伝説語りのニルヴァード――人工知性と歩む冒険譚   作:健康な人(ハーメルン)

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第7話 外の世界へ

 

 三人は、クロードが提示したルートに従って移動を開始した。

 

 油の匂いを感じる旧運搬路を逆走し、メインホールとは反対側の緊急脱出扉を開く。機械式ロックも問題なく解除され、目的の扉はスムーズに開いた。

 

 その扉の先にある緊急用通路は薄暗く、しかし状態はかなり良い。

 非常灯も生きており、先を急ぐ分には問題がなかった。三人とも警戒を怠らずに先を進むが、ひやりとした空気の中から何かが現れることはない。

 

「流石クロード、順調だな」

「なるほど、こりゃ凄いな。俺との合流が早い訳だ」

『ですが、運を引き当てたのはお二人です』

 

 緊急用経路は、クロードが想定していたよりも状態が良かった。

 中と外が奇麗に隔離されていたのか、ひんやりとしている空気は、僅かに乾いているような感じもする。

 崩落した施設の中には砂が侵入していたが、この通路にはそれが殆どない。

 

『右に曲がってください。研究区画まで、あと30メートルです』

「了解」

 

 クロードの指示に従い、ニルとガルスは進む。

 そうするとすぐに、暗闇の中から頑丈そうな鉄製の扉が現れた。

 

「これが、防火扉か」

『はい。本格的なロックはないはずです』

 

 ニルが冷たい鉄の扉に手をかけて、力を込めてみる。

 ぎちりっ、と手元から音は聞こえたのだが――びくともしない。

 

「……開かないな」

『取っ手部分のロック機構を破壊しましょう。小さな閂構造の簡易的な物なので、あなたたちであれば破壊は可能な筈です』

「よし、ちょっと下がってろ」

 

 ガルスがそう言いながら前に出る。

 確かにニルとガルスのやり取りでは、ガルスの方がパワーがあると言っていた。しかし中枢区画からニルの背中で彼の動きを見続けていたクロードは、ニルよりもガルスの方が自然に前に出る事に、少しばかり驚いてもいた。

 

『本当にガルスが実行するのですか?』

「ああ。さっきも言ったけど、力勝負ならガルスが上だからな」

「まあ、任せとけって」

 

 そうしてガルスは、ゆっくりと腰を落とした。

 弓を引き絞る様に拳を構えながら半身になって体を捻り、拳に力と魔力を込める。

 

 ――ギチリッ、と。

 

 ガルスが固めた拳から力が盛れるような、低い音が響く。

 ニルよりも一回り大きな体格のガルスの太い腕に、幾つもの血管が浮き上がったような——そんな幻視が、服の下からせり上がる。

 

 ――見えない力のうねりのようなものが場を満たし、ニルは静かに半歩下がった。

 

「っぉお、らぁッ!」

 

 気合を入れるように大きく息を吸い込んで、気合と力を一気に吐き出すように開放する。

 固められた拳から放たれた破壊力が、鉄製の防火扉に吸い込まれた、瞬間――

 

 ――ダガアァンッ

 

 凄まじい轟音が、闇の向こうまでを一気に逆走するように響き渡った。

 その衝撃に、薄っすらと積もっていた砂がはらりと落ちる。

 

 ガルスの拳が直撃した扉は、文字通り砲弾を受けたように粉砕されていた。

 取っ手付近はぐにゃりとへしゃげ、それどころかその衝撃は取っ手の反対側にあるヒンジすらも歪めて破壊している。

 

『――信じられません。ガルス、あなたは本当に生身なのですか?』

「勿論。見ての通りだ」

 

 肩を竦めるガルスの言葉は軽いが、クロードの声は驚愕に染まっている。

 ニルは、確かにクロードに身体能力の高さを披露していた。

 しかしそれは身軽であるという動作を行ったに過ぎず、実際にどの程度の力があるのか、という具体的な動きを見たのは初めてだった。

 

「こいつの馬鹿力、驚くだろ?」

「まあ、ストーンベアには力負けするがな」

『――どうやら、ストーンベアと呼ばれる魔物も、私の想定以上に危険な生物のようですね』

 

 クロードの感覚からすると、これだけの事が出来るガルスは十分に“怪物”と呼べた。しかしそのガルスが「力で勝てない」と認める生命体が、当たり前に存在する世の中になっている事実に、自身の中にある脅威度の修正を行う。

 

 見てみたい。

 そんな興奮と恐怖が混じったような、小さな興味を抱きながら。

 

「……何もないっぽいよな?」

「たぶんな。デカイ音も出しちまったし、さっさと行こう」

 

 少しの間だけ周囲を警戒していたが、何もないらしいことを確認した三人は、素こすだけ急ぐように研究区画へと足を踏み入れる。

 

 

 ――そして、研究区画の内部が予想以上に整然としている事に驚いた。

 

 机が奇麗に並び、機械が配置されている。

 ほとんどの機器は停止しているが、埃は少ない。密閉性が高かったように見える。もしかするとこの建物に崩落がないのも、強度的な有利性があるのかもしれない。

 

「……かなり綺麗だな」

「ああ。人が急いで逃げた感じじゃない」

『やはり、計画的に撤収している可能性が高そうですね』

 

 ガルスが手近な机の引き出しを開けてみるが――

 

「何もない、か」

 

 ――その中身は、空っぽだ。

 

 紙の一枚も残されていない。引き出しは空っぽの空洞を見せつけるような、薄くて軽い音だけを三人へ返している。

 

「持ち出せるものは、全部持って行ったって感じか?」

『そのように見えます。結晶型記憶媒体も、おそらく――』

 

 クロードの声が沈む。

 

「……クロードの予想通りではあるが……」

 

 ガルスが空っぽの机の中を見ながら息を吐く。

 しかし、ニルは諦めていないらしい。「いや、まだわからん」と言ったと思うと、素早く別の机の棚を開けていた。

 

「とりあえず部屋の中を確認するぞ。これだけ綺麗なら、漁るのは速い」

『――いえ。脱出を優先しましょう。多少かもしれませんが、時間が無駄になる可能性が高いです』

 

 ニルの言葉を、しかしクロードが冷静に否定し脱出を提案する。

 勿論、本当はクロードも結晶型記憶媒体を諦めきれていない部分はある。自分の体――ニルたちと同じような体で歩いてみる事に、興味はある。

 

 しかし――それよりも彼は、太陽が見てみたかったのだ。

 ニルとガルスと――そして、自分と。誰も欠けずに、三人で。

 

「……クロード。こういう時は、多少非合理でも無理をするのが人種(ヒューマン)ってもんだ」

「勝手にヒューマン代表みたいな事を言ってるな」

「別に良いだろ? 空気読めよ」

 

 喋りながらも、ニルは机や棚を漁る手を止めない。

 確かに彼の言うように、何か入っているかどうかを見るだけの確認作業なので手は速い。ガルスも、いつの間にか部屋を漁っていた。

 

『二人とも――』

 

 クロードの言葉が詰まる。

 彼の中で言うべき言葉が定まらないのは、処理速度が落ちた事が原因ではないように感じられた。

 

『――ありがとうございます』

「気にするな。それこそ、冗談の一つでも言ってくれる方が俺は嬉しい」

『……そう言ってくれるあなたが、私の足の代わりになってくれると嬉しいです。勿論、自分の足で外を歩いてみたかったのですが』

 

 ニルの言葉に、少し迷ってからクロードは答える。

 そんな冗談に乗っかる様に、ガルスも軽い感じで言葉を返した。気にするなよと、そう慰めるように。

 

「それにこんな言い方するとクロードに悪いが、まあ最悪見つからなくても良いんじゃないか? 町に戻ってみたら、案外普通に機械人形(オートマタ)を動かせました、ってなるかもしれんし」

『確かに、その通りですね…… それにこの体だからこそ、出来る事も確かにあります。前向きに、捉えるべきなのでしょうね』

 

 ガルスの言葉に、クロードの声にも明るさが戻る。

 がらがらと荒らしていく棚も既に半分に近づいており、馬鹿話をしているうちにこの区画の探索の終わりも見えていた。

 

「それが良い。後悔しすぎたら、前に進めん」

「ニルはもうちょっと後悔した方が良いがな」

「うるせぇ。空気読めって言ったばっかりだろ」

 

『――待ってください』

 

 軽口を叩きながらも、がらがらと冷たい机と棚の中をぶちまけるように漁り続ける二人に、突然クロードの声が待ったをかけた。

 その声に二人の手が止まり、どうしたのだ? といった感じに姿勢が戻る。

 

『軽微ですが、スキャンに反応がありました』

「最初から分かってなかったのか?」

『はい。部屋全体を一度にスキャンすると、小さな物体は見落とす可能性があります。範囲を絞って、精密な再スキャンを行ったので気付けました』

「へぇ、なるほどな」

『ニルの左手側の角にある棚、その2段目を確認してくれませんか?』

「ここか?」

 

 ニルがクロードの言葉に従い棚を開けると、目立たない場所に小さな金属製のケースがあった。

 密閉性の高い室内にあり、更に机の中にあったからか。埃は殆ど被っておらず、置かれている場所次第では新品にも見えただろう。

 

 ――ニルが素早くケースを開けると、その中には小さな結晶が入っていた。

 

「おお! これが結晶型記憶媒体なのか!?」

 

 ニルの弾むような声が、そう広くもない研究室に響いた。

 探していたものを見つけたとばかりに割りながら覗き込むその様子に、しかしクロードの声が重なった。

 

『いえ、残念ですが違います。これはデータストレージですね』

 

 興奮して声を上げるニルに、クロードが冷静に否定する。

 その言葉に、目を輝かせてその物体を見下ろしていたニルとガルスの瞳から輝きが消えて、二人揃って小さなため息とともに肩を落とす。

 

『データログ保存用の小型媒体ですね。私を格納できるような、大容量の規格ではありません。そのせいで、気付くのが遅れた形になりましたが……』

「……中身は分かったりするのか?」

 

 一足先に復帰したガルスは、クロードにそんな質問を投げてみた。

 質問を受けたクロードが『高負荷処理でスキャンしてみます』と返事をすると、青白い燐光が小さな結晶を通り過ぎるように駆け抜ける。

 

『――データの読み取りに成功しました。ですが、これは……』

「どうした? なんか問題があったのか?」

 

 データのスキャンには成功しているらしい。

 それなのに歯切れが悪くなったクロードに、ガルスははてなと首を傾げる。

 

『――おそらくこれは、施設外の研究資料です。そして推測になりますが、意図的に“残されている”資料であると推測します。目的があるのかは分かりませんが』

「意図的に残された、施設外の研究資料?」

 

 クロードの言葉を、ニルは確認するように繰り返した。

 

 ストレージを読むことができないニルの感覚からすれば「研究区画に、研究資料が残されている」だけの話に見えてしまい、意図的もくそもないのではないのだろうか? と彼は感じている。

 

『この中には、大まかに分類して四つの実験記録が存在しています。ただし、三つの実験記録については、旧文明の専門用語が多すぎて説明が難しいです。そして残る一つ——その一部が、厳重にロックされています』

 

 しかし、ストレージを読めるクロードはそうではない。

 専門用語が多すぎるので、説明こそ難しいが…… その研究内容は、この施設の管理AIであるクロードが、“知っていない”ことの方があり得ない記録であった。

 

「開けられない? お前、この施設の管理AIなのに?」

『はい。つまり、この施設で管理されていたデータではない、ということです』

「なるほど。だから外部から持ち込まれたって話か」

 

 クロードの返事に納得し、ガルスは話の内容を確認しよう言葉を続ける。

 

「ちなみに、詳しく聞いても良いか?」

『簡単に纏めると、三つの実験は目標値に全く届いていませんでした。安全性も確立されておらず、成果と呼べるものは無いようです』

「なるほどね。俺的にはそう言ってくれる方がありがたい」

 

 マッピングの魔法についてのクロードの理解を、二人が理解できなかったことと同じだ。

 前提となる知識がある程度すり合っていなければ、説明というのは成り立たない。

 

『一応、一部データへのアクセスには成功しました。ですがこちらは研究員の私的なメモで、正確性は保証できません。しかし、内部にいた者の“実感”が記されているようでした』

 

 ニルとガルスは、そこに至ってクロードの言いたい事を理解し始める。

 

「つまり、あれか。重要な事を書いてそうって予想は出来るけど、信頼性が低い方の情報しか確認できないから何とも言えないって話か?」

 

 己の考えが間違っていないのかを確認する様に、ニルは難しそうな顔で口元をさすりながらクロードにそう聞いた。

 

『肯定します。要点だけ言えば、危険な研究をしていた。暴走の可能性があり、一部の研究者はそれを恐れていた。ただし“大破壊の原因”と断定はできない』

「噂話だけ拾った感じか…… まいったな……」

 

 三人の間に沈黙が降りる。

 内容がかなり気にはなるが、断定はできないという。何とも言い難い情報だけを仕入れてしまった感じだ。気まずくもなる。

 

「……まあ、これで良しとしよう!」

 

 なんにしても、やるべき事はやった。

 少しだけ微妙になった空気を散らすように明るくそう言い、ニルは記憶媒体を箱に戻す。

 そうして落とさないようにゆっくりと懐に仕舞うと、これで十分だろ、とばかりにガルスを見る。彼も、了解とばかりに苦笑しながら手を振った。

 

「俺はいいぜ。半分ぐらい何もないだろって思ってたし」

「んじゃ、外が見える場所を探そうぜ。まずはその約束だろ?」

 

 この冒険を締めるように、ニルは笑いながらそう言った。

 

『――ありがとうございます。約束を、覚えていてくれて』

 

 応えるクロードの声は、嬉しそうに震えていた。

 

 

 

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 

 通路の先の出口——崩れかけた、しかし崩落を逃れたルートを、三人はしっかりと進んでいく。

 

「結局、金目のもんは見つけられなかったな。ポーション分だけ赤字だわ」

 

 ガルスは「はぁ」と、溜息をつきながら。

 

「でもまあ、クロードが仲間になってくれたんだから実質的に黒字じゃないか? 金額の問題じゃないけどさ」

 

 ニルはガルスに「マッピングも手伝ってもらえるじゃん」と、文句のような揶揄いを飛ばしながら。

 

『ニル。私は、まだあなたの仲間になる事を了承していませんよ?』

 

 そして――最後に続いたクロードの言葉に、ニルとガルスは「え!?」「まじかよ!」と叫びながら足を止めた。

 

「俺たちって、これから三人パーティーでやってく流れじゃないのか!?」

「そうだよ! てっきりその流れだと思ったんだが!?」

『――勿論、冗談です』

 

 ニルとガルスの絶叫をしり目に、クロードは明るい声音で言葉を付け足した。彼らの空気に適応した、ほんの少しの冗談を交えながら。

 

『皆で、太陽を見ましょう。それが、私がパーティーに加わる条件です』

「……はぁ ……心臓止まるかと思ったぞ」

『気を付けてください。私と違って、ニルは心臓がありますから』

 

 クロードが笑うように震えながらそう言えば、ニルはショックを受けたように天を仰いだ。

 

「……やられたわ」

「どこに対抗意識を燃やしてるんだよ、お前は」

「大事だろ。ムードメーカーの沽券にかかわる」

「お前、ムードメーカーのつもりだったのか?」

「当たり前だろ。自認してる」

『ニル。その場合、自負と言った方が正しいと判断できます』

 

 ふふん、と胸を張るニルに、クロードの訂正が入った。

 ガルスはクロードの言葉に同意する様に、肩を竦めて苦笑した。

 

「そういう所がか?」

「こういう所がだ。……なんだよ。勿論、わざとだぞ?」

『すみません。ニルの冗談を潰してしまいました』

「クロード。ニルの今の発言は、冗談って事にしてくれって意味だ」

 

 三人のやり取りは軽い。

 その足取りと同じように。

 

 一歩、二歩、そして三歩——

 

 広く冷たく、そして乾いていた薄暗い施設を抜けた、その瞬間。

 三人の世界が、まぶしい光に包まれた。

 

『——ああ』

 

 クロードの声が、止まった。

 まるで、息をのむように。言葉を失ってしまったように。

 長い長い孤独の先に辿り着いた初めての「外」に触れた――そんな……静寂でしか表す事ができない、無言の時間。

 

『これが、太陽……』

 

 誰も欠ける事無く三人で見上げた、天に浮かぶその輝きを。

 

『……これが、空……』

 

 白い雲と共にどこまでも抜けていく、透き通った美しさを。

 

『……これが——外の世界』

 

 言葉を尽くせない無数の「初めて」を従えた、広い広い「知らない」を。

 

 空色の大剣が、陽光を受けてキラリと輝く。

 壊れた施設の地下で産まれた光が――大空の水色を切り取ったような淡い燐光が、本物の大空の光を受けて、世界と繋がる様に輝きを増す。

 

『青い。本当に、青いんですね』

 

 ニルもガルスも、何も言わない。

 ただ立ち止まって、一緒に空を見上げていた。

 

『データで見るのと、実際に見るのと——こんなにも、違うなんて』

 

 風が吹く。

 そろそろ熱い風が吹く時間の筈なのに。

 その風は、世界が祝福する様に穏やかで柔らかかった。

 

『風も——感じられるんですね』

 

 嚙み締めるように、クロードは呟く。

 

『剣を通して、温度や振動が伝わってきます』

 

 ニルとガルスは、静かに笑っている。

 

『不思議です。身体がないのに、感じられる』

「良いもんだろ?」

 

 そうしてニルは、短くそう応えた。

 この思いに、きっと多くの言葉は要らない。

 

『――ニル、ガルス』

「おう」

「なんだ?」

 

 クロードの声が、しっかりと二人の名を呼ぶ。

 

『改めて——ありがとうございます』

 

 その言葉にニルとガルスは顔を見合わせ、笑いながら大剣(クロード)と拳を合わせた。

 

『私を、連れ出してくれて』

 

『私を、独りにしないでくれて』

 

 剣が温かく脈打つ。

 

『これから、よろしくお願いします。私の――』

 

 少しだけ、間が空く。

 照れるように。

 あるいは、その言葉を使って良いのかと、躊躇うように。

 

『私の、仲間たち』

「ああ。よろしくな、クロード」

「よろしく頼むぜ、クロード」

 

 いつも通りに。

 陽気に、軽快に。

 当たり前だろうと。

 そんな言葉すら不要だと、二人は答える。

 

 三人——いや、二人と一振り。

 新しいパーティーの、始まりだった。

 

「さて。じゃあ景色の良い場所を探すか」

 

 ニルは、先行くように歩き出す。

 

『はい。楽しみです』

 

 クロードの声が、心から嬉しそうに響いた。

 

 

 

 砂に埋もれた廃墟の入口から、少し離れた丘の上。

 そこから見える景色は——

 

 ――地平線まで続く荒野。

 

 ――遠くに見える緑の森。

 

 ――そして青い空を横切る、飛竜の影。

 

 クロードが呟く。

 

『――データベースにないものが、たくさんあります。この世界を、もっと見てみたいです』

「じゃあ、次の冒険に出るか」

 

 ニルが笑う。

 

「クロード。お前と一緒なら、もっと色んなことができると思う」

「だな。頼りにしてるぜ、クロード」

『はい——行きましょう、ニル。ガルス』

 

 三人は、丘を降りて歩き出す。

 

 新たな世界、新たな冒険へ。

 混沌と奇跡が混ざり合った、この世界で——

 

 三人の影が、陽光を浴びて砂漠に長く伸びている。

 足跡は風に消えても、彼らの歩みは止まらない。

 

 クロードは、独りではなくなった。

 ニルとガルスは、最高の仲間を得た。

 

 ――故にこれは、終わりではなく、始まりの話。

 

 砂漠の彼方に消えていく三人の背中を、廃墟が静かに見送っていた。

 長い眠りから覚めた施設が、安堵の息を吐くように入り口の一つが小さく崩れる。

 

 まだ終わっていないと、静かに告げるように。

 あるいは——また来いと、そう笑うように。

 

 

 

 

 

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