ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

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工房と技術

トレス協会本部 協会長執務室

 

都市に存在する数多の武器製造所――工房。

その全てを管理するのが、第三協会 「トレス協会 」である。

 

工房が製造した武器の審査。

流通の管理。

そして厳格な課税。

 

都市の武器経済は、トレス協会によって統制されていると言っても過言ではない。

 

……しかし最近、その秩序に小さな歪みが生じ始めていた。

 

遺跡から持ち帰られる遺物。

そして、人の精神から生まれるE.G.O。

 

工房製ではない武器が、都市に少しずつ出回り始めていたのだ。

 

---

 

窓際に立つウマ娘が、静かにため息をついた。

 

グラスワンダー「……はぁ」

 

柔らかな声とは裏腹に、その表情には僅かな苛立ちが滲んでいた。

 

グラスワンダー「遺物やE.G.Oを扱うフィクサーが増加傾向……ですね」

 

彼女は机に置かれた報告書を静かにめくる。

 

グラスワンダー「今のところ、E.G.Oや遺物を扱うのは上級フィクサーだけ……。下級フィクサーはまだ工房の武器を必要としていますが……」

 

ページが止まる。

 

グラスワンダー「……もし、下級フィクサーにまで遺物が出回ったら」

 

静かな声。

 

だがその言葉には、重い現実が含まれていた。

 

グラスワンダー「工房の仕事が……無くなる可能性もありますね」

 

トレス協会長、グラスワンダー。

 

お淑やかな大和撫子の雰囲気を纏う彼女だが、その内面には鋭い闘志が宿っている。

 

グラスワンダー「くっ……」

 

彼女の指が机を軽く叩いた。

 

グラスワンダー「これも全て……ディエーチ協会のせいです……!」

 

穏やかな顔のまま、声だけが低くなる。

 

グラスワンダー「遺物の譲渡など……都市の武器市場を乱す行為……」

 

静かな怒気が漂う。

 

グラスワンダー「……ゼンノロブロイ協会長、いつか……痛い目を見せて差し上げます」

 

その時。

 

コンコン、と控えめなノックが響いた。

 

エイシンフラッシュ「失礼します、グラス協会長」

 

扉が開き、黒髪のウマ娘が入室する。

 

トレス協会本部長――エイシンフラッシュ。

 

姿勢は真っ直ぐ。

歩幅は正確。

秒単位で計算されたような動きだった。

 

グラスワンダー「フラッシュさん。どうしましたか?」

 

エイシンフラッシュ「今月の各工房からの徴税が完了しましたので、報告に参りました」

 

グラスワンダー「ありがとうございます。いつも丁寧な仕事、助かっています」

 

エイシンフラッシュ「当然です」

 

フラッシュは即答した。

 

エイシンフラッシュ「トレスの仕事は完璧です。不備はありません」

 

机の上に資料を並べる。

 

数字は整然と並び、誤差は一切存在しない。

 

グラスワンダー

「……相変わらず見事な管理ですね

それで、各工房の様子はどうですか?」

 

エイシンフラッシュ「基本的には問題ありません。現状、都市に出回る遺物やE.G.Oの総量はまだ少ないため、工房の売上はほぼ横ばいです」

 

グラスワンダー「ふぅ……それは良かったです」

 

エイシンフラッシュ「さらに、遺物に対抗する高品質武器の製造を各工房に指示しました。しばらくすれば市場に出回る予定です」

 

グラスワンダーの目が細くなる。

 

グラスワンダー「……そうですか。工房の技術が、遺物などという得体の知れない物に負けるわけにはいきません。期待していますよ」

 

エイシンフラッシュ「はっ」

 

一礼。

 

そしてグラスワンダーがふと尋ねる。

 

グラスワンダー「……ところで、ディエーチの様子は?」

 

フラッシュは資料を一枚めくる。

 

エイシンフラッシュ「……相変わらず遺跡調査を行っています。最近も遺跡から遺物を回収し、ヂェーヴィチ協会へ引き渡したとの情報が」

 

グラスワンダー「ふん」

 

わずかな鼻息。

 

グラスワンダー「忌々しいですね、

特色を二人抱えているせいで、遺跡調査が安定しているのも腹立たしい……」

 

エイシンフラッシュ「さらに――」

 

フラッシュは続ける。

 

エイシンフラッシュ「ハナ協会、セブン協会と共同で、旧ロボトミー社のE.G.O抽出技術の研究を進めているようです」

 

グラスワンダーの表情がわずかに曇る。

 

グラスワンダー「E.G.O……遺物より厄介ですね、遺物は遺跡へ行かなければ手に入りません。

ですがE.G.Oは……」

 

静かに言う。

 

グラスワンダー「誰でも手にする可能性がある」

 

沈黙。

 

グラスワンダー「極端な話、都市の全ての人間がE.G.Oを持ったら、工房の武器は……時代遅れになります」

 

エイシンフラッシュ「……」

 

フラッシュが小さく息を吸う。

 

エイシンフラッシュ「いかが致しましょう?」

 

グラスワンダーは少し考え――

 

そして首を振った。

 

グラスワンダー「……E.G.Oの発現は止められるものではありません。放っておきましょう」

 

しかし次の言葉には鋭さがあった。

 

グラスワンダー「ですが、ディエーチの遺物収集と流通は、徹底的に監視してください」

 

エイシンフラッシュ「了解しました」

 

しばし沈黙。

 

グラスワンダーは窓の外を見つめる。

 

グラスワンダー「……昔は工房の武器を使う特色フィクサーも多かったのですが....。特に――黒い沈黙」

 

エイシンフラッシュ「アンジェリカさんですね」

 

フラッシュも懐かしむように頷く。

 

エイシンフラッシュ「彼女は八つの工房と取引していました。しかも全て高級品、トレスにとっては大口顧客でした」

 

グラスワンダーは静かに工房名を並べる。

 

「ケヤキ工房」

「アラス工房」

「老いた少年工房」

「ムク工房」

「狼牙工房」

「クリスタルアトリエ」

「ロジックアトリエ」

「ホイールズインダストリー」

 

グラスワンダー「……あの方がいなくなったのはトレスにとっても大きな損失ですね。特色フィクサー御用達というだけで、工房のブランドは上がるのに」

 

エイシンフラッシュ「現在は赤い視線のヴェルギリウスさんがスティグマ工房の武器を使っていますが……」

 

フラッシュは肩をすくめる。

 

エイシンフラッシュ「協会所属の特色は大抵、協会製武器を使います。工房と関わることは少ないですね」

 

グラスワンダーは静かに頷いた。

 

グラスワンダー「……まずは各工房の大口取引先の確保ですね。ディエーチへの牽制は私が行います、フラッシュさんは引き続き武器の審査と工房管理を」

 

エイシンフラッシュ「了解です、協会長」

 

完璧な敬礼。

 

都市の武器経済は今――

静かに、しかし確実に変わり始めていた。

 

そしてトレス協会は、その変化の中心に立たされている。

 

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