感想欄でIFの話をしてほしいと言われました。
確かに特別ストーリーにしては話も長くなって、良い感じにいったので、気が向くか、望まれる方が多ければ書こうと思います。
学園祭を明日に控えた今日。
生徒達は必死に間に合わせる為に慌ただしく動いている。これが俺の為にと言うのだから、男冥利に尽きる。彼女達は本当に俺の事を慕ってくれている。同い年だというのにまるで教師にでもなったかのような気分だ。
「あ、副会長!」
「えーと、君は来栖川さんだったね」
「はい!覚えててくれたんですね!」
「まあね」
もちろん覚えている。この子の発言がキッカケで俺は自分が副会長をやる羽目になったのをいち早く知ったのだから。ある意味印象的な出会いだ。
「どうしたの?」
「実はあれを彼処に置きたいんですけど……」
来栖川さんが指差したのはそこそこ大きな看板。見た目は軽そうなのだが、近づいて触ってみるとそれが紙で出来たものでない事がわかった。
「派手にしようとしたのは良かったんですけど、持ち上げる事を考えてなくて……」
「成る程。確かにISでもないと女の子には持たせられないな。よっと」
俺はその看板を片手で持ち上げ、梯子を使って置く。ジャンプするという手もない事はないが、それをすると壊れる可能性もあるのでしない。
「これで良いかい?」
「はい!ありがとうございます!」
「どういたしまして、それじゃあね」
来栖川さんと別れ、俺はまた他のクラスの見回りをする。
それにしてもこの束特製の制服。燕尾服と比べると段違いに動きやすい。あいつの言う通り、ものすごく軽くて、あんまり服を着ているという感じがしない。いや、別に変な意味ではないよ?
話は戻るが、何処もかしこも忙しそうだ。一年の学園祭は今しかない訳だし、何より俺のいる学園祭というのが今だけだからだろう。何か来るものがあるな。
そういえば彼女はこの学園祭に来るのだろうか?一応一週間前には招待券が届く手筈になっているのだが、まあ来なかったらその時はその時だ。
一通り、見回りを終えた後、俺は自動販売機で缶コーヒーを買って、近くにあったベンチに座る。ここ最近缶コーヒーなんて飲んでいなかったが、やはり挽いた珈琲の方が美味い。自画自賛って訳じゃないが。
「早くもサボりか?副会長」
「サボってねえよ。今一通り見て回ったトコだ。そういう静はどうなんだ?」
「私か?私も将輝と同じさ」
静もそう言って俺と同じ缶コーヒーを買うと俺の隣に座る。九月に入ったばかりでまだ暑いのに何故近くに座ってくるのか。まあここは影になってて比較的涼しいし、風もいい感じに吹いてるから問題ないか。
「やはり将輝の淹れた珈琲がいいな」
「そりゃどうも。そう言われると淹れる側としてもそれなりに嬉しいよ」
「それなりにか?もっと喜べ」
「今はそうでもないけど、始めは好きでやってた訳じゃねえからな」
最初は半ば強引にさせられていただけだった。それも今となっては日課のようなものなので、
苦になるどころか、しないと気が済まない。
「今はそうでもない……か」
静が俺の隣でふとそう呟く。
「なあ、将輝にとって、私達はなんだ?」
「大切な仲間だ」
「そうだな。大切な仲間だ。だが私はそれ以上だと思っているつもりだ。いや、私がそれを望んでいるだけなのかもしれないな」
それ以上、か。
「それは俺限定か?それとも生徒会全員か?」
「さあ?どちらだと思う?」
「真面目に答えてやってるんだから、ちゃんと答えろ」
「…………どちらもだ」
そこはかとなく展開が束の時と同じだったからわかった。違うとすれば、ストレートか変化球かぐらいの差だ。
「少し前から篠ノ之はお前に対して随分と積極的になったな。初めはふざけ具合が増しただけかと思ったが、それは違った。おそらくだが、篠ノ之はお前に告白したんだろう?」
「…………ああ。全部わかった上でここに残ってくれって頼まれたよ。断ったけどな」
あの時は驚いた。平静を装ってはいたけど、束ならもっと強引な方法でこの世界に無理矢理留めようとすると思ってたからな。篠ノ之束はそういう人間だし、そうされる可能性も少なからず危惧していた。けど、結果的にはあいつは俺の意志を尊重してくれた。
「私も篠ノ之と同じく、ここに残って欲しいと思っている。私達生徒会そのものは五月に出来たものだが、私に言われせばあれは機関として成立していなかった。だから生徒会を機関として成立させ、機能させ始めた将輝は立派な生徒会創立メンバーだ。お前が来てから生徒会は生徒会として動くようになった。それに自分でも思うが、私を含めて、全員随分と丸くなった。篠ノ之は織斑以外誰も相手にしなかったし、織斑の奴も誰も寄せ付けなかった。篝火も何時も人を小馬鹿にしたような態度だったし、私だってまあかなり尖ってた。今ではそんな事考えられないくらい良好な関係を築けていると思う。それもこれも将輝のお蔭だろう。だから私は将輝にいてほしい…………けど、それを将輝が望んでいない事も分かっている。だから」
静は残っていた缶コーヒーを全て飲み干す。相変わらず、行動が男らしい事だ。モテる意味がよくわかるよ。もっともこれが七年経てばおっさん臭い言動になるんだから勿体無い。
「私は今この瞬間、お前といる事を大切にするよ。私は将輝の事が好きだから」
「………そうか」
「一世一代の告白にその反応は少し酷くないか?」
俺の反応に静は眉を顰める。
「束の奴が仄めかしてたからな。それに静の雰囲気がそんな感じだった」
とはいっても、驚いてるがな。危うく缶コーヒーを落としかけた。それにかなりドキッとした。
「篠ノ之の奴め。抜け駆けは結構だが、バラしてどうする」
「仕方ないんじゃないか?多分、あいつなりに考えた結果だと思うしな」
男を繋ぎ止めるにそういう手段に走るのは何ともヒロインめいた事をするものだが、まあ今は十代乙女な訳だしありか。
「それで?わかってはいるが告白の返事を聞こう」
「もちろん断る」
俺の返答に静は納得したような表情を浮かべる。
「何となく私に告白してきた奴の気持ちがわかったよ。振られる事がわかった上で告白するのにはかなり覚悟が必要なのだな」
いや、多分静に言い寄ってきた奴の大半は「俺ならいけんじゃね?」って考えてた奴だと思うが、言わないでおこう。何かいい感じに納得してるし。ていうか、振られること前提で告白する奴とかリアルにいるのか?
「ふむ。随分としみったれた空気になってしまった。私らしくない」
「別に良いじゃねえか。カッコいいだけが、静の良いところじゃないだろ?」
「ククク、本当にタチが悪い。前にお前の事を『ラノベの主人公』と言ったが、訂正しよう。どれにも分類出来ない新型だよ。人をその気にさせる癖に鈍感ではないなど、ペテン師もいいところだ」
「誰がペテン師だ。当たり前の事を言っただけだよ」
告った相手をペテン師呼ばわりするなよ。俺にそんな器用なマネが出来るか。ああいうのは頭と要領の良い人間がする事だ。俺は頭も要領も良くない。でなきゃ、入学して三ヶ月で死にかけたりしない。
「さて、
「はぁ?」
私の番?これまたそこはかとなく嫌な予感がするぞ。
静は空になった缶コーヒーをゴミ箱に投げる。投げられた缶は綺麗な放物線を描いて、ゴミ箱に入った。
そのまま静が歩き去った方をボーっと見ていると、急に視界が塞がれた。その上、頭の後ろに柔らかい感触を感じる。
「だーれだ?」
「そういう事か………ヒカルノ」
「今日は随分と無防備じゃん。何時もなら残り一メートルくらいで気づくのに」
ヒカルノは俺の視界を塞いでいた両手を離すと珍しく心配したように言ってくる。確かに何時もなら気がついて、真後ろにまだ中身の入った缶コーヒー投げてたがな。
「で、お前は何の用だ?」
「にしし、ちょっとこれに付き合ってくれぃ」
そう言ってヒカルノが渡してきたのは竹で出来た釣竿。そういえば最近釣りがしたいってボヤいてた様な気がする。
「釣りなんてする所あったか?」
「ここから北に十キロ行った所にねぃ。隠れスポットがあるんだにゃ」
「北に十キロだぁ?どうやって行くつもりだ」
「そこは抜かりなく。足は用意してあるよん」
「まあ、そんな事だろうと思ってたが、飛んでくる羽目になるとは」
俺とヒカルノが来たのは秘境といっても遜色ない山の奥地の川。ここに来た方法?空から来たんだよ。
「しゃあねえだろ?ここ、隠れスポットだから、普通の交通手段じゃいけないし、徒歩だと日が暮れる」
そりゃ隠れスポットだよ。だってここ山の中じゃん。しかも奥地。人が踏み入れた事あるかわからないレベルだ。かといってわざわざ背中に小型ロケットみたいなの装備してくる事なかったろうに。
「時間もあんまりないし、始めようぜ」
「そうだねん。さっさと始めちゃおう」
ヒカルノから釣竿受け取って早速釣りを始める。餌はとりあえず其処で取ったミミズ。気持ち悪いが仕方ない。
開始二分。早速何か淡水魚が釣れた。魚に詳しくないからよくわからないが、まあ川魚だし食えるだろ。
「お、将輝は早くもゲットか。こりゃ負けられないなぁ」
其処から確変でも来たかのごとく、竿を投げれば釣れる。おそらく警戒心が薄いからだろう。
「ぐぬぬ………何故私は釣れにゃいんだ!」
しかし、どういう訳か。ヒカルノは釣れないようで、川を睨みつける。そんなにキレてたら逆効果だろうに。
そうこうしている内にもう五匹釣れた。それを見るたび、どんどんヒカルノの機嫌が悪くなっている。
思い出したが、こいつ原作の時、モリで魚取ってたような…………
「ヒカルノ」
「何だ!」
「お前、潜って取れば?」
「はぁ……?それじゃあ釣りにならないじゃん」
「待つより自分で行った方がお前には向いてると思うぞ」
「服はどうするんだよ?」
「下にISスーツ着てるだろ。あれが水着代わり」
大抵の女子は下にISスーツを着ている事は既に知っているし、面倒臭がりのヒカルノが一々着替えてる筈がない。おまけにあれすぐ乾くし、入っても問題ない。そう思って言ったのだが、ヒカルノはどういうわけか俺から身を守るように自分の身体を抱く。
「な、なんで知ってる……」
「割と常識だしな」
「私、どんだけ有名人なんだ⁉︎」
「はぁ?何でそうなる。女子が基本的にISスーツを下に着てるのって女子達の間じゃ普通だろ」
「な、なんだ。そういうことか……」
ホッと胸を撫で下ろした様子のヒカルノ。いまいちよくわからないが、黙っておくに限る。無駄に話すと一夏みたいになる。
「しゃあねえ。将輝がそう言うなら、一潜りしますか」
ヒカルノはその場で服を脱ぎ捨てると、最終手段としてやはり持ち合わせていたのか、モリを取り出すと川に潜ったかと思うと、ものの三十秒で出てきた。そのモリと手に淡水魚を一匹ずつ捕まえて。早っ⁉︎
「うははは、ざっとこんなもんさね」
「何か、野生児みたいだな」
「なにおう、私は根っからの都会っ子だ!」
そう言う意味じゃねえよ。どうして天才という人種はこうも話が噛み合わないのか。そういう点では束とヒカルノは似ている。本当になんでここまで似た人間で、今じゃ大の仲良しなのに。確かにヒカルノは束に比べれば劣るかもしれないが、立派な天才だ。千冬は人外だが、その境地でしか束と同じ目線ではいられないし、束もまた同様だ。結局天才に見える世界は天才にしか見えないし、人外の世界も人外にしか見えない。早い話が束は千冬と同じ景色を見られるが、千冬は束の景色を半分しか見られないのだ。だから同じ天才であるヒカルノの存在はその半分を埋めるのに十分だった。だからだろう。俺を副会長にする為や帰る前に想い出を作るためとはいえ、無理矢理ではなく、他の生徒や教員を正攻法で説き伏せるという束らしからぬ手段を取ったのは。
「おい!聞いてんのか、将輝!」
「え?だあああ⁉︎」
気がつくと目の前にヒカルノの姿が。服がIS学園の服ならここまで驚きはしなかったが、今はIS学園の服ではなく、ISスーツ。あれって滅茶苦茶ボディラインがはっきりしてるんだよね。そしてヒカルノはモデルもびっくりのスタイル。俺は思わず驚いて川に落ちてしまった。ヒカルノも巻き込んで。
背中に衝撃が走ったあたり、落ちたのはかなり浅いところなのだが、服はビシャビシャ。これでは校内に入れないな。それはさておき
「ま、将輝……」
「お、おう」
今の俺たちの態勢は色々まずい。背中に衝撃が走ったのだから、俺が下なのだが、俺の上にはヒカルノが乗っている。見られたら確実に勘違いされる状況だが、ここにはちょっとやそっとじゃ人はこないだろうし、俺とヒカルノ以外いない。
「なあ、将輝」
「何だ」
「好きだ」
この状況で⁉︎いや確かにそういう雰囲気はなくはないが、なぜ今?
「私は今の生徒会を作ってくれた将輝の事が好きだ。あれだけバラバラだったのに、将輝のお蔭で一つになれた。タバネんとも仲良くなれたし、織斑や黒桐とだって仲良くなれた。だから私はあの場所が大好きだ。ただの溜まり場でしかなかった彼処は私達にとって特別な場所になった。けど、それは将輝がいないとダメなんだ。違う、将輝だけじゃない。織斑がいて、タバネんがいて、黒桐がいて、私がいて、将輝がいる。私にとってのIS学園生徒会はそれなんだ」
「弱気だな。俺がいなくてもお前らはIS学園生徒会だろ」
「ははは、体裁上はね。だけど私は将輝がいないと私達の生徒会じゃないんだ」
ああ………なんでこう、束もヒカルノも若干脅し気味なんだよ。実際されて思ったが「帰ったら殺す」って言われるよりも「帰ったら私死んじゃうかも」の方が怖いよな。だって自分を襲う危機は回避出来るけど、自殺は四六時中一緒にいなきゃ防げないもん。
「それで?答えは?」
「束にも静にも言ったけど断る。生徒会がお前の居場所なら、あっちにも俺の居場所があるんだ。てか、お前どんだけ依存してんの……」
「本当、私って何時からこんなダメなやつになったんだろ……」
「初めからだろ?」
「馬鹿野郎。其処は慰めるところだろ……」
「慰めるとまた弱気になるしな。こっちの方が良い」
「本当馬鹿野郎だよ…………ああ、クソ。何で好きになったんだろ」
「それはそうと何時までこのまま?」
「あと五分」
寝起きじゃないんだから。あと五分ってなんだよ。
「まあ、良いけどな」
ヒカルノは宣言通り五分経つと離れて、その後俺達は釣りと素潜りを二十分楽しんだ後、IS学園へと帰った。