ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

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憧憬

ドデカ協会本部 協会長室

 

都市の西側。

巨大な行政区画の中心部に位置する**第12協会――ドデカ協会本部**。

 

その最上階、厚い防音壁と強化ガラスで囲まれた一室。

ここが、ドデカ協会の全ての任務とフィクサーを統括する場所――**協会長室**だった。

 

窓の外には、都市特有の無機質な高層建造物が幾重にも並び、

遠くでは煙を吐く工場区画が灰色の空に溶け込んでいる。

 

その部屋の中央。

机の上には任務報告書、裏路地地図、ハナ協会との合同任務資料などが山のように積まれていた。

 

その机に向かって座っているのは――

 

ドデカ協会 協会長

ドゥラメンテ。

 

黒い長髪をきっちりと後ろで束ねたウマ娘。

若いが、視線には協会長としての鋭い威厳が宿っている。

 

その向かい側に立つのは、

ドデカ協会本部長――

 

サトノクラウン。

 

彼女は手元のタブレットを操作しながら、資料を確認していた。

 

室内は静かだった。

外の都市の喧騒も、この部屋にはほとんど届かない。

 

そして。

 

ドゥラメンテが、静かに口を開いた。

 

---

 

「……それで」

 

ドゥラメンテは資料から顔を上げる。

 

「リバティの様子はどうだ?」

 

サトノクラウンはタブレットを軽くスワイプしながら答えた。

 

「今のところ問題ないわ」

 

少し肩をすくめる。

 

「紫の涙の稽古は真面目に受けてるみたい」

 

そして少し笑った。

 

「イオリさんの指導はかなり厳しいみたいだけど……

リバティちゃん、ちゃんとついていけてるそうよ」

 

ドゥラメンテは小さく頷く。

 

「そうか」

 

その声には、わずかな安堵が混ざっていた。

 

「……怪我の後遺症で満足に働けなくなって燻っていたあの子がもう一度立ち直ろうとしているなら……それで十分だ」

 

サトノクラウンは続ける。

 

「このままいけば――」

 

タブレットの戦闘評価を表示する。

 

「特色までは難しいかもしれないけど、

2級か1級フィクサーくらいは堅いと思うわ」

 

ドゥラメンテは目を細める。

 

「……十分すぎる成果だな」

 

---

 

しかし、サトノクラウンは少し表情を曇らせた。

 

「ただね……」

 

ドゥラメンテが視線を向ける。

 

「どうした?」

 

クラウンは軽く息を吐いた。

 

「ちょっと気になることがあるのよ」

 

ドゥラメンテは腕を組む。

 

「言ってみろ」

 

サトノクラウンは少し苦笑した。

 

「リバティちゃん……新しい武器に“大鎌”を使いたいって言ってるのよ」

 

ドゥラメンテの眉がわずかに動いた。

 

「……大鎌?」

 

都市のフィクサーが使う武器は多種多様だ。

 

拳銃

E.G.O

義体兵装

 

だが。

 

「また随分マイナーな武器だな」

 

ドゥラメンテは小さく呟いた。

 

「理由は?」

 

サトノクラウンは肩をすくめた。

 

「それがね」

 

少し困ったように笑う。

 

「青い残響の話をイオリさんから聞いたみたいなの」

 

ドゥラメンテの表情が、ほんの少しだけ険しくなる。

 

「……青い残響」

 

都市でも、特に有名な名前だ。

 

残響楽団の指揮者。

 

狂気の音楽家。

 

そして――

 

かつては優秀なフィクサーだった男。

 

クラウンは続ける。

 

「リバティちゃん、ちょっと憧れてるみたいでね。世間知らずなところあるでしょう?」

 

ドゥラメンテはため息をついた。

 

「……あの男に憧れるのは、流石にやめてほしいが」

 

少しだけ考える。

 

「だが……確かにかつては優秀なフィクサーだった」

 

クラウンは頷く。

 

「そうなのよね、今は青い残響の大鎌に似た武器を探してるらしいわ」

 

そして苦笑した。

 

「でも大鎌ってかなり扱いが難しい武器よ?リバティちゃんに使いこなせるのかしら」

 

---

 

ドゥラメンテはしばらく沈黙した。

 

そして静かに言う。

 

「……リバティは戦いのセンスが良い」

 

それはドゥラメンテ自身の評価だった。

 

「怪我さえ克服できれば青い残響ほどではないにしても」

 

少しだけ口元が緩む。

 

「扱えるようになるだろう」

 

サトノクラウンは少し驚いた。

 

「結構信用してるのね」

 

ドゥラメンテは答える。

 

「当然だ……あの子は」

 

ほんの少し、視線が遠くなる。

 

「一度、都市に心を折られたフィクサーだ」

 

それでも。

 

「それでも立ち上がろうとしている、なら私は――」

 

静かに言う。

 

「その努力を信じる」

 

クラウンは少し微笑んだ。

 

「……ドゥラメンテさんらしいわ」

 

---

 

その時。

 

扉がノックされた。

 

コン、コン。

 

そして。

 

「失礼するよ」

 

ゆったりとした声。

 

ドアが開く。

 

そこに立っていたのは――

 

特色フィクサー

紫の涙 イオリ。

 

紫色のスーツ。

落ち着いた微笑。

しかしその存在感は、都市でも屈指の強者のものだった。

 

ドゥラメンテが視線を向ける。

 

「紫の涙か、どうした?」

 

イオリは軽く肩をすくめた。

 

「いやなに、リバティアイランドの稽古の様子を報告しに来たのさ」

 

クラウンが興味深そうに聞く。

 

「どうでした?」

 

イオリはくすりと笑う。

 

「あの小娘、中々筋が良いよ」

 

椅子に軽く腰掛ける。

 

「左脚を義体化してから満足に戦えなくなったと言ってたけど、

今じゃ、まあ3級フィクサーくらいには戦えると思うね」

 

クラウンが驚く。

 

「そんなに?」

 

イオリは頷く。

 

「身体能力も反応も悪くない。何より――」

 

目を細める。

 

「闘志がある、フィクサーにはそれが一番大事だからね」

 

---

 

ドゥラメンテは静かに言った。

 

「……紫の涙」

 

イオリが視線を向ける。

 

「なんだい?」

 

ドゥラメンテは真っ直ぐに問う。

 

「なぜリバティを弟子にした?」

 

少し沈黙が流れる。

 

「わざわざ私に頼みに来てまで、何か理由があるのか?」

 

イオリは一瞬だけ考えた。

 

そして。

 

ふっと笑った。

 

「まあ……老いぼれの気まぐれとでも思ってくれ」

 

クラウンが苦笑する。

 

「本当に?」

 

イオリは肩をすくめた。

 

「それ以上でもそれ以下でもないさ」

 

ドゥラメンテはじっと彼女を見る。

 

そして言った。

 

「……ならいい」

 

しかし。

 

次の言葉には鋭さがあった。

 

「だがリバティを良からぬことに巻き込むなら」

 

机に指を置く。

 

「私が相手になる」

 

イオリは楽しそうに笑った。

 

「ふふ、怖いねぇ」

 

そして軽く手を振る。

 

「安心しな、流石に当分は危険なことには巻き込まないよ」

 

ドゥラメンテは少し沈黙し。

 

「……分かった、信じよう」

 

イオリは立ち上がる。

 

「じゃあまた今度報告に来るよ、今日は失礼する」

 

そして。

 

空間が歪み。

 

紫色の裂け目が開く。

 

次の瞬間。

 

イオリの姿は消えていた。

 

---

 

 

静かになった協会長室。

 

クラウンが小さく息を吐く。

 

「……イオリさんって結構打算的な人って聞くけど」

 

ドゥラメンテは黙っている。

 

クラウンは続けた。

 

「リバティちゃんを弟子にしたのも

何かの計画の一部ってこと?」

 

ドゥラメンテは少し考えた。

 

そして言う。

 

「……分からない」

 

正直な答えだった。

 

「だが今は見守るしかない」

 

クラウンは頷く。

 

「そうね」

 

ドゥラメンテは窓の外を見る。

 

都市の灰色の空。

 

そして静かに言った。

 

「……あの子は、都市悪夢の案件で重症を負って後遺症が残った」

 

フィクサーとしては致命的な出来事だった。

 

「それからずっとやさぐれていた」

 

だが。

 

「……今は」

 

「前を向いている」

 

小さく言う。

 

「なら、多少のことは目をつぶるしかない」

 

クラウンは静かに頷いた。

 

「分かったわ」

 

「ドゥラメンテさん」

 

都市のどこかで。

 

今この瞬間も――

 

リバティアイランドは、大鎌を振るっている。

 

かつての英雄。

 

青い残響に憧れながら。

 

まだ知らない。

 

その憧れの先にあるものが――

 

狂気と破滅であることを。

 

しかし。

 

それでも。

 

少女は武器を握る。

 

都市で生きるために。

 

そして。

 

自分の未来を掴むために。

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