「うっ…………?」
全身の痛みに呼び起こされ、将輝は目を覚ました。
状況がわからず、周囲を見回すと其処が保健室である事がわかる。何せ、先月に一度お世話になっているからだ。
カーテンで仕切られた空間は狭いゆえに息苦しさを感じさせるが、それと同じく安堵を感じる。広過ぎる空間より狭い空間の方が落ち着くのは人の常だろう。割とどうでもいいが、将輝は狭い空間の方が好きだ。
ぼんやりとしつつも、落ち着いた意識の中で将輝は情報を整理する。
(身体が痛いって事は爆発には巻き込まれた。けど、生きてるって事はあんまりえげつないものじゃなかったって事だよな……)
もしアリーナを巻き込む程のものであれば、絶対防御があったとしても確実に死ぬ。運が良くて死体が残る程度だろう。地味に自身が生と死の境界線に立っていた事に身震いする。
「気がついたか」
確認を取る前にシャッとカーテンを開いたのは教員の織斑千冬だった。開けるのは一向に構わないが、せめて確認くらいはしてほしいというのが、将輝の心情だ。
「身体に致命的な損傷はないが、全身に打撲に筋肉痛、それと火傷もある。おまけに骨も何本か折れたり罅が入っている。当分は地獄だろうが、まあ慣れろ」
「はは……どうりで痛い訳だ」
千冬の言う通り、体の至る所から鋭かったり、鈍かったりする痛みが周期的に襲ってくる。これでは当分、いつも通りの生活は困難になる事は明白だった。
「しかしまあ、よく死ななかったものだ。絶対防御があったとはいえ、零距離でISの自爆に巻き込まれて、それで済んだのは最早奇跡としか言えんな」
「奇跡を呼ぶ男ですからね、俺は」
「減らず口が叩けるのなら、授業の方も受けられそうだな」
「まあISを動かすのは無理ですけど、それ以外ならある程度は」
「そうか。では、私は後片付けがあるので、仕事に戻る。お前は明日までここで安静にしていろ、いいな」
それだけ言い残すと千冬はすたすたと保健室を立ち去った。相変わらず仕事には真面目な人間だ。それを一割でもプライベートに回す事が出来れば、全てにおいて弱点のない女性になれるのだが。彼女が家事が出来ない事もある意味では魅力であり、需要もあるので、なんとも言えない。因みに需要があるのは専業主夫の方々。
「あー、ゴホンゴホン」
千冬と入れ違いに誰かが入ってくる。しかし、そのわざとらしい咳払いは名前を言っているようなものだ。
「やあ、箒」
「う、うむ」
半分だけ開いていたカーテンから顔を見せたのは箒だった。だがその顔は半分しか見せておらず、身体もほとんどカーテンに隠している。だというのにあれ程明確に自身が来たという事をアピールしたのは何故なのだろうか。
「どうしたの?」
「そ、そのっ、だな……」
何時もはきっぱりというのに、何故だか妙に歯切れが悪い。視線も泳いでいるし、それはまるで親に怒られている子どものようだ。
「すまなかった!」
「ぎゃふん⁈」
カーテンから手を離し、勢い良く頭を下げて謝る箒。綺麗に九十度下げられた頭は見事将輝の頭頂部へと下ろされ、ズタボロの将輝に危うくトドメをさしかけた。
「ま、将輝!大丈夫か⁉︎」
「…………こ、今回は大丈夫じゃないかも……」
(うぅぅ………何故何時も行動が裏目に出てしまうのだ……)
テテテッテテーン‼︎箒はドジっ娘属性Lv1を身につけた‼︎
「……………何かもの凄く不名誉なことを言われた気がする」
「どしたの箒?」
「いや、何でもない…………そ、それよりもだっ!」
ずずいっと箒は顔を将輝のすぐ目の前まで近づける。
「な、な、何かな……?」
「怪我の方はどうなのだ⁉︎さっき千冬さんに聞いたが「本人に聞けばいいだろう」といって教えてくれなかったのだ」
「えーと…………軽い打撲と火傷だけだよ。二、三日安静にしてれば大丈夫だって」
「そうか…………それは良かった」
実際は骨折しているのだが、心配させまいと強がって言ったのが功を制した。
「時に箒は何で俺に謝ろうとしたの?」
「私が軽率な行動を取った所為で将輝を危険な目に遭わせてしまったんだ。謝るのは当然だ」
軽率な行動とは先程の一件で箒が中継室を無断使用して叫んだあの事だ。確かにあれが原因で将輝は作戦を破棄して、単独で無人機と戦闘し、紆余曲折を経て倒した結果、こうして保健室のベッドの上にいるのだが、将輝としてはそれの何処に謝る要素があるのかと寧ろ問い返したい程であった。
「う〜ん。イマイチ謝られる理由がピンと来ないけど、確かにあれは軽率だね。もし、箒に何かあったら大変だから、これからはああいうのは慎むように」
「わ、わかっている…………。今後はああいった行動はしない……」
「それなら良いんだ。はい、これでお終い」
「相変わらずこういう事にはサバサバしているな。普通ならもっと気にすべき事だと思うのだが」
「しんみりした空気は好きじゃないから。それに俺も今回は反省しなきゃいけない事もあるし」
反省すべき点は幾つもあった。原作よりも本筋が大きく逸れた事で原作と同じ事は起こるまいと何処か安心しきった結果、箒の行動を予測出来ていなかった。無人機もコアさえ潰せば自爆はしないと決めつけてしまっていた。周囲が強かったお蔭で任せてしまえば、それで何とかなると高を括ってしまっていた。その結果が危うく自身の命を落としかねない事態になった。
「とにかく、俺は大丈夫だから。心配してくれてありがとう」
「と、当然だっ!ま、将輝は私の…………た、大切な……」
「?ごめん。後半の方がよく聞こえなかったんだけど」
「な、何でもない!私は今日の鍛錬があるから、これで失礼する」
箒は逃げるような足取りで保健室を去った。それでも一応はカーテンもドアも閉めては行くのだから、将輝の身は案じている。
話すのを止めたからか、将輝は急な眠気に襲われるとその流れに身を任せ、心地良く、ベッドに横たわった。
「と、いうわけで藤本くん。お引っ越しです」
「はぁ………そうですか」
目を覚ました直後、いきなり保健室に現れた真耶は開口一番にそう告げた。
「引っ越すのは俺ですか?セシリアですか?」
「えーと、オルコットさんの方ですね。部屋の調整が付いたので、今日から同居しなくて済みますよ」
「で、セシリアはなん「将輝さん!」」
バンッと勢い良く扉を開いて現れたのはちょうど話に出されたセシリアだった。走ってきたのか、肩を上下させ、呼吸も荒い。
「将輝さん!このような時間になってしまって申し訳ありません!本来ならばいの一番に駆けつけなければならないというのに織斑先生に勝手にISを使用した事で反省文を書かされていましたので、遅れてしまいました。怪我の方は大丈夫ですか⁉︎わたくし、そればかり気になって、反省文の方もかなり支離滅裂な内容になってしまいました。お怪我をしているというのにこう言うのはおかしいかと存じますが、ご無事で何よりです。当分の生活はこのセシリア・オルコットが全身全霊をかけてサポート致しますので任せてください!昼夜問わず、将輝さんの要望には応える次第です。その………殿方ですので何かと溜まるとは思いますが、其方の方もしっかりサポートさせていただきます」
「いや、最後のは良い。それだけはしちゃいけない。ていうか、セシリアは知らないの?」
「ほぇ?何をですか?」
「引っ越しの話」
「引っ越し?誰が?何処に?」
「セシリアが別の部屋に。で、俺が一人部屋。因みにこれ先生方の決定らしいぞ。ですよね、山田先生」
「はい。何時迄も年頃の男女が同室で生活をするのはかなり問題がありますし、起きてからでは元も子もありませんから、それにオルコットさんもくつろげないでしょうから」
確かに年頃の男女が同居するというのは世間的に見てもかなり問題がある。ましてや将輝は世界でも貴重な男性IS操縦者、セシリアはイギリスでは大財閥の当主であり、イギリスの代表候補生。もし事が起きればスキャンダルところの騒ぎでは無くなるし、それをネタにイギリスが将輝を自国に引き込もうとするかもしれないし、セシリアがそれを強要されるかもしれない。日本政府としては今世界で最も重要な男二人を他国に渡す訳にはいかない以上、早い内に部屋を個室にしたいのは当然ともいえる判断だ。
「お、お待ち下さい!わたくしは将輝さんと同室でも何も問題ありませんわ!それにこのような怪我をしている方を一人暮らしにしてしまうのはそれこそ問題ですわ!英国淑女としてそのような方を放っておいて生活をするなど耐えられません!」
「それなら大丈夫ですよ。隣の部屋は織斑くんですし、もしもの時の為に部屋には職員室にすぐ連絡が出来るようにコールボタンも置いてますから」
「そうだよ。ちょっといきすぎな気もするけど、セシリアの手を煩わせる程でもないから」
「うぅぅ……………将輝さんがそういうのであれば……誠に!ええ、それはもう非常に遺憾ですが!仕方なく!部屋を出ると致します」
『本当は嫌』という部分をかなり強調していうセシリアに思わず苦笑する将輝。因みに考えているのは「そんなに部屋を移動するのが嫌なのか」というズレた事を考えている。それを気取られないのが一夏と将輝の違い。一夏は考えている事がすぐに顔に出るタイプなので、すぐに気取られる。
「将輝さん!もし不都合があれば、何時でもわたくしの部屋を訪ねてくださいまし!」
「あ、ああ。そうするよ」
セシリアはそう言い残すとすたすたと保健室を後にしていった。
「では藤本くん。私も仕事に戻りますね、何かあったらすぐ呼んで下さい」
真耶もぺこりと一礼した後、静かに保健室を去っていった。
二人が去った後、将輝はドサリとベッドに横になるが、先程まで眠っていた所為か、眠気がない。
(はぁ………これで何とか一つの山場は乗り切ったって感じかな。次はあの二人か、出来れば問題なく済ませたいけど………………多分無理だろうな)
そしてその予感は的中する事になる。
学園の地下五十メートル。其処はレベル4権限を持つ関係者しか入れない隠された空間に織斑千冬はいた。
本来であれば謎の敵ISも此処に運びこまれる予定だったのだが、将輝諸共自爆した所為で解析する事は叶わなかった。その代わり、千冬は二時間の間、何度もアリーナでの戦闘映像を繰り返し見ている。
室内は薄暗く、ディスプレイの光で照らされた千冬の顔は、酷く冷たいものだった。
こうして何度も何度も見ているが、気になる部分はやはり将輝が敵ISの腕を斬り落とした時だ。切断面から見えるのは機械的な部品のみでやはり人らしい部分は見えない。それは胴体を斬り裂いた時も同様だ。
「無人のISか……」
世界中で開発が進むISの、そのまだ完成していない技術。遠隔操作と独立稼働。そのどちらか、あるいは両方の技術があの謎のISに使われている。驚くべき事だが、千冬にはそれ以上に将輝の方が気になった。
結果的に無人機だったとはいえ、何の躊躇もなく腕を斬り落とした。胴体を斬り裂いた時も人が乗っていれば確実に致命傷になる一撃だ。それに将輝の専用機たる『夢幻』もまたあの時、千冬の知るスペックを遥かに上回る動きを見せた事もそうだ。
(藤本将輝と夢幻……か。一度詳しく調べる必要があるのかもしれん)
将輝については簡単な素行調査は行っている。IS科学者として有名な両親を持つ。自身も中学時代に剣道大会男子の部で全国優勝経験あり。至って普通の男子というのが千冬の感想だ。しかし、映像越しにもわかる殺意を宿した瞳はその判断を大きく覆した。
何より将輝の専用機として稼働している『夢幻』が何よりも怪しい。本来ならばクラス対抗戦にすら間に合わないとされていたものが、白式と同じ時期に届いた。どれだけ優秀な科学者でもそんな短期間に仕上げるのは不可能だ。ただ一人を除いては。
千冬は二人の背後に自身のよく知る人物の影が関係していると何処か確信すると同時に溜め息を漏らした。
これで原作一巻終了‼︎
次回はISキャラで二巨頭を誇るあの二人だ!将輝がどういった風に巻き込まれていくのか、乞うご期待!
ついでに筆休め程度にハイスクールD×Dでも書きたいと思っています。良かったら見て下さい。多分今日中には書くと思うので。