魔法少女?いえ、 魔 王 少 女 ですが   作:そうだ人間、辞めよう

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上限突破

 

「もうすぐ着くわよ。この森を抜けた先にあるの」

 

 木漏れ日が差し込む林道を、母・恵美子は軽やかな足取りで進んでいく。

 その背中は、ここ数日の様子とは打って変わって、明るく弾んでいるように見えた。

 その理由は、家族に反対されると思っていた自分の信仰に娘が興味を示してくれ、「なんと私も連れていってよ」と言ってついてきてくれているからだ。母にとってこれほど嬉しいことはなかった。

 

(真緒が信じてついてきてくれるなんて……これも徳を積んだおかげかしら)

 

 そんな母のウキウキとした背中の数歩後ろを、真緒が歩いていた。

 真緒もまた、母に負けず劣らずワクワクした顔をしている。

 

 そんな真緒の横を、認識阻害を自分自身にかけて飛んでいるステラが、ジト目を向けた。

 

「真緒……。随分機嫌が良さそうホシね……。少し前のあの片目瞑ってのシリアス顔はどこへいったホシか。演技だったホシか。自分の母親がこんな状態だと言うのに呆れるホシ……」

 

 その問いに、母である恵美子には聞こえないよう、小さな声で返す。

 

「失礼ね。演技じゃないわよ。あの時は私にも思うところがあって、色々考えていたのよ。これに関してはそのあとステラと話して決まったことじゃない」

 

「まぁ、それはそうホシ。それについてはもうとやかく言うことはないホシよ。だけど、あまりにも異能者()がいるかもしれない場所に向かう雰囲気じゃないホシ。それが釈然としないホシよ」

 

「それはだって……今からやる事は所謂、潜入調査よ! わくわくしない訳ないじゃない。自分の正体を隠して敵のアジトに一般人を装って潜り込む……。だれだって一度は体験してみたかったシチュエーションじゃない?」

 

「それ魔王あんまり関係なくないホシか? あんまりそれを魔王がやってるイメージないホシ」

 

「私が目指すのは、より洗練された真の魔王。

 ただの真似事じゃ、所詮は模造品で終わってしまうわ。

 だから私は、先輩魔王たちのイカした部分はいただきつつ、そこに私自身が良いと思った事を組み込んでいく。

 過去を吸収し、その上で自分色に染め上げてこそ……私が求める理想の魔王に辿り着けるってものよ」

 

 真緒は楽しそうに鼻歌交じりに歩を進める。

 ステラは「やれやれ」と肩をすくめた。

 

 

 ◇

 

 どうしてこうなったのか。話は少し遡る。

 母が宗教にハマっている事が発覚し、父が母親を連れて寝室に向かったのちの玄関での会話の後。

 

 真緒は神妙な顔つきで、ステラに問いかけた。

 

「一応聞くけど、このまま母さんを放っておいたら、『久遠の明かり』っていう宗教にハマり続けるのかしら? それかちゃんとした病院でカウンセリングを受けるとかでどうにかなるものでもないの?」

 

「……まだ相手が異能持ちと確定したわけじゃないから断言はできないホシけど、もしボクの予想通り異能による干渉でああなってた場合、現代医療での治療はほぼ無理だと思うホシね。異能による干渉は、脳の回路そのものに強制力が働いている状態ホシ。根本である術者、つまり異能者本体をとっちめて術を解除させるのが一番手っ取り早くて確実ホシ」

 

「なんか、異能者とやり合う気満々ね。あと思ったより解決策が脳筋」

 

「そりゃあ、その為にボクはこの星に来てるホシからね。悪い異能者を取り締まり、この星の平穏を取り戻すのがボクの使命だホシ!」

 

「まぁ、別に平穏を取り戻すとかは正直、私はあまり興味がないのだけど、また不思議な力を持ってる人と戦えるのならそれはちょっと心躍るわ。前回は、これからだって時に相手が気絶しちゃってせっかくの力を持て余したもの」

 

「どうホシ? 真緒のお母さんを正気に戻すためにここは一肌脱ぐ時ホシ。さっそく変身して、空からド派手に奇襲をかけるホシ!」

 

「母さんがあのままだと困るし、正気になってもらいたいから、そのための行動をするのには賛成。ただしそれに辿り着くまでの過程は私がやりたいようにやるわ」

 

「ん? どういうことホシか?」

 

「潜入調査をするの」

 

「……はい?」

 

 ステラはきょとんとした。

 

「いや、普通に殴り込みに行って、変身してぶっ倒すだけでいいホシ。なんでわざわざ面倒な手順を踏むホシか」

 

「分かってないわねステラ。敵アジトに一般人を装って潜り込み、内部事情を探ってから華麗に正体を現す……。それが出来る状況にあるのよ今回の場合!」

 

「真緒……お母さんの精神があんなことになってるのによくそんな悠長なこと言えるホシね……」

 

「最終的には正気に戻すの。結果は変わらないわ」

 

 真緒は真面目な顔で、もっともらしい理屈を並べ立てた。

 

「それに、相手は人の心を操る能力者かもしれないんでしょ? どんな条件で発動するのか、射程距離はどれくらいか、誰がその異能者なのか。他にも異能者はいないのか。それを知らずに突っ込むのは愚策よ。まずは信者のフリをして懐に入り込み、敵のタネを見極めてから、一気にチェックメイトに持ち込む。……これが最もスマートでいいわ」

 

「……まぁ、言ってることは一理あるホシけど。後付け感が半端ないホシね」

 

(……絶対真緒は同じような状況がまたあったとしても、気分次第でまた別のことをその時には言ってるホシ)

 

 ステラはそう思ったが、渋々といった様子で頷いた。

 こうして、真緒の「潜入調査作戦」が決行されることになったのだ。

 

 ◇

 

 そして時間は現在に戻る。

 

 二人と一匹の魔法生物は森の奥へと続く一本道を歩いていた。

 

 母の数歩あとを行く一人の少女と魔法生物は、コソコソと尚も話を続ける。

 

「まぁ、でも相手が精神に干渉してくるなら私もそれに引っかからないように気をつけないといけないわよね。潜入調査するつもりで向かって私もすっかり信者になってたとか笑えないわ、本当」

 

「あーそのことホシけど、きっと真緒は大丈夫ホシ」

 

「なんでそんな言い切れるの? だって、お母さんはあんなにコロッとやられちゃったわけでしょ?」

 

 真緒はそう言って、機嫌良さげに前を行く母を指差す。

 真緒の懸念はもっともだ。

 敵の能力が精神干渉系である以上、近づくこと自体がリスクになる。

 

 だが、ステラは「それなら心配無用ホシ」と、あっけらかんと答えた。

 

「実は今朝、いつもより魔力の調子が良さそうだったから、試しにこっちにきてから一度も使えてなかった、ワンランク上の解析魔法『アナライズ・ランクⅢ』を真緒になんの気無しに使ってみたんだホシ」

 

「勝手に人の情報見ないでよ」

 

「まぁ、まぁ。そのお陰で分かった事があるホシからいいじゃないホシか。……それがホシね、真緒の状態異常欄にも、お母さんと同じ『盲信』の項目があったホシ」

 

「はぁ!?」

 

 真緒は思わず声を上げそうになり、慌てて口を押さえた。前を行く母は気づいていないようだ。

 

「ちょっと! 私も干渉されてるって事!?」

 

「精神干渉の方式がウイルスみたいな感じだったら、既に染まってる真緒の母さんを通してってのもあるかもしれないけど、ボク的にはそれより納得感のある結論が出てるホシ」

 

「なによ」

 

「推論ホシけど真緒の『盲信』の対象は、あの宗教じゃなくて魔王に対してだホシ」

 

「…………」

 

「で、問題はその数値ホシ。ランクⅡまでは見えなかった詳細数値が、ランクⅢで見えるホシけど……」

 

 ステラは遠い目をした。

 

「盲信の数値が『9999』を突破してたホシ。……こんな馬鹿げた数値見た事ないホシ」

 

「あら」

 

「いつも使ってる『ランクⅡ』の解析限界値は『9999』までなんだホシ。真緒のその『魔王に対する盲信』の数値はそれを遥かに超えていたから、ランクⅡでは測定不能……つまりシステムがそれを拾いきれずに『非表示』として処理されていたホシ」

 

 ステラはため息をつく。

 

「………普通はランクⅡの上限でも十分に役に立てられるのに、それを凌駕するとは……」

 

「フッ……当然ね。私の覇道への意志は、常人の尺度で測れるほど安くないわ」

 

 真緒は誇らしげに胸を張った。ステラは半眼でそれをスルーし、解説を続ける。

 

「さらに続けて推測だホシけど、今回の敵の異能は『無から感情を作り出す』タイプじゃなくて、『元々ある感情を増幅させる』タイプだと思うホシ。お母さんの場合、お父さんとのすれ違いで生まれた『何かにすがりたい』という小さな弱さを、強制的に増幅させられて盲信度合いを高められたんだホシ」

 

「それっぽいじゃない。意外とあなた頭切れるのね。見直したわ」

 

 ゴホンとステラはわざとらしく咳払いをする。

 

「その『心を操る系の異能は真緒には効かない可能性が高い』と言う結論に至った理由だけど、真緒の場合、『魔王への盲信』が既にダントツで普通の人間が抱ける感情の許容範囲を超えていたホシ」

 

 ステラは真緒を指差した。

 

「仮に敵が真緒のなんらかの感情を増幅させ妨害したり、己の宗教に引き入れようとした場合、どれだけ増幅しようが、圧倒的な真緒のほとんどの感情を占めている『魔王に対する思い』には敵わない。結局は『魔王としての行動』を貫き通すことになるはずだホシ」

 

「つまり?」

 

「真緒の中二病が重症すぎて、精神干渉が意味をなさないホシ」

 

「要するに私の『魔王に対する思い』が、精神干渉に対する鉄壁の障壁になってるってことね。なんだか私の魔王に対する思いが認められたみたいで嬉しいわ……」

 

「別にそんな事はないから安心して欲しいホシ」

 

 棒読みでステラが言う。

 

「見えてきたわよ、真緒!」

 

 そんな時、前を行く母が、嬉しそうに声を上げた。

 森が開け、その先にコンクリート造りの近代的な建物が姿を現した。

 

 宗教法人『久遠の明かり』。

 

「よし……」

 

 真緒は口元を引き締め、瞳に鋭い光を宿した。

 歩みを進める。

 

(なんだか不安が残るホシね……本当にこれ大丈夫ホシか…………)

 

 そう思いながらもステラも真緒に続いた。

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