でも話はあまり進んでないッス………このままだと特別ストーリーで十話越えそう………
まあ、細かい事は気にしない。張り切ってイコー!
その前にこいつ誰?
冷え切った声音で放たれた言葉に将輝も千冬に別段気にする素振りは見せない。
彼女を少しでも知る人物であれば、彼女がある特定の人物達以外にはこういう態度であるということは常識であった。
それゆえ、千冬は何事もなく、先程本人から教えられた名前を口にした。
「どうせお前は覚えていないだろうが、この男の名前は藤本将輝。お前の被害者だそうだ。今度は何をしでかした」
「ぶぅ〜。心外だよ、ちーちゃん。少なくとも、ここ三ヶ月は誰にも何もしてないよ。もちろん、ちーちゃんは例外だけど」
子どものように頬を膨らませて、束は抗議の視線を向ける。この状況で束が嘘をつく必要はなく、何より長い付き合いでそういう事は何と無くわかる千冬は将輝に問いかける。
「………と、本人は言っているが、どうだ?」
「まあ、確かに此処にいる彼女は何もしてませんね」
「では、どういう事だ?私の知る限り、この学園に存在する篠ノ之束はあいつしかいない」
「何というか、言っても信じてもらえないだろうし、頭のネジが取れてるんじゃないかと思われるでしょうけど、これから言うことは嘘じゃありません」
「何だ?」
「俺は遠くない未来から来た未来人です」
「…………話はわかった。つまりお前は未来の束が作った装置の所為で過去であるこの時間に飛ばされた。ということでいいんだな?」
「ええ」
第四アリーナのピット。
自身の素性を打ち明けた将輝は千冬と束に対して、事の顛末を話していた。
話していた、と言ってもそれ程話す事はない。ただ、ここに来るまでの経緯と自分がどういう存在かということを軽く説明しただけだ。
「しかし、幾ら束といえど、俄かには信じ難い話だな。偶発的とはいえ、人間をタイムスリップさせるなど。おまけに」
「第三世代ISと、さらにはそれと同化、ねぇ〜。両方机上の空論ですらないよ。そもそもそんな事考えた事もないし」
ISを世界に知らしめるキッカケとなった三年前の白騎士事件。
それにより、世界の情勢は大きく変動したが、未だ世界にISは僅か百四十機しか存在せず、それは未来と比較しても総数は三分の一にも満たない。何よりこのIS学園が設立されたのがつい三ヶ月前のこと。三年という期間を経て、様々な部門で優秀な成果を上げてきた者がISの知識を学び、教員となっているが、それでも知っていることは入学してきた生徒達に毛が生えた程度。そしてISの生みの親たる篠ノ之束すら、第二世代型ISの開発に取り組もうとしている所なのだ。
それを未来から来た人間が『第三世代型ISと同化してます』と言おうものなら、信じられるはずはない。ましてや、この三年で広く知れ渡った周知の事実。
ーーーISは女性しか動かせない。
これが根底から覆される事になる。少数ではあるが、将輝達のいる時からそう遠くない未来により多くの男性IS操縦者が出現しても何らおかしくはない。そう思うのが自然だった。
「なら、ISのハイパーセンサーで調べてください。すぐに引っかかると思いますよ」
将輝の言う通り、ハイパーセンサーを展開する千冬。
するとすぐ目の前にIS反応を検出する。当然というべきか、反応の正体は『unknown』と表示され、全ての数値は???と表記されていた。そしてその座標は間違いなく、将輝の今立っているその場所だった。
「…………信じられん」
ぼそりと呟く千冬。その隣では束もまた驚きに目を見開いていた。彼女は専用機を持っているわけではないが、調べる方法はいくらでもある。そして調べた結果が、今の状態だ。
「待てよ………お前の言う第三世代型ISとやらは既存のISを遥かに凌駕する性能の筈だ。何故私に襲いかかられた時、起動させなかった?」
第一世代と第三世代。其処にはどうしようもない圧倒的な差がある。技量は才能の分、千冬の方が多少なりと上かもしれないが、それではその圧倒的な差は埋められない。その強大な性能に任せて暴れるだけで世界を壊滅させられる程だ。未来で作られたISゆえに束の制御下に置かれていないこのISはまさしく首輪の外れた猛獣と同じだった。
ふと最悪の事態を頭の中によぎらせた千冬に将輝が肩をすくめて見せる。流石に図星だった為、千冬は「そうか」としか返せなかったが、すぐにそれを有耶無耶にするように質問を問いかける。
「ところで、お前は自分のいる時代にどうやって帰るつもりだ?」
「さあ?わからないので、過去とはいえ、当事者に聞こうと考えたんですけど……」
「わかんない」
ノータイムノーロスで束は首を横に振る。
聞こうとしておいて何だが、将輝は何処と無くそういった返事が返ってくることは予想していた。何故ならこうして自分が過去に飛ばされること自体が、そもそも事故で偶発的なもの。束が意図してこの状況を作り出したのならまだしも、偶然ではいくら天才である彼女にも対処のしようがない。
「未来の束と交信とか出来る?多分あっちもかなり焦ってるはずだから、そうしようとしてる筈だ」
「それは出来るかもしれないね。二、三日かかると思うけど」
「じゃあお願いする」
「ね、ね!君ISと同化してるんでしょ?それしてあげる代わりにモルモットになってくれない?」
「満面の笑みで恐ろしい事言うな。モルモットは御免だが、ある程度は手伝ってやる」
「やったぜ!んじゃ、ちょっと篭ってくる〜!」
来た時同様にもの凄い速さで走り去る束。七年前も変わらないテンションに将輝は苦笑するが、千冬は二人のやり取りを見て、不思議そうにしていた。
「………驚いた。あいつが私達の以外の人間と『会話』をするなんてな」
「そりゃ、いくら凡人でもISと同化してる未来人なら興味の一つも持つとは思いますけどね」
「それもそうだが…………………まあいい。それよりもだ、これからどうするつもりだ?すぐに元いた時代に帰れないなら、当分こっちで生活せざるをえないだろう。何かアテはあるのか?」
「………ない、ですね」
割とあっさりと天災である束やそのぶっ飛び行動を知っている千冬はは話した事を信じてくれたが、他の人間はそういう訳にもいかない。「未来から来ました」なんて言おうものなら、確実に変人扱い。良くて病院送り、悪くて変質者扱いで刑務所送り。普通なら奇人変人の扱いを受けて、白い目で見られるのがオチだ。
「ふむ。行く当てがないなら、一時的に寮の空き部屋を使うか?」
「へ?」
「流石にあいつの所為で行く当てもなくなったような奴を放置する訳にもいくまい。幸い、一人なら問題はないしな。使用申請に関しては生徒会長権限で可能にするから、心配するな」
「………お手数おかけします」
「何、同類のよしみだ、気にするな。では早速行くとしよう。そろそろ授業が始まる頃合いだからな」
「着いたぞ」
千冬に連れられて着いた場所は寮の一番端の部屋。
内部構造は変わりないようで、強いて言うなら使用されていなかった為、少し埃っぽいくらいのものだろう。それでも『住』の確保は出来た事はかなり大きい。
「帰るまでの目処が立つまでの間、ここを使ってくれ。教員や生徒達には適当な理由をつけて、私からお前の事を話しておく。いつ帰れるかわからない人間を閉じ込める訳にはいかんしな。何より、いずれバレるだろうからな。先に自分からばらしておいた方が傷は浅い」
「本当何から何までありがとうございます。織斑先……じゃなかった。さん」
「先程から思っていたが、その敬語はどうにかならないのか?一応私とお前は同い年だぞ」
「ええ、まあ。織斑先生相手にタメ口なんてしたら、殺されますからね」
「体罰教師とは………何をやっているんだ未来の私。それはともかく、今の私は生徒会長ではあるが、一生徒だ。同世代であるお前に敬語を使われるというのは違和感を感じるぞ」
「んー、それじゃあ………あー、ゴホン。織斑、これでいい?」
「まだ何処かぎこちないが、まあいいだろう」
織斑と呼び捨てにする事に抵抗がないのは、千冬を呼んでいるのではなく、一夏を呼ぶ感じにしているからだ。同世代とはいえ、未来に帰ったとき、「千冬」なんて呼び捨てにしようものなら、次の朝日を拝めるかどうかわからなくなる。というか、その場で処刑される可能性すらあり得る。
「後は衣と食か。食の方は何とかなりそうだが………………やはり束の奴に何とかさせるか」
つい先程別れた束に電話を掛ける千冬。電話を掛けて僅か一秒。ウザいテンションにさらに拍車のかかった束が電話に出た。
『やあやあ!どったの、ちーちゃん!もしかして今後の未来設計のお話?束さん的には子どもは四人は欲しいかな。もちろんちーちゃんがお父さんで私がお母さん!あ、でもでもどっちもお母さんっていうのもありだよね!日本じゃ同性婚は禁止されてるけど、問題ないよ!私が政府を脅して、法律変えるから!』
「そんな下らない事で法律を変えるな。束、お前以前『お金があり過ぎて困る』と随分幸せな悩みを言っていたな」
『そだね。やたらとどっかの国の使者とかがお金を貢ぐもんだから、最近国家予算に匹敵するくらいの金額になってきたけど、どしたのわさわさ?』
「藤本の服を用意してやってくれ。何せ、私には他人の為に金を払える程余裕はない。それに未来とはいえ、お前が送り込んできた人間なんだからな」
『おーけー。というか、そんな事もあろうかと既にちーちゃんの動きは察知して、其処の部屋のクローゼットの中に十着程入ってる筈だよ?』
「お前にしてはえらく準備がいいな」
『えへへ。まあね、ちーちゃんの考えてる事は一から千までお見通しさ。じゃ、私はこっちに集中するから切るね〜』
「ああ、邪魔して悪かったな。…………ということだ。クローゼットの中にあるらしい」
「了解」
言われた通り、クローゼットを開け、中を見るや否や、将輝は勢い良く閉じた。
「?何をやっている?」
「………見ればわかる」
突然不可解な行動を取った将輝に首をかしげて、千冬もクローゼットを開け、勢い良く閉じ、すぐさま電話を掛ける。
だが、当の本人は既に電話の電源を切っているようで、一向に繋がらない。
謀られた。
準備の良さに気がつくべきだった。束はこの展開になる事を会話をしている時点で先読みし、服を用意するように頼まれる事も想定していた。そしてあの場をすぐに離脱し、使用するであろうこの部屋に先回り、服をセッティングした後、ラボへと篭る。力づくで入ろうにもそんな事をすれば将輝の帰還を遅れさせかねない。全てを理解した上で束はよりにもよって『燕尾服』を十着も用意していたのだ。
「……何で下着まで用意されてるんだ?しかもサイズもピッタリ」
「確か、私達がここに来るまでせいぜい十分くらいの筈だが……」
何処までも型破りな束の行動に将輝は頭を悩ませる。だが、下着を含め、服を用意してくれている事には遺憾ながら感謝せざるを得ない。
かなりの問題点を残したまま、衣食住の問題は一応解決を見せた。