南部センク協会支部
人差し指との邂逅を終え、12区の調査報告をまとめたアーモンドアイは、南部センク協会支部へと足を運んだ。
白い羽根飾りではなく、南部特有の意匠が施されたハットが並ぶロビー。
「やあアイ、わざわざ西部からありがとう」
軽やかな声。
黒髪ショートのウマ娘――
南部支部長、フジキセキ。
アーモンドアイ「ご無沙汰してます、フジキセキ支部長」
フジキセキ「堅いなぁ。ここではもう少し肩の力を抜いていいよ?」
ウインクひとつ。
だがその瞳は、支部長としての責任を帯びている。
フジキセキ「お願いしたいのはフィクサーたちの指導だ。西部を底上げした実績、期待してるよ」
アーモンドアイ「分かったわ。きっかけを与えるだけでいいなら」
フジキセキ「うん、ポニーちゃんたちが強くなれるきっかけで十分さ」
---
訓練所
南部フィクサーたちが整列する。
アーモンドアイは一歩前に出る。
アーモンドアイ「決闘の理想は、自分は隙を見せず、相手の隙を見極めること」
レイピアを構える。
アーモンドアイ「隙を見せないコツは“自然でいること”。力めばそれが隙になる」
一瞬で間合いを詰め、模擬相手の剣を弾く。
アーモンドアイ「極限状態を日常にするのよ。感覚を研ぎ澄ましなさい」
「はい!」
声が揃う。
アーモンドアイ「誇りを忘れないこと。センクは決闘の専門家。正面から勝つのが私たちの流儀よ」
一週間。
模擬戦、座学、個別指導。
南部のフィクサーたちは確実に変わっていった。
---
支部長室。
フジキセキ「ふふ、噂以上だね。ポニーちゃんたち、かなり成長したよ」
アーモンドアイ「私はきっかけを与えただけ、強くなったのは彼らの素質が目覚めたのよ」
フジキセキ「そっか。それじゃあ明日には西部支部に戻るかい?」
アーモンドアイ「ええ、あまり留守には出来ないしね」
その時。
「フジキセキ支部長、失礼します」
フジキセキ「おや、どうしたんだい?」
「はい、裏路地の五本指の動向で至急お伝えするべきことが」
フジキセキの表情が変わる。
フジキセキ「五本指...どの指だい?」
「南部中指です。U社21区を中心に活動している組織です」
空気が引き締まる。
「傘下の双鉤海賊団が活発化。マカジキ港船で拉致と身代金の要求が増えています」
フジキセキは腕を組む。
フジキセキ「中指傘下か...少し面倒な相手だね」
「いかが致しましょう?」
フジキセキ「...治安維持を担当するツヴァイ協会はどうしているんだい?」
「ツヴァイ協会南部支部は残響楽団の被害が特に酷かった上に人差し指の神託代行者によって半壊させられた事件もあったものですから復興が遅れていて...他の協会に仕事を回さざるを得ない状況です」
フジキセキ「そうなんだね、さてどうしたものかな...」
沈黙。
アーモンドアイ「……それなら私が行くわ」
アーモンドアイが言った。
フジキセキ「アイが?」
アーモンドアイ「出過ぎた杭は打ち直すべきだからね」
フジキセキはしばらく見つめ、微笑む。
フジキセキ「最後の仕事、お願いするよ」
---
U社21区 ― マカジキ港船
巨大な湖“大湖”。
その上を移動する漁港群。
その一つ――マカジキ港船。
紫を基調とした装束の者たちが守る建物。
アーモンドアイ「……あそこね」
近づくと、警戒の視線。
中指末弟「止まれ。ここがどこか分かってるのか?」
アーモンドアイ「ええ。中指の幹部に会いに来たの」
中指末妹「兄貴に?そう言われてはいどうぞなんて言うわけないだろ。テメエどこの誰だ?」
アーモンドアイ「水色の女王」
名を告げた瞬間、空気が変わる。
末弟「な……西部の特色……?」
アーモンドアイ「...会わせてもらえるかしら?」
長妹「...ちょっと待ってなさい」
しばらくして
長妹「...兄貴が会いたいそうよ、入りなさい」
---
中指アジト
高級クラブのような派手な内装。
鎖と紫の光。
ソファに座る男。
ピンクの髪、サングラス。
全身に刻まれた刺青。
長妹「お連れしました」
「ほう、あんたが俺に会いに来たって特色か」
アーモンドアイ「ええ、貴方がこの辺の区域の責任者かしら?」
リカルド「ああ、俺は中指末兄のリカルド。21区の裏路地を仕切ってる。今は南部の長姉様が不在だからな、俺が代理として話してやるよ。」
足を組み、仕返し帳簿を軽く叩く。
「で、何の用だ?」
アーモンドアイ「双鉤海賊団の活動が活発すぎるわ。協会としても看過できない。中指から制御してもらいたいの」
リカルドは笑う。
リカルド「なるほど、そういうことか...で、それが俺たちになんのメリットがあるんだ?それに治安維持はツヴァイ協会の奴らの仕事のはずだがセンクが出しゃばる理由も言ってないな」
アーモンドアイ「復興が遅れてるツヴァイに代わって私が出ただけよ、それにこれはメリットデメリットの話じゃない。...身の程を弁えなさいと言ってるのよ。」
空気が凍る。
刺青が紫に淡く光る。
リカルド「はっ、中指に楯突く気か嬢ちゃん?中指の掟、知らないはずはないだろ?」
アーモンドアイ「...楯突くつもりはないわ、ただ要請してるだけよ。」
一歩も退かない。
アーモンドアイ「それに最高幹部の長兄長姉ならともかく、末兄の貴方となら私の方が強いわ」
沈黙。
リカルドはふっと笑う。
リカルド「……いい度胸だ」
帳簿を開く。
リカルド「...おーけーおーけー、分かったよ。双鉤海賊団の連中には俺から注意しておく、場合によっては中指の傘下から追い出すってな。」
アーモンドアイ「感謝するわ」
だがペンが走る。
リカルド「だが、俺に手間をかけさせたんだ。代わりとしてアンタの名前を仕返し帳簿に書き込んでおく。良いな?」
アーモンドアイ「構わないわ」
視線が交差する。
アーモンドアイ「来るなら相手になる」
リカルドは愉快そうに笑った。
リカルド「威勢のいいやつは嫌いじゃねえ。裏路地を歩く時は気をつけな、嬢ちゃん」
---
センク南部支部。
フジキセキ「そう...中指と交渉はできたけど代わりに仕返し帳簿に名前を書かれたんだね?」
フジキセキは苦笑する。
フジキセキ「アイも無茶するね」
アーモンドアイ「末兄くらい怖くはないわ」
フジキセキ「ふふ、流石特色。それじゃあそろそろ西部支部に戻るかい?」
アーモンドアイ「ええ、それでは失礼するわ」
アーモンドアイは礼をして退室する。
扉が閉まる。
フジキセキは小さく呟いた。
フジキセキ「……アイ、特色ってのは万能じゃないんだよ。気をつけてね」
窓の外。
南部の空は重い。
中指は家族を守るためなら都市を燃やす。
水色の女王。
完璧であろうとする彼女は、
果たして――
報復という“家族の論理”にどこまで抗えるのか。