発現した能力がいぶし銀な方だった   作:田中左近又兵衛

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旅に出る

目の前には平たく割った石を並べたような鱗を持つヘビ。

 

対するはそれっぽいファイティングポーズをとる俺。

 

顔の前に挙げた拳の隙間からは、舌をチョロチョロ出しながら隙を伺う岩ヘビの顔が見える。しかしどうするかなぁ。師匠に言われた手前、殴り倒すか習得した土弾で攻撃するかだ。ゲームにおいては初級レベルの相手。それが初戦闘だからなのか手ごわい強敵に思えてくる。

 

あれこれ考えても仕方がない、まずは勝つことだけを考えろ。

 

先手必勝、魔力を全身に回し、地を蹴り肉薄する。風呂に入った時のような温かさが全身を巡り、出力が一気に強化される。岩ヘビは急に接近してきた俺に驚く様子を見せず、合わせるように顔に向かって噛みついてきた。だが、強化された反射神経が余裕を持って捉え、左腕で防いだ。

 

「んのっ、どらぁっ!」

 

岩ヘビの大きな頭にガッチリ挟まれた左腕には強い圧力がかかるが、俺の強化の方が強いのか牙が腕を貫く様子はない。岩ヘビが左腕に注意を向けている間に、腰を入れた右フックを浴びせる。横合いから飛んできた拳は、岩ヘビの顎に着弾。顎骨を砕き割り、伝播した衝撃が脳を揺らした。力の入らなくなった顎から左腕が外れ、自由になる。俺は怯んだ岩ヘビが後ずさる前に頭を掴み、だらしなく開いた口内に手を向けた。

 

翳した掌に周囲の土が集まり、鋭く尖った土塊が形成される。

 

「内部は、効くだろ」

「ガ――」

 

ズガン!!

 

放った土くれの弾丸は岩ヘビの口蓋の真ん中にある裂け目、内鼻孔を貫いた。あっという間に肉を割き、その先にある脳を頭蓋骨ごと破壊する音が周りに響く。貫通した土弾が向こう側へと飛んでいくのを見ながら、俺は今しがた生物を殺した感触を反芻していた。

 

「思ったほどは、ショックは無いな」

 

手を開き、握る動きを何度か繰り返す。どうにも転生した影響なのか、現代で生きていた時ほどの死とかへの忌避感は感じない。やっぱり一回死んだのが影響してるのか?見てたバラエティ番組の中に臨死体験した人にまつわるドキュメンタリーを取り扱ったのがあったが、確かあれでは人生観が百八十度変わったとか、死に対する認識が変わってそれほど忌避感を感じなくなったという話だったと記憶している。それを考えれば、臨死体験どころか本当に死んでしまい、それどころか生まれかわるまで行った俺の人生観の一つや二つ変わったとしてもおかしくはない。まぁしかしこれは好都合だ。『マテリアル・コード』をプレイしていた時はエネミーとして普通に人間が出てきていたし、かなり治安が悪かったからな。教会の新米騎士として着任した主人公も普通に斬り捨ててたし。

 

「初戦闘、お疲れ様」

 

遠くから見ていた師匠が戦闘が終わったのを見計らって歩いてくる。労わる言葉もそこそこに、師匠は次のことを口に出した。

 

「思っていたよりも手こずらずに倒せたね」

「戦う前はこう、怖気づいてたんですけど、いざやってみると思っていたよりもやれました」

「それは何より、まだ余裕があるみたいだしもう少し戦って慣れようか」

「…疲れたんですけど、言ってもどうにかなるわけじゃないし、了解です」

「うん、私のことを早くも理解しているようで何よりだ」

 

ーーーーーーーーーー

 

そこからは修行に次ぐ修行だ。まぁ特筆すべきことはないから基本的に端折るぞ。

 

一年くらいは基礎練として走り込みをやらされ、その後は魔法の練習。土弾をより速く生成し撃ち出すために延々とダミー人形に向けてぶつけるんだが、これが中々にきつい。聞くだけだと簡単に思えるが、自分の中で巡る魔力の感覚を意識しながら手に向かう流れを滑らかにしていき、ともすれば単純作業になってしまうところを師匠に後ろから正されながらより詳細に周りの土から弾を作るイメージを保ち続けなければならないのだ。休憩中に聞いた話だが、魔法とはイメージの先行する物であり、その性質上頭に思い浮かべるイメージの純化というか雑念が混ざると威力が下がってしまうらしい。萎びるまで魔法を撃たされたのも無駄な思考を追い出すためであり、いきなり戦闘をさせられたのもそのため。前世ではよく窮地に陥った主人公が土壇場で覚醒して強くなった魔法で敵を打ち倒す、みたいなシーンがあるが意外のこの世界でもそれは変わらない。死にかけると生き残るために無駄な思考が省けるからなんだとか。

 

因みに、魔法を使うと一瞬だけだが幾つか記号の並んだ円みたいなのが展開される。ゲームの記憶が正しければ、これが魔法陣と呼ばれるもので、この記号と陣について研究した学問が魔法学だとされていた。学院卒のキャラクターが出てきたりとかしたが、学園モノじゃない弊害か学院についてはクエストで訪れる程度だった記憶がある。転生して生活していると度々学院についての話が聞こえ、やれ水を浄化する魔法が確立されたとか天才が入学しただとか新聞に載っていたが生活にそれほど変化はなかったな。

 

基礎が固まった二年目になってから武器の練習が始まった。調整が終わって先端が太くなり、柄の部分は握りやすいように布が何周か巻かれているワイヤーロープは、武器として振るうのだからと『鋼蛇(こうだ)』と名付けた。練習といっても手本を見ながら技を学ぶとかではなく、腕だけじゃなく身体で振れるように素振りをしたり、魔法と併用してみたりとかの試行錯誤だが。腕にくっつけてしまえば感覚が拡張されるからやりやすくなるんだが、それは十全に振るえるようになってからだと日々身体にミミズ腫れを作りながら素振りをしている。ある程度熟れてからは土を纏わせて即席のハンマーにしてみたりと戦略を考えている。扱いが上達してからは腕にくっつけて振った。

 

ここまで頑張れたのは努力が目に見えてわかるというのが大きいかもしれない。子供の身体というのは知識と経験をスポンジのように吸うもので、食って寝れば体力も全回復するし、魔法の制度も武器の扱いも肌で感じられるほどの成長を実感できる。体内を駆け巡る魔力がより強くなり、前よりも頭が冴えていくというのは心地よいものだ。これがレベルが上がるということかもしれない。ゲームみたいにステータス画面があるわけではないので、推察でしかないが。

 

結果として行き着いたファイトスタイルは鋼蛇の末端を手首に接着した状態で腕に巻き付け、状況に応じて長さを変えるというものだ。腕に巻き付けた状態で使えば相手の攻撃を防ぐ防具として機能し、短く持ち土属性で土を押し固めれば即席の棒として振るうことができる。長く持てばそのまま鞭に、どこかに巻き付ければワイヤ―アクションを可能とし、相手を拘束し確実に拳を叩き込んだりもできる。さらに接着だが、強度を操作できるようになった。いまだに接着範囲は自分の身体と物限定と進展はないのだが、くっつけるときの強度の操作によってくっついたまま振り回されて手首が折れる、みたいなことを防げるようになったのだ。

 

個人的にかなり満足度の高い仕上がりになったわけだが、ここに到達するまでは怪我の連続だった。相手の突撃を受け止め、踏ん張るために地面に使ったら危うく足首を脱臼しそうになるし、昔ネットで見たカウボーイ風の男が横向きの棒に縄を投げつけて結び目を作って固定するやつをやろうとしたら巻き付け方が悪く思い切り地面とキスすることになった。その後も何回かミスして土まみれになったが、何十回とやっていくうちに漸く形になったのを覚えている。

 

そんなこんなで修行は終了した。まぁ修行パートなんぞこんなものだと言っても過言ではない、と思う。

 

それで今何をしているかというと、都市を出て武者修行に出るための荷造りといったところだ。ゲームの世界に転生してやることといったら旅して景色とかゲーム中で語られなかった色々なことを見て回ることだ。方針としては出来る限りストーリーとか本筋には関わらず、もし状況がやばそうになったら手伝う程度の強さはつけておきたい。だから、本筋とは関わらないサイドクエストの敵を倒したりして力をつけようと思う。

 

「行ってくる」

 

短く告げた俺に、親父は槌を置くこともなく鼻で笑った。

 

「おう、せいぜいしぶとく生きやがれ。俺が育てたんだ。簡単にくたばると容赦しねぇぞ」

「死んだら容赦も何もないだろ。親父こそ、俺がいない間に酒飲みまくるとか肉ばっか食うとかで身体壊すなよ」

「へっ、お前に心配されるほど焼きが回っちゃいねぇ。さっさと生きやがれ、手前の心配だけしてろ」

 

親父とはそんな会話をして別れた。湿っぽさのないやり取りが、親父らしかった。

 

因みに師匠は修行が終わるなり風のように都市を出ていった。3年も修行をつけてくれたにしてはドライな対応だと思うだろうが、師匠は目的が目的だし、あえて深い人間関係を作るのは避けているように見える。修行時代でも深いところまで入らせようとはしなかったからな。師匠はゲームでも好きなキャラクターだったし、出来ることなら死なせたくない。どれほどやれるかはわからないが、画面の向こうが現実になった今なら、存在しなかった生存ルートを手繰り寄せることだって可能なはずだ。

 

長距離を移動する都合上、乗った馬車の品質は決して高いとはいえない。魔物に壊されることが日常茶飯事なのか、道だとわかる程度に均されただけの地面を進むたび、車輪は石を噛んでガタリと揺れる。まともなサスペンションなど望むべくもない座席から伝わる振動は、容赦なく俺の身体を揺さぶった。

 

修行に明け暮れた日々の中で、ここをゲームの世界だと思い込んだことは一つもない。だというのに、それでも安全な都市の中で守られながら鍛えていた俺は、どこか夢見心地だったのかもしれない。

 

魔力によって強化された脚で力強く、素早く馬車を曳いていく2頭の馬の蹄が地面を蹴る音。火山地帯の荒涼とした風景がだんだんと変わっていく。それを網膜に焼き付けながら自分に言い聞かせるように思いを噛み締める。

 

もう俺の知っている現代とは違う。この世界で生き抜くためには、強くならなきゃいけない。ここからストーリーが始まり、進んでいけば、安全な場所なんてなくなるはずだ。

 

俺は軽く息を吐き、膝の上で拳を握り込んだ。爪が手の平に食い込む感触を感じながら、努めて前世と今を切り離す。

 

「生き残る。そして、強くなる」

 

そう小さく呟いた覚悟は、馬車の激しい揺れにかき消された。

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