『キアアアアアアアッ‼︎』
福音の咆哮に全員が身構え、一挙手一投足に集中する。
しかし、第二形態移行した軍用ISの性能は常軌を逸しするものだった。
スラスターを吹かせ、福音は凄まじい速さでラウラへと詰め寄ると手を伸ばす。
ラウラは辛うじて、それを回避し、追撃のために再度伸ばされた手はセシリアからの援護射撃により、距離を取る事に成功する。
(何だ、この性能は⁉︎軍用とはいえ、異常すぎる!)
セシリアの方に向かった福音に射撃を行うラウラだが、福音は歯牙にもかけず、じわじわとセシリアを追い詰めていく。
「あたしを無視してんじゃないわよ!」
福音とセシリアの間に鈴が割って入り、近距離から拡散衝撃砲の弾雨を降らせる。
だが、それすらも福音は全て躱し、鈴の足を掴む。
そして、切断された頭部から、ゆっくり、ゆっくりと、まるで蝶がサナギから孵るかのようにエネルギーの翼が生え、その眩い程の輝きと美しさを併せ持った翼で鈴を包み込むとゼロ距離からエネルギー弾を喰らい、全身をズタズタにされ、海へと堕ちた。
「鈴!」
一夏には鈴の姿が将輝の時と重なって見え、考える間もなく、瞬時加速で、福音へと斬りかかる。けれど振り下ろそうとした雪片は柄の部分を蹴り飛ばされ、軌道を変えられる。
胸部から、腹部から、背部から、装甲がまるで卵の殻のようにひび割れ、小型のエネルギー翼が生えてくる。それによるエネルギー弾の迎撃が一夏を吹き飛ばした。
「一夏ぁ!」
シールドを収納し、ショットガンを呼び出し、福音に射撃を行うが、案の定、それを全弾躱すと両翼からの一斉射撃にシャルロットは海へと沈む。
「私の仲間をーーーよくも!」
急加速によって箒は福音に肉薄し、続けざまに斬撃を放ち続ける。
展開装甲を局所的に用いたアクロバットで攻撃を回避、僅かに出来た隙はセシリアとラウラからの援護射撃によって埋められ、それと同時に不安定な格好からの斬撃をブーストによって加速させる。
回避と攻撃を繰り返しながらの格闘戦。徐々に出力を上げていく紅椿に福音が押され始める。
(いける!これならーーー)
必殺の確信を持って、雨月の打突を放つ。しかしーーー
キュゥゥゥン……。
後一歩のところでまたもやエネルギー切れを起こした。
高速機動下における戦闘は普段の戦闘よりも著しくエネルギーを消耗させる。そして何より紅椿は性能と引き換えに燃費は白式の比ではない程の悪さを誇っている。展開装甲を閉じた状態であれば、長期の戦闘も可能ではあったが、展開装甲を使用している今、エネルギーの消耗は凄まじいものだった。
その隙を見逃さず、福音の右腕が箒の首を捕まえ、ラウラのいる場所へと投げ飛ばす。
「くっ……!」
投げ飛ばされた箒をラウラは受け止める。
狙われるであろうセシリアに援護射撃を行おうとするラウラだったが、福音はセシリアに攻撃を仕掛けるでもなく、その場で身体を一回転させ、周囲にエネルギーの弾雨を降らせた。
「なっ……⁉︎」
よりにもよって一番最悪の選択肢を取られてしまった。
機動力を大幅に失ったシュヴァルツェア・レーゲンでは弾雨を回避する事は不可能。エネルギー切れを起こした紅椿も同様だった。セシリアの装備では二人に飛来する弾を全弾撃ち落とす事は不可能であるし、AICで受け止める事も不可能だった。
いっそ盾にでもなるかと考えたラウラだが、それはただの一時しのぎにしかならず、エネルギーの切れた箒をそのままにしておけば何れにせよ福音の攻撃を回避することは不可能。
様々な方法を模索するラウラではあったが、結果はどれも変わらなかった。
(すまない、将輝。仇をーーー取れなかった)
エネルギーの弾雨が自分へと降り注ぐのをスローモーションで感じながら、箒は頭の中ではある想いが浮かんだ。
(会いたい。会って謝りたい、そしてーーーこの想いを告げたい)
「将輝……」
知らず知らずの内にその口からは将輝の名前を呼ぶ声が漏れていた。
次の瞬間には自身を襲うであろう衝撃に箒は覚悟を決めて瞼を閉じた。
その時ーーー。
キィィィィン……。
加速音と共に現れた機体が、箒とラウラを襲おうとしていた弾雨を一太刀の元に薙ぎ払った。
突然の出来事に混乱している箒が瞳を開けた時、目の前には満身創痍の機体を纏った一人の青年の姿があった。
「よう。無事か?箒、ラウラ」
「あ……あ、あっ……」
優しげな微笑みを浮かべる青年の顔を見て、箒の目尻にじわりと涙が浮かび、ラウラは青年のそれに嘆息する。そしてセシリアもまた青年の姿を見て、歓喜に打ち震えていた。
「随分と遅い到着だな」
「ヒーローは遅れて登場するものだろ?まあ、ヒーローって器じゃないけどな」
『将輝さん。ご無事でなによりです』
「おう。心配かけて悪かった、セシリア」
二人の呼びかけに笑顔で返す将輝。
将輝の余裕を持った対応に二人は見かけ程重症ではなさそうだとホッとする。
「将輝………良かった……本当に……」
「俺は死なないさ。箒を残して死ぬわけにはいかない」
将輝はそういって箒の頭を撫でると、左腕に巻かれていたリボンを外し、箒に返す。
「俺の血で少し汚れてるけど、返すよ。後で変わりのリボンを渡すから許してくれ」
「許すも何も私が勝手にした事だ。それに私は将輝がこうして無事でいてくれた事がわかっただけで良い」
「無事かどうかは取り敢えず
言うなり、将輝は接近していた福音へと加速、正面からぶつかり合う。
「時間がないからな。短期で終わらさせてもらう!」
将輝は手にした《無想》を右手だけで構えて斬りかかる。
それを福音はひらりと仰け反って躱すが、将輝は空いている左手で殴り飛ばした。
本来なら大したダメージの見込めない素手での一撃だが、今の一撃で福音は数メートル先まで吹き飛んだ。
(やっぱり………これならやれる!)
以前の無人機の一件。将輝は一つだけ疑問に思っていることがあった。
無人機を撃墜した際、将輝は貫手でコアを破壊したが、本来ならISの素手での攻撃程度ではコアを破壊する事など到底不可能で、教科書にも記されている事実だ。
けれど、将輝はそれを可能にした。
長らく、それを疑問に思いつつも、答えを見出せなかった将輝だが、それもVTシステムの一件、そして福音との戦闘で見つける事が出来た。
(ワンオフ・アビリティーかは知らないが、このISは操縦者の意志でステータスを極端に変化させる。その時には必ず何れかを犠牲にしなきゃならないが、エネルギーを代償にしないなら、大した問題じゃない)
『敵機の情報を更新。攻撃レベルAで対処する』
エネルギー翼を大きく広げ、さらに胴体から生えた翼も伸ばす。そして一呼吸置いてから、福音の一斉掃射が始まった。
「何度も同じ手が通用すると思うな」
将輝は右手から《無想》を消し去り、両手を前に突き出す。
すると腰部分の装甲がパージし、両手に付いたかと思うと無数の光線がエネルギー弾を射抜き、胴体から生えた翼すらも射抜いた。
これが夢幻の第二の武装《聖弦》。
武器破壊に特化した射撃武装で、敵機の攻撃にカウンターで放つ事で、敵機の攻撃を無力化し、そして武器すらも破壊する。
相手の攻撃に合わせて、その都度攻撃パターンは変化するが、あくまでカウンターとしてしか発動せず、通常時は何の意味も持たない物だ。おまけに一度使用すれば次に使うまでに十分は必要で、
思わぬダメージを喰らった事で隙の出来た福音に、将輝は瞬時加速で詰め寄ると再度展開した《無想》で斬りつける。
その一撃はシールドエネルギーごと福音の装甲を斬り裂く。福音もただではやられまいと脇腹に回し蹴りを叩き込むが、将輝はそれすらも無視して左手で殴る。
(今はエネルギーを気にしている余裕はない。その前に福音を叩き堕とすだけだ)
今の夢幻は攻撃力を増強させた代償に著しく防御力を低下させている。故に攻撃を食らえば、エネルギー消費は尋常ではないのだが、今の将輝にそれを気にしている余裕はない。
束の薬のお蔭で痛覚は麻痺しているし、何事もなかったかのように戦えてはいるが、時間切れになれば、激しい痛みが自身を襲い、それすらも感じなくなれば、将輝は死ぬ。
つまり初戦と同様。短期決戦で福音を落とさなければならない。
ただ、相手は第二形態移行をしていて、そして時間切れになれば将輝は死ぬというかなり難易度の高い仕様になってしまったが。
(ちぃっ。徐々に痛みが戻ってきた、早いとこ決めなきゃな)
将輝は《無想》を握りしめ、再度福音へと肉薄した。
福音と戦う将輝の姿を見て、箒は強く願った。
将輝が駆けつけてくれた事は嬉しいなどという言葉では表現出来なかった。
けれど、それ以上にその隣に並び立てていない事が悔しかった。
(私は、将輝と共に戦いたい。あの背中を護りたい!)
そう強く、強く願った。
そして、その願いに応えるように、紅椿の展開装甲から赤い光に混じって黄金の粒子が溢れ出す。
「これは……⁉︎」
ハイパーセンサーからの情報で、機体のエネルギーが急激に回復していくのがわかる。
『絢爛舞踏』、発動。展開装甲とのエネルギーバイパス……構築完了。
項目にはワンオフ・アビリティーの文字。それを確認した箒は二人の闘う空を見上げた。
(まだ、戦えるのだな?ならばーーー)
将輝に返されたリボン。
それは将輝の言う通り、血で汚れているが、箒には全く気にならない。
(行くぞ、紅椿!)
赤い光に黄金の輝きを得た真紅の機体は、夕暮れを切り裂くように駆ける。
「はああああっ!」
《無想》の一撃がエネルギー翼を断つ。
しかし、両方の翼を殆ど同時に斬り落とすのは至難の技で、二撃目を回避され、そうしている内に失った翼は再構築されてしまう。
エネルギー残量十五%。予測稼働時間約二分。
表示されたエネルギー残量を見て、将輝は歯噛みする。
おまけに束に投与された麻酔薬も切れてきたのか、視界が僅かにボヤけ始め、焦点が合わなくなってきた。
(操縦者保護機能でも、この有様じゃ、完全に意識を繋ぎ止めるのは無理があるか。いや、意識がある分、戦えるから僥倖か。とっととケリをつけないと………)
「将輝!」
焦燥感を感じ始めた将輝の隣に箒が並び立つ。
「受け取れ!」
紅椿の手が夢幻に触れると、その瞬間、全身に電流のような衝撃と炎のような熱が走り、一度視界が大きく揺れる。
(これは……絢爛舞踏か⁉︎)
自身のエネルギーが回復した事に将輝は箒が紅椿のワンオフ・アビリティーである『絢爛舞踏』を発動した事がわかった。しかし、何故一夏相手ではないのか、と疑問を抱いたが、今はそれどころではないと頭を振って、《無想》を構える。
「サンキュー、箒」
「礼なら良い。行くぞ、将輝!」
「おう!」
意識を集中させ、《無想》の攻撃力を最大限にまで高める。VTシステムの一件の時のように操縦者保護機能をカット出来るまでの一撃までには昇華しなかったものの、それでは今の《無想》は凄まじい攻撃力を誇っていた。
「どらぁっ!」
横薙ぎに振るわれた《無想》の一撃をひらりと躱す福音。そして再び視界に捉えた将輝に向けてエネルギー翼を向ける。
だが、それも立て続けに撃ち込まれた閃光によって、中断させられる。
「わたくしを忘れてもらっては困りましてよ」
福音がセシリアに注意を向ける。その隙に箒が福音へと仕掛けた。
セシリアの方に向けようとしていた翼を、紅椿の二刀が並び一断の斬撃で断ち切る。
翼を断たれた福音はすぐさま距離をとるが、すぐ真下から接近する影があった。
「逃がすかぁぁ‼︎」
零落白夜を最大出力まで高めた一撃の元に、一夏はもう一方の翼をかき消す。
予想外の攻撃に大きく態勢を崩した福音の装甲に将輝は《無想》を突き立てた。
「おおおおおっ‼︎」
スラスターを最大出力で吹かしながら、将輝は手のひらにエネルギー刃特有の手応えを感じる。
押されながらも福音は将輝の首へと手を伸ばすが、それも後一歩のところで、銀色のISはやっと動きを停止させる。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
アーマーを失い、スーツだけの状態になった操縦者を堕ちる前に何とかキャッチする将輝。
その目は既にマトモに見えておらず、まるで霞がかかったかのようにボヤけていた。
ハイパーセンサーの告げる言葉に全員が無事てあることを確認した将輝は全員に告げた。
「俺達も帰るか」
将輝の言葉に全員が頷く。
あれ程までに綺麗な青空はもうすでになく、夕闇の朱色に染まった空に世界は優しく包まれていた。
これにて福音戦は無事終了。
そしてクラス代表決定戦の時から伏せられていた三つの内の二つ目が漸く使えました。
三つ目はまだまだ先の予定です。まだどんな武装にするか考えてませんので。
次回は福音戦後のお話です。ではまた次の話でお会いしましょう!