憑依系男子のIS世界録   作:幼馴染み最強伝説

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番外編:セシリアルート5

 

ガギンッ!

 

金属音と共に鉄の腕が宙を舞う。

 

片腕を無くしたゴーレムは無造作に拳を振るうも回避され、その直後に降り注いだ幾重もの閃光により態勢を崩す。

 

その隙をついて懐に飛び込むのは紅椿を纏い、両手に《雨月》と《空裂》を握った箒。

 

左肩に打突を放ち、《空裂》を突き刺すと胴体部に向けて《雨月》を薙いだ。

 

短期決戦ということでフル稼働状態の紅椿の武装は展開装甲が発動している。謂わば全身武装零落白夜状態。エネルギー消費こそ馬鹿にはならないものの、エンカウントして僅か一分半。既にゴーレムはコアを露出させ、満身創痍だった。

 

そしてその露出したコアをセシリアの駆るブルー・ティアーズの武装である《スターライトMkⅢ》の一撃が撃ち抜いた。

 

心臓部と言えるコアを破壊されたゴーレムは力なくその場に倒れる。

 

以前は脅威であったゴーレムも実力も向上し、専用機を徐々に使いこなし始めていた箒がいることで最早敵ではなかった。一人であれば時間もかかるものの、勝ちは揺るがないと言えた。

 

「お疲れ様ですわ、箒さん」

 

「ああ、お疲れ、セシリア」

 

武装を解除した二人は互いに労いの言葉をかけ、ゴーレムを見やる。

 

以前はコアを貫かれて尚、稼働し自爆を図ろうとしたゴーレムも今回は完全に沈黙していた。

 

「以前は勝手な行動をして足を引っ張ってしまったが、今回は力になれたようだな」

 

「箒さんがいて下さったお蔭でかなり早く倒せました。織斑先生に早速報告を……ッ⁉︎」

 

開放回線で千冬に向けて連絡を送ろうとしたその時、ハイパーセンサーが上空に何かを捉えた。

 

「見たことのないタイプ………新手か⁉︎」

 

「そのようですわね。どうにも今回は拍子抜けだと感じましたが、どうやらわたくし達が倒した機体は様子見との為に差し向けられたようですわね」

 

空から見下ろしている謎のISは特徴的な長い腕をしたゴーレムとは違い、何処までも無骨で不必要な要素は全て省かれた機体。スラスターも既存のISと同じく二つしかついておらず、これと言った武装も見受けられないが、それが逆になんとも言えない威圧感を放っていた。

 

再度《スターライトMkⅢ》を展開したセシリアは数十メートル先にいる謎の機体へ照準を合わせる。狙いは頭部。距離が距離であるだけに避けられるのはわかってはいるが、放った一撃を謎の機体は避けること無く、その頭部に直撃する…………が、謎の機体は身じろぎひとつすること無く、二人を見下ろしていた。

 

『ジジジ………進化(アップグレード)完了』

 

「そんな……無傷ですって⁉︎」

 

絶対防御が発動したようには見えなかった。仰け反る事すらしなかった謎の機体は指先を動かすと、その人差し指から先程セシリアが放ったであろう一撃と同等のものを放った。

 

「わたくしと同じ武装⁉︎………いえ、今のは……」

 

「コピーしたのか?セシリアの攻撃を?」

 

箒は確認するようにそう言うと歯噛みした。

 

同じ武装であれば問題ない。むしろ対処のしようはある。

 

だが、コピーするともなれば話は別だ。長時間闘えば不利になるのは二人である箒とセシリアだ。

 

生半可な攻撃には全く怯まず、そのまま利用される。

 

かといって攻撃をしなければ何をしてくるかわからない、ともすれば箒に残された選択肢は時間をかけず、即座に敵ISを叩き落とすことだった。

 

「はあああっ‼︎」

 

アリーナに静かに降り立った敵ISに向けて、箒は瞬時加速で肉薄する。

 

フル稼働状態の紅椿はまさしく現行ISを全て上回る最強の機体であり、その爆発的な加速力と突進力を利用した一撃は当たれば文字通り一撃必殺。避けようにもそれは到底反応できる速度ではない。それを傍目から見たセシリアも「やった!」とそう感じた。だが………

 

ギャリンッ!

 

金属音が響く。

 

その必殺の一撃を敵ISは難なく受け止めた。

 

確かに箒の一連の動作は完璧で普通なら反応など出来るはずもない。だが、敵ISは普通という枠組みから逸脱していた。反応速度云々ではなかった。

 

『ジジジ………解析……完了。半径五キロ以内デ稼働中ノ該当スル全ISヲ強制解除シマス』

 

無機質な機械音声の言葉に咄嗟に箒は距離をとった。

 

だが、敵ISから離れた直後、全身が光に包まれたかと思うと自身を支えていたはずの力が抜けているのを感じた。

 

「なっ⁉︎紅椿‼︎」

 

ISが強制解除された事に驚きを隠せない箒は自身の専用機の名を呼ぶ。だが、その声に反応する事はなく、紅椿は起動しない。

 

一体何が?もしやあの一瞬のうちに何かされたのでは?そんな事が脳裏をよぎるが、それが分かったとしても現状の箒に打てる手はなく、そして同じようにISを解除されたセシリアも対処の術を持ち合わせていなかった。

 

だが、一番の問題はそこでは無い。問題なのはISを装着していない状態で何の感情も持たず、ただ目の前の敵とみなした対象を無慈悲に、暴力的なチカラで無造作に破壊する者の目前に晒されている事だ。もし、運良く敵ISがIS以外のものはスルーするのであれば助かることは出来る。だが、目の前のISは彼女達を見逃す事はしなかった。

 

一歩、また一歩と拳から鋭い刃を出現させた敵ISは二人に近づいていく。

 

立ち向かう術も、逃げる術も失っている二人は後ずさる事も出来ずに迫り来る凶刃に身を強張らせていた。

 

そして敵ISが二人の目前まで迫った時、二人の間に割って入る者がいた。

 

「やめろぉぉぉぉぉっ‼︎」

 

夢幻を纏った将輝は庇うように二人の間に割って入る為に《無想》を展開し、瞬時加速で迫る。

 

だが、その選択は此度に置いて確実に間違いであった。

 

二人の危機に将輝は庇うという選択肢を取ってしまった。それは当然のことと言える。その中に想い人がいるのであれば敵を攻撃しに行って危険に晒すわけにはいかない。

 

しかし、敵ISの目的は初めから箒とセシリアではなかった。

 

『ジジジ………見ツ……ケタ!』

 

今までとは明らかに違う機械音からも感じる敵意は将輝に向けられていた。

 

それに将輝か気づいた時には全てが遅かった。

 

庇うように動いていた将輝は自身の身を守ることは微塵も考えておらず、また《無想》は二人を守るために二人と敵ISのちょうど間に向けて振るわれていた。

 

ザシュッ!

 

振り下ろされた一撃は箒とセシリアにではなく、将輝に向けられたものだった。

 

振り下ろす直前、咄嗟に身をよじった将輝であったが、その鋭い一撃は絶対防御をいとも容易く斬り裂き、左腕を断ち切った。

 

鮮血と共に左腕が宙を舞う。

 

ISを纏ったままぼとりと落ちた左腕に箒とセシリアは絶句した。

 

「二人共……逃げろ。ここは俺が引き受ける」

 

残った右腕で《無想》を構えた将輝は敵ISを見据えたまま、静かにそう呟くが、当の二人にはその言葉が殆ど届いていなかった。それもそのはず、目の前で人間の腕が斬り落とされたのだ。軍人のラウラならともかく、普通の一般人としての生活をしていた箒やセシリアにとってはそれはかなりの衝撃的な事だった。

 

二人が逃げるのを待つ、という判断を下せなくなった将輝は上空へと上がると、敵ISもその後を追うように上昇する。

 

上空に上がると同時に激しい戦闘を始める将輝と敵IS。しかし、二人の意識は未だ先程の光景とそして目の前に転がる将輝の左腕へと向けられていた。

 

自分達を庇って想い人である人間が片腕を失った。その事実が二人に与えるショックは計り知れない。

 

例え、巻き込まれれば即、死に直結するような場所であったとしてもそれは二人に関係はなかった。

 

『此方のISが強制解除されたぞ。一体何があった⁉︎』

 

箒を現実に引き戻したのは怒号混じりに飛んできたラウラの開放回線からの通信だった。

 

ISを使用できなくなったのは何も二人だけではなく、ラウラやシャルロット、一夏や鈴といった専用機持ち達全員のISが強制解除されていた。

 

「わ、わからない………ただ、敵のISが何かしてきたとしか……」

 

『ISを強制解除させる敵だと?新手か?』

 

「あ、ああ。私達のISも強制解除されて、開放回線しか使用出来ん状態だ」

 

『待て。ならば敵は何処に行った?お前が無事だと言うことはセシリアも無事なのだろう?』

 

「ああ。今は将輝がそいつと闘っている………だが……」

 

『どうした?』

 

「私達を庇って………左腕を……斬られた」

 

『ッ⁉︎』

 

回線の向こうでラウラは言葉を失った。

 

今、将輝が闘っているというのは性格を考えれば十分に想定の範囲内だった。そして現在も闘っている以上、無事なのだとそう思っていた。だが、ラウラの予想に反して将輝は到底無事と呼べる状態ではない。片腕は斬り落とされ、ピッキングで侵入したラウラと教員たる千冬と真耶しか知り得ない事であるが、将輝の体調は到底万全ではない。彼女達からは見えないが顔色は見るからに悪かった。

 

「くっ……せめて動かせない理由さえわかれば……!」

 

「ーーー教えてあげよっか?」

 

「っ⁉︎姉さん‼︎」

 

「やっほー、箒ちゃん」

 

二人から少し離れた位置、其処からゆっくりとした歩調で歩いてくるのは篠ノ之束だった。何時ものように人を食ったような笑みを浮かべ、向かい合うように箒の前に立つ。

 

「臨海学校の時以来だね。こんな短期間に会えるなんて思わなかったよ」

 

「そんな事はどうでもいいんです!姉さんがここに来たという事はあれを止められるのでしょう!早く止めてください!でないと将輝が……」

 

懇願するように言う箒に対する返答は無情にも否定の言葉だった。

 

「ごめんだけど、箒ちゃんのお願いでも無理かなぁ」

 

「こんな時に何を言って……」

 

箒はまた自分勝手な都合で、とそう思った。どうせ今の状況は姉にとって好都合で、狙い通りに行っているから何もしないのだとそう思った。しかし、それも束は否定する。

 

「正確には私は止めないんじゃなくて止められないんだけどね。産みの親が言ってなんだけど」

 

「ど、どういう事ですか⁉︎あれがISであるなら、コアを作っているのはあなたでしょう!」

 

「うん。というか、あれを創ったのは私だよ?」

 

「え………」

 

「普通に考えてもみなよ、箒ちゃん。どの国家にもああいうタイプの機体は見た事がないでしょ?しかも誰も人が乗っていない機体も誰も作った事がない。そうなると作れるのは私以外いないでしょ」

 

当然の事だった。

 

箒とて、その可能性を考えた事がないわけではなかった。ゴーレムの一件、各国が第三世代の製作で躍起になっている中、どう考えても第三世代型ISよりも遥かに難しい人の乗らないIS、それも第三世代並みの性能を有する機体を作れるのは唯一、肉親である束だけだと。誰よりも疑っていた。

 

だが、それでもそうだと言いださなかったのは姉と距離をおいてもなお、家族として姉を信じたかったからである。故にそんな当然の事から目を背けた。姉以外の誰かであってほしいと。

 

「あの子の目的はね。まーくんの………藤本将輝の抹殺なんだ。そう私が設定した。他の人間に矛先が向いたとしても無力になれば狙わないようにするためにね」

 

「何故そのような事を⁉︎」

 

「もちろん、まーくんを殺す気なんてハナから私にはないよ。だって、お気に入りだし、箒ちゃんが好きな子だよ?死んじゃったら悲しいもん………だからあの子とまーくんが闘うのはもう少し先の予定だったんだ。具体的には二ヶ月くらいね。彼が強くなるための障害を私が作ったわけさ。でも……」

 

予定では二ヶ月先、将輝と新型の無人機を闘わせるつもりだった。紅椿を除いて、現行ISの性能を上回る機体である新型は将輝の成長を予想して、それを僅かに上回る程度にしたつもりだった。実際、そうなってはいたのだが、束が興味本位で組み込んだ『自己進化プログラム』。それが今回の暴走を作り出した。

 

「あの子はね。一次移行や二次移行の概念がない代わりに戦闘データを得る事で自己進化をするように私が創ったんだ。元々性能は高いし、闘えば闘う程に強くなる。それを苦戦しつつも何とか勝って次の段階にステップアップさせるのが目的だったんだ」

 

しかし、予定には完全に狂いが生じていた。

 

自己進化プログラムを組み込んだ結果、スリープ状態に入っていた機体は自力でその状態から抜け出し、複数のゴーレムと共にIS学園を強襲、ゴーレムを犠牲にしながら自己進化を遂げ、束が将輝とタイマンを張らせる為だけに組み込んだジャミングシステムを利用した。

 

元々から夢幻だけはジャミングの対象外だった。邪魔をされず、そして将輝だけが闘い、勝利を得ることで将輝にとって飛躍的な成長の経験値を積ませるまでが束のシナリオだった。

 

しかし、予定よりも二ヶ月も早い戦闘。既に何段階か遂げている自己進化。そして万全とは程遠い将輝の体調。全てにおいて将輝に勝ち目は存在しなかった。

 

「あの子は元々まーくんを抹殺する事が目的だからそれを無くせば勝手に止まる。けど、このままいけば確実にまーくんは死ぬよ」

 

天才ゆえに見えてしまう。わかってしまう結果。

 

元から開いた実力差が度重なるイレギュラーで天と地ほども開いている今の状態でなおも食い下がっているのは束としてもあり得ないと思っていた。だが、それをもってしても、未だ倒されていないだけで、善戦しているとは言い難く、辛うじて戦闘になっているといっても過言ではなかった。

 

「何時も………何時もあなたはそうやって、自分勝手な都合でっ!また私から全てを奪っていくつもりですかっ⁉︎あの時は一夏を!今度は将輝を!何処まで私を苦しめれば気が済むんだ!」

 

「……ごめんね、こんな不器用なお姉ちゃんで」

 

「今更何を……っ!将輝が死んでしまったら………私は………ラウラは………セシリアはどうすれば「篠ノ之博士……」ッ⁉︎セシリア!」

 

「ISは………自己進化を遂げるように製作したとそう仰っていましたね」

 

「そうだよ。元々コア自体は生まれたての赤子のようなもの。ISになって初めて歩く事を覚え、子どもになれる。そして一次移行をもってISは自我を手に入れる。搭乗者の意志と経験値が二次移行へのきっかけだけど、今更それを確認してどうする気?」

 

「どうも…………ただ、わたくしはわたくしのISをーーーブルー・ティアーズを信じるだけです。共に戦場を歩み、突き進んできたパートナーを」

 

セシリアは胸に手を当て、待機状態となっているブルー・ティアーズに語りかけるように心の中で話す。

 

(あの方が…………将輝さんがわたくし達の為に闘っています。あれだけ拒絶したわたくしを…………否定したわたくしを庇い、左腕を失った。なのにまだ闘っています)

 

セシリアの胸中に渦巻くのは後悔と自責の念。将輝の腕を失うキッカケを作った後悔と彼の真意を知りながらも、自身の心を守る為に拒絶せざるを得なかった弱い心に対する自責の念。

 

(本当は気づいていた。あの方がわたくしを遠ざける為にあえてそういう言い方をした事に。わたくしが拒絶し、口汚く罵るように仕向けようとしていた事を。でも、わかっていたけれど、そうせざるを得なかった。そうしないと………心が壊れてしまうから)

 

全てを分かりながら、受け入れる事を躊躇った。

 

そんなことは関係ない、と。気にする必要はない、と。本当は言いたかった。

 

だが、セシリアの心はそれを受け入れるのを拒んだ。自身の心の支えとなっていたものを失ってしまえば、それを受け入れるよりも先に心が壊れてしまう事を恐れた。

 

だからセシリアは将輝の真意を知りながら拒んだ。思惑通りに最大限拒絶した。

 

(けれど、今は違う………わたくしは自分の心の弱さから目を背けない。何かを言い訳にしたりしない。将輝さんが誰よりも辛く、苦しい想いを一人で抱え込んできたのかはもう知っている。なら、わたくしにできる事はそれを少しでも共有して、辛く苦しい想いからあの人を解放してあげること。その為にはあなたの力が必要なのです。共に戦場を駆け、勝利も敗北も等しく分かち合ったあなたの力が…………)

 

もう迷わない。逃げる事はしない。覚悟は決まった、ならばあとはもうそれを言うだけでいい。

 

「わたくしの想いに応えてっ!ブルー・ティアーズ‼︎」

 

瞬間、辺りが蒼い光に包まれた。

 

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