

「彼女って、特色の中でも一番倫理観が壊れてるでしょ?

裏路地の組織にも平気で手を出すから……特に“指”の反発が強まる可能性があるの。」

 

スティルインラブ「抗争に発展する、と……」

 

ハイセイコー「うん。協会としては、できれば控えてほしい。」

 

スティルインラブ「……実績はどの程度でしたか?」

 

ハイセイコー

「親指、人差し指、中指、薬指の末端や下級幹部を多数。

さすがに上級幹部討伐はないけど……」

 

スティルインラブ「青い残響のようにフィクサー資格剥奪は?」

 

ハイセイコーは首を振る。

 

ハイセイコー

「青い残響は本当にやり過ぎた結果。

それに比べれば空色の狩人は“依頼で殺してるだけ”。

剥奪まではいかないの。」

 

スティルは少し考え込み、やがて静かに言った。

 

スティルインラブ

「……私が警告に行きます。

同じ特色なら、聞いてくれる可能性もあるでしょうから。」

 

ハイセイコー「スティルちゃんが? ありがたいけど……いいの?」

 

スティルインラブ

「……西部支部で、支部長を除けば特色は私だけです。

これも役目かと。」

 

ハイセイコーは柔らかく微笑む。

 

ハイセイコー

「じゃあ、今度B社2区の華彩事務所に行ってきてね。

警告文書が出来たら渡して。」

 

スティルインラブ「分かりました。」

 

書類が机に置かれる。

 

ハイセイコーはぽつりと漏らした。

 

ハイセイコー

「……特色って、本当に扱いに困るのよね。

真面目な子ならいいんだけど……グレーなことしてると処罰が難しい。」

 

「特色には特権がありますからね。高額報酬に、ある程度の自由裁量。」

 

ハイセイコー

「都市災害の頂点と渡り合う存在だもの。

これくらいは妥当っていう慣例よ。

それに“指”や“翼”も、特色を無下には扱えない。協会としては牽制材料でもある」

 

それは力の象徴であり、政治的カードでもある。

 

スティルインラブ

「……私は、まだ実感がないんです。

自分が“そんな存在”だなんて。」

 

スティルは小さく笑った。

 

ハイセイコーは肩をすくめる。

 

ハイセイコー

「スティルちゃんは協会内や鎮圧任務での仕事中心だもんね。

私は他組織の幹部と交渉することも多いから、特色の地位に助けられたことはあるよ。

対等に話せるから。」

 

スティルインラブ「流石、支部長です……」

 

 

ハイセイコー

「ふふ。でもね、最近はスティルちゃんも“赤い霧の再来”って噂になってるよ?

住民たちの間では尊敬と畏怖が半々って感じ。」

 

スティルインラブ「そ、そうですか……」

 

---

 

ふと、別のフィクサーが口を挟む。

 

「そういえば、12協会の内現状はドデカ協会だけ特色がいない状態でしたよね?」

 

ハイセイコー「ああ、その話ね。」

 

ハイセイコーは明るく頷いた。

 

ハイセイコー

「つい最近、紫の涙――イオリさんが

ドデカ協会のフィクサーを弟子に取ったらしいの。」

 

空間と次元を渡る謎多き女性。

指導者として都市随一の実績を持つ。

 

スティルインラブ「紫の涙……。赤い霧を最初に見出した人物、とも。」

 

ハイセイコー「そう! だからドゥラメンテ協会長も任せたんだって。」

 

スティルはわずかに目を輝かせる。

 

スティルインラブ「どんな方なのでしょうか……」

 

ハイセイコー

「優秀だよ。都市の星討伐経験も多いし、育成も抜群。

赤い霧、黒い沈黙、青い残響……みんな彼女の教え子。」

 

スティルインラブ「はぁ……」

 

ハイセイコー

「でも、打算的な人でもあるかな。

赤い視線といざこざもあったらしいし。」

 

スティルインラブ「そ、そうなんですね……」

 

ハイセイコー

「でも極端な悪人じゃないよ。

……もしかしたら、スティルちゃんもいつか会うかもね?」

 

スティルは小さく頷く。

 

スティルインラブ「その時は……一度、お話してみたいです。」

 

都市の西部。

 

特色という特権。

それは栄光であり、責任であり、

時に都市そのものを揺らす“爆弾”でもある。

 

そして今――

紅色の衝動は、空色の狩人のもとへ向かおうとしていた。

 

静かに、しかし確実に。

 

都市の均衡は、少しずつ軋み始めている。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。