アンケートの結果。
二つ目の話に決定しました。因みに一話じゃ終わらないよ!(というか終わらせられない)
千五百件突破記念だし、張り切っていきたいと思います。
無駄話は無用!それではどうぞ!
巻き戻される時針
福音の一件からかれこれ一週間が経過した頃。
将輝は定期検診を受けるべく、保健室へと向かっていた。
「失礼します」
「やあやあ、一週間ぶりだね。義弟くん」
「まあ、そんな事だろうと思ってたよ。今の俺の検査が出来る奴なんて、お前しかいないだろうからな」
保健室に置かれた机の上に座る束を見て、予想通りと溜め息を吐く将輝。
現在、将輝は先日常人なら死んでいる傷(将輝も一度死んでいる)を負い、剰え、薬を投与されたものの、生ける屍状態で福音と戦闘した事が原因で、一時ISと同化している。束曰く、『即興だから、かなり不安定』との事で、将輝は週に一度の定期検診を受けなければならず、今回はその記念すべき第一回目なのである。
「お前なんてよそよそしいなぁ。義姉ちゃんでいいよ?」
「気が早すぎるぞ。もうちょい待て」
「もうちょいって辺り、流石はまーくんとしか言いようがないね。まあ、それはともかく、其処のベッドに横になって」
束に促されて、将輝は保健室のベッドの上に横になる。すると、束は四次元ポケットばりにどうやって収納していたんだと聞きたくなるような量の機械を取り出し、将輝の身体に付けると、それ専用と思われるディスプレイで調べ始める。
ディスプレイとの睨めっこは一分と経たずに終わり、束は将輝の身体に付けていた機械を外すと、今の状態について話し始める。
「これと言った不具合は無し。良い感じに身体に馴染み始めたみたいだね。怪我の方はまだまだ重傷だけど、ISのエネルギーが切れても適切な処置を施したら、延命は出来るよ。まあ、延命出来るだけで死んじゃうけどね。痛覚カットはこのまま継続。自己治癒力に関してもこのまま高めたままを継続するよ、髪の毛とか伸びるの早くなるけどそれには目を瞑ってね。力のセーブに関しては、どうにもならないね。頑張って自分で調節出来るように……………………後、何かある?」
「動体視力と反射速度が増したのは同化してる副産物か?」
「そだね。まあ、理由はおいおい解明していくとして………………義姉ちゃんから義弟くんにお願いがあるんだよね」
「じゃあ、俺はこれで」
「ちょ⁉︎人の話聞いてる⁉︎」
「聞いてねえよ。ていうか、聞く意味ないし」
「なんでさ‼︎」
「どうせ、碌な事考えてないんだろ?」
将輝にそう指摘されて、言葉を詰まらせる束。基本的に碌でもない事しか考えていない彼女にとって、それは図星どころではない。
だが、バレた程度で諦める程天災篠ノ之束は甘い人間ではない。
「かくなる上はーーー」
ダンッと床を蹴って飛び上がった束は将輝へと襲いかかる。
それはいくら直線的で分かりやすい動きであっても、常人には反応出来ない速度。以前までの将輝なら呆気なく、なす術もなく、捕まっていたが、今は違った。
「危な」
ひょいっと横に躱すと、束はそのまま扉を巻き込んで、廊下の壁へと激突する。
凄まじい轟音と共に壁へと激突し、大穴を空けた束に将輝も流石に心配して、瓦礫の山へと話しかけるが返事はないーーーーーー変わりに右足首を掴まれた。
「にへへへ、甘いのだよ。この程度、ちーちゃんの『愛アンクロー』に比べれば、蚊に刺されたのと同じ!」
将輝の右足首を掴んだまま、ゆらりと立ち上がる束。そうなると当然将輝は逆さ吊り状態となる訳で、脱出不可能となり、そのまま投げられた。その先には、何時の間に用意されたのか(少なくとも入ってきたときには見当たらなかった)人一人がすっぽりと入るカプセルに叩き込まれた。
「何だよこれ⁉︎」
「束さんが新開発したその名も『時間超越トラベルクラッキング(仮)』さ!」
「誰も名前の事なんて聞いてない!ていうか、出せ!」
「ノンノン、それは無理な話さ。もう作動してるから、安心して。それの効果は肉体の時間を巻き戻して、いまのまーくんの肉体を元気だったときに戻すものだから……………一応」
「一応って何だ⁉︎」
「まだ実験したことないんだよね〜」
「せめて他の生物で試してからーーー」
その途中で言葉は途切れた。
パアッと将輝の身体が閃光に包まれたかと思うとーーーー其処に将輝の姿はなかった。
「あ、あれ?まーくんが消えちゃった」
これはマズいとすぐさま束は機械の隅々を調べる。
「…………あ、配線間違えてる。出力も大き過ぎて、これじゃ肉体じゃなくて、空間そのものが巻き戻して………って事は」
ふと、束は思った。
あれ、これヤバいやつじゃね?と。
「……ここは………アリーナのピット?」
目を覚ますと保健室ではなく、何故かIS学園のアリーナのピットで倒れていた将輝は、服についた埃を払いつつ、立ち上がる。
「何が『健康だったときの状態に戻す』だ。テレポートしてるだけじゃねえか。おまけにここって教室から離れてるから、帰るのも一苦労だし」
などとぼやきながら、アリーナのピットを出ようとする将輝だが、肝心の扉が開かない。
アリーナのピットの扉の開閉は何れも指紋・静脈認証を必要とする。学園の生徒である将輝が触れれば当然開くはずなのだが、何度触っても『ERROR』の文字ばかり。
「壊れてるのか?どっちにしても開かないなら仕方ない。束の奴に迎えに来させるか」
そう思い、最近新しく登録された電話番号から電話をかける将輝。しかし、一向に電話は繋がらない。それどころか『おかけになった番号はーーー』と言われるばかり。それに将輝は痺れを切らして、授業中だが、一夏へと電話を掛ける。しかし、此方も同じ反応だ。その後、箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラにも掛けるが全員同じ。果ては担任である千冬や副担任の真耶に掛けても反応はなかった。
扉は開かず、電話も繋がらない。
ベンチに腰掛け、八方手詰まりの状況に将輝が途方に暮れていたその時、パシュッと圧縮された空気の抜ける音が聞こえる。それは紛れもなくピットの扉が開いた音だ。
(内からのセンサーだけ壊れてたのか。先生に言って、直してもらっておかないとな)
「おい、お前」
ぶっきらぼうな話し方。さらにはやや威圧感の込められた言葉。そして少し高い気がするが聞きなれた声。その声に将輝は一瞬身を強張らせるが、そもそもこの状況を作ったのは自身ではなく、束なので、悪いのは全てアイツだと自身に言い聞かせ、その旨を伝えようと振り返る。
其処に居たのは織斑千冬。だがしかし、それは将輝の知る彼女ではなかった。
狼のように鋭い目つき、全てを威嚇するかのような仏頂面。出るところは出ている服越しにも分かる肢体。艶やかな黒髪は腰まで伸ばされている。服装は黒いスーツ姿…………ではなく、IS学園の制服を着ていて、その雰囲気は触れれば斬れるところの騒ぎではなく、猛獣でもすぐに服従しそうな程の強烈なオーラを纏っていた。
「織斑……先生?」
思わず疑問系で問うた将輝は悪くはない。ごく自然な反応と言える。しかし、目の前にいる千冬はさらに眉を顰めて、将輝を睨みつける。
「私が教員に見えるのか?私はこのIS学園の生徒だ。織斑という姓は間違っていないがな」
普段なら溜め息混じりに吐き出される筈の言葉にも何処か刺々しさが感じられる。まるで敵と話をしているかのような、一瞬の隙も見せまいと張られた緊張の糸を将輝は僅かに感じた。
「お前は誰だ?何処から入ってきた?何処の組織だ?構成メンバーは?見た所、日本人のようだが何処の国の差し金だ?目的は何だ?何故IS学園の制服を着ている?」
一呼吸もおかずに、まくしたてるように放たれた言葉に将輝は理解が及ばず、目を白黒させる。当然だ。彼女の言っているそれはつまり『藤本将輝は他国から差し向けられたテロリスト或いはスパイである』事を前提として話されているのだから。数秒間を置いた後、将輝は千冬の質問を頭の中で反復させながらゆっくりと答える。
「えーと、俺の名前は藤本将輝……です。来月の十日に十六歳になります、日本人です。何処から入ってきたと聞かれても俺にもさっぱりわかりません。それと他国から差し向けられたテロリストでもスパイでもありません。歴としたIS学園の生徒です」
そう言い切るや否や、千冬の手が将輝の服の襟首を掴んだ。その表情には怒りの色が見て取れる。
「………馬鹿にしているのか?ISは男には動かせない。これは一般常識だ。例え、貴様が研究者だったとしても、このIS学園に入る事など出来ん」
「そんなことは百も承知ですよ。馬鹿にしているつもりなんてさらさらない……………ところで、今は何年の何月何日ですか?」
「20XX年七月一日だが?」
思わず将輝は頭を抱えた。
少なくとも自身の記憶が正しければ七月十二日だった筈だ。十一日は時間が巻き戻っている。しかし、問題は西暦の方だ。
七年も戻っている。はっきり言って洒落になっていない。肉体ではなく、空間ごと時間が巻き戻されているのだ。その結果、このピットに飛ばされたというのには僅かながらに疑問が残るが、今はそれどころではなかった。
(冗談じゃない。先日、箒と恋人になったばかりだってのに、過去に飛ばされるなんて…………あの兎絶対ぶん殴る)
「おい、人の話を聞いているのか」
「あ、え、いや、聞いてませんでした」
「貴様がどういう経緯でここに侵入出来たのかは知らん。素直に答える気は無いのはわかった。後は先生方に尋問を任せる。
(尋問か。妥当な判断だが、今の場合、洒落になってない。理想的なのはISをここで起動させることだけど……)
呼びかけてみるも相変わらずISは起動する気配を見せない。否、正確にはこの世界に来る前から起動はしている。ただし、その機能の大半を将輝の生命維持へと使用している為、展開する事が出来ないのだ。たかだか一ヶ月程度問題ないかとタカを括っていた将輝だが、今の状況を鑑みるとその考えは甘かったとしかいいようがなかった。
抵抗をしていない為、ずるずると引き摺られるように連れて行かれる将輝だが、ピットの扉が開いた瞬間、掴まれていた制服の上着を脱ぎ捨て、走り出した。
束を探さなければならない。将輝は走りながら、そう考えていると、背筋に悪寒が走り、横に飛び退いた。
その直後、ISを部分展開した千冬の拳が先程まで自分のいた場所を通過する。
「校内でも教員の許可なしにISを展開するのは禁止されているはずですが……?」
「よく知っているな。だが、貴様のような賊が入った時は例外だ」
「ISのパンチなんて当たったら死にますよ」
「安心しろ、脳と心臓が動いて意識があれば、私の友人が何とかしてくれる」
全く安心出来ない。ようはそれ以外は折れようが砕けようが構わない。案にそう言っている。相手がテロリストやスパイの可能性があり、逃亡しようとしている以上、これも妥当な判断だが、将輝にとってそれはある意味有り難くもあった。何故なら相手は自分を殺せないからだ。将輝とて命に関わらない骨なら犠牲にしても良いとそう考えていた。
「五体満足で尋問部屋に連行されるか、抵抗して無理矢理連れて行かれるか、好きな方を選べ」
「じゃあ、あんたを倒して押し通るっていうのを選ばせてもらうよ」
「そうか」
床を蹴って、千冬は将輝の懐に潜り込むと、そのまま部分展開されたISの拳を叩き込み、将輝を壁へと打ち付ける。
振り抜けば下手すると死にかねない事を考慮して、寸止めにする。だが、常人なら痛みで悶え、動く事など到底出来るはずがない。
だが、殴り飛ばした将輝はピクリとも動かず、ぐったりとしたままだ。
(おかしい。確かに寸止めだった筈だ。痛みで意識が飛んだか?)
どちらにしても運ばなければならない。千冬はISを部分展開したまま、将輝に近づき、担ぎ上げようと手を伸ばしたその時。
将輝が何事もなかったかのように起き上がり、その勢いのまま、千冬を押し倒した。
「死んだと思った?残念。今の俺はあの程度じゃ死なないし、クリーンヒットもしないよ」
首に手刀を当てて、そう宣言する将輝。千冬は一生の不覚だったと歯噛みした。
気がつくべきだった。寸止めとはいえ、人を殴ったにしては伝わる感触が軽かった事を。
ISを完全に展開されていては将輝も反応など出来るはずもなかった。だが、部分展開されていたのは拳のみ。いくらこの時点で半ば人外化している千冬でもそれは全盛時代には当然劣り、将輝も今はISと同化している事で実力が強制的に引き上げられている。故に攻撃に反応し、拳が当たると同時に自ら後方に飛んだ。それにより、ダメージを殺し、死んだフリをしてみせた。
「これで俺の勝ちって事で見逃してくれる?」
「巫山戯るな。試合なら私の負けだが、死合いならまだ終わっていない」
「じゃあ、これは?」
千冬の返答を聞いた将輝はポケットに入れてあったボールペンを一つ取り出しーーーーー地面へと突き刺した。もちろんボールペンは砕けたが、床には五センチ程抉れたような傷が出来た。
流石の千冬もそれには驚きに目を見開く。今すぐISを展開すれば、今の一撃は怖くはない。所詮は対人戦でしか意味のないものだ。しかし、それが自身を押し倒した時に行われていれば間違いなく急所を一突きされて死んでいた。そして、それを床ではなく自身に突き刺している場合にもだ。
「俺は貴女に危害を加えるつもりはない。けど、どうしても捕まるわけには行かない」
相手に殺す意思がないから助かった。死合いなら負けてはいないと言ったが、既に敗北していた。生徒の長たる生徒会長を務めている以上、どんな事をしてもこの場で侵入者を無力化しなければならない。だが、彼の真剣な表情やその雰囲気がまだ幼いながらに男としての片鱗を見せ始めた弟と重なって見えた。こうなってしまっては自身は最後の最後で確実にしくじる。そう感じた千冬は部分展開したISを解除した。
「…………逃げたいのなら逃げればいい。何処へなりと行けばいいさ」
「ありがとう。それじゃあ逃げさせてもらう……………って言いたいんだけど、実はこの学園の生徒の一人に用がある」
「誰だ?」
「篠ノ之束。ISの生みの親にして、稀代の天才。そして現状を作り出した張本人」
「…………何?」
将輝の物言いに千冬は眉を顰めた。それは将輝の口から束の名が出た事もそうだが、現状ーーーつまり将輝と千冬がこうして戦うという状況になってしまった原因が束に仕業だと聞いて、千冬は溜め息しか出なかった。
「またアイツの仕業か……」
「正確にはそうであって、そうではないけど。出来れば彼女のいる所まで案内して欲しい」
「いや、それは止めておいた方がいいだろう。もうそろそろ授業も終わる。束の奴は授業自体受ける必要がなきから、基本的に整備室辺りにいるだろうが、其処に行くまでに教師や生徒達に見つかる。ならば束を呼び出した方が安全だ」
「いきなり協力的だね。教員達のいる所まで引っ張り出して、取り押えることも出来るだろうに」
「それも考えたが…………アイツの被害者なら話は別だ。それよりも………」
「?」
「そろそろ退いてくれ。この状況、他の人間に見つかれば言い訳でき「ちーちゃ〜〜ん‼︎」」
ズドドド………という音を立てて、走ってくる影がある。それは目前まで迫るとピタリと止まる。
「ちーちゃん!遅いから束さん心配しちゃって、飛んできちゃったよ!まあ、ちーちゃんが誰かに負けるなんてあり得ないし、そんな事が出来るのは束さんだけだけどね!それにしても今のちーちゃんはえっちぃ格好だね!束さん興奮してきたよ!ねえねえ、食べちゃっていい?襲っちゃっていい?こう十八禁な展開に持っていってもいい?百合百合であま〜い束さんとちーちゃんの愛を育みたいけど、その前にこいつ誰?」
マシンガンの如く、欲望をぶち撒けた後、将輝を指差して温度を感じさせない冷え切った言葉でそう言ったのは紛れもなく渦中の人物篠ノ之束だった。