R社18区 旧Lobotomy Corporation支部 最深部・廃墟
かつて「幻想体」が管理されていた場所は、今はただの崩壊した鉄とコンクリートの墓場だった。
壁には血痕と焦げ跡が無数に残り、天井からは錆びた配管が垂れ下がり、滴る水音だけが虚しく響く。
その奥、崩落した保管庫の奥深く。
1級フィクサー「カツラギエース」が、瓦礫を蹴散らして叫んだ。
「おっ! あったぜ、黄金の枝!」
彼女の手の中、小さな枝はまるで生きているかのように、淡い金色の光を脈打たせている。
リンバス・カンパニーが血眼で探している現在都市で最も話題のお宝。
背後で、深紅のドレスコートを翻した特色フィクサー「深紅の天女」マルゼンスキーが優雅に歩み寄る。
「エースちゃん、よくやったわ!
さっさとリンバスに持っていきましょう」
エースは枝をケースにしまいながら、ふと首を傾げた。
「……そういやマルゼン、最近都市がやけに騒がしいけど、何かあったのか?」
マルゼンスキーは扇を軽く開き、口元を隠してくすりと笑う。
「あら? エースちゃん知らないの?
今、都市の不純物に指定されたシービーちゃんが、あちこち逃げ回ってるのよ」
エースの動きがピタリと止まった。
「えっ! シービーが!?
あいつ最近連絡よこさないと思ったら、そんなことになってたのかよ……」
マルゼンスキーは扇を閉じ、悪戯っぽく首を傾げる。
「どうする? 助けに行っちゃう?」
エースは一瞬だけ真剣な顔になり、すぐに苦笑して首を振った。
「いや、マルゼン……それ分かった上で言ってるだろ。
不純物のシービーを助けたら、あたしたちまで頭に目をつけられるじゃねぇか」
「まあ、そうよね。
シービーちゃんにはソロで頑張ってもらいましょうか」
エースは瓦礫に腰を下ろし、空を見上げた。
崩れた天井の向こうに、濁った空が覗いている。
「とはいえ……シービーなら余裕で逃げ切れるだろ。
あいつの実力は、あたしが一番よく知ってる」
マルゼンスキーが隣に腰掛け、肩をすくめる。
「でもね、追ってるのはA社専属の『金色の暴君』オルフェちゃんも参加してるって話よ」
エースの表情が、一気に渋くなる。
「あー……一気に確率下がったな。
オルフェがいるなら、シービーも楽には逃げきれねぇ……」
マルゼンスキーはエースの横顔を覗き込んで、にこりと笑った。
「やっぱりお友達のことが心配?」
エースは照れ隠しに頭を掻き、遠くを見る。
「まあな……昔っからあいつら二人、競い合ってばっかだったからな。
でも、仲の良かったコンビだったんだよ。
それが今じゃ命がけで殺し合うなんて、思ってもみなかった」
マルゼンスキーは扇を開き、軽くあおぎながら呟く。
「ふふ、それにしてはどこか嬉しそうね」
エースは一瞬驚いた顔をして、すぐに苦笑した。
「ん? ……まあな。
旧友たちがまだ元気でやってるってことだし。
オルフェならシービーといえど容赦なく殺すだろうけど、
シービーもそう簡単には殺されねぇさ」
マルゼンスキーは立ち上がり、深紅のコートを翻す。
「ふふ、それなら大丈夫そうね。
さっ、あたしたちも仕事に戻りましょ」
エースも立ち上がり、ガントレットを鳴らして笑った。
「だな!」
二人が廃墟の出口に向かって歩き出す。
背後で、黄金の枝は静かに光を脈打たせていた。
どこか遠くで、
緑の旅人と金色の暴君が、また刃を交えている。
旧友たちは、今も走り続けている。
この都市では、
誰にも止められないまま。
エースは最後に一度だけ振り返り、小さく呟いた。
「……生きてろよ、シービー」
風が吹き抜け、廃墟は再び静寂に沈んだ。
マルゼンスキー
特色フィクサー「深紅の天女」
特色フィクサーの中でもかなりの経験を持つベテランで年長者のウマ娘。
現在はリンバスカンパニーに協力して相方のカツラギエースと共に黄金の枝を集めている
昔フィクサー事務所を経営していた
カツラギエース
1級フィクサー
マルゼンスキーの相方でリンバスカンパニーと契約中のウマ娘
ミスターシービー、オルフェーヴルは古い友人