ヂェーヴィチ協会 西部支部
都市の数ある協会の中でも、
第9協会「ヂェーヴィチ協会」は少し異質な存在だった。
多くの協会が戦闘・護衛・調査といった仕事を請け負うのに対し、
ヂェーヴィチ協会が専門としているのは――
配達。
ただし、それは単なる荷物運びではない。
裏路地の戦闘地帯を横断する配達。
都市災害が暴れる区域への配達。
あるいは、
他のフィクサーが「絶対に関わりたくない」と断るような依頼。
それでも、
荷物を必ず届ける。
それが第9協会の誇りであり、
同時に呪いでもあった。
協会のフィクサーの多くは、借金や過去の事情を抱え、
高額報酬と引き換えに半ば拘束されている者たちだ。
危険な仕事。
しかし、逃げ場はない。
それが――
ヂェーヴィチ協会。
---
支部長室
西部支部の支部長室。
重厚な机の前で、
一人のウマ娘が書類の山に目を通していた。
赤毛。
ややつり上がった目。
落ち着いた雰囲気。
西部支部長。
ナイスネイチャ。
書類を閉じると、彼女はゆるく息を吐いた。
そのタイミングで扉が開く。
ナイスネイチャ
「いや〜、お疲れ様。
今日の配達も遅延なし、完璧だったよ」
部屋に入ってきたのは二人のウマ娘だった。
一人は――
芦毛の長髪を揺らす、大柄なウマ娘。
もう一人は――
小柄で白髪、関西弁の快活なウマ娘。
ネイチャは笑った。
「さすがだねぇ」
そして軽く手を叩いた。
「特色コンビ」
---
ヂェーヴィチ協会 西部1課。
都市でも名の知れた二人。
特色フィクサー。
芦毛のウマ娘が答える。
オグリキャップ
「ああ。
タマがいてくれたからな」
その横で腕を組む小柄なウマ娘が笑う。
タマモクロス
「そらそうや!
オグリとうちは無敵やからな!」
ネイチャは肩をすくめた。
「いやほんと、助かってるよ。アイネス協会長が“西部には化け物が二匹いる”って言ってた理由、よく分かった」
タマモクロス
「化け物言うなや!」
オグリキャップ
「私は怪物らしいぞ」
タマモクロス
「そこは否定せぇや!」
ネイチャは笑った。
---
ネイチャはふと聞いた。
「そういえばさ」
「二人って、ずっとヂェーヴィチだったよね?」
タマモクロスは胸を張る。
「せやで!家族養うためや!ヂェーヴィチは報酬高いやろ?それでフィクサーになったんや」
ネイチャ
「なるほどねぇ」
タマモクロスは続ける。
「気付いたら特色なっとったけどな!もう17年前や」
ネイチャ
「長いねぇ」
その隣でオグリキャップが静かに言った。
「私も同じだ、母を養うためにフィクサーになった」
ネイチャは少し驚いた。
オグリキャップは淡々と語る。
「F社6区の裏路地で母に育ててもらった、母はいつも私を守ってくれた。だから今度は私が守る番だ。ヂェーヴィチは報酬が高い、
その分仕送りが出来る、それで選んだんだ」
ネイチャは少し微笑んだ。
「二人とも、家族想いだねぇ」
---
ネイチャはふと思い出したように言う。
「でもさ、二人って本当に負けないよね。
図書館の事件のときも、ヂェーヴィチ結構やられてたのに西部はほぼ無傷だったし」
タマモクロス
「へっ!残響楽団も図書館もウチらの敵やないわな!」
オグリキャップは首を傾げる。
「図書館とは戦っていない、
だがアルガリアは強かった」
ネイチャ
「え」
タマモクロス
「アホ!そこは“楽勝やった”言うとこや!」
オグリキャップ
「そうなのか?」
ネイチャ
「いや正直すぎるでしょ」
そしてネイチャは聞く。
「でもさ、青い残響と戦って生きてるって普通じゃないよ?」
「タマが逃げる時間を稼ぐためだったが...勝利が目的ではなかったからな。タマが逃げ切ってくれたおかげで私も途中で離脱することが出来た。」
---
約2年半前
M社13区 裏路地
夜の裏路地。
瓦礫。
血。
壊れたネオン。
その中を、タマモクロスが全力で走っていた。
巨大な配達ケースを抱えながら。
タマモクロス
「オグリ!奴さんまだ追ってきとるか!?」
後ろを走るオグリキャップ。
オグリキャップ
「来ているな、かなり速いぞ」
タマモクロス
「なんでそんな落ち着いとんねん!この荷物取られたら終わりやぞ!大口依頼のヌオーヴォ生地なんやからな!」
オグリキャップ
「なら取られなければいい」
タマモクロス
「単純すぎるやろ!」
オグリは立ち止まった。
タマモクロス
「オグリ?」
オグリキャップ
「ここは私が引き受ける。タマは早く配達先に行くといい」
タマモクロス
「オグリ本気か!?あいつ特色やぞ!しかも凄腕の青い残響や!」
オグリキャップ
「少し足止めするだけだ、直ぐに離脱する。心配はしなくていい」
タマモクロス
「……」
タマは歯を食いしばった。
「……死んだら、二度と飯奢らんからな!」
オグリキャップ
「ああ」
タマは走り去った。
---
瓦礫の奥から。
拍手が聞こえた。
パチ……パチ……
現れた男。
白髪。
笑顔。
巨大な音符の鎌。
アルガリア
アルガリア
「ふふ、灰色の怪物。君が相手してくれるのかい?」
オグリキャップ
「そうだが?仕事の邪魔をするなら相手になる。...タマを死なせるわけには行かないからな」
アルガリアは嬉しそうに笑った。
「ふふ、怖いなぁ。俺としては特色の仲間も欲しいと思ってるんだけど...どうだい灰色の怪物。俺についてこないかい?」
オグリは首を傾げる。
「...そもそもアルガリア、君は何がしたいんだ?最近、各地の都市災害を従えてると聞いてるが、何をするつもりなんだ?」
アルガリア
「そうだね、俺はこの都市に誰も忘れられないような旋律を刻むんだ。師匠のアドバイスもあってその計画は順調に進んでる。……まだまだ先の話だけど、いつか俺たちは達成するんだ。」
オグリ
「師匠というとイオリか……何がしたいのかはよく分からないが、私は音楽は不得意なんだ。楽器の演奏は出来ないぞ?」
アルガリアは楽しそうに笑った。
「そういう意味じゃないんだけどなぁ」
そして鎌を構える。
「さて、君はどんな旋律を残すのかな?」
オグリは巨大なハンマーを持ち上げた。
「……足止めなら出来る」
次の瞬間。
鎌とハンマーがぶつかった。
ガキン!!
---
現在
支部長室。
ネイチャは腕を組んだ。
「……なるほどね、そんな感じだったんだ」
タマモクロス
「合流したときオグリボロボロやったけどな!」
オグリキャップ
「問題なかった」
タマモクロス
「問題あるわ!」
ネイチャは笑う。
「オグリさんってさ、本当に止まらないよね。どんな状況でも前に進み続けてる」
オグリは少し考えて言った。
「私は恩返しがしたいだけだ、母、仲間、助けてくれた人たちに」
そして静かに言う。
「だから走る、それだけだ」
ネイチャは小さく笑った。
「……そっか」
窓の外では、
ヂェーヴィチの配達員たちが
今日も危険な都市へ向かっていた。
荷物を届けるために。
そしてその先頭には
灰色の怪物と呼ばれるウマ娘がいた。
どんな都市災害でも。
どんな敵でも。
止まらない怪物が。