魔法少女?いえ、 魔 王 少 女 ですが   作:そうだ人間、辞めよう

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不本意だけど約束するホシ!

 

「こんなパステルカラーのフリフリ、私の美学に反するわ!」

 

「今はそんなこと言ってる場合じゃないホシ! 彼女を助ける必要があるホシ!」

 

「私に命令する気!? 私は自由にやりたいの」

 

 ステラの声に真緒は不満げに顔を上げた。

 

 ステラはこんな押し問答をしている場合ではないと、先程の路地の奥を見やるが、もう誰もいない。この少女と言い合っている隙に、透明になりかけていた男と、抱えられた女性の姿は完全に消え失せていた。

 

「あぁっ! いないホシ! 完全に透明化されてるホシ。もし、既に逃げられていたら、どうする事も出来ないホシよ!」

 

「ちょっとまず私の話を……」

 

「もう分からず屋ホシね! とにかく契約した以上、戦ってもらわないとあの女の人が危ないホシ!」

 

 ステラは焦った。このままでは取り返しのつかないことになる。

 こうなったら、あの手を使うしかない。ステラは苦渋の決断を下した。

 

「分かったホシ……! 真緒、あいつを倒してあの女性を助けたら、今着ている以上の服のデザインを真緒が好きなようにデザインしなおして再構築していいホシ!」

 

「……え、そんなこと出来るの?」

 

「まぁ、出来ないことはないホシ。せっかくボクが地球の文献を読み漁って一生懸命考えたデザインだったのに……不本意だけど約束するホシ!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、真緒の目の色が変わった。

 

「本当ね? 私が自由に服装のデザインし直していいのね! 約束よ! 約束だからね!」

 

「分かった、分かったから! 本当に約束ホシ!」

 

「交渉成立」

 

 真緒はパン、と手を叩いて不敵に笑う。切り替えの早さにステラは若干引いたが、また不機嫌になってもらっても困る。

 

「でも、正直、もう完全に透明になって逃げられてしまったと思うホシ。どうやって追うホシか……」

 

「それは大丈夫よ。あそこにいる。まだそんなに行ってないわ。女性を抱えて走ってる」

 

 真緒は自信満々にある路地の先を指差した。

 ステラは目を凝らすが、そこには誰もいない。ただの無人の道路だ。

 

「……ま、まさか見えるホシか?」

 

「少しだけね。空間の揺らぎが見える」

 

「マジかホシ……。これは魔法の効果ではないホシよ。だってまだ、真緒は魔法を唱えてないホシからね」

 

「まぁ、たぶん私、視力が2.0あるからだと思うわ」

 

「だからその理屈にそんな説得力ないホシ……」

 

 視力が良くても透明になった人間を簡単には見つけられない。

 そのはずである……。

 少し自信がなくなってきたステラだった。

 

「じゃあ早速追いかけるホシ! ボクが見立てたところ、真緒が得意な魔法系統は、対象の性質を変化・強化させる『付与(エンチャント)』魔法だホシ。試しに足に身体強化のエンチャントを唱えるホシ!」

 

「え、どうやって」

 

「今の状態の真緒は、たくさんの魔法の知識が頭に入っているはずだホシ。使いたい魔法を頭の中で思い浮かべる事で、現状使える魔法の中から、それに関連する詠唱が脳内でピックアップされるはずホシ!」

 

 ステラの指示に従い、真緒が考え込むように目を瞑った。そしてしばらくして目を開けると、自分の足元に触れて言葉を発した。

 

「シ・ヴァラ・ダイン《脚力上昇 III》」

 

 すると足が淡く光りだした。

 

 真緒が軽く地面を蹴る。

 それだけで、彼女の体は風のように前に進んだ。

 

「わっ、すごっ!」

 

 一歩踏み出すだけで景色が後ろへ流れていく。試しに少し走ってみれば、自転車くらいの速度が簡単に出た。

 

「流石にこれに関しては驚きを隠せないわね……」

 

 真緒は、自分自身にタネも仕掛けもないとわかっているからこそ、素直にこの現象に驚いた。

 

「よし、一気に距離を詰めるホシ!」

 

 真緒は強く地面を蹴った。彼女の体は高く跳ね上がった。

 

 

 

 

 

 

 

(クソッ、まさか見つかるとは……)

 

 男は通りすがりの少女に気づかれてしまったと悪態をつきながら、路地を疾走していた。

 だが、今のところ追ってくる気配はない。どうにか完全に透明化して逃げ切ることはできたようだ。これなら自分のアジトまで――

 

 そう思った瞬間だった。

 

 ドォォォンッ!!

 

 空から何かが降ってきて、男の目の前のコンクリートに着地した。

 フリフリのスカートを翻して立ち上がったのは、先ほどの少女だった。

 

「な……ッ!?」

 

 男は急ブレーキをかけて立ち止まる。

 距離はかなり離したはずだ。しかも自分は透明人間になって、誰にも見えない状態にあるのだ。なのに、なぜ先回りできた? なぜ位置がバレている?

 

 男の頭の中に、沢山のハテナが湧き上がる。

 

「ふふん。ジャンプ力も高くなるのね、すごいわ本当。どういう原理なのかしら」

 

 真緒は地面に着地して早々、何もない空間を真っ直ぐに見て話しかける。

 

「私の第一号の構成員になる気はない?」

 

「……あぁ?」

 

「ちょっと何言ってるホシか!」

 

「まぁ、でも……ちょっとその手品がかっこよさに全振りしてるやつじゃないから、幹部の器ではないわね。……魔王に仕える下っ端戦闘員Aとかにはなるでしょうけど」

 

「なるわけねぇだろ! なんだよそれ!」

 

 困惑しながら男が叫ぶ。

 

 (俺のことが見えている。しかもこの常識外れな身体能力。そうかようやく分かったぞ。コイツ、異能持ちだ)

 

「そう、残念。面白い手品ではあるんだけどね……」

 

 真緒はため息をつくと、ゆらりと構えをとった。

 

「なら、交渉決裂ね」

 

 次の瞬間、真緒の拳が迫っていた。速い。

 だが、男は咄嗟に反応した。

 

「バカが!」

 

 男は抱えていた女性を前に突き出したのだ。

 

「俺にはこの女が人質にも盾にもなるんだよ! 攻撃できないだろ!」

 

 

 そう言い放ったが、パンチは止まる事なくそのままぶつかろうとしていた。

 男はスレスレのところでそれを回避する。

 

(あぶねっ、せっかくの商品に傷がつくところだった)

 

「バッカじゃねぇーのー!? 今のパンチがこの女にも当たってたかもしれないんだぞ! 正気か!? この女を助けるために来たんじゃねぇーのかよ!!」

 

 

 

 男の言う通りだった。今のパンチは女性ごと吹き飛ばす。勢いだった。

 

 ステラは、男とその男に捕らえられている女の姿は見えないが、男の言葉から女性にまで危害が及びそうだったのだと察した。

 

「真緒! 被害者女性は絶対に傷つけちゃいけないホシ! その女の人を傷つけたら、さっきの『衣装魔改造』の話はなかった事にするホシよ!」

 

「はぁ!? そんな無茶振り言わないでよ! 相手は見えない上に、どうやって女の人に当たらずに、後ろの男だけに攻撃するのよ! 当たり判定シビアすぎるでしょ!」

 

「それを考えながら戦うのがあんたの役目ホシ!」

 

「これだからヒーローって嫌なのよ。制限の中で戦わないといけないからっ」

 

 文句を垂れながらも、真緒は男の気配の周囲を高速で移動し、隙を伺う。

 だが男も必死だ。常に透明化した女性を盾にするように体の向きを変えてくる。

 

「エンチャントできるのは自分だけではないホシ! 相手にもエンチャントをかけられるホシ! そこら辺の知識を手繰り寄せるホシ!」

 

「え?」

 

 そう言われて真緒はほんのわずか考える素振りをした。

 

「……なるほど」

 

 真緒は即座に理解し、地面を蹴った。

 真正面から突っ込む。

 

「だから無駄だっつってんだろ!」

 

 男は再び女性を盾にする。だが、真緒の狙いは上半身ではなかった。

 低い姿勢で滑り込み、男の足首とおぼしき空間へ手を伸ばす。

 

「そこねっ!」

 

「なっ!?」

 

 避けようと男が足を引くが、真緒の動体視力と加速した速度の方が勝った。

 指先が、何もない空間にある男の足首にかすかに触れる。

 

「レゼヌル!《脱力 Ⅱ |効果時間:00:07》」

 

 その瞬間、男の膝からガクンと力が抜けた。

 

「う、お……!?」

 

 まるで足がゼリーになったかのように踏ん張りが効かなくなる。

 男がバランスを崩し、倒れ込みそうになったその隙を、真緒は見逃さなかった。

 

「いただき!」

 

 倒れる男の手からこぼれ落ちそうになった女性を、真緒は素早く抱きとめる。

 男から女性を離した瞬間に、女性の姿がふわりと空中に現れた。

 どうやら透明化の効果は異能者が触れているものに限定されるらしい。

 そのまま高速バックステップで距離を取り、安全な路肩へと女性を寝かせる。

 

「ひとまず、それでいいホシ! そうすれば気兼ねなくあの異能持ちとやりあえるホシ!」

 

 真緒はゆっくり振り向き、真緒のかけたエンチャントが解除されて、透明なまま慌てて立とうとしている男の方を見る。

 

「さて……これでようやく自由にやれる。あんまり私を縛らないで欲しいわ。本当、苦手なの。いろんなことに縛られるの」

 

 ボキボキ、と真緒の拳を鳴らす音が路地裏にやけに大きく響く。

 

 まだ戦闘態勢を取り直せていない男は、姿は見えないものの、その殺気に顔を青ざめさせていた。

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