いぶし銀。
眩い光沢を放つ銀を煙を使って燻し、表面の光沢を取り払った銀。
それは一見して目を引くような派手さはないものの、よく見ると確かな魅力があり、奥深く味わいのあるもの。
人に使えば、「特筆して目立つような華やかさ、輝きはないが、内に秘めた実力の高さと魅力は高いものがある」といえるだろう。
ぶっちゃけて言ってしまえば地味だが魅力はあるということだ。
じゃあ派手とは何か?
派手っていうのは一目で注目を集めるような華やかさ、色彩に富んでいて、何かと取り沙汰されるものでもある。属性であれば火や雷が挙げられるし、固有能力であれば爆発や巨大化などが挙げられるだろう。
「そうだったらよかったことか…」
そうごちる。
この世界に生れ落ちてから12年。色々なことがあった。
前世を思い出してひと段落してから判明した属性は土属性。やっぱりファンタジーな世界に転生したのなら火とか使ってみたかった。だが適性が土にかなり偏っているらしく、その望みは叶いそうにない。
風に乗ってくる熱気が熱い。
ドワーフの多く住むこの都市において
12歳になって少し経った時期にいきなり前世を思い出して、それで高い熱を出して丸三日くらい。脳みそのたんぱく質が変質してしまうんじゃないかってくらい辛かったが、何とか乗り越えられた。
親父には迷惑をかけたし、これからのことを考えるともっとかけることになるだろう。拾った子供がスクスク育ってたところにいきなり高熱出したんだもんなぁ、峠を乗り越えて熱が引いてきたところで大滝のような涙を流しながら抱き締められたときは二度目の死を覚悟したね。隣に居た医者が止めてくれたから気絶しただけで済んだが。
それはさておき、なんで地味だ派手だと言っていたのかというと、俺に発現した固有魔法が俺の望んだものとは違ったからだ。熱が引いて元気になってから魔力で遊んでたんだが、ある程度魔力の扱いに慣れてきたところで自分の体の中に何かがあることがわかった。
身体の芯の奥というか、まるで脊髄の中に起動できる何かがあるような感じだ。
もしかしたらこれが街で聞く『固有魔法』とやらなのかもしれない。もしかしたら派手な物かもしれないぞ。そんな淡い期待が胸を駆け巡った。もしそうじゃなかったら…その時はその時だ。上手く活かす方法を考えるさ。
そこで俺は物は試しとそれを使ってみたのだが…起動してみたところ、俺の手と親父が文鎮代わりに使ってた屑鉄が「くっついた」。
「――うぉ!?へぶっ!?」
手の先に2キロはあろうかという塊が貼り付いてしまえば、子供の身体では抗いようもない。途端のこともあって、下に引っ張られて床と熱いキスを交わしてしまった。しかし、ジンジンと来る痛みよりも俺は自分の身体に起こった現象に目を奪われていた。
「くっついてる…痛くはない。いや顔は痛いけど」
地面に寝ながら自分の右手を見てみると、そこには確かに屑鉄と掌がピッタリと一体化したようにくっついていた。金属を溶かして溶接したのではなく、まるで接着剤を使って貼り合わせたような感じだ。かなり変な感覚だが、もっと不思議なのは屑鉄が身体の一部のように感じることだ。
別に痛覚が繋がっているわけではないが、それでも感覚が繋がっているとしか言いようがない。よく漫画で「手に持った剣がまるで腕の延長線上のように感じる」というフレーズが出てくるが、今の感覚はまさにそれだ。形が歪でゴツゴツした鉄屑だからそこまでの恩恵は感じないが、剣やナイフだったら上手く扱うことができそうだ。
ただ、身体と物がくっつく。さしずめ『
そうか、そうだなぁ、うーん。
「地味だな…」
立ち上がることもせず呟く。この能力じゃ直接派手なこともできないだろうな。いくら考えたって目の前の現象は変わりやしないし、いい加減飲みこむしかないか。
そんなこんなで考え事をしていると、家に隣接されている鍛冶場の方からドタドタと力強い足音が近づいてくるのが聞こえた。
やべ、かなり盛大にひっくり返ったからか煩い鍛冶場でも聞こえちまったか。
都市の成り立ちの一つにもなったダンジョンから採れた
親父の髭は胸元まで届くほど長い。だが、顎から下までいった辺りで三つ編みにされており、髭の束のうち一つには黒い鋼で作られた四つのリングが等間隔に編み込まれている。やや煤けているが良く手入れされ艶のある髭で輝くこれはこの都市、カザン(火山があるからカザン。初めて聞いたときは安直なネーミングなんだと思った)において鍛冶場の責任者であることを示している。
何もなければ下っ端、一つあれば一通りのことはできる一人前とされ、二つは鍛冶場の副リーダーで四つは責任者、五つあるとこの都市の町長となる。因みに女性はというと髪に通すんだそうだ。
「エル坊無事か!?…って何やってんだ?」
「いやこれは、なんだ。魔力で遊んでたらくっつい、ぐえっ!?」
「おら立ちやがれ。床で寝てっとまた前みたいに熱出して悪くするぞ身体」
怪訝な顔をしながら大股で近づき、首根っこを掴んで無理やり立たせたのは俺の義父になるグローエン。カザンでも最大クラスの鍛冶場である「グリュ・ハル・フンケ」を管理する最高技術者だ。ドワーフであり、どこの子かもわからない俺を拾って男手一つで育ててくれた人物でもある。
そんな親父は俺の右手と見事に一体化している鉄屑に顔を寄せ、特に鉄屑と手のひらの境界線をじっくり見てから姿勢を戻し、フンと一つ鼻を鳴らした。
「俺の経験から考えるに、そりゃ固有魔法だな。属性は無属性、極薄の魔力による接着といったところか」
そう言うとまたもや俺に怪訝な顔を向け、「いつまで引っ付けてやがんだ。魔力の供給を止めれば解除されるはずだろ」と言った。そう言えば現象の観察に夢中で解除するのを忘れてた。そう思って魔力の流れを止める。あれほど重く貼り付いていた鉄屑が嘘のように離れ、ゴトンと音を立てて床に転がる。
「で、それをどうしたいんだおめぇは?」
「どうって言っても。うーん…やっぱり男ならこれで斬った張ったしたいな」
「…まぁ、おめぇならそう言うとわかってたわ」
そう言うと親父はポリポリと頭を掻きながら何事かを考え、それを口に出した。
「また無茶やられて看病する羽目になっても困る。俺の伝手で師匠つけてやっからそれまで安静にしてろ」
「どんな人なんだ?」
「うーむ…」
そう呻くと親父は自慢の髭をさすりながら考え始めた。
しばらく待っていると言葉をまとめ終えたのか一つ頷くと口を開いた。
「背の高い桃色の髪をした女だ。口を開けば学者みてぇに小難しい言い方をしてイマイチ掴みどころがねえ奴だが、あいつならおめぇに色々叩き込んでくれるだろうよ」