魔法少女?いえ、 魔 王 少 女 ですが   作:そうだ人間、辞めよう

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あり得ない聞き間違い

ステラは相変わらず、少女に鷲掴みにされたまま拘束されていた。

 捕まっている以上、少女が歩く道連れにならざるを得ない。

 そんな中、ステラは揺れる視界の端で、ある異変を見つけた。

 

 路地の奥。一人の男が、ぐったりとした女性を抱え上げて立っていたのだ。

 ただごとではない。だが、もっと異常な事態が進行している。男の足元が透けているのだ。いや、それだけではない。抱えられている女性の垂れ下がった腕も、指先から空気に溶けるように消え始めている。

 二人まとめて、徐々に風景と一緒になりつつあった。

 

「……あら?」

 

 真緒も足を止め、小首をかしげた。

 一般人なら悲鳴を上げるか、腰を抜かす場面だ。しかし、彼女の反応はどこかズレていた。

 

「すごいわね。あの人、自分だけじゃなくて抱えてるお姉さんまで透明にするマジックをやってるわ。イリュージョンの基本は『箱に入った美女を消す』ことだけど、まさか箱なしでやるとは……斬新なアプローチね」

 

「感心してる場合じゃないホシ! あれはマジックじゃないホシ!」

 

「こんな住宅街のど真ん中で大掛かりな大道芸なんて、練習熱心なこと。二人でよく頑張ってるわ」

 

(あ……これ、女の人もマジシャンの仕掛け人だと思ってるホシ……)

 

「呑気すぎるホシ! あれは『異能』だホシ!」

 

 ステラは真緒の戯言を無視し、両目をカッと見開いた。

 瞳の奥に幾何学模様の魔法陣が展開される。

 

「ステータスオープン、スランピオン《解析 Ⅱ》」

 

 ステラの視界に、対象の情報がウィンドウとしてポップアップした。

 

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黒木 剛

 

個体名:誘拐犯

種族: 地球人(異能覚醒者)

状態: 異能発動中(進行度60%)

 

《異能》

■透明化

 ・自身の肉体を透明にする能力。

 ・接触している対象物も同時に透明化させる。

 

《脅威度》

 ランク:B(一般人では対抗不可)

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「やっぱりだホシ……! あいつ、この星特有の異能者だホシ!」

 

 間違いない。魔法とは異なる原理で働く特別な力だ。

 そして、今まさに消えかかっている女性の方へ視線を移す。

 

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山本 里見

個体名: 一般市民

状態: 昏倒 / 透明化進行中(接触干渉)

種族: 地球人

 

《魔法適性》

 適性:×

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「……ダメだホシ。適性がないホシ!」

 

 ステラはギリ、と奥歯を噛み締めた。

 適性の欄に◯ではなく×が記載されているものは、魔法適性がないことを示している。

 魔法適性は割と多くの者に当てはまるものといったが、それは異能が目覚める確率より断然高いという話であり、もちろん持たない人だって居る。

 ステータスウィンドウに適性の印がついていない人間に魔法を貸与すれば、その強すぎる負荷で精神が焼き切れてしまう。

 今の弱体化したステラ単独では、あの男を止める術がない。だが、このまま完全に透明になってしまえば、女性はどこへ連れ去られたかすら分からなくなる。

 

 ステラは周りを見渡す。

 人通りが少ない道なのか、そこにはステラと魔王志望の女、そして異能持ちに被害者しか周りにはいなかった。

 

(くそっ、今この場で魔法を託せそうなのは、この女しかいないのかホシ……!)

 

 ステラは悔しげに真緒を見上げた。

 

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神田 真緒

個体名:一般市民

状態:健康、肩こりあり

種族: 地球人

《魔法適性》

 適性: ◯

 

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 よりによって、魔王かぶれのこの少女は、魔法適性を持っていた。

 こんなヤバい女に魔法を使える権利をやっていいのだろうかと本気で悩むステラ。

 だが、選り好みしている時間はない。ステラの任務の本質は「異能を持たない弱者を守る」ことだ。

 

(目の前の理不尽を見捨てるくらいなら、ボクがここに来た意味はないホシ……!)

 

 ステラは覚悟を決め、真緒の手の中で叫んだ。

 

「おい真緒! 取引だホシ!」

 

「あれ、私名前を教えたかしら……それに……取引?」

 

「あいつは大道芸人じゃない、異能を使って女性を誘拐しようとしている悪党だホシ! ボクの力ならあいつを止められるが、それには地球人の協力が必要だホシ!」

 

 ステラは真緒の目を見据え、一世一代の勧誘オファーを口にした。

 

「ボクと契約して、『マホウショウジョ』になってほしいホシ!!」

 

 断られるかもしれない。

 魔王になりたいと豪語する彼女にとって、正義の味方の代名詞など、唾棄すべき存在かもしれない。

 だが、今はこれしか――

 

「――なる」

 

「え?」

 

 真緒の顔が、パァッと明るくなった。

 先ほどまでのクールな面影はどこへやら、年相応の少女のように目を輝かせ、頬を紅潮させている。

 

「なるわ! なってあげる!」

 

「えぇ……?」

 

 予想外の食いつきに、ステラの方が面食らった。

 あれだけ魔王だなんだと言っていたのに、いざ提案されると満更でもないのか。

 なんだ、やっぱり年頃の女の子だ。心の奥底では、変身ヒロインへの憧れがあったということか。

 

(なんか調子が狂うけど、今は緊急事態ホシ。すんなりいけたことを喜ぶべきホシね!)

 

「じゃ、じゃあこれを受け取るホシ! 魔力《大地のエネルギー》を人間が使用するには、これを使って専用の姿になる必要があるホシ」

 

 ステラはそう言って亜空間収納から、自身の術式を込めた変身アイテム――『スター・ペンダント』を取り出し、真緒の手のひらに乗せた。

 中央にサファイアのような青い宝石が埋め込まれた、星型のブローチだ。

 

「……なんか、思ってたよりファンシーね」

 

 真緒は手の中のアイテムを見て、少しだけ残念そうに眉をひそめた。

 

「もっとこう、生き血を吸うドクロの形とか、古の呪文が刻まれた石版じゃないわけ?」

 

「そんな呪いのアイテム渡さないホシ! いいから強く念じるホシ! そうそう、一度変身をしてしまえば契約は自動的に結ばれるホシ」

 

 真緒が納得いかないような顔でペンダントを掲げると、眩い蒼い光が路地裏を包み込んだ。

 光の粒子が水流のように彼女の体を包み込み、普段着が分解され、魔力によって再構築されていく。

 

 カッ!!

 

 光が収まると、そこには一人の『魔法少女』が立っていた。

 

 基調となるのは、晴れ渡る夏空のようなスカイブルーと、雲のような純白。

 トップスはセーラー服をアレンジしたようなデザインだが、胸元には身の丈に合わないほど巨大なリボンが鎮座し、その中心で青い宝石が輝いている。

 肩周りはパフスリーブで大きく膨らみ、そこから伸びる腕は、肘上まである純白のオペラグローブに包まれていた。

 

 極めつけはスカートだ。

 幾重にも重ねられたオーガンジーの生地が、動くたびにふわりと広がる。その裾からは、これでもかと言うほど贅沢に使われたレースのペチコートが覗いていた。

 足元は編み上げの白いロングブーツ。太ももの絶対領域には、ワンポイントで青いガーターリングが光る。

 頭には大きなヘッドドレス。サイドの髪は魔法の力で緩やかにカールされ、キラキラと粒子を撒き散らしていた。

 

(おお……!)

 

 ステラは思わず感嘆した。

 正直、この娘、ルックスは抜群にいい。

 クールな顔立ちと、清廉なブルーの衣装の相性は最高だ。黙って立っていれば、「蒼き魔法少女」として文句なしのビジュアルだ。

 

「完璧だホシ! これなら勝て……」

 

 しかし、ステラの称賛は途中で止まった。

 

 真緒の様子がおかしい。

 彼女は自分の格好を見下ろし、スカートのフリルをつまみ上げると、般若のような形相で眉間に深いシワを刻んでいたのだ。

 

「……ねぇ」

 

 地獄の底から響くような低い声。

 

「なんホシ……? すごく似合ってるホシよ? 特にその青色が、知的でクールな真緒にぴったりだホシ」

 

「話が違うじゃない」

 

 真緒はギリリと奥歯を噛み締め、ステラを睨みつけた。

 

(なんか、すごい怒ってるホシ……意味わかんないホシ)

 

「私、『マオウショウジョ(魔王少女)』になれるって聞いたから契約したのよ!?」

 

「…………は?」

 

 一瞬、ステラと真緒の間に沈黙が訪れた。

 

 

 マオウ少女。

 マホウ少女。

 

(……あ)

 

 ステラの脳内で、二つの単語が並ぶ。

 

 M a o u.

 M a h o u.

 

 

(こ、こいつ……!)

 

 ステラの思考がフリーズする。

 この娘、ありえない聞き間違いをしてたホシ……!

 

「なんで私がこんな爽やかスカイブルーを着なきゃいけないのよ!

 現代の魔王の正装と言ったら、光さえ飲み込む漆黒のロングコートでしょうが!

 デザインは威厳を示すミリタリー調のスタンドカラー! そこに入る刺繍は金か深紅!

 素材はペラペラのレースじゃなくて、防御力と威圧感を兼ね備えた厚手のハードレザーか、光沢のあるエナメル素材!

 リボンの代わりに黄金のチェーン!

 ヒラヒラしたスカートじゃなくて、機能美を追求したスラックスかタイトなスリット!

 空気抵抗になりそうなフリルなんて全部むしり取りなさいよ! これじゃただの、清く正しく美しい正義の味方じゃない!」

 

「もうコイツ……嫌だホシ……」

 

 呆れすぎてげっそりするステラと、憤怒の表情の真緒。

 そんな温度差の中、変身を終えたことでステラと真緒の契約は、無情にも完全に成立していたのだった。

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