エピローグですので、話は若干短めですが、どうぞ。
『受験勉強の方、捗ってる〜?』
「母さんが電話して来なけりゃ、捗ってるよ」
幼さが完全に抜けきり、少年からクラスチェンジした青年はイギリスに在住している自身の母と電話をしていた。半年前、連絡を取らなかった所為で家に押しかけてきた母親の姿は未だ彼の網膜に焼きついたままだ。その際、とある事情でなってしまった記憶喪失が露見し、両親どころか親類全てを呼んでの会議に発展した時は流石の青年も肝を冷やしたものだ。
『酷〜い。お母〜さん、心配して電話かけてるんだよ〜?今も実験中で忙しいのにー』
「実験中に掛けてくるなよ。よくそんなので副主任が務まるな」
青年の母親は父親と共にイギリスでISに関わる仕事をしていて、主任が父親、副主任が母親で何方も相当な凄腕でキレ者とイギリス国内問わず、他国にもその名が知れ渡っているらしいが、間延びした声と実験中に電話を掛ける緊張感の無さからはとてもその姿は想像出来ない。
『それにしてもびっくりしたわよ〜。まさかISに携わる仕事がしたいって言い出すなんて〜』
「そうかよ。俺は二人の息子なんだから、当然ちゃ当然と思うけど」
『ちっちゃい頃にも一回そうやって言ってた時もあったけど、それっきり言わなくなってたから、てっきり諦めたと思ってたわ』
「その辺りの記憶はないからなんとも言えないけど、まあガキなりに思う事があったんじゃないのか?」
『あの頃は可愛かったわぁ〜。目もクリクリしてて、頬っぺたもぷにぷにでーー』
「だあああ、わかったから。電話切るぞ」
電話を切って、青年は勉強に励もうと机に向き直ったが、先程の気の抜けた会話の所為で、集中出来ずにテレビをつけた。
どのチャンネルも現在、『世界初の男性IS操縦者現る!』というニュースで持ちきりとなっており、教育テレビですらここ一週間は上の方でテロップで流れている。青年はニュースを聞き流しながら、夕飯の支度へと入る。
もうかれこれ織斑一夏の事はテレビで嫌という程放送されている。某掲示板では彼がブリュンヒルデの弟である事が更に話題を呼び寄せており、実は性転換手術でもしているのではないかと悪質な噂も広がっていたり、様々な憶測が飛び交っているが、確固たる結論は未だ出ていない。何せ、かの天災にすらそれはわからないのだから。
天災といえば、彼女もまた半年前から青年の家には来なくなった。何かしら事を起こす為の下準備を行っているからなのだろうが、青年にとっては命の危機が遠くに去ったと安堵の息を漏らすばかりだ。結局、天災である彼女は何がしたかったのか、よくわからなかったが、自分への興味は逸れたであろう事に喜ぶべきか悲しむべきか、喜ぶべきなのだろうが、これで青年は晴れて原作とは何の接点も持たない存在へとなった。元々、そのつもりではあったし、神様転生などという馬鹿げた仕様でない時点でそうなるのは必然であっただろう。だが前と今の彼では同じ事を考えていても、まるで違う。何せ目標があるのだから。
受験は一週間後。それが受かれば彼は目標への大きな一歩を踏み出す事になる。
約束を交わした彼女とはついぞ会う事はなかった。女尊男卑の傾向がより強くなった所為か、全国大会ではそもそも会場が違っていた。彼女が全国優勝したと知ったのは次の日の新聞記事だった。おそらく彼女も青年が全国優勝を果たしたのを新聞で知っているだろう。互いに約束の為に動いているのを感じ取れたのは大きな変化だった。
「しっかし、何でこんな無駄な事をするかね」
青年が手にしている紙に書かれているのは『全国一斉IS適性検査』と書かれたもの。日付は翌日となっており、市の体育館で年齢14〜18歳を対象とした男性の適性検査を行うと言ったものなのだが、青年にはそれが酷く滑稽に見えた。そんな事をしたって織斑一夏以外に男性IS操縦者は現れない。そう言った確信があるからだ。
そんな初めから結果のわかっているものに参加する義理はない。と言いたいが、これは対象年齢の人間は強制参加で、もしすっぽかそうものなら、市から直々にお叱りを受ける事になる為、参加せざるを得ないのだ。
「とっとと終わらせて、受験勉強でもするか」
青年━━━━━━藤本将輝は紙をくしゃくしゃと丸めるとそのままゴミ箱に投げ込み、夕飯へとありついた。
まだ誰も知らない。翌日、気怠そうに受けたIS適性検査にて彼だけが唯一ISを動かす事を。
「疲れた……」
家に帰ってきた彼は玄関に倒れこむようにして寝転がった。
意味もないと思っていた適性検査。政府直属の人間も同じ事の繰り返しに既に期待すらしていなかったその時、事件が起きた。
前に並んでいた人間と同じようにポンとISに触れた時、頭に大量の情報が流れ込んだかと思って次の瞬間、彼はISをその身に纏っていたのだ。あり得ない、そう言った表情をしていたのも束の間、政府直属の人間はすぐさま日本政府に報告。詳細は後日と伝えられたが、翌日から来るであろう取材の嵐を考えると彼は憂鬱だった。
徐々にほとぼりが冷め始めようとしていた時に現れた二人目の男性IS操縦者に世界は再び沸くだろう。そしてその熱気は自身のみならず、彼の両親にも行く筈だ。
(一応、親父達に連絡しとくか。ははっ、なんて言うだろうな)
連絡先は母親。父は手が離せない事が多い為、用事があるときは基本母親に連絡をしている。数回のコールの後、「も〜しも〜し」と間の抜けた声で出たのは将輝の母親だった。
「もしもし、母さん。実は重要な話があるんだ」
『重要〜?どんなぁ〜?』
「実は俺ISを動かしたんだ。明日ニュースになるだろうし、取材も行くかもしれないから、かくごしといてくれ」
『………………マジ?』
何時もの緊張感の無い声からかなりガチの声音になっている。それもそうだろう。いきなり息子が「俺、IS動かしたから」と言われれば当然の反応だ。しかし、それも事実だ。
「マジだ」
一体どんな反応が返ってくるのか?と電話の向こうにもかかわらず、身構えていた将輝の耳元では電話越しに母親がフィーバーした。
『やったぁ〜‼︎将輝くん、IS動かせるって、お母さんは信じてたよ!きっとこれは運命なんだね!おとーさーん!将輝くんがIS動かしたらしいよ〜!』
電話の向こう側で「何⁉︎」と驚いた声が聞こえるが無視。そもそも母親に伝えたのがマズかった事に将輝は気づく。その後、3分くらいはしゃいでいる母親の声にいい加減通話を切ろうとした時、思い出したように母親は言った。
『あ、そうそう。このままだと将輝くん、IS学園に入るんでしょう?だったら、せーちゃんとは仲良くしなさいね〜。せーちゃん、ずっと将輝くんに会いたがってたみたいだから』
「せーちゃん?せーちゃんって誰……切れてるし」
ガクリと力なく項垂れた将輝は携帯をポケットに入れる。
(そうだよな………俺、IS学園に行くんだよな)
ISを動かした事で予定はかなり狂った。今更受験勉強など何の意味もない。今までの努力が水泡に帰した事で精神的疲労感が押し寄せてきたものの、将輝は笑みを浮かべていた。
これで約束を果たせると。
ということで主人公はISを動かしたので、学園入りします。
次回からは原作に突入。せーちゃんなる人物は一体誰なのか⁉︎
乞うご期待!