憑依系男子のIS世界録   作:幼馴染み最強伝説

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過ぎたるは及ばざるが如し

 

「死ぬかと思った……」

 

昼の食堂。

 

疲弊しきった様子でラーメンを啜るのは朝千冬に引きずられていった鈴だった。千冬による折檻を受けたにもかかわらず、午後にはボロボロになりながら蘇生している鈴を見て、将輝と箒とセシリアは思わず手にしていた昼食の盆を落としそうになる。対して一夏は特に驚いた様子も見せずに鈴の隣の席に座った。

 

「何であの人は毎回毎回、あたしが言ったタイミングで出て来るのよ」

 

鈴が千冬に折檻されるのは一度や二度の事ではない。鈴が口を滑らせて、千冬の事を言った時は大抵その後ろに本人がいる。場所が何処であろうと何故かいる。その度に折檻を受けてボロボロになるのだが、学習しない。その割には耐性がついてきているようで、蘇生時間はどんどん早くなっている。明らかに学習するポイントを間違えている気もしなくはないが。

 

「それにしても鈴は変わらないな」

 

「あんたはちょっと背が伸びて、カッコ良くはなったかもね」

 

「鈴が褒めるなんて珍しいな」

 

「あたしだって誰かを褒めることくらいあるわよ。それが偶々一夏だっただけの話じゃない」

 

特に違和感なく会話をしている………ように見えるが、それは一夏と将輝から見た視点で、箒とセシリアから見たこのやり取りは違った。

 

(あいつ………やはり一夏に気があるな。照れ隠しにラーメンを啜ってはいるが)

 

(明らかに恥ずかしがってましたわね。一夏さんや将輝さんの目は誤魔化せても、わたくしの目は誤魔化せませんわ)

 

同類(恋する乙女)だからこそわかる何気ない仕草。男子二人にはごく自然に放たれたように聞こえた言葉でも箒やセシリアには言い慣れない言葉に声を少し上ずらせながら言ったように聞こえた。

 

「そういや、いつ日本に帰ってきたんだ?おばさん元気か?いつ代表候補生になったんだ?」

 

「質問ばっかしないでよ。日本に帰ってきたのは一週間前、お母さんは元気よ、代表候補生になったのは中国に帰って二ヶ月くらいね」

 

質問ばかりするなと言った割に鈴は全部の質問に答えを返した。丸一年ぶりの再会とあってか、あまり質問の類いを投げかけない一夏だが、幼馴染みの空白の期間というのは気になるのだ。実際、ルームメイトであり、ファースト幼馴染みの箒には初日にこれでもかというくらい質問を投げかけていた。

 

「一夏さん。その方との関係を説明していただきたいのですが…………もしかして付き合ったりしていますの?」

 

純粋な好奇心で尋ねるセシリア。織斑さんではなく一夏さんと呼ぶのかというと、一夏が「織斑じゃ千冬姉と被るから」とセシリアにそう呼ぶよう促したのだ。セシリアとしてもタイミングを見計らって、名前で呼ぼうと思っていた節もあり、それはちょうど良い提案だったと言えた。その問いに流石の鈴も顔を真っ赤にするが、すぐに顔をブンブンと横に振り、気持ちを落ち着かせる。

 

「べ、別にあたし達は付き合ってなんかないわ」

 

「そうだぞ。何でそうなるんだ、ただの幼馴染みだよ」

 

「…………相手があたしで良かったわね、一夏」

 

「?何がだ?」

 

「何でもないわ」

 

鈴はややぶすっとした表情でそう答える。一夏が自身の事を大切な友人で幼馴染みとして捉えてくれている事は正直嬉しい。だが『ただの』という部分をやたらと強調して言われれば、いくら鈴といえど不機嫌にもなる。せめて『親友だ』くらいは言って欲しかったというのが鈴の本音だ。もちろん最高の返し方は「ああ、俺達付き合ってるんだ」と言ってもらうことだ。しかし、それを唐変木たる一夏に求めるのは酷な話で、一夏がただの幼馴染みと答える事も分かっている。何せ数年間の付き合いで、それを腐る程見てきたのだ。今更、そんな事に腹をたてて、癇癪を起こす程、鈴は子どもではないが、それでも不機嫌になってしまうの仕方のない事である。

 

「話は変わるけど、あんたイギリスの代表候補生、セシリア・オルコットよね?」

 

「はい。その通りです」

 

「セシリアは鈴と面識あったの?」

 

「いえ、直接お会いした事はない筈です」

 

「あたしも直接会うのは初めてよ。ただ情報として知ってただけ」

 

「例えばどんな感じの情報?」

 

「イギリスの大財閥オルコット家の当主にして、次のイギリスの国家代表に最も近い存在と言われているわ。確か『蒼天使』って二つ名もあった気がするわ。まさかIS学園に来ているとは思ってなかったけど、あたしってホントについてるぅ〜」

 

先程とは打って変わって、上機嫌な様子の鈴だが、その瞳は獰猛な野獣のようなものへと変化している。その様子からおそらく彼女は戦闘狂と呼ばれる人種である事が将輝達も理解した。

 

「それは些か買い被り過ぎというものですね。第一、わたくしよりも強い代表候補生の方は幾らでもいますわ」

 

「確かに現時点ではそうかもしれないわね。けど、あんたも知ってるでしょ?国家代表を決める制度」

 

「国家代表を決める制度?何だそれ?」

 

「はぁ………つい先日私が教えだたろう………。国家代表になるには二年に一度行われる代表候補生同士の試合で最も優秀な結果を収めたものが次の国家代表になるのだ。突然引退でもせん限り、二年間、そいつは国家代表というわけだ」

 

「あー………そういえば言ってたっけ」

 

二年周期で行われる国家代表を決める為の代表候補生同士の試合は国内でかなりの人気を誇るイベントで、テレビでは毎度、どの国も視聴率が八十パーセントを超える程のものだ。千冬のように突然引退でもしない限り、その制度で決まった国家代表は二年間国家代表となり、様々なIS競技に国の代表として参加する事になる。モンド・グロッソなどもその一つだ。

 

「ところで何であんたクラス代表になってないわけ?データ取りするならクラス代表になるのが一番手っ取り早いでしょうに」

 

兼ねてから鈴が思っていた疑問。クラス代表が将輝と聞いた時だった。一組に代表候補生がいるとは事前に知っていたし、その流れなのか、自分が二組に行くように調節されたというのも後から知った。初めはその上で将輝がクラス代表をしているのは押し付けられたか、或いはその代表候補生が弱かったかのどちらかだと思っていた。しかし、セシリアだと弱い所か強いくらいで振る舞いからしても他人に何かを押し付けるような人柄ではない。そのどちらでもないとなると、何故なのかと疑問を抱くのは当然といえる。

 

「それはわたくしが将輝さんに負けたから……ですわ」

 

「………は?マジで言ってんの?勝ったけど辞退したとかじゃなくて?」

 

鈴がそう思うのも無理はない。初めから全力で闘われていたのなら確実に将輝は敗北していたし、一次移行のタイミングがズレていても負けていた。基本他国の代表候補生に興味はない鈴だが、目ぼしい人間についてはチェックをしている。その中の一人であるセシリアの事ももちろん調べているし、数は少ないが、試合も見た。その時の機体はブルー・ティアーズではないが、それでも強かった。そんな彼女がISを動かして間もない男子にやられるというのは俄かに信じ難い話ではあった。

 

「まぐれだよまぐれ。第一セシリアが初めから全力だったら、瞬殺されてたって前に言ったじゃん」

 

「ですが、わたくしを下したというのもまた事実です。それにたらればの話をしても仕方ありませんわ」

 

「そうだぞ、将輝。何はともあれ勝ったのはお前なんだからな」

 

「それはそうだけど……」

 

セシリア自身の考えの上での戦いだったとはいえ、全力ではない相手に勝利をした事は男としてそう喜べたものでもない。それにクラス代表にしても将輝自身、やりたいとは思っていないし、今もセシリアがやれば良いのではと考えている。

 

「あ、鈴がフリーズしてる。おーい、鈴。帰ってこーい」

 

理由はどうであれセシリアが将輝に敗北したという事実に脳の情報処理が追いつかず、鈴はしばし呆然とするが、一夏の声で正気に戻る。

 

「ま、まぐれとはいえ、将輝はセシリアに勝ったのよね?」

 

「そうなるね」

 

「俄かに信じ難い話だけど……………まあいいわ。クラス対抗戦、楽しみにしてるから」

 

そう言った後、鈴はゴクゴクと豪快にラーメンの汁を飲み干す。レンゲを使って飲まないのは『女々しいし、何回も掬って飲むのが手間』だからだ。女々しいも何も鈴は女であるのだが、細かい事は気にしてはいけない。ラーメンを食べ終えた鈴は席から立ち上がり、片付けに行った。

 

(一夏に会いたくてこの学園に来たけど……………まさかイギリスの『蒼天使』にまぐれとはいえそれを打倒した将輝……ね。これはなかなか楽しめそうだわ)

 

自身のクラスの教室へと向かう鈴の足取りは軽い。予期せず出会った好敵手。獲物を見つけた獰猛な野獣はその瞳をギラつかせながら、一ヶ月後に行われるクラス対抗戦に胸を踊らせる。

 

(……ッ⁉︎な、何だ?急に寒気がしたな……風邪でもひいたかな?)

 

見事にロックオンされた将輝は背筋に悪寒を感じつつも、鈴と同様、クラス対抗戦について頭を悩ませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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