ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

89 / 193
親指

都市北部。

 

この地域は

都市の中でも特に寒冷な気候を持つ。

 

冷たい風が常に吹き、

冬ともなれば氷点下に落ち込む日も珍しくない。

 

そのため建物は断熱構造が多く、

住民の服装も厚手のコートが主流だ。

 

それは当然――

 

ハナ協会北部支部も例外ではない。

 

都市に存在する12協会。

 

その中でも

第一協会。

 

総括協会。

 

すべてのフィクサー協会を

統括する存在。

 

それが

 

ハナ協会。

 

北部支部のオフィスでは

二人のフィクサーが仕事を終えたところだった。

 

書類を閉じながら

セントライトが小さく息を吐く。

 

「ふぅ……仕事はこれでひと段落しましたし」

 

優雅に微笑む。

 

「少し休憩にしましょうか」

 

向かいの椅子に座る

メジロラモーヌが肩をすくめる。

 

「お疲れ様、セントライト」

 

窓の外を見る。

 

都市北部の街並み。

 

しかし彼女の視線は

どこか遠くを見ていた。

 

「……それにしても最近の北部はやけに騒がしいわね」

 

少し眉をひそめる。

 

「裏路地で何かあるのかしら?」

 

セントライトも窓を見る。

 

「そうですわね……」

 

少し考える。

 

「指切りの時期はまだですわよね?先月から妙に五本指の動きが騒がしいですわ」

 

ラモーヌは指先で机を叩く。

 

「指切りね……」

 

五本指。

 

都市の裏路地を支配する

五つの巨大組織。

 

それぞれが縄張りを持ち、

裏路地の秩序を支配している。

 

親指。

人差し指。

中指。

薬指。

小指。

 

普段は互いに干渉しない。

 

しかし定期的に

指切りと呼ばれる会議を行う。

 

そこで

裏路地の大きな決定がなされる。

 

ラモーヌは肩をすくめた。

 

「五本指同士の会議って噂だけど、一体どんな話をしてるのかしらね」

 

小さく笑う。

 

「普段から仲が良いとは言えない組織同士なのに」

 

セントライトはさらりと言う。

 

「なら適当な指の幹部に聞けばいいのでは?」

 

ラモーヌは呆れた顔をした。

 

「それが出来れば苦労しないわ」

 

腕を組む。

 

「私だって1級フィクサーよ?」

 

少し誇らしげに言う。

 

「実力もそれなりにあると自負してる、でも特色ほどじゃない」

 

指を立てる。

 

「良くて親指のカポくらい」

 

セントライトはくすっと笑った。

 

「ふふ、冗談ですわ

余程の物好きか特色フィクサー級でなければ、指に関わろうとはしませんわ」

 

ラモーヌが笑う。

 

「ならセントライトが行けばいいじゃない、

貴女特色なんだから親指のアンダーボスくらいなら互角でしょう?」

 

セントライトは肩をすくめた。

 

「まあ仕事で五本指と関わったことはありますが」

 

淡々と言う。

 

「積極的に関わるつもりはありません、面倒事は好みませんわ」

 

ラモーヌは話題を変えた。

 

「そういえばエクリプスは?」

 

セントライトが答える。

 

「支部長はウーフィ協会のナカヤマフェスタ協会長とシリウスシンボリ支部長に呼ばれて10区のカジノですわ。今頃楽しんでるでしょうね」

 

思い出したように言う。

 

「エクリプスって、イカサマ出来るのよね。しかも運も異常に良い」

 

セントライトは頷く。

 

「まあ、出禁にならない程度には

自制するでしょう」

 

ラモーヌは話を戻す。

 

「それで裏路地の問題はどうするの?ツヴァイに任せる?」

 

セントライトは首を振った。

 

「ツヴァイ協会は今南部の復興にかかりきりです」

 

少し困った顔をする。

 

「バンブーメモリー協会長から連絡がありました。それに、今のツヴァイ北部支部には特色フィクサー級の戦力がいません」

 

静かに言う。

 

「指と交渉するには力不足です」

 

ラモーヌが言う。

 

「となると……」

 

セントライトはため息をついた。

 

「仕方ありません、わたくしが行きます」

 

ラモーヌが言う。

 

「礼儀には気をつけなさい、階級が同格でも無礼を働けば顎を砕かれるわ」

 

セントライトは微笑んだ。

 

「分かっていますわ」

 

---

 

裏路地。

 

親指北部アジト。

 

建物の前で

セントライトは立ち止まる。

 

「……ここですわね」

 

扉の前に立つと

すぐに男が現れた。

 

ソルダート。

 

親指の末端構成員。

 

男は帽子を軽く上げた。

 

「おや、貴女は……白い聖光殿。我らが親指に何か用ですか?」

 

セントライトは優雅に一礼した。

 

「ええ、北部アンダーボスにお会いしたいのですが取り次いでいただけますか?」

 

ソルダートは頷く。

 

「聞いてみます。ただ、会える保証はありません」

 

セントライトは微笑む。

 

「構いませんわ」

 

男は建物の中へ消えた。

 

しばらくして。

 

一人の女が現れる。

 

カポ。

 

上級幹部。

 

「アンダーボスがお通ししろと、ついてきてください」

 

セントライトは言った。

 

「感謝しますわ」

 

ソルダートからカポを経由してアンダーボスに伝達される——

これが親指式の手続きの一環だった。

 

カポの案内で奥へと進む。

廊下は暗く、壁には血痕のような赤い塗料が残り、

空気は重く、緊張感が漂っていた。

 

そして、最奥の部屋。

 

カポが言う。

 

「お連れしました」

 

部屋の奥。

 

一人のウマ娘が座っていた。

 

シンザン。

 

親指北部アンダーボス。

 

彼女は笑う。

 

「おお〜久しぶりだね、白い聖光さん」

 

カポに言う。

 

「あんたは下がっていい、この人とは二人で話す」

 

カポは頭を下げて退室した。

 

静かな部屋。

 

シンザンが言う。

 

「それで、用っていうのは裏路地のことかい?」

 

セントライトは礼をした。

 

「まずはお目通り光栄です、シンザンアンダーボス」

 

彼女は知っている。

 

このウマ娘は、穏やかそうに見えるが礼儀を欠けば、即座に粛清する。

 

シンザンは笑う。

 

「さすがハナの特色、礼儀がしっかりしてる。私とあんたはほぼ同格だ、楽にしていいよ」

 

セントライトは頷いた。

 

「ありがとうございます」

 

シンザンは続ける。

 

「それで今の北部地域の裏路地についてだったね。

 まあ五本指の内情が絡むからあんまり詳しくは話せないけど……

 少し前に五本指が同盟を組んである遺物を扱おうとしていたんだ」

 

セントライトが言う。

 

「遺物?」

 

シンザンは頷く。

 

「ああ、で、それを十全に扱える人材を育て上げたところまでは良かったんだが……

 脱走されちまって、今は五本指の管理下から逃げちまったんだよ」

 

セントライトが呟く。

 

「それで……五本指同士がピリピリしてると」

 

シンザンは笑った。

 

「まあそういうこったね。

 多分次の指切りまで続くだろうから、ちょっと我慢してくれや」

 

セントライトは言う。

 

「事情は理解しました」

 

少し強い声。

 

「しかし協会としてはあまり裏路地の秩序を乱すような行いは看過できません。

限度は弁えていただきますわ」

 

シンザンは笑う。

 

「あっはっは、分かってるよ。

 巣には迷惑かけないようにするし裏路地が崩壊するような真似はしないから、安心してちょうだいな」

 

セントライトは頷いた。

 

「なら結構ですわ」

 

シンザンは肩をすくめる。

 

「まあ、私は北部地域を任されてるとはいえ、

 親指の頂点はゴッドファーザー様だからさ、あんまり自由は出来ないことは理解してちょうだいな。」

 

セントライトが頷く。

 

シンザンが笑う。

 

「……昔ね、就任3日で罷免されたアンダーボスがいたんだ」

 

セントライトが驚く。

 

「3日で?……余程の無礼を働いたのですわね」

 

シンザンは言う。

 

「ああ、実力は特色級だったんだが、性格が終わっていた。」

 

セントライトは呟く。

 

「実力があっても礼儀がなければ出世できない、親指らしいですわ」

 

そしてつい言う。

 

「ゴッドファーザーの礼儀の基準は

よく分かりませんわ」

 

その瞬間。

 

シンザンの銃が

セントライトに向けられた。

 

「おっ? 今ゴッドファーザー様のこと馬鹿にしたかい?」

 

シンザンは銃を向けながら、からかうように言った。

 

「……口が滑りましたわ。申し訳ございません」

 

沈黙。

 

そして。

 

シンザンはすぐに銃を下げ、笑った。

 

「……まあいいよ。次は気をつけな。

 他所のアンダーボスだったら即決でやられてたよ」

 

「ええ。……それにしても前々から思ってましたが

 貴女は親指にしてはかなり気さくに話しかけるのですね」

 

シンザンは少し照れくさそうに頭を掻いた。

 

「うーん……まあ、あいつの影響かな」

 

セントライトが聞く。

 

「あいつ?」

 

シンザンは言う。

 

「東部地域の親指にレイホンっていうすっごく強いカポがいたんだよ。

 ....2ヶ月ほど前にリンバスカンパニーって会社と戦って死んじまったんだけどね」

 

セントライトが驚く。

 

「レイホン……もしや東部十剣の1人だった?」

 

シンザンが頷く。

 

「そう、私は北部、あいつは東部で担当区域は別だったんだけどね。

 私個人としてはすっごく親近感湧いて気に入ってたんだ。

 しかもあいつ、カポの最上位のクァルトまで上り詰めてたし、

 あとちょっとでアンダーボスってところにいたんだよ」

 

ガンブレードを見せる。

 

「で、レイホンには東部親指の戦い方を色々教えて貰って、

 結構交流してたから口調やら性格が影響受けたんだろうね」

 

セントライトは言う。

 

「なるほど……シンザンアンダーボスの戦い方は

 北部ではなく東部親指の独特の戦い方をするとの噂は聞いていましたが

 そういう事情だったのですわね」

 

シンザンはガンブレードを軽く回しながら、懐かしそうに言った。

 

「そういうこと。あ〜、あいつみたいにこのガンブレードをもっと上手く扱ってみたいもんだ」

 

シンザンは笑う。

 

「……ではわたくしはこれで失礼しますわ。

 お話ありがとうございましたシンザンアンダーボス」

 

シンザンは手を振る。

 

「おう、じゃあ白い聖光、あんたも元気でな」

 

セントライトが一礼し、退室。扉が閉まる。

 

シンザンは一人呟く。

 

「……親指より外部の特色が礼儀正しいってのも皮肉だね」

 

皮肉な笑みだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。