憑依系男子のIS世界録   作:幼馴染み最強伝説

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暴走

 

(こんな………こんなところで負けるのか、私は……)

 

確かに相手は自身よりも劣っていた。負ける要素などなかった。だというのにエネルギーが無くなったのは自身の方だ。何故?如何して?『強者』である筈の自分が『弱者』に負けなければならない?

 

(私が『弱者』だから………?違う!私は『強者』だ!あの頃とは違う!教官のお蔭で強くなった!私は負けない!負けられない………!あの人の人生に汚点を残した織斑一夏を葬るまでは!)

 

その時、ドクンとラウラの心の奥底で何かが蠢く。

 

『ーーー願うか?汝、自らの変革を望むか?より強い力を欲するか?』

 

考えるまでもなかった。『強者』に敗北は許されない。まだ目の前にいる敵は立っている。『弱者』であるならば完膚なきまでに叩きのめし、地に伏せていなければならない。

 

(力を寄越せ……!私は今もそしてこれからも勝ち続けなければならない!その為の力を私に寄越せ!空っぽの私など…………迷いを生むだけの余計な物など全てくれてやる!)

 

Damage Level………D.

 

Mind Condition………Uplift.

 

Certification………Clear.

 

 

《Valkyrie Trace System》…………boot.

 

「あああああああっ!!!!」

 

突然、ラウラは身を引き裂かんばかりの絶叫を発する。それと同時にシュヴァルツェア・レーゲンから激しい電撃が放たれる。

 

「これは一体……⁉︎」

 

「ま、かなり不味い事は確かね」

 

今まで傍観を決め込んでいた鈴が専用機『甲龍』を展開し、セシリアの横に並び立つ。本人としては楽しそうに呟いたつもりだったが、目の前の異様な光景を目の当たりにし、声には言い知れぬ緊張感があり、表情も強張っていた。

 

二人の目の前ではラウラのISがその形を変化させていた。

 

変形などという生易しいものではない。装甲をかたどっていた線は全てぐにゃりと溶け、ドロドロになり、ラウラの全身を包み込んでいく。

 

ISは変形が出来ない。

 

ISがその形状を変えるのは『初期操縦者設定』と『形態移行』つまり『一次移行』や『二次移行』と呼ばれるものだ。パッケージによる多少の部分変化はあれど、基礎の形状を変化することはまずない。あり得ない、そう出来ている。

 

だがしかし、そのあり得ない事が二人の目の前で起こっていた。

 

シュヴァルツェア・レーゲンだったものはラウラの全身を包み込むと、その表面を流動させながらまるで心臓の鼓動のように脈動を繰り返し、ゆっくりと地面へと降りていく。それが大地へとたどり着くと、まるで倍速再生を見てるかのようにいきなり高速で全身を変化、成形させていく。

 

そして其処に立っていたのは、黒い全身装甲のISに似た『何か』。しかしの形状は先月の襲撃者とは似ても似つかない。

 

ボディラインはラウラのそれをそのまま表面化しており、最小限のアーマーが腕と脚につけられている。そして頭部はフルフェイスのアーマーに覆われ、目の箇所には装甲の下にあるラインアイ・センサーが赤い光を漏らしていた。

 

そしてその手には二人にも見覚えのある武器が握られていた。

 

「あれは……ッ⁉︎」

 

「嘘……!《雪片》……!」

 

その手に握られているのはブリュンヒルデである織斑千冬のかつて振るっていた刀。酷似といえるレベルではない。まるで複写だ。

 

刹那、黒いISは二人の懐に飛び込んでくる。居合いに見立てた刀を中腰に引いて構え、必中の間合いから必殺の一閃を放つ。二人には分からない事だが、それは紛れもなく千冬の太刀筋だった。

 

ガギンッ!

 

放たれた一閃を鈴は《双天牙月》で受け止める。しかし、その黒いISの一撃はパワータイプである鈴を容易に押し返し、上段の構えへと移るが、セシリアの近距離からの連続射撃に後方へと退避する。

 

「彼女の奥の手………というわけではなさそうですね」

 

「今の攻撃も回避も、操縦者の事なんかまるで考えちゃいないわ。それにあの状態が操縦者にどんだけ負担かけてるかわからないし、早いトコ倒したほうがいいのは事実ね」

 

「では一時共同戦線と行きましょう」

 

「まあ状況が状況だしね。文句は言ってられないわ。援護は任せたわよ!」

 

「ええ。後方支援はこのセシリア・オルコットに任せてくださいまし!」

 

鈴の突撃に合わせて、ビットが逃げ道を潰すように射撃を行う。しかし、黒いISは全く動く素振りを見せない。

 

「はっ!逃げる必要はないって言いたいわけ?上等じゃない」

 

回転させる事で威力の増した一撃を黒いISは難なく弾いた。鈴はそれに対して既に予期していたのか、驚いた素振りなど見せず、《双天牙月》から手を離し、黒いISの腹部に掌打を放った。黒いISは後方へと数メートル飛ばされるとすぐさま反撃に転じようとするが、セシリアからの援護射撃がそれを阻んだ。

 

「元々あたしの戦闘スタイルは『無手』よ。武器なんてなくたって十全に闘えるわ。まあ、あるに越した事はないけどね」

 

彼女が僅か一年で代表候補生へと至り、第三世代IS操縦者へと抜擢された最たる理由。それは純粋なまでの戦闘力の高さ。武器を持たずとも彼女は中国の代表候補生の中で頭一つ抜ける程の強さを誇っていた。本人の身体能力はさる事ながら、ISとの相性も抜群だった彼女が『甲龍』の操縦者に選ばれるのは時間の問題だったといえた。

 

近接戦闘で高い実力を誇る鈴と現在後方支援へと回っている『蒼天使』の異名を持つセシリア。二人のISの相性もまた抜群だった。

 

鈴が攻撃に転じれば、ビットが逃げ道を潰し、敵の隙を作るべく牽制する。逆に敵が反撃してくれば、鈴を護るようにしてビットが行く手を阻む。セシリア本体を狙いにいこうにも本体自身も高い実力を有しており、セシリアを狙う事は鈴に背後を見せる事になる。そうなれば挟み込まれて終わりだろう。

 

だが、それはあくまで相手が常識の範疇を超えなければの話だ。目の前にいる黒いISにはそれが通じなかった、否、非常識という微かなほころびを無理矢理こじ開けた。

 

《双天牙月》を素手で受け止めるとそのまま片手で《雪片》を袈裟斬りに振るう。咄嗟に回避した鈴だが、その鋭い一撃で肩の装甲を破損し、衝撃砲が使用できなくなった。そして武器も黒いISによって取り上げられ、その後方に投げ捨てられてしまっていた。

「これってもしかしなくてもかなりマズい状況じゃない?」

 

「ええ。それはもう。どういう理屈か知りませんが、あの黒いISーーー」

 

「学習してるわよね。どうみても」

 

鈴の言葉にセシリアは同意する。彼女の言う通り、黒いISは徐々に二人の戦術に適応してきていた。セシリアの偏向射撃も手前で曲がるというのに回避して見せたのだ。これは二人にとってかなりマズい状況であった。

 

「ったく、こんな短時間に適応するなんて、早すぎよ」

 

「わたくしの場合は既に彼女と戦っていましたので、より適応が早いようですわね。となると短期決戦以外にこちらの勝利はない。そう考えた方が宜しいですね」

 

「ちょっと危ないかもしれないけど、ここは一つ賭けに出てみるってのはどう?」

 

「内容は?」

 

「ーーーーーーーーでいくわ」

 

「却下です………と言いたいところですが、今はそれしかありませんわね」

 

「援護よろしく」

 

鈴は身体を深く沈めると瞬時加速で黒いISへと肉薄し、掌打を放つ。黒いISはそれを《雪片》で受け止めるとそのまま回し蹴りを叩き込み、数メートル先へと吹き飛ばす。

 

黒いISが目標を鈴からセシリアへと切り替え、肉薄しようとしたその時。

 

「この時を待ってたわよ!」

 

《双天牙月》を投擲した鈴が黒いISに再度仕掛けていた。

 

先程はあえて黒いISの攻撃を受ける事で自身を目標から外れさせると同時に《双天牙月》の回収が目的だった。そして其処から《双天牙月》を投擲し、それとほぼ同時に仕掛ける事で隙を作り出すという作戦だ。

 

この作戦の最大のポイントは黒いISに《雪片》での攻撃を受けない事と追撃されないことだ。もし《雪片》の攻撃を受ければひとたまりもない。そして追撃されれば操縦者に危険を及ぼす事になる。かなり危険な賭けだったが、それは見事に成功した。

 

投擲された《双天牙月》と共に仕掛ける鈴。ビットによる偏向射撃とセシリア自身からの精密射撃という全方位同時攻撃。もし回避の姿勢を取れば必ず一発は当たり、二人の追撃を許すことになる。

 

どう足掻いてもダメージは免れない状況。その中で黒いISが取った行動はーーーーー回避しない事だった。

 

高速で回転し、接近する《双天牙月》を左手でキャッチし、偏向射撃を《雪片》で斬り払う。胴体にセシリアの射撃を受けるも意に介さず、突進してくる鈴に向けて、《双天牙月》を投げ返した。

 

自身が投げた時よりも更に速く高速回転しながら飛来する《双天牙月》を回避した鈴だったが、既に黒いISの打突が直前まで迫っており、辛くも直撃は避けるももう片方の肩装甲が破壊され、速度を殺さずに放たれた蹴りに吹き飛ばされた。

 

「グッ……⁉︎」

 

黒いISの鋭い蹴りをモロに受けた鈴はアリーナの壁へと強く打ち付けられ、意識を失いかけるが、ISの保護機能により、意識の消失だけは避けた。

 

黒いISは既にセシリアに標的を切り替えており、セシリアやビットからの攻撃を斬り払い、その距離を詰めていっていた。

 

(マズい……セシリアじゃ、あのISの攻撃を凌ぎきれない……)

 

脚の装甲は先のラウラとの戦闘で破損しており、エネルギーも消耗している。何よりセシリアは近接戦闘の技術を高めてはいるが、近接戦闘が特徴ではない。あくまで距離を詰められた時の対処法でしかない。ラウラとの戦闘ではいなしきれてはいたものの、黒いIS相手では到底無理だ。

 

何とかして鈴は起き上がろうと身体に力を込めるが、ダメージは思いの外大きくすぐに立ち上がる事は出来なかった。

 

必死に起き上がろうと鈴が足掻いている内にもセシリアと黒いISの距離は殆ど無かった。

 

ミサイルビットは使えない。偏向射撃も斬り払うか、或いはかわされる。絶望的な状況でもセシリアは攻撃の手を緩めなかった。しかし、黒いISは弾雨を掻い潜り、セシリアへと斬りかかる。

 

《インターセプター》を呼び出したセシリアは振るわれた《雪片》を受け流そうとするが、あまりにも強大な一撃に受け流す事には成功するも《インターセプター》は破壊され、黒いISが返した《雪片》の柄に殴り飛ばされる。

 

鈴と同様、壁に叩きつけられたセシリアは意識が朦朧としている中、静かに歩み寄ってくる黒いISを見やる。

 

(ふふ………呆気ないものですね。まさかこのような所で果ててしまうとは)

 

何かを叫ぶ鈴の声は何処か遠く、振り上げられた《雪片》の動きもまたスローモーションのように感じた。

 

静かにだがより確実に自身に迫る終わり。

 

セシリアの記憶を駆け巡るのは、自身の想い人との記憶。短いほんの少しの記憶ではあったが、彼のお蔭でセシリアは強くなれた。彼への汚名を晴らした上で果てるのならそれはそれで満足だ。心残りがあるとすれば、それは彼に秘めたる想いを伝えられなかった事ぐらいだ。

 

「将輝さん……」

 

振り下ろされる《雪片》。セシリアがゆっくりと瞳を閉じた時ーーー。

 

「ーーー全く、リハビリにしちゃ、ちと激しい気がするな」

 

ガギンッ。

 

激しい金属音。セシリアへと振り下ろされた《雪片》を直前で防いだのは『夢幻』を展開し、《無想》で受け止めていた将輝だった。

 

 

 

 

 

 

 

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