久々の投稿ですが、短編ばかりの原作四巻なのでストーリーはあまり進みません。ごめんなさい。
因みにお気に入り千五百件突破記念特別ストーリーはあくまで特別ストーリーなので、繋がっていませんのであしからず。
リハビリ?
「なあ、ラウラ」
「どうした、藤本将輝?トイレか?」
「いや、そういうのじゃないんだけどね」
「そうか。では腹が減ったのか?それとも何処か具合でも悪いのか?」
「どっちでもない。ただーーー」
将輝は数度深呼吸をしたのち、異を唱えた。
「何で俺はよくわからない場所でAICに拘束されているんだ?」
実をいうとここはIS学園ではない。ドイツ国境付近の遥か上空を飛空する軍用機の機内だ。其処で将輝はラウラのAICにベッドごと固定され、ここに連れてこられている。それ故に将輝はつい先程起き、全く現状を把握出来ずにいた。
「ここはドイツの軍用機の中だ。AICで拘束しているのはお前に逃げられないためと睡眠を妨害しない為だな」
「誰もそっちの説明は求めてないんだが…………」
「寝ている所を勝手に連れてきた事は謝る。しかし、元はと言えば言い出したのはお前だ」
「は?」
全く心当たりがない。首を傾げる(実際は微動だに出来ない)将輝にラウラが説明をする。
「ISと同化している所為で何かと不便だからと私に相談しに来ただろう?」
先月。将輝達は福音との激闘の末、辛くも福音を撃破する事に成功した。
だが、その代償として将輝は一時的にISの補助抜きでは生きていけない身体となってしまった。将輝としてはその事を大して気にしていないが、副作用はとても無視の出来ないものだった。動体視力や反射神経が向上している事はとても良い事だが、いかんせん力の加減が出来ないのだ。つまり脳のリミッターが常に外れている状態で、少し力を入れれば大抵の日用品は破壊してしまい、剰えその反動に耐えかねた身体も壊れる。幸い、痛覚は殆どカットされている為、痛みはほぼ無いのだが、それ故に自身の健康状態の把握が非常に困難となっていた。
どうにかならないものかと悩んだ将輝は先ず束に相談しようとしてーーーーー嫌な予感がして諦めた。箒にはまだ福音事件の事を気にしている節がある為、それに関連するもの自体がタブーだ。セシリアはそもそも人体の事について詳しくない。千冬に相談しにいけば、忙しいからと現役軍人であるラウラなら何かアドバイスをくれるかもしれないと勧められ、その結果、将輝は昨日相談しに行った。
話を聞いたラウラは何度か頷き、任せろと言って承諾した。
部屋に帰った将輝は一体どんな解決方法があるのかと考える最中に眠りにつき、目を覚ませばこうしてAICで拘束されているという珍妙奇天烈状態に陥っていた。
「つまり、この状況は俺が望んだ物だと」
「概ねそうだな。それに以前お前を我がドイツ招待するとも言っただろう?しかしまあ、殆ど独断で即興だったからな。クラリッサがいなければ、こんな事は出来なかった」
ラウラの言葉に確かに以前そう言っていたなと将輝は思い出す。まだ短い付き合いであるが、彼女が基本的に有言実行なのは知っているのだが、まさかここまでするとは露ほども思っていなかった。
「其処までしてくれる必要はなかったんだけど………」
おまけに急いでいた所為か、携帯電話もない。将輝は後で箒に問い詰められるなぁと微妙な表情を浮かべている。
「気にするな。此方としても現状のお前は何かと有用性がある」
「?」
ラウラの言葉を理解する事になるのは凡そ一時間後のドイツ軍基地であった。
「はぁ………はぁ………」
ドイツ軍基地に到着してから三十分後。将輝は地面の上に寝転がって大きく息を乱していた。服(ドイツ軍服)もかなりボロボロで身体中の至る所に切り傷や打撲があった。
「どうした?体力の消耗が著しいようだが」
「そりゃ………疲れるさ………一般人が現役軍人五人も同時に相手したら……」
ドイツ軍基地に着いて早々、将輝が行った(というよりも半ば強引に)のはラウラが隊長を務めるシュヴァルツェア・ハーゼ隊に所属五名との闘いだった。
心得があるとはいえ、軍人から見れば素人と同然。将輝に勝ち目などある筈もないのだが、ISによって極限まで引き上げられた身体能力がそれを可能にした。
しかし、加減が難しい将輝としては例え相手が現役軍人であろうとも拳を振るうわけにはいかなかった。その為、彼女達の防御や回避が間に合ってから攻撃を仕掛けていたのだが、それですら人の限界を超えた一撃であった為に彼女達は本気で将輝を殺す気でかかった。
身体中の傷はそれが原因なのだが、痛覚が殆どない将輝はその傷よりも体力の消耗の方が精神的には辛かった。
「有用性があるってのは、こういう事だったのか」
「見た所、代償があるとはいえ、お前の身体能力は織斑教官に届きうるレベルだった。加減が難しい故に私の部下が殺されかねない危険もあったが、そうすればお前は相手を気遣い、加減を試みようとするだろうし、部下も久しぶりの実戦に近い訓練が出来て一石二鳥という訳だ」
「結構リスク高くないか、それ。怪我だって浅いけど結構負ってるんだぞ」
「問題ない。舐めれば治る」
「いや、それ気持ちの問題で舐めても治らないぞ」
「?私の唾液には微量だが、医療用ナノマシンが含まれているから私が舐めれば治るという意味なのだが」
「そういえばそんな事も言ってたな……」
ラウラは試験管ベビーとして生まれた特別な出生から唾液には微量の医療用ナノマシンが含まれている。それ故、ラウラの言う「舐めれば治る」というのは文字通り擦り傷程度であれば舐めれば治るのだ。
「舐めようか?」
「いやいい。お前の部下が見てる所でそれは羞恥プレイだ。というか、見てなくても嫌だ」
「残念だ」
そういう割にはラウラは残念そうな素振りは見せず、ただ真顔でそう答えた。残念そうなのは寧ろそのやり取りを周りで見ていた部下達の方だった。
「では体力も回復してきたところで、訓練を始めるか」
「え?それってさっきのじゃ………」
「あれは
「さっきも十分危なかったんだが……」
主に将輝自身がである。例え全身凶器だったとしても殺意がなければ、殺意ある軍人よりは危険度は低い。もっとも殺意がなくとも当たれば必殺である為、五十歩百歩ではあるが。
「リスクのない訓練程温いものはないからな。リスクが高い程得られるものは大きい。特に私達のような人間はな」
そう言うとラウラは訓練用ナイフを抜き放ち、地面に寝転がっている将輝に向けて振り下ろした。将輝はそれを転がって躱す。
「相変わらずの危機察知能力だ。殺気は消していたつもりだが」
「俺の場合、殺気に反応するよりも先に自分の身の危機の方に反応してるから」
「成る程。お前の頼みであるから、色々解決方法を考えてみた訳だが、これはこれで私にとっても良い経験となりそうだ!」
服の汚れを払って立ち上がった将輝にラウラは肉薄する。ナイフの斬撃とそれに交えて放たれる打撃の応酬。流石というべきか、彼女の動作には無駄が無い。通常時なら瞬殺されているところだ。しかし、今の自分であれば問題ない。そう思いながら捌いていると服の袖を掴まれて、そのまま投げられる。
「なまじ目が良くなった所為で、不意を突かれると反応が鈍くなっているな」
「まだ慣れてないからね。何時もならすぐに態勢を立て直せるんだけど」
首に当てられた訓練用ナイフに将輝は溜め息を吐く。ラウラが殺しに来ていれば死んでいたかもしれない。これは訓練である為、殺しに来ても寸止めであるし、何より其処まで殺意が明確に示されていれば将輝とて不意を突かれても態勢を立て直すことは容易だ。しかし、相手が殺意を隠して殺しに来た場合、確実に死んでいる。もっとも、ISを動かせる男子なだけの一般人を相手に殺意を隠して殺しに来る輩などいないが。
「仕方ない。荒療治だがーーー」
ラウラは訓練用のナイフを手から離し、サバイバルナイフを抜き放つ。
「今から私はお前を殺しに行く。
「どういう意味だ、それ……ッ⁉︎」
喉元に向けて放たれた刺突を将輝はすんでのところでかわすが、ラウラは追撃する形で何発も放っていく。殺気がある為、躱す事は先程よりも少し簡単にはなったが、実戦経験は圧倒的にラウラの方が上で技術もやはりラウラの方が上だ。スペックは圧倒的に将輝の方が上でもその差を埋める方法は幾らでもあるのだ。
(反撃しないとマズいな。ラウラの事だから、やるって言ったら確実にやる訳だし)
将輝は反撃の為に拳に力を込めるが、すぐに拳から力を抜く。
(反撃したいけど出来ねえ。したら、ラウラが……)
もし反撃すれば、殆ど加減のできない将輝の攻撃を受けたラウラは無事では済まない。おまけにラウラの見立てが正しい場合、将輝は自身の身体を壊すというリスク付きで千冬並みの身体能力に引き上げられている。千冬クラスの一撃をラウラが反応し防御する事は不可能に近く、回避もまた同様だ。千冬はインパクトの瞬間に力を抜いているから良いものの、将輝にはそれが出来ないため、当たれば骨の一本は確実に逝く。投げ技なら話は別だが、其処まで持って行くまでが長く、今度は将輝が唯では済まないし、そもそも本来の目的は『加減を覚える』事なので、それでは意味がない。
「随分と余裕があるな。考え事をしている暇があるのか?」
「マズーーーッ⁉︎」
今までよりも一歩踏み込んで放たれた刺突は吸い込まれるようにして将輝の心臓めがけて放たれるが、将輝の口から漏れた言葉はそれによるものではない。その刺突はすんでのところで手のひらを犠牲にし止められていた。だが、その時将輝は反射的にラウラの額めがけて拳を放っていた。攻撃するつもりはなかった。人としての防衛本能がその拳を放っていた。不可避の一撃は刺突と同様に吸い込まれるように額めがけて突き進んでいく。
「おおおおっ‼︎」
不可能であるからこそ、将輝は吠えた。無意識に放った一撃に抗おうとした。数秒後に見える無残な結末を回避する為にただ人間の能力に全力で抗った。
そしてその結果はゴンッという鈍い音だった。
「………痛いぞ、藤本将輝」
「はぁ……はぁ……。手加減………出来たのか」
額を摩りながら言うラウラに将輝は安堵の溜息を吐いた。しかし、加減が出来たとはいえ、かなりギリギリであった為にラウラの額には赤く痕が出来ていた。
「ふむ。やはりお前にはこういう特訓が向いているようだな」
「こんなハラハラするような事は御免被りたいけどね」
「確かにこのような荒療治はあまり好んでするようなものではないが、お前の場合は話が違う。セシリアと話していて気がついたのだが、お前は如何にも土壇場でモノにする節がある。私の時や福音戦の時もそうだった。今まで出来ていなかった事がふと出来るようになる。軍人としては致命的な欠陥だが、お前は一般人のIS乗りだ。寧ろ、土壇場で出来るようになるタイプはかなりの曲者だ。もっとも、それに本人が戸惑うことが無ければ、という条件があるがな」
まあ、何はともあれ手加減が出来るようになって何よりだ。とラウラは付け加える。冷静に話すラウラに将輝は地味に凄さを感じているが、実のところ、ラウラは表情を隠しているだけで額には赤い痕の他に汗が滲んでいた。それは激しく動いた事によるものではなく、自身の身に迫る死に対する冷や汗だった。
(あれ程明確に死を感じたのは教官に罰を与えられた時以来だ。かなり短かったが走馬灯も見えた)
ラウラは将輝の拳が額に当たるまでの流れがスローモーションのように見えていた。それは遅いからではない。事実、放たれた直後は全く見えなかった。見えたのは目前に迫る絶対的なまでの死に脳のリミッターが外れたからである。かといって、身体はそれにはついてこない。ただ迫る死に遂には走馬灯を見るまでに至ったが土壇場で将輝が加減をする事に成功し、額に打撃痕を作る程度で済んだ。
「それにしても手の傷は痛くないか?見事に開通しているが」
「本当なら転げ回る所だけど、なんて言うかチクチクしてるくらいの感覚しかないんだよね。こういう時の痛覚カットは便利だと思うよ」
「だがあまりそれに慣れるなよ。元に戻った時にその感覚のままでいれば大怪我を負いかねない」
「心配してくれてありがとう。ラウラは優しいな」
「そうか?そう言われると恥ずかしいな………」
面と向かってそう言われる事になれていないラウラは頬を赤く染めて、ぷいっとそっぽを向く。ラウラのその様子に将輝は小動物のような愛らしさを感じ、思わず頭を撫でる。
「?何だ急に」
「何となく。ラウラが嫌ならやめるけど?」
「いや、そのまま続けてくれて構わない」
「了解」
そうして将輝は撫でるのを再開する。少し離れた場所では無音カメラでこの光景を撮りまくるシュヴァルツェア・ハーゼ副隊長クラリッサ・ハルフォーフの姿があり、その周囲にいる部下達はほのぼのとした光景を撮った写真に黄色い声をあげていた。
(むぅ………それにしても妙に落ち着くな。血の繋がった親や兄弟などはいないが、もしいるとすればこんな感じなのかもしれないな)
そんな事を考えながら、ラウラは奇妙な安心感と居心地の良さに身を任せた。それが終わりを迎える事になるのは行方知れずの将輝の居所を聞くためにセシリアからの電話(箒はラウラの電話番号を知らない)が掛けられた事によるものだった。