発現した能力がいぶし銀な方だった   作:田中左近又兵衛

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実践あるのみby師匠

翌日、居間にて。

俺と師匠は朝食(昨日の残り)を食べたあと、テーブルを囲んで座学をすることになった。親父は朝早くに置きて工房へ行った。ありがたい話だが、親父にお礼を言ったら照れ隠しに背中を思い切り叩かれるだろうから心の中で述べるだけにしておく。

 

「さてエルデ少年、今日は前話した通り、軽く魔法の基礎に触ってから実践を繰り返して身につけてもらうよ」

 

そう告げたフェル師匠の手には一冊の本が握られていた。それは俺がこの世界が何か調べるために使ったオークでもわかるとか書いてあった本だ。表紙に描かれた黒く牙の大きいオークが申し訳程度にローブを身につけ親指を立ててこちらに微笑みかけているのが妙にうざったい。

 

「黒オークでもわかる、とか書いてあるけど彼らにこれを理解するだけの知能はあるのかな?まぁそれは置いといて。テーブルの上にあったからもう読んでると思うけど、まずは属性について教えていくよ」

 

師匠は本をパラパラと開き、目的のページを開くと本を俺が見えるように逆にしてテーブルの上に置いた。ページには無属性を含めた六つの属性が簡単なイラストとともに解説されている。

 

「まず最初に土属性。これは私と少年の属性だ。基本的には大地を媒介にするから発動に困ることはない。ただ、物質を操る都合上スピードと範囲が他に比べて出しにくいのが欠点だね」

「確か戦争の時は術師が複数人でチームを組んで要塞や遮蔽物を作ったりしたんですっけ」

「そう、前線で壁を逐一作って戦線を押し上げたり、塹壕を作ったりしたんだ」

 

良く調べてるね、と感心する師匠の眼差しに、原作知識で知ってました!とは当然言えず、曖昧に笑って返した。師匠はページに指した指を滑らせ、次の項目を示す。

 

「次に火属性と雷属性。どちらも威力と範囲が大きい魔法の花形だ。ただ扱いが他の属性と比べて難しいと言われている。まぁ確かに火災とか怪我になりやすいからね。そう言われるのも過言ではないかな」

「へー、魔王を封印した立役者の一人が火属性なのは知ってますけど、どんな感じなんですかね」

「戦っているのを遠目から見ただけだけど、凄まじいとしか言えないね。獣人、それも猫族特有の瞬発力を活かした太刀筋は光の線にしか見えないほどだ。だから「炎閃」なんて異名もついたのさ」

 

原作でも最強格であるキャラのことを話題に出しながら相槌を打つ。ゲームでも序盤に登場しておいてパーティに加入するのは終盤だったが、その名に恥じぬ高いステータスと強いスキルの数々に当時は興奮したなぁ。

 

「それで水属性だが、これは性能で言えば土属性と火属性の間くらいになるかな。質量がある分、物質的な重みとそれなりの扱いやすさがメリットだ。次に風属性。これは空気を媒介とするから規模に関しては属性でも随一、だけど威力を出そうとすると圧縮する必要があるからそこがネックかな。それでそれ以外が無属性」

 

ざっくりしてるでしょ?と問いかけてくる師匠に頷く。無属性は身体強化や結界術が分類される属性。他の属性のみでは説明できない魔法をここに当てはめるから、どの属性にも通じる技術とかは大体無属性に入る。鍛冶に使う錬金術も、元をたどれば時の王者が土魔法師に金を作れと命じたのが最初だ。物体に魔力を流して変化を与える技術として成立し、そこから体系化された錬金学は、土属性の垣根を越えて他の属性の技術にも取り入れられている。

 

突然、パンッ、と音がした。

 

思わず思考の海から抜け出して顔を上げると、手を合わせた師匠が再び話し始めた。

 

「さて、次は最も基本にして重要な魔法についてだ。言葉だけじゃわかりにくいだろうから、ここからは外でやろうか」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

再び修練場に来た。見ればあの時のダミー人形も胸に穴が開いたまま立っている。

 

「まず魔法の簡単な説明からしよう。エルデ少年、君は魔法というものをどんな代物だと考えているかな?」

「魔法がどんなものか、ですか?そうですね、何かこう、頭で浮かべたイメージを押し出すって感じですかね」

「それでも間違ってはいない。もっと厳密な話をすると、魔法とは媒介となるものを魔力で増幅させたり、浸透させて操る技術なんだ」

 

フェル師匠が指に魔力を集めたかと思うと、地面の土の一部が浮かび上がり、指先で固まって一つの礫になった。

 

「わたしたちが扱う属性は土だから、わざわざ増幅させる必要はない。ただ、浸透させて操る必要はあるんだ」

 

そう言った師匠はわかったかな?と片目をパチリと閉じて語り掛けてくる。立てた指の先で回る土塊をどうするのか疑問に思いながら、俺は返事をした。

 

「はい、そして魔法を扱う上での基礎となるのが、成・纏・放ですね?」

「うん、一般に魔法の三原則と呼ばれるね。まず成でイメージを形にし、それを物に纏わせるか、発射するかというのが魔法の主な流れだ」

 

師匠がおもむろに指をダミー人形に向けると、ドンッと土塊を撃ち出した。真っ直ぐな軌道を描いた土塊は、勢いのままにダミー人形の胴体を打ち据える。地面に固定されている人形がぐらりと揺れ、適当に張り合わされた魔物の端材が弾き出される。カランと跳ねる端材を眺める俺に、師匠は微笑を浮かべる。

 

「じゃあ早速やってみようか」

「いや突然過ぎないですか?流れ的にそうなるのはわかりますけど」

「まずは魔法を使ってみることから。習うより慣れよって東方の諺もあるくらいだしね。ほら実践実践」

 

促されるままに、俺はダミー人形に向かって手を向ける。緊張してるせいか分からないが、なんだか受けて役に徹するダミー人形に哀愁を感じる。人形へ感情移入をするのもそこそこに、俺は魔力を手に巡らせ、土を集めて弾にし撃ち出すイメージをした。

 

「はっ!」

 

そう叫んだ俺の手には、拳くらいの大きさの土が集まり、ダミー人形に向かって飛んでいった。が、あまり勢いがない。師匠のと比べるとヒョロヒョロした飛び方をした土塊は、高度を下げていきダミー人形の下半身部分を汚すだけの結果になった。

 

「まぁ初めてだとこんなものかな。ここから回数を重ねて形にしていこう。あと声に出したのもグッドだね。ああするとイメージが固まりやすいから」

「ちょっと恥ずかしかったですけどね」

「イメージを形にするというのはそんなものさ。さ、練習あるのみだ」

 

ーーーーー

 

そこから30分と少し、もうすぐ昼になりそうだ。

現代人としてサブカルを嗜んでいたのが功を奏したのか、それとも初歩だったから簡単だったのか、コツをつかむのは思ったよりも早かった。最初は凝固の甘い土塊が、回数を重ねていくうちに硬く、そして勢いよく撃ち出せるようになるのは上達が目に見えるようでモチベーションが上がったな。師匠にも筋が良いと褒められたし。

 

「ここまでにしよう。まだ余裕はあるようだし、次は実戦だ」

「ほんとに突然ですね!?昨日今日ですよ学び始めたの」

「土台ができたのなら後は場数を踏んで固めるだけだよ。これは経験論だけど、本を読んで動かない的を撃っているよりも戦いに身を投じた方が上達はずっと早い」

「まだ武器も出来上がっていませんし」

「どうせ素手も交えた戦い方をするんだ。文句言わずに行くよ」

 

そう言って歩き出す師匠に慌ててついていく。鉄は熱いうちに打てとは言うけど、これは流石に早すぎる気がする。鉄が熱いどころか、熱すぎてドロドロの状態から打っているようなものだと思う。

 

冒険者カードは持っているよね、と確認してきた師匠にカードを見せながら返事をする。冒険者カードは身分証代わりになる優れもの。ゲームではステータスや称号を確認出来たり、プレイヤー同士の名刺としてあいさつを設定出来たりした。現実となったこっちでは、ステータスとかは大まかな括りになってたのを親父に連れられて登録した時に確認した。余談だが、カードはドックタグの役割を持っており、行方不明や死亡扱いになっている冒険者のカードを集めてギルドに提出すれば報奨金が得られる。当然そうすれば荒くれもの揃いの冒険者の間で暗殺が流行る可能性があるが、突然死亡した時はレポートの提出や、現場検証がされるので特に近視眼的な冒険者しかやらない。それに裏切るような冒険者は遅かれ早かれパーティを食えなくなって山賊堕ちしたり犯罪を犯して奴隷行きになるしな。

 

カザンのダンジョンの入り口を蓋するように建てられた関所で入るための作業を済ませ、魔力の濃い空気を浴びる。親父たちの狩りの見学に来たことはあるが、二回目だからまだこの空気には慣れない。

 

「ダンジョンは天然の魔力溜まりとなっている。龍脈の穴になってたり、地政学的に魔力が溜まりやすい性質を有する。由来する魔力は魔物の物が多いせいか、ダンジョンもある種の動物的特徴を持っていてね、近くに住む魔物を住まわせてダンジョン種として固定してしまうのさ」

「なるほど、じゃあダンジョンに適応した魔物が外に出るとどうなるんですか?」

「濃い魔力に囲まれた環境に適応しているから、相対的に魔力の薄い外に出ると死ぬね。代謝によって魔力を出しすぎてしまい、身体の魔力が枯渇して内臓が機能不全を起こして死亡するんだ」

「へー、こわ」

 

ダンジョンって束縛洗脳彼女みたいな性質を持ってるんだな。そう思いながら、ダンジョンの壁面を観察する。これといって生物の内部みたいな肉々しい感じはない普通の岩壁って感じだが、そんな怖い特徴があるとは。ゲームだと余り触れられずにただ素材の狩場って感じだったから、それほどメカニズムについて考えたことはなかったな。

 

「さて、そろそろ魔物が出てくる深度になるかな。一匹そっちによこすから当たって砕けてくれ」

「簡単に言ってくれるなぁ!危なくなったらちゃんと助けてくださいよ」

「大丈夫大丈夫、少年は魔力の出力が高いみたいだし筋も良いから」

 

そう軽い調子で言ってのける師匠にさらなる文句を言おうとした時、遠くからズリズリと地面を這う音が複数聞こえてきた。

 

見てみると、そこには灰色の体色をした大きめのヘビが4体、舌をチョロチョロ出しながらにじり寄ってきていた。通称岩ヘビ、カザンダンジョンにおいて最も基本的な魔物で、ヘビを短くして頭部を大きくしたような見た目をしている。親父に連れられた時は安全圏から遠目に見ているだけだったが、実際に真ん前から相対すると、やはり緊張が走る。

 

「じゃあ早速一匹だけにしちゃうよ」

 

そう言ってすぐに師匠は駆け出し、あっという間に群れとの距離を縮めると、あいさつ代わりといわんばかりに抜き放ったレイピアで正確に岩トカゲの頭を貫いた。瞬きしないうちに一匹処理された岩ヘビたちは一瞬で戦闘態勢を取ると、一匹がフェルに飛びかかった。大きな頭から繰り出される噛みつきをヒラリと回るように避けると、回転の勢いをそのまま刺す動きにつなげて岩ヘビの後頭部を貫通して眉間から刃が生えた。学習能力はあるのか、今度は残る二匹の岩ヘビが同時に動いた。片方は地面を這うように、もう片方はバネのように身体を折り曲げる。

 

低い姿勢で足に噛みつくように動いた岩ヘビに続いて跳躍しようとした個体は、フェルがレイピアを持っていない方の手を横に動かすとぐらりと姿勢を崩し、斜め横になる。その状態で地面を叩こうとした尻尾は地面を擦るにとどまり、岩ヘビは横転した。低空で飛びかかってきた岩ヘビの噛み付きを飛び越えて避けた師匠は、そのまま地面を転げまわる岩ヘビを脚で押さえつけると、さっきの授業で見せた土塊を三回岩ヘビの頭部に撃って頭を潰した。師匠はそのままこっちに戻ってさぁどうぞ、と言わんばかりに手を残った一匹に示した。

 

「さぁ、次は君の番だよ少年。奴らは毒を持ってないから噛まれても問題ないさ」

「それ聞いてどう安心しろってんですか!?見てくださいよあの顔、完全にキレてますよ!」

「まぁほら、私がついてるし死にはしないさ。男は度胸だよ」

 

いつの間にか後ろに回っていた師匠にドンと背中を押され、有無を言わさず岩ヘビの前に送られた。目の前には明らかにキレている岩ヘビ。よく考えなくても逃がす気配はない。もうこうなった以上はやるしかない。

 

ただ一つ言わせてほしい、ゲームではそんな素振りなかったからわからなかったが、この師匠、かなりスパルタだ!

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