憑依系男子のIS世界録   作:幼馴染み最強伝説

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変わり続ける戦況

 

箒達が福音を打倒すべく、福音の滞在する海上に向かった頃。

 

将輝の容態が急変した。

 

「織斑先生っ‼︎藤本くんが!」

 

真耶が血相を変えて、千冬の元にその旨を伝えるが、それは既に千冬にも伝わっていたようで取り乱すことは無かった。否、既に彼女も冷静ではなかった。

 

「………藤本の事は担当の医師に任せるしかない。問題はーーー」

 

篠ノ之達の事だ。そう言いかけて千冬は止めた。

 

ただでさえ、真耶は将輝の事でこれ以上にないくらい取り乱している。もし、この状態の真耶に箒達が待機命令を無視して、福音の元へ向かったと知れば、どんな行動に出るかわかったものではない。

 

(ブリュンヒルデが聞いて呆れるな。こんな時に何一つ出来んとは)

 

決して祈るような事はしない。それは千冬の性格上、最もかけ離れた行為であり、何よりそんな事をしても意味などないのは自身が一番よく知っているからだ。

 

しかし、自然とその拳には力が入り、目つきもより一層鋭さを増している。

 

「山田先生。私は少し席を外します」

 

そう言って部屋を出た千冬が向かうのは将輝が治療を受けている部屋の前。

 

中には当然入る事は出来ない。

 

扉の前で千冬は瞑目する。その表情からは何を考えているかは読み取れない。

 

数秒そうした後、踵を返して、その場を後にしようとした時、視界によく知る人物の姿が映った。

 

「………こんな所に何の用だ、束」

 

「中の子に用があるんだ〜」

 

別段隠す様子も見せず、無邪気な笑顔でそう答える束。

 

束の返答に千冬は睨み付ける。それはとても親友に対して向けるようなものではなく、その視線は明らかな敵意が含まれていた。

 

「一夏は出来ないから、藤本を実験台にでもするつもりか?少なくともあいつが私の生徒である以上、お前の好きにはさせん」

 

「んー、それは死んじゃったらアリって事?ちーちゃんから許可を貰っちゃった、やったぜ!」

 

「束………」

 

まさしく一触即発の空気。最強と最凶の対峙に一般人が見れば空間が歪むような錯覚を覚えるような光景だ。

 

しかし、千冬の怒気とは対照的に束は相変わらず笑みを崩さない。

 

「もう、ちーちゃんたらそんな顔しないでよ。私はまだ闘うのはごめんだよ。それにね、今からする話はちーちゃんにとっても悪くない話だと思うよ?」

 

「……何?」

 

訝しみながらも千冬は警戒心を緩めない。

 

「はっきり言うよ。このままじゃ確実にあの子は死ぬ」

 

「ッ⁉︎」

 

笑顔を止め、真剣な面持ちで束がそう言うと、千冬は目を見開いた。

 

束をよく知る千冬だからこそ、今の言葉は嘘でない事がわかる。

 

天才である彼女は万に通じている。人体のこともまた彼女の知識の右に出る者はいない。

 

その彼女が「確実」という単語を使ったという事はそれは揺るぎない事実なのだ。

 

「其処で私が彼を治療してあげようって訳さ」

 

「…………改造の間違いではないのか?使い勝手の良い駒にする為の」

 

「むぅ。私って信用ないなぁ」

 

「信用に足る行動をしていないからな。お前の場合」

 

「じゃあ、ちーちゃん立ち会いの元で治療するっていうのはどう?これなら私が彼に何をしようとしてもちーちゃんが止めれるでしょ?まあ、元々改造する気なんてないけどね」

 

「束、一つ聞く」

 

「今度は何かな?急がないと死んじゃうよ?」

 

「何故、お前がそれ程までに他人に入れ込む?確かお前の中では私達三人以外は全員どうでも良いのではなかったのか?」

 

兼ねてから千冬が思っていた疑問。

 

束が箒に誕生日プレゼントと称して、専用機を渡した時、将輝に話しかけられた束は無視する事も冷たくあしらうことも無く、千冬達にみせるウザいテンションで相手をしていた。それは傍目からは何て事はない光景に見えたかもしれないが、束を知る者からしてみればそれはかなり異様な光景なのだ。

 

「彼にはね。私も色々賭けてるんだよ、それにね」

 

「?」

 

「あの子が死んじゃうと箒ちゃんが悲しむから」

 

そう言う束の表情はとても穏やかな妹を思う姉の顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海上二百メートル。其処で静止していた『銀の福音』は、まるで胎児のような格好でうずくまっていた。

 

膝を抱くようにまるめた身体を守るように頭部から伸びた翼が包む。

 

『ーーー?』

 

不意に福音が頭を上げた時、超音速で飛来した砲弾が頭部を直撃、大爆発を起こした。

 

「初弾命中。続けて砲撃を行う」

 

五キロ離れた場所に浮かんでいるIS『シュヴァルツェア・レーゲン』とラウラは、福音が反撃に移るよりも早く次弾を発射した。

 

その姿は通常装備と大きく異なり、八十口径レールカノン《ブリッツ》を二門左右それぞれの肩に装備しており、さらに遠距離からの砲撃・狙撃に対する備えとして、四枚の物理シールドが左右と正面を守っていた。

 

これこそがシュヴァルツェア・レーゲンの砲弾パッケージ『パンツァー・カノニーア』なのだ。

 

(敵機接近まで凡そ七秒後……ちぃっ、想定よりも速い!)

 

あっという間に距離が千メートルを切り、福音がラウラへと迫る。

 

その間もずっと砲撃を行っているものの、福音は翼からエネルギー弾を放ち、半数以上を打ち落としながらラウラへと接近していた。

 

砲弾仕様はその反動相殺の為に機動との両立が難しい。

 

対して、機動力に特化した福音は三百メートル地点から更に急加速を行い、ラウラへと右手を伸ばす。

 

避けられない攻撃。しかし、ラウラはにやりと口元を歪めた。

 

「セシリア!」

 

伸ばした腕が突然上空から垂直に降りてきた機体によって弾かれる。

 

それは『ブルー・ティアーズ』によるステルスモードからの強襲だった。

 

六基のビットは通常と異なり、その全てがスカート状に腰部に接続されている。しかも、砲口は塞がれており、スラスターとして用いられている。

 

さらに手にしている大型BTレーザーライフル《スターダスト・シューター》はその全長が二メートルを超えており、ビットを機動力に回している分の火力を補っていた。

 

強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』を装備しているセシリアは、時速五百キロを超える速度下での反応を補うため、バイザー状の超高感度ハイパーセンサー《ブリリアント・クリアランス》を頭部に装着している。其処から送られてくる情報を元に最高速からいきなり反転、福音にむけて射撃を行う。

 

『敵機Bを認識。排除行動へと移る』

 

「遅いよ」

 

セシリアの射撃を避ける福音を、背後から別の機体が襲う。

 

それは先刻セシリアの突撃時に背中に乗っていた、ステルスモードのシャルロットだった。

 

二丁のショットガンによる近接射撃を背中に浴び、福音は態勢を崩す。

 

だが、それも一瞬の事で、すぐさま三機目の敵機に対して《銀の鐘》による反撃を開始した。

 

「残念。その程度じゃ『ガーデン・カーテン』は抜けないよ」

 

リヴァイヴ専用防御パッケージは、実体シールドとエネルギーシールドによって福音の弾雨を防ぐ。そのシルエットはノーマルのリヴァイヴに近く、二枚の実体シールドと同じく二枚のエネルギーシールドがカーテンのように前面を遮っていた。

 

防御の間もシャルロットは得意の『高速切替』によって、アサルトカノンを呼び出し、タイミングを計って反撃を開始する。

 

加えて、高速機動射撃を行うセシリアと、距離を置いての砲撃を再開するラウラ。三方からの射撃に、福音はじわじわと消耗を始める。

 

『優先順位を変更。現空域からの離脱を最優先』

 

全方向にエネルギー弾を放った福音は、次の瞬間、全スラスターを開いて強行突破を図る。

 

だが、それを阻む者達がいた。

 

「させるかぁっ‼︎」

 

海面が膨れ上がり、爆ぜる。

 

飛び出してきたのは真紅の機体『紅椿』。そしてその背中に乗っているのは『甲龍』と『白式』だった。

 

「離脱する前に叩き落す!」

 

福音へと突撃する紅椿。その背中から飛び降りた鈴は、機能増幅パッケージ『崩山』を戦闘状態に移行させる。

 

両肩の衝撃砲が開くのに合わせて、増設された二つの砲口がその姿を現す。計四門の衝撃砲が一斉に火を噴いた。

 

肉薄していた紅椿が瞬時に離脱し、その後ろから衝撃砲による弾丸が一斉に降り注ぐ。しかしそれはいつもの不可視の弾丸ではなく、赤い炎を纏っている。しかも、福音に勝るとも劣らない弾雨。増幅された衝撃砲は言うなれば熱殻拡散衝撃砲と呼ぶべきものへと変化していた。

 

しかし、その直撃を受けてなお、福音は止まらない。

 

『《銀の鐘》最大稼働ーーー開始』

 

両腕を左右いっぱいに広げ、さらに翼も外側へと向ける。

 

刹那、眩い程の光が爆ぜ、エネルギー弾の一斉掃射が始まる。

 

「くっ‼︎」

 

「箒!私の後ろに」

 

前回の失敗を踏まえ、箒の紅椿は現在機能限定状態にある。展開装甲を多用したことから起きたエネルギー切れを防ぐ為、防御時にも自発作動しないように設定し直したのだった。

 

もちろん、そう設定し直したのは、防御をシャルロットに任せられるからこそである。集団戦闘の利点を最大限に生かした役割分担であった。

 

「それしても、これはちょっときついかも」

 

防御専用パッケージであっても、福音の異常な連射を立て続けにうける事はやはり危うい。

 

そうこうしている間にも物理シールドが一枚、完全に破壊される。

 

後退するシャルロットと入れ替わりで、ラウラとセシリアがそれぞれ左右から射撃を行う。

 

「足が止まれば」

 

「こちらのものだ!」

 

そして直上と直下から鈴と箒が突撃する。《双天牙月》による斬撃と《雨月》の斬撃が福音を襲う。その狙いは頭部に接続されたマルチスラスター《銀の鐘》。

 

二人は互いにエネルギーの弾雨を浴びながらも、攻撃の手を止めない。

 

二人の特攻にも似た攻撃は、ついに福音の片翼を奪い、態勢を大きく崩させる事に成功する。

 

「一夏ぁ‼︎」

 

「おおおおおっ!」

 

片翼だけとなった福音に肉薄したのは零落白夜を発動した《雪片弐型》を握りしめた一夏だった。

 

福音は態勢を即座に整えて、離脱しようとするが、衝撃砲がダメ押しとばかりに福音を一夏の方へと吹き飛ばした。

 

今度こそ回避不可能となった福音に《雪片弐型》の斬撃が直撃し、もう片方の翼を奪う。

 

ついに両方の翼を失った福音は、崩れるように海面へと堕ちていった。

 

「これでーーー」

 

私達の勝ちだ。そう誰かが言いかけた時、異変が起きた。

 

海面が強烈な光によって吹き飛ぶ。

 

球体状に蒸発した海は、まるでそこだけ時間が停止したかのようにへこんだままだった。そしてその中心、青い雷を纏った『銀の福音』が自らを抱くように蹲っている。

 

「⁉︎マズい!これはーーー『第ニ形態移行』だ!」

 

ラウラが叫んだ瞬間、まるでその声に反応したかのように福音が顔を向ける。

 

無機質なバイザーに覆われた顔からは何の表情も読み取れない。けれど、其処に確かな敵意を感じて、各ISは操縦者へと警鐘を鳴らす。

 

しかしーーー遅かった。

 

『キアアアアア…………‼︎』

 

まるで獣のような咆哮をあげる福音に、全員が息を飲んだ。

 

 

 

 





将輝くん。容態急変により、束の治療もとい改造を受ける羽目になりました。

別に改造人間になったり、人外になったりする事はありませんので悪しからず。あくまで治療(名目上)ですので。

まあ、死なれちゃ困ると言いつつも、原因は束なんですけどねー。
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