憑依系男子のIS世界録   作:幼馴染み最強伝説

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昇華する想い

「学園祭?」

 

「ああ、そうだ」

 

過去に飛ばされてから、一ヶ月と少し経過した頃。

 

将輝は副会長としての責務を果たしつつ、相変わらず千冬達の為に執事の真似事もさせられていた。

 

何時ものように紅茶を淹れ、仕事をしている千冬に渡した時、彼女が学園祭の事を口にした。

 

「まだ考えるのは早過ぎるんじゃないか?」

 

今は八月五日。まだ夏休みも始まって間もない頃で、それを考えるにはかなり早い。

 

何故なら学園祭は九月の下旬なのだから。

 

「ああ。本来なら九月の下旬にする行事なのだが……」

 

「IS学園を改造してた所為でちょっとは遅れたけど、その頃には将輝も帰っちまってるからな、私達ーーーてか、殆ど織斑だな。学園長に頼み込んで九月の頭にしてもらったのさ」

 

「篝火、それだけは言うなと言った筈だが……?」

 

「にゃはは、そうだっけ?まあいいじゃん。遠回しに聞くよか、率直に言った方が将輝は弱いしな」

 

「だがまあ、どうやって伝えるか、機会を伺っていた織斑はまるで乙女のようだったぞ?実に面白かった」

 

「違いない」

 

ニヤニヤとした笑みで千冬を見るヒカルノと静。千冬は今までに見た事のないくらい羞恥に顔を真っ赤に染める。将輝はそんな千冬を可愛いなと温かい目で見ていると、キッと睨まれる。

 

「か、勘違いするな。私はただお礼をだな……」

 

「わかってるって。ありがとな、千冬」

 

「わかっているなら……いい」

 

「おうおう、お熱いね、お二人さん」

 

「イチャつくなら外でしてくれ、真夏にそれは拷問だ」

 

「「イチャついてない!」」

 

将輝と千冬のやり取りを見て、茶化し出す二人。それに声を揃えて言い返す二人の姿は実はそう珍しいものではなく、定番と化していた。その為か、否定された今でも将輝と千冬が付き合っているという噂は生徒達の間で度々上がっており、最近は生徒会のメンバー全員とそういう関係を持っているのではと考える女子もいる。だというのに、支持率がカンストしているのは将輝の人柄によるものなのと、もしそうであった場合、生徒会に入れば彼女になれるという都市伝説めいたものを彼女達が信じていることに他ならない。

 

「話は戻るけど、学園祭を九月の頭にして、他の生徒から苦情は出ないのか?」

 

「何を今更。苦情を言う生徒がいると思うか?」

 

「うちの副会長様は人気者だからねぃ」

 

「苦情どころか、寧ろ嬉々として受け入れるだろうな」

 

「我ながらどうして其処まで支持されてるのか、よくわからないな」

 

(((そういう所がだよ………)))

 

何時の時代も知らないのは本人のみ。将輝を見て、そう痛感させられる千冬達だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔するぞ」

 

そう言って将輝が入ったのは寮の束の部屋。掃除が出来ないという割には部屋は大して散らかっておらず、せいぜい工具やらがそのままにされているだけだ。それは束が掃除を渋々しているのではなく、たんにこの部屋にいることがほとんどないからである。

 

「おー、まーくん。どったの?」

 

「学園祭についての話し合いだ。生徒会室に来い」

 

「わざわざ呼びに来てくれたの?ありがとね」

 

「お前の携帯電話の電源が切れてたんだよ」

 

束はそう指摘されて、初めて自分の携帯電話の充電がない事に気がついた。それは仕方のない事で、ここ最近彼女は専ら将輝を未来に帰還させる為の装置作りに励んでいる為に携帯電話の充電がない事に全く気がついていなかった。

 

「良かった。まーくん、学園祭に参加してくれるんだね」

 

「まあな。皆の思いを無駄に出来ないし、まあ思い出作りにはちょうどいいさ」

 

ふと束が立ち上がったかと思うと、下に落ちていた工具やら何やらを蹴散らしながら、将輝の元まで歩いて行き、もたれかかる。

 

普段から奇怪な行動を取る束だが、何処と無く何時もの雰囲気ではない事に気がついた将輝は、普段のようにあしらうこと無く、束の反応を待つと、彼女は搾り出したような声で言った。

 

「…………どうしても帰るの?」

 

「ああ。俺の居場所は彼処だからな」

 

「………私は……ううん。私達は多分、まーくんが好き」

 

『私達』。それはつまり生徒会メンバーの事だ。突然の告白に将輝は驚くが、それを表に出さない。まだ彼女の話が終わっていないからだ。

 

「私はね。ずっと退屈だった。わからない事もない。出来ない事といえば死んだ人を生き返らせるくらい。なんでも分かるし、なんでも出来る。それが苦痛だった。ちーちゃんと出会ってから、それは少し変わったけど、結局殆ど変わらなかった。でもね……まーくんが来てから、楽しいと思える日が出来たんだ。最初はただ面白い子が来たな位にしか思ってなかった。けどヒカリんやシズちゃんやちーちゃん。そしてまーくんのいるあの場所はとってもあったかくて気持ち良いんだ。皆であそこにいる時だけ、私は退屈を感じずにいられるんだ。皆で集まって、話しながら仕事をして、まーくんが用意してくれた紅茶を飲んでるだけで、私は幸せなんだ。きっと三人もそう。ちょっと前に言ったよね?まーくんは私達を繋げる為に来たのかもしれないって。あれ、冗談じゃなくて本気だったんだ。どうしようもないくらいバラバラだった私達がまーくんのお蔭で一つになれた。これって凄いと思わない?まーくんならきっと「俺じゃなくても」って言うんだろうけど。きっとまーくんにしか出来ない事だと私は思う。そしてこれからもまーくんは私達にとって、凄く大切で大好きな人なんだ………だから」

 

束は其処で言葉を区切り、何度か深呼吸をする。殆ど息継ぎをせずに話したせいか、呼吸は僅かに荒くなっていたが、それも深呼吸で整う。二人しかいない、静寂が包む部屋で束は今までのどんな時よりも真剣で、まるで懇願するように言った。

 

「お願いします………ここに残って下さい」

 

千冬、ヒカルノ、静、束が言いたくて言えなかった言葉。

 

その言葉が、懇願が将輝にとってどれだけ残酷で、承諾する事の出来ない言葉であるかを知っているがゆえに、心の奥底に秘めていた願い。

 

そして、天災の束であるからこそ、口に出来る言葉。

 

自由奔放で、無責任で、常に他を重んじる事のない彼女であるからこそ、言えなかった筈の言葉。

 

ここに今いるのは天災の少女でも、ISの生みの親でもない。

 

篠ノ之束というただ一人の少女だった。

 

そしてそれに対する将輝の返事は決まっていた。

 

「断る」

 

初めから、将輝の言葉は変わる事はない。

 

それが例え本来の姿を曝け出したたった一人の少女の願いでも揺るぐことはない。

 

「やっぱりダメかぁ…」

 

パッと将輝から離れた束の顔は何時ものように何処か人を食ったような笑み。てっきり、泣いているかもしれないと思っていた将輝はやや面を食らう。

 

「冗談だよ。まーくんの生きる時代はここじゃないもんね」

 

「一応聞くが、さっきのは本心か?」

 

「…………本心なら、応えてくれた?」

 

「ないな」

 

「だよね」

 

例え先程の言葉が本心であろうとなかろうと応える訳にはいかない。束が将輝を想うように、将輝は箒を想っている。何とも皮肉な事ではある。姉妹揃って同じ者を好いたのだから。

 

「お前にだけは言っておくが、俺はもう彼女持ちだ」

 

「一応誰か聞いてみてもいい?」

 

「お前の大好きな妹だよ。それじゃあ先に行っとくぞ」

 

将輝はそう言うと逃げるように束の部屋を後にする。

 

「は、はは……」

 

最早笑いしか出なかったが、それもとても乾いた笑いだ。

 

束は本心から将輝にここにいてほしいと思っていた。

 

好きなのも本心であるし、千冬達が彼に好意を抱いているのも束の見立てではあるが、おそらく事実だ。

 

だが、将輝には待たせている人間がいて、その待ち人は自分の最愛の妹なのだ。

 

彼女の人生でこれほど驚く事も、誰かに驚かされる事もないだろう。

 

篠ノ之束にとっての『敗北』だった。

 

「箒ちゃんかぁ…………そりゃ可愛いもんね」

 

自分はまだ見ていないが、何処と無く想像はつく。大好きな妹の事なのだから。

 

かと言って諦めるほど、篠ノ之束は融通の利く人間ではない。

 

何時しかヒカルノが言った。天才と馬鹿は紙一重だと。その時、その場に束はいなかったが、束としてもそれには同意見だった。

 

ならばせめて彼がいる間だけでも馬鹿になろう。

 

そうーーー誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、束が生徒会室に来たのは一時間が経過した頃だった。

 

その頃には束は何時も通りのテンションに戻っていたのだが………

 

「束」

 

「なーに、まーくん」

 

「何でそんなに抱きついてくるの?当たってるんだけど」

 

「スキンシップスキンシップ〜♪当たってるんじゃなくて、当ててるんだけどね〜♪」

 

こうして、やや積極的にスキンシップと言う名のボディータッチを行っているのだ。因みに普段ならこの手の行為にかなり焦る将輝が冷静なのは、千冬達が密かに殺気を出しているためだ。いくら束が過剰なスキンシップを図っても、目の前には殺気を飛ばしてくる人間がいるのだ。とてもそちらの方に意識を持っていけるはずも無い。差し引きゼロどころか、寧ろマイナスだった。

 

「それで学園祭の事だけど。行うのは九月三日。出し物は各クラス、部活動ごとに決めて、生徒会に提出。学園外の参加者は生徒達一人ずつに渡した招待券を持った者のみ参加可能。生徒会は基本的に学園の治安維持に努めるが、出し物も決めておく事。出し物で最も投票数が多かった出し物のクラス、部活動は豪華景品プレゼント………?なんだこれ」

 

「それか。生徒達によりやる気を出させる為のものだ。一応決めてあるが、何かは秘密だ」

 

「そっか。後は生徒会の出し物についてだけど………」

 

「まーくんの壁ドン喫茶」

 

「却下」

 

「早いよ!」

 

「何だよ、壁ドン喫茶って。最早意味不明だよ。てか、誰得だよ」

 

「ええーっ、皆得してハッピーになれるのになー」

 

「少なくとも、俺はしない。他に何かあるか?束以外」

 

さりげなく束以外に意見を求める将輝。こうでも言わなければ束が珍妙奇天烈な意見しか出してこなくなるためだ。既に言おうとしていたのか、将輝がそういうと束は頬を膨らませ、不満げな表情をする。

 

「しかし、喫茶店という発想は悪くないと思うぞ。将輝の淹れた珈琲も紅茶も美味いからな」

 

「普通に執事喫茶で良いんじゃないかにゃ?」

 

「それだと、俺一人で回さなきゃいけないから無理だな。千冬は何かあるか?」

 

「私も喫茶店で良いと思う。ただ、将輝一人ではなく、私達四人も手伝えばいい」

 

「じゃああれだね。執事メイド喫茶に「ガンッ!」ど、どったの、まーくん」

 

「な、何でもない」

 

束の発言に将輝は思わず机に頭を打ち付けた。理由としては、生徒会ではないものの、未来。つまり原作で名前は違えどそれと同じものをすると言い出したのだから、なんともいえない気分になったのだ。

 

「ま、まあ、五人なら普通に回せるだろう。ただ、俺達は治安維持が本業だし、精々二、三時間くらいしか出来ないけど…………それはそれで問題ないか」

 

一通り、決まった所で将輝は束を振りほどいて席を立つ。五人分の紅茶を淹れていると、何かを思い出したように四人へと問う。

 

「そういえば、四人て紅茶とか淹れられたっけ」

 

ピタリと四人の動きが止まり、話し声もなくなる。

 

「まさかと思うけど、自分達は接客だけして、俺に全投げするつもりだったんじゃ……」

 

ジト目で四人の方を見ると、ギギギ……という擬音が似合うぎこちない動きで四人はそっぽを向いた。

 

「…………俺、仕事してくるわ」

 

『あ!ちょっと!』

 

四人の反応を見て、現実逃避をした将輝は多分悪くない。

 

生徒会の学園祭の出し物は早くも前途多難であった。

 

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