都市には、様々な協会が存在する。
戦闘を専門とする協会。
護衛を専門とする協会。
調査を専門とする協会。
だが――
その中でも少し異質な協会がある。
第11協会。
ウーフィ協会。
彼らが守るものは
武力でも秩序でもない。
契約。
都市では契約など、
大して価値があるものではない。
裏路地では紙切れ一枚より軽い。
破られることも珍しくない。
だがそれでも――
契約は存在する。
翼同士の取引。
企業間の提携。
巨額の賭博。
裏路地組織の協定。
それらを成立させるための証人。
そして
契約を破った者への制裁者。
それが
ウーフィ協会の役割だった。
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ウーフィ協会本部
協会長室。
机の上には
山のような書類が積まれていた。
契約書。
契約書。
契約書。
その山を眺めながら、
一人のウマ娘がペンを置く。
ナカヤマフェスタ。
ウーフィ協会協会長。
ウマ耳の穴あきニット帽。
無造作に伸びた鹿毛の長髪。
椅子にもたれながら
深く息を吐いた。
ナカヤマフェスタ「……今日の契約立会依頼はこれで全部か」
最後の紙を机に置く。
ナカヤマフェスタ「ちゃんと全部守られてるな」
彼女は立ち上がり
窓の外を見る。
都市の景色。
灰色の空。
巨大な巣の壁。
裏路地の煙。
そして
小さく呟いた。
「……にしても」
指で机を叩く。
「最近はやけに仲介の依頼が多いな。まあウーフィとしては需要が多いのはありがたいことだが……」
目を細める。
「なんかきな臭いな」
都市の勘。
長く生き残ったフィクサーだけが持つ
危険の嗅覚。
「……あとでセブン協会に調査依頼を出しておくか」
その時だった。
コンコン。
扉がノックされる。
「失礼します」
扉が開く。
入ってきたのは
端正な雰囲気のウマ娘だった。
灰色に近い鹿毛。
鋭い眼差し。
南部1課部長。
エアグルーヴ。
ナカヤマフェスタは椅子に座り直す。
ナカヤマフェスタ「エアグルーヴか、どうした?」
エアグルーヴは
書類を差し出した。
エアグルーヴ
「報告です、J社10区のカジノで立会人をしていた
ウーフィフィクサーの一人が、客から賄賂を受け取り
便宜を図った規律違反が確認されました」
ナカヤマフェスタの表情が
わずかに歪む。
「……チッ、ウーフィ協会の風上にも置けないな」
書類を机に叩く。
「いつも通り粛清しておいてくれ」
エアグルーヴは
一切表情を変えずに言った。
「もう既に終わっています、ご安心を」
ナカヤマフェスタは
鼻で笑った。
「ならいい。ウーフィ協会は信用が命だ、そのことを各フィクサーにも厳命しておけ」
「分かりました」
その時。
再び扉が開く。
ヘロド「失礼する」
低い声。
続いて
シリウスシンボリ「邪魔するぜ」
ラフな声。
ナカヤマフェスタが顔を上げた。
「ん?ヘロドにシリウスか」
エアグルーヴも軽く頭を下げる。
「お久しぶりです、ヘロド支部長、シリウス支部長」
入ってきたのは二人。
北部支部長。
ヘロド。
そして東部支部長。
シリウスシンボリ。
ナカヤマフェスタは
腕を組んだ。
ナカヤマフェスタ「支部長二人が揃って私の所に来るなんて、なんかあったか?」
ヘロドが頷く。
ヘロド「ああ」
落ち着いた声。
ヘロド「北部支部で少し大口の契約立ち会い依頼があった、
念の為、協会長に伝えておくべきと思ってな」
ナカヤマフェスタは
眉を上げる。
ナカヤマフェスタ「大口?どんな案件だ?」
ヘロドは少しだけ間を置いた。
ヘロド「翼同士の契約だ」
部屋の空気が
少し変わる。
ヘロド「Y社とO社が新規の業務提携を結ぶ。その契約に私が直々に立ち会うことになった」
ナカヤマフェスタは
椅子を回す。
ナカヤマフェスタ「Y社とO社?」
少し考える。
ナカヤマフェスタ「確かあの二社には接点は無かったはずだが……受けるのか?」
ヘロドは肩をすくめた。
ヘロド「奇妙な案件ではあるのは確かだ、だが翼相手に断れるはずもない」
ナカヤマフェスタは
しばらく考えた。
ナカヤマフェスタ「……分かった、把握しておく」
そして視線を移す。
ナカヤマフェスタ「で、シリウスは何の用だ?」
シリウスシンボリは
ニヤリと笑った。
シリウスシンボリ「大した用じゃねーよ」
ポケットに手を突っ込む。
シリウスシンボリ「久しぶりに10区のカジノに遊びに行きたくてな、ナカヤマの予定確認だ」
ナカヤマフェスタは
笑った。
ナカヤマフェスタ「ああ……そういや最近忙しくてご無沙汰だったな」
指を鳴らす。
ナカヤマフェスタ「分かった、時間が空いたら付き合うぜ」
シリウスが笑う。
シリウスシンボリ「おう、久々に荒稼ぎするか」
エアグルーヴが
ため息をついた。
エアグルーヴ
「協会長にシリウス支部長……息抜きは大事ですが、あまり派手なことはしないでください。下の者に示しが付きませんから」
ヘロドが軽く笑う。
ヘロド「まあ二人はイカサマはしないし、問題はないだろう」
ナカヤマフェスタが
ニヤリと笑う。
「ヘロドは話が分かるな。どうだ?お前も来るか?」
ヘロドは即答した。
ヘロド「断る、私はギャンブルは好かん。そういうのはエクリプスに頼め」
エアグルーヴが首を傾げる。
エアグルーヴ「ハナ協会の……エクリプス支部長ですか?」
ヘロドは頷いた。
「ああ」
少し笑う。
「あいつ、ああ見えて賭博が大得意なんだ、一時期は10区のカジノを出禁になるほどだった」
シリウスが笑う。
「へぇ?そいつは面白ぇな。一回見てみてぇもんだ」
ヘロドは真顔で言った。
「エクリプスの賭博の腕前は凄まじい。協会長とシリウスといえど...」
少しだけ口元を上げる。
「油断すれば
身ぐるみ剥がされるぞ」
ナカヤマフェスタの目が
輝いた。
「ほう?」
椅子から立ち上がる。
「そいつはますます面白ぇ」
指を鳴らす。
「決まりだ。シリウス、今度エクリプスも誘うぞ」
シリウスが笑う。
「ああ」
エアグルーヴは
深いため息をついた。
エアグルーヴ「……はぁ、私はどうなっても知りませんからね」
窓の外では
都市の夜が広がっていた。
契約。
金。
欲望。
そして
誰かが破る約束。
都市は今日も、静かに動き続けている。