憑依系男子のIS世界録   作:幼馴染み最強伝説

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歪んだ歯車

 

水着に着替えた将輝は、準備運動を終え、早速海で泳ぐ…………事はなく、潮の流れに身を任せてぷかぷかと浮いていた。

 

せっかくの海だというのに、泳がないというのはいささか勿体無い気もするが、たまたまそういう気分だったのだ。他の生徒達とは離れた場所で海に浮いているともなれば、何かの罰ゲームかいじめにあったのかと勘違いされてもおかしくはないが、今は一人で静かに過ごしたい、とそう考えていた。

 

「はぁ〜、平和だなぁ」

 

一夏のように何処かジジ臭い台詞を吐いてしまうのも無理はない。期限は明日。明日になればあの事件は発生する。当たり前の事を当たり前のように言わなければかき消えてしまいそうな気がして、将輝はそう言わずにはいられなかった。

 

(皮肉なもんだ。あれだけ非日常を求めてたってのに、今は平和が良いなんてな)

 

何時迄も変わりなく繰り返される日常に嫌気が差して、いつもいつもそんな日常を壊してくれるような非日常ばかりを求めていた。そして朝起きる度、何も変わっていない日常に何処かストレスを感じつつも、変革する力を持たなかったが故に世界に変革を求めた。結果として、変革は訪れ、こうして創作物の世界へと身を落とした。自身の望んだ変革は成就された。だというのに、今はこうして現状維持を望むのだから、人間とは何処までも欲深い生きものだ。

 

「その歳で早くも人生を達観か?そんな事ではこの先生きていけんぞ?」

 

そう言って、現れたのは意外な人物。

 

スポーティーでありながらメッシュ状にクロスした部分がセクシーさを演出している黒水着。胸の谷間がしっかりと露出するようになっている水着で、視線は必然的に其処へ吸い寄せられてしまう。腰に当てた手は何時もと同じはずだというのに、妙に色っぽく見え、それと同時にモデルのような格好良さも兼ね備えている。

 

「……織斑先生」

 

「意外か?私からお前に話しかけるのは?」

 

「ええ、まあ」

 

千冬が話しかけてきたということもあり、将輝は海から出て、近くにあった岩の上に座る。千冬も同様に隣に座る。

 

「織斑達の所へは行かんのか?あれはあれでお前の事を心配していたぞ」

 

「たかだか車酔いしただけじゃないですか」

 

「ああ、違う違う。ここ最近のお前の事だよ」

 

あまりにも唐突にけれども何でもないように千冬は言う。それに一瞬将輝は千冬の顔を見やるが、千冬は表情一つ変えず、言葉を続ける。

 

「何かに悩んでいる、いや怯えているといった方が正しいか。ともかくここ最近のお前は誰の目にも明らかにというわけではないが、違和感を覚える節があった」

 

「悩みなんてありません」

 

「お前がそう言うのなら良いがな。私としてはそれより聞きたいことがある」

 

「俺に…ですか?まあ、良いですけど」

 

「お前はあいつとーーー篠ノ之束と面識があるか?」

 

「ありますよ」

 

隠す必要はない。千冬がそれを聞いてきた時点で彼女には束と将輝が繋がっているという確信が持っているからだ。事実、千冬は将輝の返答にも大して驚きも見せず、質問を続ける。

 

「無人機とVTシステムの一件、奴は関係しているか?」

 

「それは………」

 

将輝は言い淀む。わからない、そう言ってしまえば済む話だ。けれど、千冬は今自分の事を束の差し向けてきた人間なのではと疑っている。このまま疑惑を持ち続けられたまま、学園生活を続けていれば何れもっと大きな何かに気付かれてしまう。かと言って何もかも知っていると答えればそれもまた千冬に不信感を与えかねない。故に将輝は話すのを躊躇ってしまう。

 

「束は……中学の時何度か家に来る事がありました。理由は話してくれませんでしたが、彼女なりに何かしら思う事があったみたいです」

 

「心当たりはないのか?」

 

「ええ、まあ。あいつの考えてる事は俺には想像もつきません」

 

「そうか」

 

千冬はすっと立ち上がると来た時と同じようにその場を立ち去った。束と同様に掴み所のない人物といった点ではやはり彼女達は似た者同士だと言える。他にもシスコンといった部分も挙げられるが。

 

結局、将輝は一夏達と合流する事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

織斑千冬は先程まで話していた人物ーーー藤本将輝に不信感を抱いている。

 

普段は特に目立った行動こそ取らないが、自然と輪の中心にいるようなそんな生徒。

 

感情で先走りする一夏とは違い、考えて行動するタイプ。怒っているのを見た事はなく、気遣いの出来る男子。手のかからない良い生徒という認識だった。

 

しかし、無人機の一件、自ら時間稼ぎを名乗り出て、途中で一夏やセシリアからの援護は受けるも最終的には見事撃破した。何より、その援護すらも自らが手を回して行っている。

 

VTシステムの一件も過程が違うとはいえ、最終的に倒したのは将輝だ。状況も敵も違うとはいえ、騒動の中には必ず将輝がいた。

 

初めは偶然だと考えた。だが其処に自身の親友の陰がチラついて仕方なかった。そして聞いた結果、帰ってきたのは肯定の返事。

 

二つの事件との関連性については言葉を濁していたが、それは何かを知っていると言っているようにも取れた。

 

たかだか一介の男子高校生が誰も知り得ない情報を知っている。そうなると束と何かしらの繋がりがあり、情報を事前にキャッチしていた、という可能性が一番濃厚だ。

 

もしそうなれば、今回も何かしらの事件が将輝を中心に起こる可能性が高い。千冬はそう思っていた。

 

けれど本当は何もかも違っていた。将輝が事前に情報を知っていたのは世間一般で憑依と呼ばれる事象を経験している所為で、束と繋がっていない事を。

 

合っているとすれば、今回の事件が読み通り、将輝を中心に起こるものである事だけだ。そしてそれを将輝本人は知らない。

 

自身が起こした奇跡も、そして自身が起こす惨劇も。

 

 

 

 

 

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