ディエーチ協会本部・訓練所。
無機質な灰色の床に、夕刻の光が差し込む。
その中央で向かい合う二人のウマ娘。
特色フィクサー「白紫の帝王」――トウカイテイオー。
そして本部長にして特色フィクサー「黒い刺客」――ライスシャワー。
それを見守るのは、協会長ゼンノロブロイと、1級フィクサーのツルマルツヨシ。
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「今日はよろしくね、本部長!」
テイオーは剣を肩に担ぎ、無邪気に笑う。
「ボク、負けないから!」
「うん……よろしく、テイオーちゃん」
ライスは小さく息を整え、短剣を構えた。
「ライスも……今日は本気でいくから……」
「本部長の“本気”って、どんな感じなんだろ……」
ツヨシが小声で呟く。
ロブロイは眼鏡を押し上げ、静かに告げた。
「見れば分かりますよ。……それでは、始めてください」
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「行くよっ!」
号砲もなく、テイオーが地を蹴る。
爆発的な踏み込み。両手剣が一直線に振り下ろされる。
――速い。
だが。
「……ふっ」
ガキン!!
火花が散る。
ライスは一歩も退かず、短剣で正確に受け止めた。
「まだまだっ!」
テイオーは流れるように体勢を変え、斬撃を連ねる。
上段、横薙ぎ、下段からの切り上げ。感覚だけで最適解を叩き出す天性の剣。
対するライスは最小限の動きでそれを受け流し、時折鋭い反撃を差し込む。
攻防は拮抗していた。
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「ツヨシさん、どう見えます?」
ロブロイが問う。
「テイオーちゃんはいつも通り全力で突っ込んでますね……。でも本部長は……なんというか、削ってる感じがします」
「ええ。テイオーさんは天賦の才を持つ感覚型。対してライスさんは観察型。
シ協会時代に培った“読む力”で、相手の癖と呼吸を解析しているのでしょう」
視線の先で、なおも刃が交錯する。
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「本部長、まだ隠してるでしょ?」
テイオーが笑う。
「さっさと出さないと、ボクが勝っちゃうよ?」
ライスは目を伏せた。
「……あんまり調子に乗ると、ライスの全力……見せるよ?」
「望むところ!」
二人は同時に距離を取る。
静寂。
そして――
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ライスの足元から、微かな音がした。
ざわり。
彼女の衣服に、青い蔦が絡みつく。
黒衣を縁取るように薔薇の紋様が浮かび上がる。
短剣の柄に――1輪の青薔薇が咲いた。
背に広がるのは、植物で編まれた外套。
「えっ!? な、なにそれ!?」
ツヨシが目を見開く。
ロブロイが静かに告げた。
「E.G.Oです。
ライスさんが発現した、正真正銘の“開花E.G.O”。
名称は――『ドリーム・カム・トゥルー』」
ライスの瞳が、深い蒼に染まる。
「……もう、手加減しないよ。
準備はいい、テイオーちゃん?」
一瞬だけ怯みながらも、テイオーは笑った。
「もちろん! E.G.Oだって超えてみせる!」
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次の瞬間。
短剣の先から、蔦が射出された。
「っ!?」
テイオーの剣に絡みつき、動きを奪う。
引き寄せ。
同時に地面が割れ、無数の蔦が噴き出す。
「うわあっ!?」
四肢を拘束され、体勢を崩すテイオー。
その懐へ、ライスが滑り込む。
ザザザザザシュッ!
高速の連撃。
急所を外しながらも、的確に戦闘不能へ追い込む斬撃。
「はぁっ……!」
最後の一閃。
テイオーが膝をつき、崩れ落ちる。
蔦がほどけ、青薔薇が静かに散った。
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「テイオーちゃん! 大丈夫!?」
「な、なんとか……」
ロブロイが歩み寄る。
「いかがでしたか? 本部長の“本気”は」
テイオーは悔しそうに笑った。
「すっごく強い! なにあのE.G.O! 反則じゃない!?」
ロブロイは穏やかに説明する。
「『ドリーム・カム・トゥルー』は植物操作型E.G.O。
拘束、牽制、遠距離攻撃――搦め手においては最上級。
特色フィクサーであるライスさんの技量と合わされば、対処できる者はほぼいません」
テイオーは目を輝かせた。
「へぇー! 本部長ってそんなことできたんだ!」
ライスは慌てて首を振る。
「ご、ごめんね……ライス、ちょっとムキになっちゃって……痛かったよね?」
「平気平気! それよりまたやろうよ!」
その屈託のなさに、ライスは小さく笑う。
「……うん。テイオーちゃんが喜んでくれるなら、ライスも嬉しい」
ツヨシはほっと息を吐いた。
「テイオーちゃんって、本当に元気だよね……」
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人を傷つけるための力。
都市ではそれが当然だ。
けれどライスシャワーのE.G.Oは違う。
“誰かの幸せになりたい”
その祈りが、青い薔薇となって咲いた。
それは奇跡の花。
存在しないはずの色。
だが今、確かにここにある。
青薔薇は、静かに揺れていた。