伝説語りのニルヴァード――人工知性と歩む冒険譚   作:健康な人(ハーメルン)

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6章:鉄の亡国
第31話 鉄の国の依頼:前編


 

「なあ、ちょっと思いついたんだけどさ」

 

 アサルビ半島から戻った翌日、ニルは宿屋の食堂で真剣な表情で切り出した。

 

「俺たち、旧文明の遺物を商品にできないか?」

「は? ちょっとまて。いきなりすぎて話が見えんぞ」

 

 ガルスは朝飯を食いながら「なに言ってんだこいつ?」といった感じの顔で聞き返した。とは言え手を止めてはおり、話を聞かないつもりはないらしい。

 

「いや、すまん。でも前から考えてたんだよ。思い付きが形になったのは、ロバートさんと話してからだが」

『ロバートと話をしたことが、どう関係するのですか?』

 

 疑問を投げるクロードの言葉に、ガルスも「だよな?」と頷く。そんな二人の様子に、ニルは「悪い、順番に言うわ」と座りを直して口を開く。その間に、ガルスも水を口に含んで座りを直す。

 

「俺たち、前の町でもクロードの遺跡から見つけたデータストレージを売ろうとしてただろ?」

「だな。まあ売れなかったが」

『そうですね。結局、データストレージの売却はできていません』

 

 ガルスとクロードの肯定を受けて、ニルは「そう、それだよ」と手を叩いた。

 

「前の町は、まあいいわ。大きい町でもないし。でもここ、天下の港湾拠点オルビアンだぞ? そこでも解析できないから買い取ってもらえないって、それもう「ストレージ自体が売れない」ってのとほぼ同じ意味だろ」

「……まあ、言われてみると確かにって感じはするな」

『ですね。言い分は通っていると思います』

 

 ニルに改めてそう言われると、確かにと納得する部分はある。

 ガルスとクロードが「なるほど」といった感じに頷くのを確認してから、ニルは「そうだろ?」と得意げに笑って、更に言葉を続ける。

 

「で、極めつけはこの前のロバートさんだよ。あのストレージ、クロードなら一瞬で解析できたけど、ロバートさんは10年以上解析できなかったって言ってたじゃん」

「ああ、そう言ってたな」

『私も、ロバートはそう発言していたように記憶しています』

 

 ここまで言えばガルスもクロードも、言いたいことは理解したらしい。

 ガルスは朝飯を食う手を完全に止めており、クロードも何かを考える様に少しばかり沈黙している。

 そんな少しばかりの沈黙によって、ニルたちの机は静かになった。周りの騒がしさががやがやと割り込んできたが、クロードの言葉が降りていた沈黙を破る。

 

『……それが、商売に繋がるとニルは考えているのですか?』

「そうだ。俺たちならやれるって商売にならないか?」

「いや、待てニル。まだ無理だ」

 

 クロードの言葉にニルがそう言うが、ガルスは冷静に待ったをかけた。

 

「確かにロバートさんの時は偶然噛み合ったが、旧文明のデータ自体はちょくちょく発見されてるんだ。あのタイプのデータストレージじゃないなら、その辺のアーティファクト屋で十分解析できる。それだけで商売をするのは無理だ。頻度が少なすぎる」

 

 そこまで言ったガルスは、一息置くように飲み物を飲んだ。

 冷静になれと、自身とニルに言い聞かせるように。

 

「でも、俺たちにしかやれない仕事ではあるぜ?」

「頻度と金額の問題だ。需要はあると思うが、どう考えてもそれだけじゃ食って行けんぞ」

『なるほど……ガルスの言い分に筋が通っているように感じますね』

 

 冷静に分析したガルスに、ニルは負けじと食い下がる。

 しかしクロードがガルスに付いた事で、大勢は決した。ニルは机に肘をつき、頭を抱える様に溜息をもらす。

 

「はぁ~…… 行けると思ったんだがなぁ」

「将来的には分からんけど、今は早いと思うって話だ」

 

 ニルは肩を落とすのと同時に、ガルスは真剣な表情で腕を組んだ。俺にも言いたいことがある、と言わんばかりの表情である。

 

「というか、お前が商売したいって話なら、俺だって機械生命体(アーティファクト・クリーチャー)を捕まえてみたいんだが」

「……え、あの話って本気だったのか? 冗談半分かと思ってたわ」

 

 ニルが思い出すのは、『知恵の木』との会話。

 ガルスとステラが聞いていた、機械生命体(アーティファクト・クリーチャー)を捕まえる方法を教えて欲しい、という物であった。

 

『知恵の樹は、確かに性格が合う個体を見つけられたら捕まえるのは簡単だ、と言っていたように記憶しますが……』

 

 そんな相手に心当たりがあるのか? と、クロードは言いたげである。

 

「心当たりはない。でも捕まえられたら、冒険の役に立つかもしれないだろ? ニルの提案よりはだいぶ現実的だと思うんだが」

 

 確かに、ガルスの言う事には一理があった。

 しかしニルは感情面で微妙な気分になっている。

 

「でも、知恵の樹の遺跡であれ見たしなぁ…… 何となくこっちから捕まえに行くってのは気が進まんぞ、俺は」

『私も反対です。予測にはなりますが…… 機械生命体は生存環境から切り離すと、予期しない「最適化」が発生する可能性があると、ロバートから受け取った資料に記載されていました。本気で長期的な運用まで考えるのであれば、気を使う必要があるかと』

「ほら見ろ。クロードもこう言ってるんだ。様子見ぐらいにしとこうぜ」

 

 そして感情的に気は進まない、というニルとは違い、クロードは理屈の面で反対している。

 畳みかけられるようにそんな二つの否定意見を投げられて、ガルスは反論が浮かばなかったらしい。ぐぬぬっ、とばかり何かを言いたそうにしていたが、結局黙ったまま再び朝飯に手を付ける。

 

 ――そんな二人の間に流れるあまり嬉しくない沈黙を、来客を告げる鈴の音がかき消した。

 

「おはようございます、二人とも! お父さんがゴールさんの鎧の件でお話があるそうですよ~」

 

 ステラである。

 ニルとガルスはお互いに顔を見合わせて、こくりと頷き合った。実に良いタイミングであると、意見が完全に一致している。

 

「すまん、朝飯だけ食わせてくれ」

「なんか飲むだろ? いつもの果実水で良いか?」

『ステラ、素晴らしいタイミングでした』

「あれ、そうだったんですか?」

 

 ――まあ座れよ、と。

 

 そんな三人の内心を知ってか知らずか、ステラはちょこんと席に座った。

 ニルたちのやり取りを聞いていたデウェだけが、「後で感謝しときなよ」と言ってにやにやと笑いながら、ニルに飲み物を渡すのだった。

 

 

 

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

 そうしてステラに呼ばれたニルたちは、マグナスの工房を訪れていた。

 店を構えている表からではなく、ゴールの鎧を運び込んだ際に使った裏口をくぐってすぐの場所に、マグナスは居た。

 

 ゴールの鎧に付いた埃を払うように、或いは何かを調べるような感じでマグナスは手を動かしている。そんな彼はニルたちが入って来た事に気が付くと「おお、きたか」と手を振って鎧の傍から離れる。

 

「おはよう、マグナスさん。なんかゴールの鎧で話があるんだとか?」

「ああ。いくら調べても素材が分からなかったんだが、実は面白い話が聞けてな」

 

 勿体ぶったようなマグナスの言葉に、ニルは「面白い話?」と、首を傾げながら聞き返す。しかしマグナスはすぐには答えず、「まあステラにも言っておらんから、とりあえず座れ」と椅子を指さした。

 

「お前たちがアサルビ半島に行ってた時に、自由市に向かう途中だって商人から聞いた話でな。お前さんたち、鉄の国という名前を聞いた事は無いか?」

 

 マグナスは、三人が座ったのを確認してから喋り出した。そして彼のその話は、当然のように三人ともが聞いた事のない話でもあった。

 

「鉄の国? 俺は初めて聞いたけど、ガルスは?」

「俺も初めて聞いた名前だな。ステラ、有名だったりするのか?」

「どうでしょう? 私も初めて聞いた名前ですけど」

『私も聞いた事がありません』

「まあ、クロードはそうだろうな」

 

 クロードの冗談に、ニルがこの野郎、とばかりに剣の柄を叩く。

 そんなやり取りを見ながらマグナスは、「まあそうだろうな」と納得するように笑いながら頷いた。

 

「昔に滅んだ国らしいからな。まあワシも知らなかったし、お前さんたちが知らなくても無理はない」

「へぇ、なら知らなくて当然だな」

 

 マグナスが国が滅んだと言って、ニルはそうなのかと流した。

 ステラもガルスも、あまり気にした風はない。

 クロードの感覚からすると、国一つが滅んだのはかなりの大事だ。なんだか扱いが軽くないかと考えながら、彼は少しだけ“以前の出来事”に気を使いながら、思った疑問を口にする。

 

『……話を中断して申し訳ありません。国が亡ぶというのは、もしかして珍しくはないのでしょうか?』

「まあ村や町が滅ぶよりは珍しいけど、たまに聞く話だな」

『そうなのですね…… 私の知識では、国は滅びないものだと思っていました』

 

 ニルの言葉にクロードは、知識が新しくなりました、とばかりに納得する。

 ちなみにニルの方も、「へぇ、昔って国は滅びないもんだったのか」といった感じで頷いている。

 

「でも国とは言いましたけど、色々じゃないですか? ほら、永氷山脈の麓なんかは頻繁に滅んだ話を聞きますし」

「あそこは国を名乗ってるだけで、規模的には村みたいなもんだろ」

「というか、ぶっちゃけホントの意味での国って第四帝国しかないしな。地名以上の意味ってほぼない気がするわ」

 

 そんな二人のやり取りを聞いたクロードは『国にも色々あるということですか』と納得すると、マグナスは「話を戻すぞ?」と一息ついてから言葉を続ける。

 

「で、鉄の国の話だ。ワシが会った商人が言うには、どうも鉄の国の生き残り連中が【腕の立つ冒険者に、鉄の国の装備品回収】を依頼しているらしくてな。そしてその装備が、このゴールの鎧と似ているらしい」

「ゴールの鎧と?」

「そうだ。異様な重たさと、罅が走ったような深い溝が特徴らしい」

 

 マグナスの口ぶりから、ニルには話の輪郭が徐々に見えてくる。そしてガルスの方はというと、ニルよりも一歩早く言いたいことに気付いたらしい。

 

「つまりあれか。要は“重すぎる装備を持ち帰ってくれ”って話か?」

 

 ガルスが確認するようにそう聞くと、マグナスは笑みを深める。

 

「流石に普段からゴールの武器を使っとるやつは話が早いな。ゴールの鎧を動かしたお前さんたちなら、重さの感覚も掴みやすいのではないかと思ってな」

「でもお父さん、なんでその装備が放置されてるの?」

 

 ステラの疑問がポツリと零れる。

 ニルたちもステラと同じ疑問を思いついているらしく、だよな、といった感じの疑問を浮かべている。そんな言葉と三人の視線を受けて、マグナスは真剣な表情を浮かべて口を開く。

 

「鉄の国は【暴竜】に滅ぼされたらしい。そして、その暴竜が今でも国の跡地に住み着いているのだ、と話をしていた商人は言っておった」

「暴竜……? やばそうな名前が出たな」

「俺には、ゴールの国を滅ぼしたって方がやばそうに聞こえるんだが」

『……私もニルに同感です』

 

 鉄の国の規模は知らないものの、ゴールの強さであれば痛いほどに知っている。

 国を滅ぼしたと言うだけでも大概危険なのだが、仮にゴールが鉄の国の出身であったのならば、その危険度は更に跳ね上がる事になるだろう。

 どう考えても、危険な香りしかしない案件である。

 

「まだ【暴竜】はいる上に、しかも装備は重たくて運び難いと来ている。だがその分、報酬も桁違いを約束しておると言っておった。……もしかすると、ゴールの鎧や武器の技術的な手掛かりもあるかもしれん」

 

 ――どうだ。この話、受けてみるか?

 

 マグナスの言葉に、ニルとガルスは冷や汗を流しながら顔を見合わせるのだった。

 

 

 

 

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