お気に入り記念の後日談みたいなものです。
強いて言うなら
・将輝は彼女持ちではなく、好きな人間はいない。
・最後の生徒会室のくだりがない。
ことくらいですかね。違うのは。
ちょっとネタに詰まったのと以前に後日談みたいなのもして欲しいと言われてたのを思い出して書いてみました。気分次第で続きを投稿しますが、基本的に本編や他作品の方を優先します。
挿入投稿になりますので、今回に関連するストーリーの話の前にはわかりやすいように☆マークをつけます。
季節は真夏の八月。夏休みに入ったIS学園では色々な人間がいる。
自分の実家のある家に帰るもの、より一層部活動に励むもの、祖国に帰るもの、etc………と各々に夏休みを有意義に使用している。
それは教師とて例外ではなく、教師ごとに予定の確認を取り合って自由な時間を謳歌している。教師とて人間だ。ましてや超エリート校であるIS学園の教師ともなれば学園が始まれば殆ど休むことは出来ない。故に夏休み中は短い間とはいえ、完全に休みが設けられる。大勢の教師が学園からいなくなるというのは大いに問題のある事態であるからだ。
そして今日からは三日間ほど自由時間を得ることの出来た山田真耶はとある生徒の部屋へと赴いていた。その手に小さな荷物を持って。
コンコンとノックをした後、中から「はーい」と返事が聞こえ、扉が開かれる。
「誰……って、山田先生ですか」
中から出てきたのは学園に二人しかいない男子の片割れである藤本将輝。
真耶にとっては、彼は大切な生徒であり、またそれ以上に大切な存在であった。
何時もよりもニコニコとした様子の真耶は将輝の顔を見るとさらににへーっと頬を緩ませる。周囲には女子はいないものの、その表情を見れば真耶が今何を考えているのか、想像に難くはなかった。
「どうしたんですか?俺に何か?」
「はい。用事があるんですけど、部屋の中でして良いですか?流石に人目があるところではちょっと……」
「はい?ええ、まあ、別に良いですけど」
(やった!)
内心で真耶は歓喜の声を上げ、小さくガッツポーズをする。
その後、将輝に続いて部屋に入った真耶は初めての異性の部屋という事もあって緊張した様子で部屋を見渡していた。
「それで?話というのは……」
「ふぇ?あ、その事なんですけど……その前に……」
スーハーと深呼吸を数度した後、真耶は満面の笑みでこう口にした。
「こうして話すのは七年振りですね、せーんぱいっ♪」
時は二週間前に遡る。
将輝はその日、傍迷惑な天災の所為で過去へと跳んだ。
過去へと跳んだ将輝が目にしたものは創設されたばかりのIS学園と学生時代の織斑千冬達の姿だった。
其処で将輝は色んなものを見た。原作よりも以前のある意味重度のコミュ症である千冬と束、好き放題にしている篝火ヒカルノ、それをまるで他人事のように見ている中学時代では保険医だった黒桐静の姿を。
その四人の人間性は致命的とまで言えた。ルールこそ辛うじて守ってはいるものの、人との接触を殆どしようとしない彼女達は色々と欠落していた。
そして酷かったのは女尊男卑の傾向が見え始めた当初だというのに、生徒達が将輝に送ってくる侮蔑と嘲笑の視線。現代になるにつれてその傾向は酷くなったとばかり思っていた将輝はその時酷く驚いた。
すぐに未来に帰ろうとしていた将輝だったが、現代よりも僅かながらに劣る束では製作に二ヶ月の期間を要した。その間、将輝は過去で過ごす事となり、彼もまた影響を与えないようにと不干渉を貫こうと始めは考えていた。
だが、根っからのお人好しであった将輝が不干渉を貫く事は出来ず、結果としてたった二ヶ月という期間にもかかわらず、IS学園は現代と同等レベルの活気に満ち溢れたものとなった。
その際、将輝は紆余曲折を経て、臨時副会長となり、今まで侮蔑と嘲笑の視線を送ってきていた生徒達からは最大限の敬愛と憧憬の念を送られていて、また誰よりも将輝の影響を受けた織斑千冬、篠ノ之束、篝火ヒカルノ、黒桐静、そしてテロリスト襲撃の折、助けた中学生の少女ーーー山田真耶は将輝に恋をした。
しかし、現代こそが自らの生きる時代であるとした将輝は彼女達の想いに応えることはなく、また彼女達の記憶が自身が現代に帰れば消失するであろうと何処かで理解していた為、迷うことなく現代に帰還を果たした。
けれど、その可能性を示唆し、恐れていた束はを将輝の帰還時に五人の二ヶ月の記憶を同時に転移させた。
その為に彼女達は七年越しに将輝の記憶を取り戻し、つい先日結果としては七年越しな再会を果たすことになった。
それからのIS学園はそれはそれは凄まじい事となった。
IS学園の保険医として黒桐静が就任し、篠ノ之束と篝火ヒカルノも非常勤講師となり、IS学園ではてんやわんやの事態へと発展した。
何より凄まじい変化であったのは過去に将輝に告げられた将来体罰教師になっているという事態を重く見たのか、千冬が怒る際に出席簿で叩かなくなったことだ。それには生徒達。特に弟である一夏は何か悪いものでも食べたのかと心配していた。
真耶も真耶で何故か急に出来る大人へとクラスチェンジし、何時の間にかわたわたとする事はなく、生徒達から真耶ちゃんが出来る女になったと噂されるようになった。
こうして忙しい期間が流れるように終わり、将輝と話す機会のなかった真耶は初日からの三日間ほどを休日として将輝の部屋を訪れていた。
「あー、えーと、山田先生?」
「先生はやめて下さい。今は年上になっちゃいましたけど、昔みたいに真耶って呼んでください。私も将輝先輩って呼びますからっ♪」
「そうは言われても……」
二週間前までならいざ知らず、夏休みに入るまでの間、幾度となく、千冬と真耶のことを名前で呼びそうになっていた将輝は最近やっと二人を今まで通りに先生と自然に呼べるまでに戻せていた。それをいきなりまた名前で呼んでほしいと言われても、それはそれで辛いものがあった。
「先輩の事ですからそういう対応になるのはわかってました。だから………じゃーん!」
「それって……」
「そうです。IS学園の制服です!」
真耶が小さな荷物の中から取り出したのは綺麗に畳まれていたIS学園の制服だった。
「これを着れば先輩も私の事を名前で呼びやすくなるんじゃないですか?」
「それ以前に着れるんですか?」
「大丈夫です。自慢じゃありませんけど、高校の時からあまり成長してませんので!」
えっへんと胸を張ってそういう真耶だが、本当に自慢になってはいなかった。胸を張るという動作によって、その豊かな双丘が上下に揺れたのを見て、将輝は目をそらす。
「それじゃ着替えてきますんで待っててくださいね。の、覗くのは………ちょ、ちょっとだけなら………やっぱり何でもありません!」
そう言って真耶は脱衣所の中へと消えていく。鍵をかけなかったのは、先程の発言が関係している………というわけではなく、単に天然だからである。
「着替えましたよ〜」
数分経ったところでそう言って真耶が脱衣所から姿を現した。
「ど、どうですか……?」
「……全然おかしくない、似合ってる」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
えへへ〜と真耶はまた頬を緩ませる。
今までは一つの部分以外に関しては殆ど成長しない事に悲観的な思考だった真耶だが、今はその事に心の底から感謝していた。
「あの時は先輩に見せられなかったので、こうして見せる事が出来て嬉しいです。ちょっと胸が苦しい事とスカートが短いのが恥ずかしいんですけど……」
そう言って真耶は恥ずかしそうにモジモジとする。その様子を見て、将輝は可愛いなぁと和んでいた。
「あ、あの先輩。お隣に座っても良いですか?」
「良いよ。やま…………真耶」
「ありがとうございます!」
やっと名前で呼んでくれた。真耶はそれに歓喜した。この二週間。ずっともどかしさを感じていた。自身が心の底から慕い、好意を抱いていた人間が先生と何処か他人行儀に接される事に。
それも仕方のない事ではあった。昔は真耶が後輩であったが、今は教師と生徒。それが当然の関係だった。
けれど、真耶はもう一度昔のように接して欲しいとそう願っていた。せめて二人きりの時だけでも名前で呼んでほしいと。それがたった今成就されたのだ。
真耶の脳内は絶賛フィーバー状態。嬉々として将輝の隣に座ろうとベッドに近づいていく………途中で躓いた。どれだけ出来る大人になっても天然スキルだけは直らなかったのである。
そしてその天然スキルは将輝を巻き込み、傍目から見れば真耶が将輝を押し倒しているような構図となってしまっていた。
「だ、大丈夫ですかぁ?」
「全然大丈夫……肉体的には」
肉体的にはベッドの上に倒れているだけであるので、例え将輝がISとの同化状態であろうとなかろうと何の問題はない。強いて言うなら押し付けられている宝具とも言える真耶の装備が将輝の理性を凄まじい勢いで削っていることくらいだ。
将輝の言葉の意味が分からずにキョトンとした真耶であったが、すぐにその意味に気づくと顔をかぁーっと真っ赤にしつつも、それをなお一層押し付けた…………というよりも将輝に抱きついた為に押し付ける形となっていた。
「先輩…………私、ずっと辛かったんです」
「ま、真耶?」
「中学三年の時、私、色んな人に告白されたんです。今まで全然そういう事が無かったのに急に告白されるようになりました。皆さん、魅力的な方ばかりでした………でも、全然好きにはなれませんでした。別にその人達が悪い人だとかそういうのじゃなくて、私には他に好きな人がいるって、例え覚えていなくてもその人の事を心の底から愛していたって思ったから」
千冬達と同じように例え記憶にはなくとも、心が覚えていた。
千冬達に比べればごくごく僅かな時間しかいられなかったが、それでも確かに一人の人間に恋をした事を。自分を変えてくれた誰よりも大切な人間の事を。
「あの日は私もまだ子どもだったのでキスだけしか出来ませんでしたけど………今はその………もし先輩が宜しければその先だって……出来ます」
潤んだ瞳で真耶は将輝の顔を覗き込む。その頬は恥ずかしさで紅潮しているものの、瞳には確固たる意志が宿っていた。
「好きですっ、先輩。もし良ければ私と付き合って「うわっ⁉︎」下……さい……?」
ドアが勢いよく開き、中に雪崩れ込んできたのは一夏を筆頭にした箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ達専用機持ちだった。
突然の乱入者に何事かと思った真耶は六人の顔を見ると途端に顔を青くしていった。
「み、皆さん………ここで何を……」
「あ、いや、そのですね。偶然通りかかっただけで……というか、山田先生、その格好……」
「別に盗み聞きしてたとかそういうのじゃないから安心して」
「恋愛に年の差なんて関係ないですよねっ。が、頑張って下さい」
「ふむ。これが『ぷれい』というやつか。なかなか変わった趣向だな」
「何故だ、将輝⁉︎何時からお前はそんな変態に……」
「頼まれればわたくし共も助力を惜しみませんでしたのに!」
「なんか盛大に勘違いされてるぞ、これ」
口々に話す六人の話を聞いて、将輝は額に手を当てた。
確かに事情を知らない者からしてみれば、そういう趣向を将輝か真耶が持っていると勘違いするのは当然と言える。かといって、そうでなくとも真耶が将輝に告白していたという事実は箒やセシリアにとってはかなり衝撃的な事実だった。
「というか、真耶。鍵閉めてなかったのか」
「はわわわわ、すみません、先輩。やっと二人きりで話せるって舞い上がってましたから……」
「いや、まあ真耶の天然は今に始まった事じゃないし、それもチャームポイントだから良いんじゃない?」
それを聞いた真耶はホッと胸をなでおろすが、事態は全くといっていいほど解決してはいない。それところか、自分達が現れてもそのやり取りを平然とやってのける二人を見て、事態は悪化の一途を辿っていた。
「ふむ。随分と慣れているということはかなり数をこなしていると見た」
「え、えええ⁉︎数って……まさか……」
「まあ、そういうことでしょうね。あんまり弱点がないからおかしいと思ってたら、まさかこんな趣味の持ち主とはね」
「ああ……お父様、お母様。わたくしはどうすれば良いのでしょうか………将輝さんがとても遠いところに……」
と四人が思い思いに盛大に勘違いをしている横で同じリアクションを取りながらも一夏と箒だけは妙なもどかしさを感じていた。
「なんかよくわからないけど………山田先生が将輝の事をそう呼ぶのって凄い懐かしい気がする……」
「一夏もか?私も何故かその呼び方には違和感を感じないのだ。それどころか、聞き覚えがあるような気さえする」
首をかしげる二人だが、全くと言っていいほど思い出せる気配はなかった。あくまで束が記憶を未来に送れたのは千冬、束、ヒカルノ、静、真耶の五人のみでその他の人間には感覚は残っていても自力で思い出す事は出来ないのだ。
「………やれやれ。小煩いと思ってきてみれば、やはりお前達か。織斑」
騒ぎを聞きつけて現れたのは定番となっている黒いスーツ姿の織斑千冬だった。夏休みであるためか、その手には出席簿は握られていないが、その代わり何故かハリセンが握られていた。
「夏休みに入ったからといって羽目を外しすぎるなとあれ程…………何をしているんですか、山田先生」
一夏達に説教を始めようとした千冬だが、視界の先、IS学園の制服に身を包んだ真耶の姿を見て、額に手を当てて、溜息を吐いた。
「えっと、あの、違うんです!決してそういう趣味ではなく………織斑先輩はわかるはずです!私だけ先輩に制服姿見せられなかったからこうして先輩に………」
「確かにそう言われれば、真耶は将輝に制服姿を見てもらっていなかったな。だが、そういう事をするのであればもっと周りを警戒してだな。というか、将輝も将輝だ。真耶の天然ぶりはわかっているだろう?」
「あー、ごめん。ちょっと想像の遥か上を言ってたみたいでさ。悪いな、千冬」
「あ!先輩、今馬鹿にしましたね⁉︎わ、私だってやれば出来る子なんですよ⁉︎というか、なんで織斑先輩はそんな自然名前で呼ぶんですか!私の時はあんなに手間がかかったのに!」
「それはその……な。千冬は時々会いに来てたし、二人の時は名前で呼ばないと拗ねるから」
「す、拗ねてなどいない!ただ私は当然の権利を……」
自分達をそっちのけで将輝と真耶は千冬を巻き込んで三つ巴のいがみ合いを始めた。
日頃……というか、今まで見たこともない千冬の露骨に感情を押し出した素振りに全員が度肝を抜かれていた。
織斑千冬といえば何処までもクールで知る人ぞ知るブラコンではあるものの、こうして人の目があるときは基本的に触れれば切れそうな日本刀のような鋭いオーラを放っている。その為、威圧感は凄まじいものがある。
だが今の千冬はそんな素振りなど全くない。まるで少女のように感情的な発言ばかりをしていた。それには当然日頃の千冬を知る六人は驚かないのも無理はないが、やはり一夏と箒だけは何かこの光景前にも見たことあるような気がすると唸っていた。
「第一、抜け駆けは禁止だと言ったはずだ!私は二人きりになっても普通に話をしていただけだというのに!」
「何を言ってるんですか!織斑先輩はあの日の文化祭で先輩に告白した後に皆より先にキスしちゃったじゃないですか!抜け駆けしたのは先輩が先です!」
「あ、馬鹿……」
時すでに遅し。真耶の発言に六人全員が確かに反応した。
「教官が将輝に告白……だと……⁉︎」
「まさか織斑先生まで……」
「あんたどんだけ見境ないのよ……」
「わ、わたくし、気分が悪くなってまいりました……」
「将輝。その辺り詳しく話を聞かせてくれないか?特に告白からキスのくだりとか!」
「だな。これは一度話を聞いておかないと納得出来そうにない……!」
「一夏、箒なんか目が怖いよ?」
目からハイライトの消えた二人は不気味な微笑みを浮かべて将輝ににじり寄る。視線を真耶と千冬に向けて助けを乞うものの、どうやら今の二人は千冬と真耶でも怖いらしく、そそくさと退散……しようとして捕まっていた。
「千冬姉も。聞きたいことあるからそこにいて」
「いや、私は仕事が……」
「そ・こ・に・い・て」
「わ、わかった……」
(お、織斑くん怖い……)
一夏のシスコンレーダーに見事に引っかかってしまった三人はこの後理由について細部まできっちり話す羽目になった。