時期的には交流戦後〜束と邂逅くらいです。
一話だけでなく、四つくらいを集めた感じです。
ーーーーー完全感覚プレイヤー達の常識?ーーーーーー
「将輝。こんな所で何をしている?稽古が始まるぞ」
「すぐ行くよ」
男女の交流戦後、一応完全な入部となった将輝だが、正直あまり気乗りはしなかった。
彼女が何故各地を転々とせずにこの地に留まっているのかについてはおいおいわかるだろうと聞くことはしていない。まだ親しくなったばかりの相手にそれは野暮というものだからだ。しかし、問題は剣道の方だ。
部活動をした事がないわけではなかったが、格闘技系は初めてであったし、何方かといえば教えて欲しい側の将輝に対して、部員達は教えを乞いに来る。勝手に動く身体と無茶な作戦を駆使する将輝に教えられる事などないし、そもそも教えるのも得意ではない。ほとほと困り果てた将輝は仕方なく一から剣道を勉強する事にした。だが………
(はぁ……やっぱ感覚派の俺に教えるっつーのは難易度高いよなぁ)
これが将輝の教えるのが苦手たる所以だ。何をするにしても感覚でしていた将輝はそれを伝えようとすると同じく感覚派の人間でない限り、ほぼ伝わらない。語彙は豊富であれ、それを伝える能力が将輝には滅法低いのだ。
「何を読んでいるのだ……………ふむ、指南書の類か」
「正直、お手上げだよ。本当指導者になる人には尊敬するよ。あれはもう才能だ」
「確かにな。どれだけ偉大な成績を残した選手でも指導者としては全く成績を残せない者もいる訳だから、教える才能というのは想像以上に重要だな」
手にしていた『猿でもわかる!剣道指南書!〜初級編〜』と表紙に描かれた本を閉じ、横に置いてあったバッグの中に入れる。実に頭の悪い題名であるが、これがなかなか理解しやすく、将輝の伝える能力さえ高ければ問題はなかったのだが。
「いっそこの本を皆に見せるか」
「それはマズイだろう。というか、初級編では意味がないではないか」
「中級編も上級編もあるぞ。そして最後に地獄変だ。次に出るのは天獄変らしい」
バッグの中から取り出したのは猿でもわかるシリーズの中級編と上級編。そして最後に出した地獄変に関しては猿がこれ見よがしに剣を帯刀し、阿修羅の如く振り回している様だ。その部分だけ見れば、実に頭の悪い作品である事が伺え、それは箒も同様だった。
「何故最後が一番頭が悪そうなのだ」
「そうでもないぞ。一通り読んでみたけど、なかなかいい勉強になった」
「一晩で読んだのか?凄まじい速さだな」
「こう見えても読書スピードは速い方でね。何回か読み返して粗方理解したんだけど……………それが生かされてないから何とも」
何せ将輝の小説の類を読むスピードはべらぼうに速かった。内容が面白ければ面白いほどに速くなる。響きだけで言えば、何処か強そうだ。
「取り敢えずやるだけやってみるよ。案外通じるかもしれないし」
「では私も横から聞いてみよう。何かしらヒントが得られるかもしれん」
「バンバン駄目出ししてくれると助かる。箒の方が剣道には詳しいだろうし」
「ああ、任せろ」
「で、ここがこうなって、こうして、こうやるんだ」
「は、はぁ……」
「あ、違う違う。其処はこう脇を締めてシュッと行く感じだ」
「う、うす!」
「大振り過ぎだよ。もっとコンパクトにズバッて感じじゃなくて、ヒュッて感じ」
「はい!」
剣道場に着いた将輝は男子主将に任され、一年の指導をしているのだが、案の定、擬音と感覚の入り混じったよくわからない指導となっており、十四人中三人程しか理解が出来ていなかった。だがその理解出来ている三人にすらも稀に分からない時があるらしく、結果として完全に理解できているものはいなかった。
「う〜ん。やっぱり他人に教えるのは向いてないな」
「そうか?私はこれ以上ないくらいわかりやすかったのだが………」
「え?」
「え?」
篠ノ之箒。彼女もまた擬音と感覚の入り混じったよくわからないものがわかる極限の感覚派だった。
ーーーーー踊らない放課後捜査線ーーーーー
「あれ?箒、何やってんの?」
放課後の教室。忘れ物を取りに来た将輝は教室で一人残り何かをしている箒を見つけた。
「実は探し物をしていてな。こうして皆が帰った後に探しているのだ」
「へぇ〜。それってもしかして何時も付けてるリボンの事?」
「よくわかったな」
「何時も見てるからね」
「そ、そうか…」
将輝の答えに恥ずかしいのか箒の顔が若干赤くなる。尤も見ているといっても、気になる(周囲に馴染めているか)からであるが。
「緑のリボンだよね?どの辺で無くしたの?」
「あ、ああ。確かこの辺りだと思うのだが……」
こうして二人はリボンを探し始めたが、なかなか見つからず、三十分が経過した。
「あまり遅くなっては先生方に迷惑がかかってしまうだろうし、明日にするか……」
部活動の無い日、将輝達の中学は五時には閉めている。そして現在は五時十分。一応理由を説明したとはいえ、これ以上時間をかけると迷惑をかけると思った箒はそう言ったが、将輝がそれを拒否した。
「探すくらいなんだから、相当大事な物なんだろ?じゃあ、諦めずにとっとと見つけよう」
「しかしだな……」
「後五分探して見つからなかったら諦める。それで行こ…………」
その時、将輝は気付いた。黒板についている教室の鍵をかける部分に緑のリボンがかかっている事に。それは普通に探していれば死角になっている為、見えないような場所でおそらく落ちているのに気がついた誰かが適当に其処へかけていたのだろう。
「探し物って諦めた頃くらいに出てくるもんだね。はい」
箒は代わりにつけていた青いリボンを取り、緑のリボンを付け直した。
「うん。やっぱり箒にはそれが一番似合うよ」
「済まない。手伝わさせてしまって」
「気にしない気にしない。こっちも好きでやった事だし、箒の大切な物が見つかったんだからそれでいいじゃん。教室の鍵は俺が先生に返しとくから箒は先に帰っていいよ」
「あ!ありが…とう」
箒は手伝ってもらった礼を言おうとしたのだが、面と向かって言う事の気恥ずかしさに尻すぼみになり、視線も横へと逸らした。将輝は一瞬大声を出した箒に目を丸くしたが、すぐに笑みを浮かべた。
(箒らしいな。でもまあ、そういう所が可愛いんだけど」
「ふぇ?」
自分の思っている事が口に出ていたなど微塵も思っていない将輝は踵を返して、鼻歌まじりに職員室へと向かう。性格上、聞き返すことの出来ない彼女は数日間、悶々とした時間を過ごす事になった。
ーーーーー優しさの理由ーーーーー
時間は午前八時前。朝練の終わった将輝は箒の動きに違和感を覚えた。
「箒大丈夫?」
「も、問題……ない。少し頭がクラクラするが……」
将輝の指摘通り、彼女の顔はスポーツを終えた後にしては頬が上気しているし、何処か視点も曖昧で、軸もぶれている。しかし、彼女はそれを否定して、更衣室へと向かおうとしたのだが、ふらついて態勢を崩した。
「問題ありまくりじゃん。保健室に行こう」
「この程度……どうということは…ひゃ!」
「拒否権はありません。さあ行くよ」
将輝は有無を言わせずひょいと箒をお姫様抱っこする。何やら言いたげな箒の視線や早い時間帯から来ている生徒の好奇の視線を右から左へと流し、保健室へと着いたが、両手が塞がっている為、足で器用に扉を開ける。
「失礼します」
「ノックくらいしたまえ………おや?」
そう言ったのは白衣を着た若い女性。吊り上がった鋭い目が特徴的で、何処かキツそうな物腰ではあるが、その実、生徒の身を第一に考えるとてもよい教員だ。男女問わず人気があり、見た目もかなり良い方なのだが、どういうわけか浮いた話がない。そして本人もそれを気にしている節がある。
「転校してから日数があまり経っていないというのに早速かね?………リア充爆発しろ」
とこのように自身がリア充と判断した者には容赦がない。それが彼女が独り身たる所以なのかもしれない。中学生を相手にリア充爆発しろなど大人気が無さ過ぎる。
「聞こえてますよ。後、リア充じゃありませんし、爆発もしません」
「では何の用かね、リア本くん」
「箒の体調がすぐれないみたいなんで、連れてきました。ていうか、誰がリア本くんですか、俺は藤本です」
「何、篠ノ之がか。どれ、後は私が見ておくから君は着替えてきたまえ、でないと授業に遅れるぞ」
「お願いします。先生もそういうカッコいい所を全面に押し出していけば、か弱い系男子が寄ってくるんじゃないですか?」
冗談交じりにそう言った将輝に保険医は若干非難の視線を送りながら、窘めるように言う。
「年上にあまり口出しするのは考えものだぞ、藤本。君は助言にしては少々言い過ぎるきらいがある。程々にしておかなければ痛い目を見るぞ」
「肝に銘じておきます」
助言………というか、その言い過ぎによって、後々、彼は酷い目に遭うのだが、それは誰も知らない。ついでに言うと直後に本音をうっかり漏らした将輝はこの保険医━━━黒桐によって腹部に『
「あれ?箒、家に帰らなかったの?」
「帰っても私一人だけなのでな。先生が家にいるより此処にいた方が良いだろうと先生が配慮してくれたのだ」
現在、箒は一人暮らしである。『重要人物保護プログラム』の所為で両親とは強制的に別居生活を余儀無くされており、彼女の住むマンションも日本政府が用意したものだ。小学生の時は日本政府に雇われたヘルパーが彼女の身の回りの世話をしていたが、中学に上がった際、彼女自身が一人暮らしを望んだ為、絶賛一人暮らし中なのである。もちろん彼女の住む部屋の左右には不測の事態に備えてボディーガードが待機しているし、部屋の中にはないが常に衛星によって外での行動は監視されている。
「今から帰るところなのだが、先生がすぐに用意をしてくると言って、かれこれ二十分程待っているのだ」
「その内来るんじゃ「待たせてすまないな、篠ノ之」ほら来た」
「藤本か。ちょうどいい、篠ノ之を家まで送ってやってくれ。実は校長の不手際ですぐにでも終わらせなければならないものが何個かあるのでな。私では送ってやれない」
黒桐は両手で持った大量の資料を机の上にドンと置くと最新鋭と思われるパソコンを開け、煙草の箱を取り出し、火をつけた。
「保険医が煙草はマズいでしょ」
「それもそうだが、これが無いと仕事が捗らなくてな」
「中年のおっさんですか、先生は」
「………撃滅のセカンドブリットを喰らうか?」
「ようは三回目には死ぬんですね、俺」
因みに三回目は抹殺のラストブリットだ。これ常識な!
「そういう事だ」
ふぅ、と煙を吐いた黒桐は煙草の灰を灰皿に落としながら、そう返す。やや上機嫌になったのは、物分かりが良いからではなく、ネタが通じたからである。
「兎にも角にも、篠ノ之の事はお前に任せた。……………ああ、そうそう。くれぐれも送り狼にはならんようにな」
「なりませんよ。てか、それは中学生相手にいう言葉じゃないでしょ」
「わからんぞ。最近の中学生は大分背伸びするからな。相手が病気で弱ってるのをいい事にあんな事やこんな事を……」
「あんな事やこんな事……?将輝、黒桐先生は何を言っているのだ?」
「わからなくていいよ。さ、この危ない思考の人は放っておいて帰ろう」
何か一人でフィーバーし始めた黒桐を他所に将輝は箒と共に保健室を後にする。箒の荷物は既に持ってきているようで、両手には自身の物と彼女の物である鞄が握られていた。
「何から何まですまない。部活動が終わってすぐだというのに」
「箒は病人なんだから、気にしなくていいよ………っと。はい」
将輝は手にしていた自身の鞄を下駄箱の上に置き、箒の鞄を首へと下げると彼女の目の前でかがんだ。彼が何をしようとしているのか、わかった箒だが、一応念の為に聞いた。
「…………何をしようとしているのだ?」
「え?何っておんぶをしようとしています?」
「何故、疑問系なんだ。というか、私を背負って連れ帰るつもりだったのか⁉︎」
「いやぁ、流石にお姫様だっこは羞恥プレイだし、かといって箒を家まで歩かせる訳にはいかないから」
「試行錯誤した結果がこれだと?」
「うん」
箒の家の距離がわからない以上、距離を歩かせるのはしのびないと思うのは普通の事であるが、しかしながら将輝は徒歩での登校をしているので、自転車で一時的に二人乗りをする訳にもいかず、かといって家までお姫様だっこというのは双方にとってなかなか勇気のいる事である。深夜ならまだしも今はまだ夕方、それなら他の生徒に見られるケースも考えて、必然的におんぶになる━━━というのが将輝の考えである。そしてそれをわかっている箒であるが、どちらにしても恥ずかしくはあるし、これ以上負担をかける訳にはいかないと思い、断ろうとしたのだが…………やめた。
「わかった。今日は将輝の言う通りにしよう」
目の前でかがんでいる将輝にもたれかかるようにして体重を預ける。将輝は箒を背負うと無言で立ち上がり、歩き始めた。何故無言なのかというと背中に当たる実に柔らかい感触の所為だった。
(は、発育良すぎるだろ………こ、これはもう一種の兵器だな……)
自分で言い出しておいてなんだが、この選択肢は間違いだったと将輝は感じていた。だが今更言える筈もなく、出そうになる鼻血を堪える。
「将輝」
「ななな何だ⁈」
「この先は左だ」
「お、おう…」
キョドリながらも箒の指示通りに足を進める将輝。何とか意識を別の物に向けようと努力するが、動くたびに押し付けられる中学生にしてはかなり良好な双丘が思考を其方へと無理矢理引き戻す。そのたび、頭の中をよぎる煩悩を振り払い、最終的に円周率を数え始めた。対して箒はというと特に何も思っていない…………事もなく、彼女は彼女で割と冷静ではなかった。
(将輝の背中は大きいな……………これくらいの歳になると男子は全員これくらい大きいのか?それにおんぶをされるのは初めてのような気がする)
箒の記憶に誰かにおんぶをしてもらったという記憶はない。厳格であり、また優しかった父にもしてもらった事はなかったし、ましてやあの頃は一夏よりも箒の方が力が強かったし、そもそも風邪をひいたような記憶もなかった。故に箒にとって、これは初めての経験でそれが余計に頼もしさを感じさせていた。
お互いに別の事を考えている結果、会話はなくなり、あったとしても指示の時のみだった。そしてそれが十分程続くと箒の住むマンションに着いた。
(うわ、凄え高そうなマンションだな。一体、家賃どれくらいなんだ、これ)
実を言うとこのマンションは普通の高級マンションではない。箒のような重要人物を保護する為だけに建てられたものであり、ありとあらゆる災害に対応しているのだ。
エレベーターで上にあがり、数秒歩いてから着いたのは『512』というプレートの着いた部屋。表札がついていないのは位置特定の危険を避けるためなのだろう。
「ここであってるか?」
「ああ。もう降ろしてくれて構わない」
「了解。はい、鞄」
降りた箒は鞄の中からカードキーを取り出すと扉の横にあるものにかざし、鍵を開けた。もう大丈夫だろうと思った将輝はそのまま帰ろうとしたが、不意に学生服の裾を掴まれた。
「……箒?」
「え?いや、あの、その、これはだな」
どうやら箒も突然の自身の行動に驚いているらしく、わたわたと慌てる。
「上がってもいい?」
「…………そ、そうしてくれ…」
結局、済し崩し的に部屋に上がった将輝。箒はお茶を出そうとするが、それを将輝が制し、何処に何があるのかと場所を聞いて、お茶を淹れた。因みにそれは緑茶で、地味に茶柱が立っている。
「食材は何かある?簡単な物で良いなら作れるけど?」
「流石に其処までしてもらうのは……」
「だから今日は気にしなくていいって。今日くらいは多少無茶な要求も応えられる範囲で応えるからさ、遠慮とかしなくていいよ」
「しかしだな……」
「えい」
「あ痛⁈何をする!」
「遠慮すんなって言ってるだろ?ま、箒が強情なのはわかってるけどな。後出来るなら着替えておいた方がいいぞ、制服に皺が出来るから」
将輝は箒の頭に軽くチョップした後、スッと立ち上がり、そのまま台所へと行く。箒はまだ重いが今朝に比べて幾分かマシになった身体を動かして制服から部屋着へと着替える。その数分後に将輝は手にお盆を持って現れた。
「取り敢えず雑炊と冷蔵庫に豆腐があったから冷奴な。後、林檎があったから食後のデザートに剥いといた」
「う、うむ………手間をかけさせて済まな………いや、ありがとう。早速いただくとしよう」
スプーンで一口分掬って、軽く冷ますとそのまま口へと運ぶ。
「……美味しい」
「そりゃ良かった」
「将輝は食べないのか?」
「俺?ああ、まだ腹減ってないし、家に帰ってから食べるよ」
実際の所、部活動の後なので結構減っているのだが、将輝としては箒が美味しく食べているのを見ているので今の所は満足だったし、箒が食べ終わり次第、食器を洗い、帰る予定だったからだ。
「……ご馳走様でした」
「ん。じゃあ片付けてくる」
綺麗に全部食べたところを見ると彼女の体調がかなり回復しているのがわかる。このまま安静にしていれば熱も引いて明日には元気になっているだろう。
(何か身体がダルいし、取り敢えずこれが終わったら帰るか。シャワーは部室棟にあるのを使ったから、適当に晩飯食って、とっとと寝よう)
「箒、明日の事だけど………箒ー?」
食器洗いと明日の朝食の分などを一通り終え、将輝は先生と女子剣道部員に頼まれた伝言を伝えようとしたのだが、返事は返ってこない。
「聞こえて……………」
返事がないため、台所から居間へと戻ってみれば、彼女は小さな寝息を立てて、座ったまま寝ていた。将輝としては平静を装いながらも「もしかしたら元気と思っていたのは勘違いで、倒れているのでは?」と最悪の事態を想定したが、それも杞憂に終わっていた。
「こんな所で寝たら風邪ひくぞ……って、もうひいてるか」
眠った彼女を起こさぬように注意を払いながら、寝室へと連れて行き、ベッドの上に寝かせる。
「良し。する事は全部したし、帰ろ「……待って」ん?寝言か……ッ⁉︎」
箒でも寝言を言うんだなと思っていた将輝はその寝顔を見て驚いた。
泣いているのだ。頬からは涙が伝い、苦しそうな表情でうなされている。
「嫌………もう、一人ぼっちになるのは………私を……一人にしないで……」
熱が出ている所為で悪夢を見ているのか、それとも何時も同じようにうなされているのかは将輝にはわからない。武士のように気丈に振る舞う彼女は弱い部分を見せないからだ。彼女のうなされている原因について将輝は大体検討がついていた。それは彼女から聞いたわけではない。それはただの知識だ。だが知っている。
彼女は不器用で友達作りが下手だったが、友人を作る為の努力はした。しかし他の子ども達にとって、彼女は『篠ノ之束の妹』という異質な存在に見えたのだ。姉が天才なだけで彼女自身は普通の少女だ。繋がりを求めては拒絶される日常。それはとてもまだ幼さの残る少女には耐えられなかった。故に少女は拒絶される前に自らで拒絶した。自身も他人も傷つけないように初めから壁を作った。誰とも親しくならないように。本心では「皆と仲良く過ごしたい」と願いながら、それを押し殺した。弱さを見せまいと剣を振るい続けた。結果、少女は願い続けた繋がりを拒絶し、孤独であり続けた。これで良かったのだと自身に言い聞かせて。
これは彼女の問題だ。将輝に出来る事など殆どないだろう。否定し、拒絶し続けた自らを変えなければ、彼女はこのままだ。それはわかっている。だからこそ、将輝は今出来る事をしよう、そう思った。
「大丈夫。俺が側にいるから………絶対に君を一人にしないから」
箒の手を握り、そう言いながら頭を撫でる。出来ることはせめて今だけでも彼女を悪夢から救う事だけだった。それでも将輝はそうせずにはいられなかった。彼女の泣いている姿を見過ごせなかったから。
「………ありがとう…」
今までうなされていた彼女は苦しそうな表情から穏やかな表情へと変わり、再度寝息を立て始めた。どんな夢を見ているのかは将輝にはわからない。もしかしたら幼き日の暖かい夢を見ているのかもしれない。将輝はそれが一秒でも長く続くようにと祈りながら、ただただ彼女の手を握っていた。
翌日。箒は何時ぶりかわからない穏やかな朝を迎えていた。
夢の内容は覚えていないが、何時も朝起きれば泣いているし、鏡に映し出された顔は実に酷い。朝練に行くまでの間に酷い有様となった表情を直していくのが彼女の日課であったが、今の自分はそんな顔をしていないような気がしていた。
ふと誰かに手を握られているような感覚がして上半身を起こしてみれば、其処には両手で包み込むようにして、自身の手を握っている将輝がベッドに身体を預けるようにして寝ていた。服は着替えておらず、学生服のまま、彼もまた昨日の箒のように寝息を立てていた。
「ふふ………こんな所で寝ては風邪をひいてしまうぞ?」
「━━━━━━」
「ッ‼︎」
寝ている将輝の頭を撫でようとした時、呟いたその一言に箒は動きを止めた。それはただの寝言だ。自分に言っている訳ではないのかもしれない。だが彼が放った言葉は自分に言っているものだ、とそう思った。そして彼女は彼に手を握られたまま、再び眠りについた。もしかしたら夢の続きが見られるかもしれないと。今度こそはそれを心に留めておこうと。結局、夢の続きを見る事はなかったが、彼女にとってそれはとても穏やかで安らぐ時間だった。
そして二人は完全寝過ごして、遅刻し、仲良く教員達に怒られる事になった。しかも、将輝は箒のものが移ったのか、風邪をこじらせていた。
「先生、風邪引きました」
「根性で治したまえ、男だろう。野獣くん」
「最早、原型留めてない⁉︎」
最後だけ長くなりましたが、短編の寄せ集めみたいな話でした。おかげで9000文字手前くらいまでいきました。わーい!
明日でテストも終了し、これから本格的に執筆出来るぜ!………なんて事は無く、バイトがあります。働きたくないでござるぅ〜。
それはさておき、今回の話は後に関係あったりなかったりな話となりました。これで飛ばしすぎてた分がある程度修正出来たかな?何とも言えませんが。
因みに分かる方は何となく感じ取ってくれたかもしれませんが、今回出てきた保険医の方は某アニメに出てくる残念系美人教師を参考にしました。というか殆ど一緒(作者は結構好き)。なんで主人公(某アニメの)といるとき、あんなかっこいいのに結婚できないんでしょうね、あの人。見た目もいいし、結構な勝ち組なのに。
次回は前話の続きです。期待し過ぎずに待っていてください!
P.S 今回は結構疲れた。