安定の駄文ですが、取り敢えずどうぞ
ガンッ!
ピット内に鈍い音が響く。その音源は一夏と将輝の頭であり、千冬の拳でもあった。二人の頭上を襲った世界最強の拳は凄まじい衝撃と共に二人の顔面を地面へとキスさせる。当然ながらそんな勢いで地面へとキスした二人の意識など拳がヒットした瞬間に失われており、うつ伏せのまま、沈黙していた。
「お、織斑先生………いくら何でもこれは……」
「どうせ言っても聞かんだろうからな。身体に覚えさせた方が早い」
「二人とも怪我もしてるみたいですし、今回くらいは言ってあげた方が……」
「自業自得だ。それに保健室に運ぶんだ、どちらにしても変わらんだろう」
(そういう問題じゃないような……)
二人を何事もなく担ぎ上げる千冬。大人とはいえ、女性が高校生二人を担いでいるという図はなかなか異様な光景ではあるが、それがブリュンヒルデともなれば、割と普通に見えるのだから、不思議なものである。
「という訳だ。私は今からこの馬鹿二人を保健室に連れて行くが……………お前達はどうする?」
千冬の指すお前達というのは一緒に試合を見ていた箒。そしてつい先程この場に現れたセシリアだ。試合が終わり、二人に賞賛の言葉と試合で見せたでたらめ戦術について釘を刺しにきたのだが、着いた途端に既に二人は沈黙させられており、箒と同様にボーッと立っていた。
「わ、私も行きます!」
「わたくしもご同行させていただきますわ」
二人の返答に対して、千冬は特に何も言わずに管制塔を出て行き、その後を追うようにして二人も出て行った。残された真耶は心の中で「青春ですねぇ〜」と何処かズレた事を思いながら、残された仕事をこなすのだった。
色々な光景が早送りのように流れる。
何の変哲も無い日々。怠惰に時間の流れに身を任せている日々。死するその時まで続くと思っていた日々は突如終わりを告げる。何故終わったのか、その光景だけは映らない。今度は少年が幼い身体で誰かに手を差し伸べていた。相手もまた幼い少女。綺麗で高価そうな服を黒く汚し、その頬には涙が伝っている。少年が彼女に向けて、何を言ったのかはわからない。ただその言葉に彼女は差し伸べられた手を取り、暗い空間から引き上げた。少女が泣き止む頃にはその親と思しき男女が少女の元に現れ、少女を抱き締めた。少年は少女に名を告げる事もせずにその場を走り去る。後ろから少年を制止するような声も聞こえるが、それを無視して走り去った。
そしてまた景色が早送りされるかのように流れ、ある場面で止まる。その光景は成長した少年と少女が再会し、互いに誓いを立てた場所。相変わらず何を言っているのかはわからない筈だったが、何故か理解出来た。失われていたカケラが集まり、繋がる。
(そうだ………俺はこの時………)
少年が微笑むと少女もまた微笑んだ。その表情はとても綺麗な暖かい微笑みだった。
「…………身体中が痛い」
IS学園に入って僅か一週間の内に気絶して、二回目の保健室のベッドでの目覚めは痛みに包まれていた。しかし、痛みよりも気になる事があった。
「あれは…………あの夢は……」
とても一時間程度で見たとは思えない程の長い夢。何故あんな夢を見たのか、身に覚えのない頭部への痛みがトリガーとなったのかは定かではないが、少なくとも夢の内容が過去の憑依する前の自身である事は理解出来た。僅かに思い出していた断片的な記憶。交わした言葉。そして最後に見えた少女の顔。全てが繋がった。だれかが言っていた、夢とは記憶の整理だと。
「取り敢えず思い出すのには成功した…………って事でいいのか?あれだけ必死で思い出そうとしてた時は無理だったのに……」
半分にも満たないとはいえ、一気に思い出した所為で未だ混乱しているものの、思い出せたのなら後はどうとでもなるだろう。
「痛たたた。結構無茶苦茶してたんだな、俺」
「ええ。それはもう無茶苦茶でしたわ」
「でも一夏も同じだし………って、セシリア⁉︎」
何時の間にか真横に立っていたのはセシリアだった。その表情にはかなり呆れの色が見えており、溜め息も吐いていた。
「本当に織斑さんも将輝さんも無茶苦茶ですわ。あんな動きをする方は世界広しといえどお二人だけぐらしでしょう」
「はは、ありがとうございます?」
「褒めておりません。今後、あのような事は控えていただきます。わかりましたか?」
「イエス、マム」
「宜しい………………では、ここからは真剣なお話をさせていただきます。将輝さんも真面目に答えて下さいね」
一呼吸置いた後、セシリアは真剣な面持ちでそう言う。将輝もセシリアの心情を悟り、そして自身もまた彼女に事実を打ち明けるため、先程のおちゃらけた雰囲気を消した。
「話を始める前に一つ言わせてほしいことがある」
「どうぞ」
「俺には二年より前の記憶が殆どない。だからその事を前提に話をしたいと思う」
「…………やはりそうでしたか……」
セシリアは大して驚いた様子も見せず、わかりきっていたかのようにそう呟いた。
「そうではないかと薄々気がついていました……………将輝さん。わたくしがこの学園で再会した時、何と言っていたか覚えていらっしゃいますか?」
「ああ」
流石に其処まで呆けた覚えはない。それにセシリアの言葉を頼りに記憶を引きずり出そうとしていた為、一言一句間違えずに覚えている自信すらあった。しかし、それが自身の記憶喪失とどう繋がるのかがわからない。するとセシリアが説明した。
「確かにわたくしと将輝さんが出会ったのは十年前ですし、その時に救っていただいたのもそうです。ですが、約束を交わしたのは三年前の事です」
「そうだね。今はもうわかるよ」
それは先程見た夢の一部。今では鮮明に思い出せる。ある日、将輝は父に連れられて、セシリアの父と母であり、そしてオルコット財閥の当主とその婿だった二人の葬儀に参列していた。顔を合わせた記憶は一度しかなかった。十年前、焼却炉に隠れ、閉じ込められたセシリアを偶然発見し、助けた日。顔は未だに思い出せないが、それでも二人がセシリアの両親であった事は分かっていた。今でもイギリスで語られる死者百人を超える列車の横転事故の犠牲者。その内二人がセシリアの両親だった。陰謀説も囁かれた。しかし、事故の状況がそれをあっさりと否定した。
「あの時のわたくしにはわかりませんでした。何故、あれ程まで仲が悪かった二人がその日に限って行動を…………いえ、何時も一緒にいたのかを」
ーーー三年前ーーー
「父さんに連れられて来てはみたが……………それがあのオルコット夫妻の葬儀とは」
直接会った記憶はない。過去にそれらしい人物と出会ったような気はしていたが、断言してオルコット夫妻だとは言えない。それ故、将輝はこの葬儀に対して特に思う事はなかった。夫妻と親しかった父に半ば強制的に連れてこられたものの、周囲にいる大人は知らない人間ばかり、大人達は幼い頃の将輝を知っている為、成長した将輝を見て驚いているが、将輝としては愛想笑いをする程度が精一杯だ。兎にも角にも堅苦しい葬儀の場から密かに抜け出す事には成功した。どうせ葬儀が始まってしまえば、誰も自分の事には気を向けないだろう。葬儀が終わるまでの間、何処で時間を潰そうか。そう考えていた時だった。
(あれ?あんな子居たっけ?)
広い屋敷の中を一人歩いていると、ふと大きな木の下で自分と同い年くらいの少女が座っているのが見えた。顔は伏せていてわからないが、髪にはゆるくロールがかかっており、服は喪服だ。当然といえば当然だ。しかし、何故あんな場所にいるのか?それが気になって将輝はその場まで向かった。
(何故……死んでしまったのですか…………)
少女━━━セシリア・オルコットは悲しみに暮れていた。先日起きた列車事故で父と母を失い、今は葬儀中だ。本当ならこんな所いてはいけない。だが、誰も彼女を呼びには来なかった。それが彼女の心情を察してなのか、それとも居てもいなくても何方でも良かったのかはわからないが、何方にしても葬儀に参列する気など今の彼女には出来なかった。
母は女尊男卑の社会になる以前からその腕を惜しみなく振るい、幾つもの企業を経営してきた凄腕の女性だった。数々の成功を収め、イギリス国内ではかなり名の知れた人間だった。厳格な人間で、中途半端は許さない。兎に角厳しい人だった。けれど、セシリアにとって母は憧れの人物でもあった。
父は情けない人だった。名家に婿入りした事もあり、立場は弱かった。何時も母の顔色を伺い、媚びへつらう。ISが出てからはそれが更に酷くなった。父の昔を知る者達は皆、口を揃えて「あんな人間ではなかった」と言っていたが、そんな事はセシリアには関係ない。どうしようもないくらい情けない父を見て、『将来情けない男とは結婚しない』とそう心に決めていた。
だが、何故か父と母は常に行動を共にしていた。媚びへつらう父を見て、母は鬱陶しそうにしていた。それなのに二人が別行動をしているのを見た事は片手で数える程しかなかった。会話をすることすら、拒んでいた母が何故父を常にそばに置いていたのか、今となってはわからずじまい。ただ、母は父を見るたび、何時も複雑そうな表情をしていたのをセシリアは覚えている。
厳しかった母も情けなかった父もこの世にはいない。いるのは父と母だったものだけだ。もう話す機会はない。家族で何かをする機会は二度と来ない。そう思うだけで目からは涙が溢れてきた。思い出を振り返る度、悲しみが心を包んだ。そんな時、突然自身を呼ぶ声にセシリアは顔を上げた。
「こんな所で何してるの?葬儀はもう始まってるよ?」
「わたくしは………参加しません」
泣いている姿など誰にも見せたくない。けれど、遺影を見てしまえば視線も憚らず泣いてしまうとわかっていた。だから参加する気はなかった。それに自身に向けてそう言っている少年も葬儀には参加していない以上、とやかく言われる筋合いはない。
「そっか。実は俺もサボろうかと思ってるんだよね」
「馬鹿にしてますの……?」
隠すつもりがあったのかすらも怪しい少年の言葉にセシリアは馬鹿にされているような気がして、苛立ちを覚えた。それに幾ら相手の正体がわからないとはいえ、今日行われる葬儀はセシリアの両親のもの。其処まで堂々とサボる宣言をされて、気持ちが良いわけはない。
「別に馬鹿にした訳じゃないんだけど…………それは兎も角、何で泣いてたのか、理由を聞いても良いかな?」
「な、泣いてなどいません!」
ハッとして、セシリアは顔を背ける。不意に呼ばれた所為で、泣いている事を隠すのを忘れて、顔を上げてしまっていたのを思い出した。誰にも弱みを見せる訳にはいかない。それが男ともなれば尚更だ。セシリアはすぐさま立ち上がり、その場を後にしようとするが、急に立ち上がった事で立ち眩みを起こして、少年の方に態勢を崩し、もたれかかる。すぐに離れようとしたセシリアだったが、少年はそのままセシリアを抱き締めた。
「別に泣いていいんじゃないかな。大切な人達だったんでしょ?我慢する必要なんてない、周りに泣いてる姿を見せたくないなら、今泣けばいい。頼りないかもしれないけど、せめて今だけは俺が胸を貸すからさ」
それを聞いた直後、セシリアの中で感情の奔流を辛うじて止めていた何かが壊れ、彼女は少年の胸の中で声を上げて泣いた。涙も声も枯れるかと思う程に。
「お見苦しい所を………お見せしました…」
「気にしない気にしない」
一通り泣き終えたセシリアはすぐに謝罪した。少年は全く気にしていなかったが、それでも淑女として、見苦しい所を見せた事は事実だと思った以上、謝罪しない訳にはいかなかった。
「ところで君の名前なんて言うの?」
「セシリア・オルコットです」
「え゛っ」
少年は固まった。まさか目の前の少女が件のオルコット夫妻の血縁者と知らず、堂々とサボる宣言をしてしまった事に。それはもう名前を聞いた事を全力で後悔した。
「貴方のお名前をお聞きしても宜しいですか?」
少年は悩んだ。もしかしたら、今までの行為に対して腹を立てた彼女から自身の親を経由して報復が為されるかもしれない。そうなれば軽く骨の一本や二本は犠牲になるかもしれない。精神も摩耗する程の状況に叩き込まれるかもしれない……………祖父の手によって。
「い、言わないと駄目?」
「わたくしも名乗ったのですから、駄目です」
「…………藤本将輝……です」
「藤本………将輝さん、ですか。良いお名前ですわね」
ISについて、それ程詳しくなかったセシリアは藤本という姓に特に引っかかる事はなかった。その事に少年━━━将輝はホッと息を吐く。
「そ、それはそうと、やっぱり今からでも葬儀には参加した方が良いと思うよ。悲しいし、辛いかもしれないけど、それが一つのけじめってものだからさ」
「そうですね…………とても先程サボると豪語した人の発言とは思えませんが」
「ゔっ…………本当にごめん」
「良いですわ。お陰で吹っ切れましたもの。ですが………」
「?」
「葬儀が終わるまでの間だけで良いです。わたくしを支えていただいて宜しいですか……?」
「良いよ」
弱々しい声でそういったセシリアに将輝は即答した。それくらいならお安い御用だ。それで彼女が葬儀に参加出来るのなら、感情の奔流を堰き止めていた物を壊したのは他でもない自分だ。もし葬儀の場に移動すればすぐにでも泣き出すかもしれない。その間だけでも彼女を支えてあげよう、と将輝は思った。それもまた彼なりのけじめなのだから。
「今回は本当にありがとうございました」
一通り葬儀を終えた後、セシリアは終始自身の横で手を握っていてくれた将輝に改めて礼を言った。何度も泣きそうになった。その度にセシリアはすぐ横にいた彼のお陰で踏みとどまる事が出来、此度の葬儀を無事乗り切る事が出来た。そう思うと緊張の糸が緩み、今度はぺたりとその場に座り込んでしまった。
「腰が……抜けてしまいました……」
「ほら、立てる?」
将輝が差し出した手を取った瞬間、セシリアは思い出した。七年前の出来事を。父と母に構って欲しくて、困らせようと隠れた焼却炉に閉じ込められ、何も出来ずに泣いていた時、突然閉まっていた扉が開かれ、自身に手を差し伸べてくれた少年の事を。あの時は結局名前も聞けずじまいで、時の流れと共に記臆も薄れてしまっていたが、今の少年と七年前の少年の姿が完全に重なった。
「そうだったのですか………貴方が………」
「どうしたの?」
「いえ、なんでもありません」
「ならいいけど………って、うわ!もうこんな時間なのか、このままじゃ走って家まで帰らないといけなくなっちまう!悪い、セシリア。父さんを待たせてるから帰るよ」
将輝の父は時間に厳しいという訳ではない。単に待つのが嫌いなのだ。時間を奪われる事が嫌いな男がよくもまあ結婚出来たものだと将輝は思った。因みに待たせるのはアリらしい。どれだけ自己中心的なのか。
「ま、将輝さん!」
父の待つ場所まで走り出そうとした時、セシリアに呼び止められ、振り返る。
「わたくし、父と母の意志を継いでオルコット家を必ず守ってみせます!まだ未熟で何も知らない子どもかもしれません。ですが、必ず母を超えてみせます!もっと魅力的な英国淑女になってみせます!だからその時は━━━」
その時、一陣の風が吹き、ざわざわと木々が揺れ動いた所為で将輝はセシリアが最後に何を言ったのか、聞き損ねた。だが聞き返している暇はない。何せ一秒でも遅れようものなら、将輝は四十キロ離れた場所まで走って帰らなければならなくなるからだ。だから将輝はこう返した。
「わかった!約束する!いつ会えるかはわからないけど、セシリアが魅力的で立派な女性になった時に絶対にセシリアの所に会いに行くからな!その時は俺もカッコ良くなってるだろうから、惚れるなよ!」
そう言い残して将輝は陸上選手顔負けのスピードで父の待つ場所まで全力疾走で駆け抜けていった。そしてちょうど将輝が見えなくなった時、自身の幼馴染みであり、専属のメイドでもある少女がセシリアの元に現れていた。
「ここにいらしたのですか。葬儀が終わるとすぐに姿が見えなくなったので、探しておりました」
「ごめんなさい、チェルシー。彼とは二人きりでお話しがしたかったものだから」
「葬儀の際、一緒におられた男性ですか?」
「ええ。わたくし、どうしても達成しなければならない目標が出来ましたわ」
「左様ですか。では、私はその目標達成を全力でサポートさせていただきます」
「ありがとう」
ーーーーーーーーーー
それからセシリアは手元に残った莫大な遺産を金の亡者から守るため、定めた目標を達成する為、彼ともう一度再会する為に必要なものは片っ端から勉強をした。そしてその一環で受けたIS適性テストでA+をたたき出し、政府から国籍保持の為に様々な好条件か出され、了承する事で両親の遺産を守る事には成功した。それからもセシリアは自身を高める事に一切手を抜く事はなかった。第三世代装備ブルー・ティアーズの第一次運用試験者に選抜され、その中で将輝の父と母と出会い、稼働データと戦闘経験値を得るためにIS学園へとやってきた。
「初めて自己紹介した時は少し悪ふざけのつもりでした。将輝さんの反応が見たかったものですから………けれど」
将輝は否定しなかった。初めは自分の悪ふざけを察して、彼方もそうしているのだとそう思っていた。だが会話をする内に勘の鋭いセシリアは気づいてしまった。「彼は三年前の出来事を覚えていない」と。
それがわかった時、セシリアは目の前が真っ暗になりそうだった。自身の心の支えであったその約束。なのに相手はその事を忘れている。何故自分は覚えているのに、彼は覚えていないのかと。しかし、話しているうちにある疑問が思い浮かんだ。将輝の話しは日本に来る以前の出来事自体が曖昧だった。たった二年しかいない日本の事はすらすらと話せるのに、十三年も暮らしたイギリスの地を殆ど覚えておらず、それどころか自身の父と母の事すらも疑問系の事が多かった。其処でセシリアはある疑問に至った。「彼は約束を忘れたのではなく、記憶そのものが欠落しているのでは?」と。
セシリアは正直聞くかどうか迷った。もし違うならそれでもいい。しかし本当だった時、彼が必死に過去を思い出そうとしているのに、そんな事を聞いてもいいのか。結局、踏ん切りがつかず、今日まで引っ張ってきてしまった。そしてついさっき、セシリアが聞くよりも先に将輝自身がそれを告白した。
「はぁ…………俺って最低だな」
過去を捨てて、新しい人生を歩もうなどと勝手な事をしようとした所為で結局は自身の首を絞めるだけでなく、他人も傷つけた。見ず知らずの人間の人生を奪い去ったのに、それと向き合う事をしなかった。したくてしたわけじゃない。俺は悪くないと目を背けてきた結果の代償が失われていたセシリアとの約束だった。
「全くです。わたくしは片時も忘れた事はありませんでしたのに。何より記憶喪失である事を隠してらしたのが許せません。言っていただければわたくしもこんなに思い悩む事などありませんでした」
「本当にゴメン。俺が全面的に悪かった。謝罪する……………程度じゃなんの足しにもならないけど、謝らさせてくれ」
「わかりました。許します」
「え?」
「実はわたくし、そんなに怒ってませんの。将輝さんが約束を忘れていた事はとても悲しかったですけど、思い出して下さいましたし、何より記憶喪失になっても将輝さんが変わらずにいてくださった事が嬉しいですわ」
「一応理由を聞くけど、どうしてそう思ったの?」
「さて、何故でしょう?」
そう言って悪戯そうな笑みを浮かべるセシリアに将輝はどっと疲れが増していくのを感じた。
「………じゃあ三年前のあの日。最後に何て言ったの?」
追及した所で意味はないと話題をもう一つの方へと変える。思い出したが故に気になるのは最後にセシリアが口にした言葉なのだが、それを聞かれたセシリアは顔を真っ赤にし、千切れそうな勢いで首を横に振る。
「そ、それは言えません」
「なんで?約束の一部だし、ちゃんと確認しておかないと━━━」
「駄目なものは駄目です!それだけは絶対に言えません!」
「あ、ちょっと、セシリア!」
将輝の制止を振り切って、セシリアは保健室を走り去った。
(言える筈ありませんわ。だってあれは━━━)
何故ならあの時言った言葉はプロポーズのようなものなのだから。
これでセシリア編のようなものは一旦終わり、次回はセカンドな幼馴染み登場。そして箒の出る回数も当然アップ!
それはともかく、まだ原作一巻の半分しか言っていない事実に軽く仰天中。四巻目入るあたりで軽く五十話超えてそうな勢いです。さあ次回も張り切って執筆執筆〜♪