都市南東部。
S社19区。
都市の翼の一つ。
S社(サルピッピョ農畜産業)の巣。
翼の中でも
特に悪名高い企業の一つだった。
農畜産業を主軸とする一次産業の翼。
しかしその実態は
極端なまでの独裁体制。
内部事情は外部にほとんど流れず、
関係を持とうとする企業や協会は少ない。
ただ一つ特徴があるとすれば――
この19区は
都市では珍しく自然が多い地区だということ。
緑。
農地。
牧場。
都市では貴重な風景。
だがそれは
都市の住民にとって大した価値ではなかった。
そして今。
その巣で
重大事件が起きていた。
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ねじれの発生。
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都市の事件の多くは
裏路地で起こる。
理由は単純。
巣は翼の保護下にあるからだ。
巣を守るのは
翼の義務。
もし守れなければ
最悪の場合――
A社によって翼の資格を剥奪される。
だから通常
翼は自らの戦力で巣を守る。
しかし。
今回の事件は
S社単独では処理できないと判断された。
そこで
ある協会が呼ばれた。
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第6協会。
リウ協会。
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ねじれの出現地点。
破壊された農場の中央で
巨大な怪物が暴れていた。
人の形をしているが
すでに人間ではない。
肉体が歪み、
骨が外側に突き出し、
巨大な腕が地面を抉る。
完全なねじれだった。
その光景を
遠くから見つめる影がある。
ヤエノムテキが
静かに言った。
「今回の討伐対象は……あれですね」
隣で
腕を組んだウマ娘が笑った。
エルコンドルパサー。
リウ協会南部支部長。
「ふふん!」
胸を張る。
「エルたちでサクッと倒してみせまス!」
その後ろでは
南部1課のフィクサーたちが整列していた。
1課部長シャオが口を開く。
「……協会長、支部長」
静かな声。
「無礼な物言いかもしれませんが、私たち1課では力不足ですか?」
チュンが続く。
「協会長と支部長まで現場に出るなんて……」
ミリスも眉をひそめる。
「本部は大丈夫なんですか?」
ヤエノムテキは
落ち着いた声で答えた。
「本部の業務は西部支部のノーリーズン支部長にしばらく任せています」
エルコンドルパサーが笑う。
「最初は南部1課だけに任せる予定だったのデスが!今回はS社がエルと協会長に名指しで依頼してきたのデース!」
シャオが小さく呟く。
「……S社が」
ヤエノムテキは頷く。
「ええ、もちろん南部1課の皆さんが無能という意味ではありません」
ねじれを見つめる。
「ですが協会長になってから現場に出る機会は減りました」
拳を握る。
「……腕が鳴ります」
エルコンドルパサーが笑う。
「リウ協会の恐ろしさ、思い知らせて差し上げまース!」
シャオは静かに問う。
「では協会長、今回はどのような戦い方で?」
ヤエノムテキは
即答した。
「いつも通りです、正面から戦います」
その言葉に
リウのフィクサーたちは笑う。
都市には12協会が存在する。
それぞれ得意分野がある。
治安維持のツヴァイ協会。
暗殺のシ協会。
決闘のセンク協会。
その中で。
リウ協会は
ただ一つの戦い方を極めていた。
戦争。
正面戦闘。
大軍による圧殺。
真正面から敵を叩き潰す。
だからこそ
こう呼ばれることもある。
武力最強の協会。
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ヤエノムテキが指示を出す。
「作戦です」
ねじれを指差す。
「本体は私、エル支部長、シャオ部長で叩きます」
振り返る。
「1課の皆さんは眷属の討伐と援護を」
ミリスが頷く。
「了解しました」
チュンも拳を握る。
「御三方、お気をつけて」
ヤエノムテキが歩き出す。
「では」
静かな声。
「行きますよ」
エルコンドルパサーが叫ぶ。
「了解デース!」
シャオも踏み出す。
「ああ!」
次の瞬間。
三人は
同時に地面を蹴った。
爆発的な脚力。
ウマ娘の身体能力と
フィクサーの戦闘技術に強化施術の身体強化。
一瞬で
ねじれの前へ到達する。
ヤエノムテキが拳を突き出す。
「焔龍拳!!」
炎を纏った拳が
ねじれの胴体を貫く。
同時に
エルコンドルパサーが体当たりを叩き込む。
「鉄山靠!!」
衝撃波。
ねじれの骨が砕ける。
さらに。
シャオが斬撃を放つ。
「火龍斬!!」
炎の斬撃が
怪物の肉体を裂く。
ねじれが咆哮する。
そして
巨大な腕で反撃を試みた。
だが。
ヤエノムテキが跳び上がる。
「疾風脚!!」
強烈な蹴り。
腕が粉砕される。
その隙を逃さない。
エルコンドルパサーが叫ぶ。
「昇り龍!!」
上昇する打撃。
ねじれの顎が砕ける。
そして最後。
シャオが静かに言った。
「……E.G.O発現」
炎が噴き上がる。
彼女の身体を
武将のような鎧が包む。
手には
青龍刀。
シャオが構える。
「饕餮(とうてつ)!!」
巨大な炎の渦。
ねじれは
悲鳴を上げる暇もなく
灰となった。
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ヤエノムテキが息を吐く。
「……終わりましたね」
エルコンドルパサーが笑う。
「エルたちの完勝デース!」
シャオが振り向く。
「ミリス、チュン。そっちは無事か?」
ミリスが報告する。
「はい、フィクサーの犠牲者はゼロです」
チュンも頷く。
「お見事でした」
ヤエノムテキが言う。
「ではエル支部長はS社へ報告を。私は1課を南部支部へ送り届けます」
エルコンドルパサーが親指を立てる。
「了解デス!」
シャオは軽く頭を下げた。
「ありがとうございます」
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リウ協会
南部支部。
扉が開く。
シャオが言う。
「今戻った」
ロウェルが笑う。
「おかえり、どうやら片付いたみたいだね」
セシルも微笑む。
「おかえりなさい」
メイが元気よく言う。
「協会長もご無事で何よりです!」
ヤエノムテキは頷いた。
「ありがとうございます」
そして
少しだけ笑う。
セシルが言う。
「それにしてもヤエノ協会長が現場に出るなんて珍しいですね」
メイも頷く。
「いつもは書類仕事ですもんね!」
ヤエノムテキは少し照れた。
「……たまには現場の空気も必要ですから」
シャオが言う。
「それでも協会長とエル支部長、私やロウェルと遜色ない実力でした」
ヤエノムテキが笑う。
「私もシャオ部長のE.G.Oを見られて満足です」
少し意味深に言う。
「ロウェル部長との絆が分かりますね」
シャオが真っ赤になる。
「や、ヤエノ協会長!?私とロウェルは健全な仲ですから!」
ヤエノムテキが追い打ちをかける。
「でもエル支部長、各支部でお二人の関係をおしどり夫婦って言いふらしてますよ」
シャオが拳を握る。
「……」
低い声。
シャオ「エル支部長が帰ってきたら、すぐ私に報告しろ」
ミリスが笑う。
「シャオ部長って支部長にも容赦ないですね」
メイがニヤニヤする。
「エル支部長、絶対わざとですよ〜」
ロウェルが苦笑する。
「まあまあ、ほどほどにね」
シャオは顔を赤くしたまま呟いた。
シャオ「……あのバカコンドル支部長……」
支部の中に
笑い声が広がる。
都市では珍しい、平和な瞬間だった。