憑依系男子のIS世界録   作:幼馴染み最強伝説

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急転直下の対抗戦

 

五月。

 

あれから数週間経った今も、鈴は一夏を避けていた。一夏に会いに行く事などまずないし、話しかけても全速力で逃走するばかりだった。そんな鈴の対応に一夏は「何かマズい事を言ってしまったのでは?」と頭を悩ませているが、実際のところ、一夏には何の非もない。それどころか花丸をあげてもいいレベルだ。何せ、鈍感で唐変木な彼が女子との約束を間違えずに覚えていたのだから。彼をよく知る箒や正史の流れを知る将輝からすれば目が飛び出るかと思う程の変化だ。今の彼に告白すれば「付き合う?いいぞ。で、何処に買い物に行くんだ?」などという予想の斜め上珍回答で玉砕される事はないかもしれない。

 

「将輝、来週からいよいよクラス対抗戦だな。アリーナは試合用の設定に調節されるから、実質特訓は今日で最後になるが………私は役に立てたか?」

 

「ああ。一夏とじゃ特訓というか、アグレッシブなアトラクションみたいになるから。基礎も何もなくなる」

 

将輝と一夏の近接特訓ははっきり言って無茶苦茶であった。代表候補生であるセシリアもびっくりのテクニックを見せたかと思えば初心者のようなミスをする。基礎も応用も何もない特訓からは当然ながら鍛えられるものは限られている。対して箒との特訓は一夏のようなアグレッシブさはないものの、基礎や応用がしっかりと身に覚えさせる事が出来た。そのお蔭で簡単なミスをする事はかなり減り、基本動作はより正確なものとなっていた。

 

箒との近接戦闘特訓とセシリアとの中距離戦闘特訓。これにより近中距離での戦闘法はかなり身についたと言える。しかし、将輝の不安は募るばかりだ。何せ、相手は代表候補生たる鈴なのだから。其処は原作通りでなくとも良かったと常々思うところではあるが、ボヤいてばかりもいられない。もしクラス対抗戦の流れ全てが正史に忠実であれば、その後にはもれなく無人機による襲撃が待っている。来ない可能性もない訳ではないが、それなりに心構えは必要だ。

 

(まあ四人がかりなら何とかなるか。原作よりセシリアが強い分、一夏の成長度合いも高いし、俺が時間さえ稼げば一撃で叩っ切れるだろう)

 

「将輝さん。今日は基礎を徹底しつつ、昨日のおさらいをしましょう」

 

第三アリーナのAピットのドアセンサーに触れ、指紋と静脈認証によって圧縮空気の抜ける音と共にドアが開かれる。

 

「ま、待ってたわよ!一夏!」

 

ピットにいたのは何と鈴だった。言葉を詰まらせがらもビシッと一夏に指をさして、不敵な笑みを浮かべている。つい先日までは自ら避けていたにもかかわらず、どういった心境の変化なのか。

 

「凰さん。貴方もクラス対抗戦前の特訓ですか?」

 

「違うわ。さっきも言ったけどあたしは一夏に用があるの」

 

「一夏……にか」

 

チラリと箒は一夏の方に視線をやる。それはおそらくどういう反応をしているのか、確認したのだが、一夏はスッと前に出て、鈴の目の前に立った。

 

「鈴……」

 

「な、何よ」

 

真剣な表情で名前を呼び、深呼吸をする。状況を飲み込めていないセシリアはともかく、将輝と箒はごくりと固唾を飲んで見守っている。すると一夏が斜め45度。頭を下げた。

 

「悪い。俺が変な勘違いした所為で鈴を怒らせちまった。この通り、謝るから機嫌を直してくれ」

 

頭を下げたまま、手を合わせ許しを乞う一夏。彼がこういう行為をした事も驚きだ。何せ女子が「放っておいて」と言えば「おう」と返答する人間なのだ。それがこうして謝罪に出るというのは二度連続で起きた奇跡のようなものだ。

 

急に謝られた事に目を丸くする鈴。そして「何だやっぱり一夏か」と呆れる将輝と箒。展開が更に読めなくなった所為で頭の上に?マークを増やすセシリア。その中で頭を下げたままの一夏とかなり展開がカオスになり、初見なら「何やってんだ、こいつら?」となりそうだ。

 

「な、なんであんたが謝るの?」

 

訳も分からず混乱した鈴だが、相変わらず蘇生は早かった。

 

「いやな。前に約束の事で話をしただろ?あの時『俺が「毎日味噌汁を〜」的な意味か?』って聞いたら、鈴が顔を真っ赤にして部屋から出て行ったから。怒りのあまり飛び出して行ったのかと思って」

 

一夏の言葉を聞いた瞬間。話に取り残されていたセシリアは納得し、それと同時に同情と憐れみを含んだ視線を鈴へと向けていた。

 

「べ、別に怒ってないわよ。ま、前のは………一夏が覚えてるなんて思ってなかったから」

 

「ん?後の方が聞き取りづらかったんだが……」

 

「な、何でもないわよ!取り敢えず怒ってないから謝らなくていいの」

 

「鈴がそういうならいいけど……………じゃあ俺に用ってのはなんだ?」

 

「そ、それは………」

 

再度、鈴は顔を赤くして俯き、肩を震わせる。だが今度は逃げ出さなかった。勢い良く顔を上げ、一夏に指をさして、ハッキリと宣言した。

 

「クラス対抗戦に優勝したら、約束の答え。ちゃんと寄越しなさいよ!」

 

言いたい事を言い切ったのか、鈴はそのまま走り去る。どうやら凰鈴音という人間は走るのが好きなようだ。何せ退場する時はいつも走っているのだから。

 

宣言を受けた一夏はというと……。

 

「結局約束の本当の意味ってなんなんだ……?」

 

未だに合っている筈の約束の意味を考え、迷走していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合当日。第二アリーナ第一試合。組み合わせは将輝と鈴。

 

噂の新入生同士の戦いとあって、アリーナは全て満席。それどころか通路まで立っている生徒で埋め尽くされていた。会場入り出来なかった生徒や関係者は、リアルタイムモニターで鑑賞している。

 

まるで人気アイドルのライブだなと呑気な事を考えた将輝だが、視線と警戒は目の前でIS『甲龍(シェンロン)』を纏って待機している鈴に向けられている。名前の読み方から七つの球を集めると願いを叶えてくれるあれを連想してしまいそうだ。

 

『それでは両者、規定の位置まで移動してください』

 

アナウンスに促され、将輝と鈴は空中で向かい合う。その距離は五メートル。ISとの戦闘では殆ど零距離に近い。その距離で将輝と鈴は開放回線で会話をする。

 

「イギリスの代表候補生を倒したあんたの実力。見させてもらうわよ」

 

「お手柔らかに頼むよ。中国の代表候補生さん」

 

「安心しなさい。あたしは最初から最後まで全力よ」

 

何処に安心できる要素があるのか。だが少なくとも、勝敗に関わらず、試合後の気分は悪くない事は確かだろう。

 

『それでは両者、試合を開始して下さい』

 

ビーッと鳴り響くブザー、試合開始と同時に将輝と鈴は動いた。

 

ガギィンッ!

 

瞬時に展開した《無想》が物理的な衝撃で弾き返される。自身が攻撃するよりも早くに攻撃をされるのは想定の範囲内だった将輝は別段態勢を崩す事もなく、鈴を正面に捉える。

 

「初撃を防ぐなんてやるじゃない。ま、これくらいは出来てくれないと面白くないけどね♪」

 

鈴は手にしていた青竜刀と呼ぶにはあまりにもかけ離れた形状をした大型のブレードーーー《双天牙月》をバトンのように振り回す。両端に刃のついた、というよりと刃に持ち手がついているそれを、縦横斜めと自在に角度と威力を変えながら斬り込んでくる鈴。しかも、高速回転している分、捌くのは非常に苦労する。

 

(やっぱり強い……!でも甲龍の本命はこれじゃない)

 

「隙だらけよ!」

 

(来たっ!)

 

ぱかっと甲龍の非固定浮遊部位がスライドして開く。それと同時に将輝はその場を離脱すると、中心の球体が光り、見えないナニカが足元ギリギリを通過した。

 

「どりゃ!」

 

回避した勢いのまま、将輝は《無想》を振るうが、《双天牙月》により阻まれる。

 

(このまま長期戦になれば、圧倒的に俺が不利……………どうしたものか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだあれは……?」

 

ピットからリアルタイムモニターを見ていた箒が呟く。先程からモニターの向こう側では将輝がナニカを避けるように動いている事に疑問を感じた箒に同じくモニターを見つめるセシリアが答えた。

 

「『衝撃砲』ですわね。空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃自体を砲弾化して撃ち出す。ブルー・ティアーズと同じ第三世代型兵装ですわ」

 

「という事は飛んでくる衝撃は……」

 

「ええ。当然ながら見えませんし、砲身から軌道を予測するのも不可能………の筈ですが……」

 

「全て躱しているな。将輝は」

 

将輝は放たれる衝撃砲を全て躱している。初撃以外なら百歩譲って有り得るかもしれないが、初見殺しの衝撃砲を初撃すらも躱している。箒からすれば将輝の方が一枚上手だったと考える事もできるが、代表候補生たるセシリアから見ればはっきり言って異常だ。前情報なしであのタイミングの衝撃砲を躱す事など自身でも不可能だというのに、将輝は無理矢理ながらも躱して見せたのだ。

 

(まぐれ……と将輝さんは言うでしょうね。けれどあの動きは明らかに見て避けた……見えない砲身と砲弾を)

 

(将輝…………)

 

箒が将輝の無事と勝利を祈り、セシリアが眉を顰め、考えている時、モニターの向こう側に変化が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく躱すわね。衝撃砲《龍咆》は砲身も砲弾も見えないのが特徴なのに」

 

そう言って不敵に笑ってみせる鈴だが、心中は其処まで穏やかではなかった。しかし焦っている訳でもなかった。

 

初見殺しの衝撃砲。知らなければまず避けられる者はほぼいないと言っていいタイミングで放った《龍咆》がたかだかISを起動させて一月しか経っていない男子に躱された。これ程までに異常な状況でもまさか自分が笑っているという事にもつくづく驚きだった。

 

第三世代型兵装たる衝撃砲が当たらない、という事実にすら鈴は喜びを見出していた。それほどまでに目の前の男子は強い。そう思うだけで鈴は自身の感情がどんどんと昂るのを感じた。

 

(これは堪らないわね!)

 

《龍咆》からマシンガンのように見えない砲弾が放たれる。連射の方を優先しているため、威力は低いものの、一度当たってしまえば、何発ももらってしまうのは目に見えている。その為、低い威力のものも将輝は完全に避けるようにしていた。

 

(いくらわかっていても、砲身も砲弾も見えない、おまけに砲身斜角も殆ど制限なしで撃ってくるから反撃の隙が見出せない。かと言ってダメージ覚悟で突貫してもそれはただの無謀だ。戦術でもなんでもない…………となるとあれを使うか?成功率は五分と五分。賭けとしては悪くない……けど失敗すれば負けは確実だな)

 

とはいえ、そうしなくてもその内負けてしまうのも事実。逃げ回った挙句、負けてしまうのでは話にならない。勝てるのであれば、逃げ回るのも一つの手ではあるが、負けてしまうのでは意味がない。ましてや、これだけの衆人環視の中で、そんな負け方だけはしたくはない。

 

(なら賭けに出るか!)

 

衝撃砲を躱しながら、射程を徐々に短くする。何かを仕掛けてくる。そうわかった鈴は連射速度をあげるが、それは同時に当たった時のダメージも下がり、特攻を可能にさせる事になった。

 

それを将輝は見逃さなかった。

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)』。特訓期間中、将輝はセシリアにこの技を教えてもらっていた。言い出したのはセシリアではなく将輝で、近接武装を主とする将輝には必要な技能である。最初は十回して一回成功すれば良い方ではあったが、今では五分と五分。そして此度賭けに勝ったのは将輝だった。

 

急激な加速によるGで意識がブラックアウトするのをISの操縦者保護機能が防ぐ。

 

「うおおおおおっ!」

 

一度しか使えない奇襲。白式の零落白夜のように高火力の一撃を将輝は持ち合わせていない。正確には一段階劣るものを持っているが、どういう訳か特訓期間中もそして今も発動出来ていない。となると必然的に奇襲によるダメージは微々たるものになってしまうが、何も将輝とて考え無しというわけではない。これはあくまで攻撃というより、イベントのようなものだ。

 

(もし、あいつが何かを仕掛けてくるなら、これが合図になるはずだ!)

 

無想の刃が鈴に届きそうになった瞬間、爆音とともに大きな衝撃がアリーナ全体に走った。

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