ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

83 / 193
青薔薇

ディエーチ協会本部・訓練所。

 

無機質な灰色の床に、夕刻の光が差し込む。

その中央で向かい合う二人のウマ娘。

 

特色フィクサー「白紫の帝王」――トウカイテイオー。

そして本部長にして特色フィクサー「黒い刺客」――ライスシャワー。

 

それを見守るのは、協会長ゼンノロブロイと、1級フィクサーのツルマルツヨシ。

 

---

 

「今日はよろしくね、本部長!」

テイオーは剣を肩に担ぎ、無邪気に笑う。

「ボク、負けないから!」

 

「うん……よろしく、テイオーちゃん」

ライスは小さく息を整え、短剣を構えた。

「ライスも……今日は本気でいくから……」

 

「本部長の“本気”って、どんな感じなんだろ……」

ツヨシが小声で呟く。

 

ロブロイは眼鏡を押し上げ、静かに告げた。

「見れば分かりますよ。……それでは、始めてください」

 

---

 

「行くよっ!」

 

号砲もなく、テイオーが地を蹴る。

爆発的な踏み込み。両手剣が一直線に振り下ろされる。

 

――速い。

 

だが。

 

「……ふっ」

 

ガキン!!

 

火花が散る。

ライスは一歩も退かず、短剣で正確に受け止めた。

 

「まだまだっ!」

 

テイオーは流れるように体勢を変え、斬撃を連ねる。

上段、横薙ぎ、下段からの切り上げ。感覚だけで最適解を叩き出す天性の剣。

 

対するライスは最小限の動きでそれを受け流し、時折鋭い反撃を差し込む。

 

攻防は拮抗していた。

 

---

 

「ツヨシさん、どう見えます?」

ロブロイが問う。

 

「テイオーちゃんはいつも通り全力で突っ込んでますね……。でも本部長は……なんというか、削ってる感じがします」

 

「ええ。テイオーさんは天賦の才を持つ感覚型。対してライスさんは観察型。

シ協会時代に培った“読む力”で、相手の癖と呼吸を解析しているのでしょう」

 

視線の先で、なおも刃が交錯する。

 

---

 

「本部長、まだ隠してるでしょ?」

テイオーが笑う。

「さっさと出さないと、ボクが勝っちゃうよ?」

 

ライスは目を伏せた。

 

「……あんまり調子に乗ると、ライスの全力……見せるよ?」

 

「望むところ!」

 

二人は同時に距離を取る。

 

静寂。

 

そして――

 

---

 

ライスの足元から、微かな音がした。

 

ざわり。

 

彼女の衣服に、青い蔦が絡みつく。

黒衣を縁取るように薔薇の紋様が浮かび上がる。

 

短剣の柄に――1輪の青薔薇が咲いた。

 

背に広がるのは、植物で編まれた外套。

 

「えっ!? な、なにそれ!?」

 

ツヨシが目を見開く。

 

ロブロイが静かに告げた。

 

「E.G.Oです。

ライスさんが発現した、正真正銘の“開花E.G.O”。

名称は――『ドリーム・カム・トゥルー』」

 

ライスの瞳が、深い蒼に染まる。

 

「……もう、手加減しないよ。

準備はいい、テイオーちゃん?」

 

一瞬だけ怯みながらも、テイオーは笑った。

 

「もちろん! E.G.Oだって超えてみせる!」

 

---

 

次の瞬間。

 

短剣の先から、蔦が射出された。

 

「っ!?」

 

テイオーの剣に絡みつき、動きを奪う。

 

引き寄せ。

 

同時に地面が割れ、無数の蔦が噴き出す。

 

「うわあっ!?」

 

四肢を拘束され、体勢を崩すテイオー。

 

その懐へ、ライスが滑り込む。

 

ザザザザザシュッ!

 

高速の連撃。

急所を外しながらも、的確に戦闘不能へ追い込む斬撃。

 

「はぁっ……!」

 

最後の一閃。

 

テイオーが膝をつき、崩れ落ちる。

 

蔦がほどけ、青薔薇が静かに散った。

 

---

 

「テイオーちゃん! 大丈夫!?」

 

「な、なんとか……」

 

ロブロイが歩み寄る。

「いかがでしたか? 本部長の“本気”は」

 

テイオーは悔しそうに笑った。

 

「すっごく強い! なにあのE.G.O! 反則じゃない!?」

 

ロブロイは穏やかに説明する。

 

「『ドリーム・カム・トゥルー』は植物操作型E.G.O。

拘束、牽制、遠距離攻撃――搦め手においては最上級。

特色フィクサーであるライスさんの技量と合わされば、対処できる者はほぼいません」

 

テイオーは目を輝かせた。

 

「へぇー! 本部長ってそんなことできたんだ!」

 

ライスは慌てて首を振る。

 

「ご、ごめんね……ライス、ちょっとムキになっちゃって……痛かったよね?」

 

「平気平気! それよりまたやろうよ!」

 

その屈託のなさに、ライスは小さく笑う。

 

「……うん。テイオーちゃんが喜んでくれるなら、ライスも嬉しい」

 

ツヨシはほっと息を吐いた。

「テイオーちゃんって、本当に元気だよね……」

 

---

 

人を傷つけるための力。

都市ではそれが当然だ。

 

けれどライスシャワーのE.G.Oは違う。

 

“誰かの幸せになりたい”

 

その祈りが、青い薔薇となって咲いた。

 

それは奇跡の花。

存在しないはずの色。

 

だが今、確かにここにある。

 

青薔薇は、静かに揺れていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。