魔法少女?いえ、 魔 王 少 女 ですが   作:そうだ人間、辞めよう

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第一章 魔王少女爆誕編
ヤベェやつ


漆黒の帳が下りた真夜中の空を、一筋の閃光が切り裂いた。

 

 それは通常の流星とは明らかに異なっていた。尾を引く光は虹色に瞬き、大気圏との摩擦でバチバチとプラズマの火花を散らしている。

 地上から見れば、願い事をする暇すらない速度で落下するその物体。驚くべきことに、それはファンシーな『星型』をした、手のひらサイズの小さなポッドだった。

 

 キュイイイイイイインッ!!

 

 超高速で落下するカプセルの中、かかる圧力に耐えながら小さな影が必死に操縦桿にしがみついている。

 コックピットといっても、その空間は極めて狭小だ。人間なら両手の指10本で満員になってしまうほどのスペース。そこに、精巧だが、とても小さな計器類がびっしりと並んでいる。

 

「にゃ、にゃあぁぁぁっ! 大気圏突入角度、急すぎるホシぃぃぃ!!」

 

 魔法生命体――ステラは、小指の爪ほどのモニターに向かって絶叫した。

 

 身長は手のひらにスッポリと収まる程度。二頭身の愛らしいフォルムに、艶やかな毛並み。どう見ても地球の生物でいう猫だったし、なんなら、それを模して作られたデフォルメを何倍も効かせたぬいぐるみにはもっとそっくりだった。

 

(……負けるもんか。ボクは、負けるわけにはいかないホシ! ボクにはちゃんとした使命があるんだホシからね……!)

 

 ステラの少し前の記憶が、走馬灯の如く思い起こされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――遥か数万光年の彼方。故郷の星『キラキラ星』での任命式。

 

 この式は、魔法を扱う力を与えられた、特別な能力のあるボクを含めた複数の個体が、ボクらの助けを必要としている星にそれぞれ散り散りになって向かうために行われた。

 

 長老は厳かな顔で、神妙に座るステラを見下ろして言った。

 

『よいかステラよ。あの辺境の惑星、地球には私たちが使う魔法とはまた違った原理で働く《異能》といった力を持つ存在がごく少数だが存在する。そのような力を持った存在が、持たざる存在に対して酷い仕打ちをするなどして大暴れしているようだ』

 

『ボクは……そのような危機にどう立ち向かえばいいでしょうかホシ?』

 

『うむ。お前は輩出された歴代の者達と比べても、一際優れた優等生じゃった。だからこそ、お主にはこの任務を託したい。

 地球にて《異能》を使えない弱き者達の味方になり、真っ向からその異能持ちと対抗できる正義の心を持った存在を見つけ出して、お前がその者に力を授けるのじゃ。そしてお前はその者に仕えながら、その者が弱き者達の救世主として活躍できるよう導いてやって欲しい』

 

『期待に応えられるよう頑張るホシ!』

 

 こうして僕らは、故郷のみんなが見送ってくれるなか、それぞれの任務先の星に旅立った。

 ステラは使命感に燃えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手放しかけた意識が戻る。

 

 ステラは涙目で、操縦桿を肉球で握り直した。目の前には、日本の山岳地帯が迫っている。

 

「待っているホシ、地球の弱き者達よ! このボクが来たからにはもう安心だホシ! どんな困難が待ち受けていようとも、ボクが必ずこの地球を導いてみせるホシィィィッ!!」

 

 ステラはこのような状況だからこそ、自分を鼓舞するべくそう高らかに宣言した。

 

 その直後。

 

 ズドンッ!!

 

 深夜の静寂を破り、星型ポッドは人里離れた山奥の杉林へと激突した。

 音速を超えた衝撃波が周囲の枝葉をざわつかせ、眠っていた鳥たちが一斉に飛び立つ。

 

 ……しかし、破壊の跡はささやかなものだった。

 巨大なクレーターができるわけでも、山が吹き飛ぶわけでもない。

 ただ、地面の腐葉土に、キラキラと光るプラスチックのような星型の塊が、深々と突き刺さっただけ。

 

 プシュー……。

 

 地面に半分埋まった、子供の玩具のようなポッドから煙が上がる。

 

「しょ、衝撃緩和機能が上手く作動したホシね……」

 

 ステラは無事に地球に辿り着いたことに安堵して力が抜け、張っていた緊張の糸が途切れたのか、そのまま意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識が戻った時には、空が明るくなっていた。

 なんとか機体から這い出したステラは、すぐさま行動を開始した。

 

 まずは、自分が救世主として導くべき存在を見つけるところからだ。

 

 ステラは自分自身に認識阻害を施した。

 これにより普通の人間には、ステラの姿は空気の揺らぎ程度にしか見えず、意識にすら上らないはずである。

 

 これで周りに悟られず、ゆっくりじっくりパートナー探しに勤しむ寸法だ。

 

「よし、まずは人通りの多い場所で、パートナー探しだホシ!」

 

 ステラはふわりと宙に浮くと、山から人通りの多そうな街へと繰り出した。

 

 街には沢山の人が行き来していた。

 

(さて、誰にするか……。あのハゲたおじさんはパスだホシ。加齢臭がしそうだホシ。あそこのサラリーマンも死んだ魚のような目をしているから駄目ホシね……)

 

 よりどりみどりだが、ピンとくる人材がいない。

 ステラは腕組みをして、自分に正直な欲望を漏らした。

 

(どうせ仕えるなら、若い娘がいいホシね。うん、そっちの方がビジュアル的に映えるし、ボクの好みだホシ)

 

 邪な選定基準で視線を巡らせていた、その時だ。

 街から少し外れた公園のベンチに、一人の少女が座っているのが目に入った。

 

 黒髪のロングヘアに、整った顔立ち。清楚さと儚げさを持ち合わせた雰囲気を漂わせる美少女だ。

 彼女は真剣な眼差しで、手元の本にマーカーで線を引きながら没頭している。

 

(おっ、あの娘はなかなかレベルが高いホシ! 勉強熱心な真面目娘といったところホシか? どれどれ、何を読んでいるホシ……?)

 

 ステラは音もなく近づき、予習した日本語知識をフル動員して、その本の背表紙を覗き込んだ。

 

『魔王になるためにやるべきこと5選 ~まずは町内会を支配せよ~』

 

(…………)

 

 タイトルが胡散臭すぎる。というかタイトルの割に副題のスケールが小さくないホシか?

 しかも少女は「ふむふむ、回覧板のルート操作が鍵なのね……」などとブツブツと危ない独り言を呟いている。

 

(……ないな。あれは関わっちゃいけないタイプだホシ。顔はいいのに惜しいホシ)

 

 ステラは即座に候補から除外した。

 気を取り直して周囲を見渡すと、公園の入り口からキリッとした真っ直ぐな瞳をした、ピンクの髪をなびかせた可憐な少女が歩いてくるのが見えた。

 背筋が伸び、その歩き方からは凛とした意志の強さが感じられる。

 

(おぉ……! あの子だ! あの子ならきっとボクのパートナーとして活躍してくれるホシね!)

 

 ステラの直感がビビビッと反応した。

 間違いない、彼女こそがボクが導くべき存在。この地球を救うパートナーだ!

 

「決めたホシ! ボクと契約して魔法少女になってほし――」

 

 ステラは喜び勇んでふよふよとピンク髪の少女へ向かっている最中、突然、視界が暗転した。

 

「……にゃ?」

 

 

 いや、何かに鷲掴みにされたのだ。

 ステラは恐る恐る、自分を拘束している「何か」の持ち主を見上げた。

 

 

 

「……なんか飛んでる」

 

 平然とそう言ってのけたのは、さっき、ないな判定をした少女だった。

 まるで、目の前を飛んでいた羽虫を捕まえたかのような手際だった。

 ステラは背筋が凍るような恐怖を感じた。

 

 ボクが認めた少女のところに向かうには、この娘がいるベンチを横切る必要があったので、そうしようとしていた時だった。

 

「えっ!!!? にゃ、認識阻害魔法がかかっているはずホシィィィ!? なんでボクのことが見えるホシよ!?」

 

 

「え、見えたらまずかった? あー、私、視力いいから。両目2.0あるし。それじゃない?」

 

「そんな理屈で見られてたまるかホシよぉぉぉ!!」

 

 ステラはジタバタと暴れるが、少女の細腕からは信じられないほどの握力で固定されている。

 

「も、もしかして……お前はボクの警戒すべき『異能持ち』ホシか!?」

 

「異能? なにそれ」

 

「とぼけるなホシ! 普通の人間がボクを認識できるわけないホシ!」

 

 ステラは戦慄した。

 地球に降り立ってまだ数時間。最初の接触で、まさか敵である異能持ちに捕まるとは……。

 だが、ここで終わるわけにはいかない。せめて相手の情報を抜き出し、隙を見て逃げ出す算段を立てねば。

 

(落ち着け……まずは相手の戦力分析だホシ!)

 

 ステラは少女の手の中で身をよじりながら、カッと目を見開いた。

 

「ステータスオープン、スランピオン《解析 Ⅱ》」

 

 ピピピピッ、と電子音がステラの脳内に響く。

 相手の情報を可視化する魔法。これで隠された正体を暴いてやる。

 

 

 ――フォォン。

 

 空中に、ステラにしか見えない半透明のウィンドウがポップアップした。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

神田 真緒

個体名:一般市民

状態:健康、肩こりあり

種族: 地球人

《魔法適性》

 適性: ◯

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「…………は?」

 

 ステラの思考が停止した。

 二度見した。三度見した。

 解析エラーを疑ってリトライしたが、結果は同じだった。

 

「に、人間……? ただの人間ホシか……?」

 

 異能の反応はない。

 どこをどう見ても、そこに表示されているのは「極めて平凡な一般市民」のデータだった。

 魔法適性はあるようだが、これは割と多くの者に当てはまるものなので特筆すべきところではない。

 

「嘘だホシ……。異能のないただの人間が、なんで『認識阻害魔法』を見破れるホシか!?」

 

「だから言ったでしょ。私、目がいいって」

 

 少女は興味なさそうにそう答えると、ステラを掴んだまま、もう片方の手で例の『魔王になるためにやるべきこと5選 ~まずは町内会を支配せよ~』の別ページを器用に開いた。

 

「まあいいや。とりあえず『使い魔』は手に入ったし、これでいいか。魔王には使い魔の一匹や二匹いてもいいものねー」

 

「……はい?」

 

 キュッ、キュッ。

 

 少女は無表情のまま、開いたページの『第三章』に、マーカーで横線を引いて塗りつぶした。

 そこには太字でこう書かれていたのだ。

 

 『その3.手頃な使い魔(ペット)を確保すべし』

 

「よし。これでノルマ達成、魔王にまた一歩近づいたわね」

 

「扱いが雑ホシィィィ!!!」

 

 地球の平和を守るためのパートナー探しは、開始数十分でヤベェやつに捕まることで断念することになった。

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