なにぶん考えても考えても良い案が思い浮かばず、今回の話になりました。もう少し頑張らないといけませんね。
「で、どうなのよ実際」
唐突に鈴は箒にそう問うた。
箒と鈴という珍しい組み合わせもさる事ながら、突然的を得ない友人の質問に当然ながら箒は首を傾げた。
「唐突になんだ、鈴」
「そんなもん一つに決まってんでしょ、将輝との恋人生活は順調かどうかって事よ」
「ッ⁉︎」
箒は飲んでいたお茶を思わず吹き出しそうになったが、何とかこらえる。だが、驚いた事でお茶が気管に入ってしまい、むせてしまう。
「ゴホッゴホッ!な、何の事だ?鈴?」
むせつつも、箒は誤魔化そうとしらばっくれる。対して鈴は何でもないようにあっさりと口にした。
「なーに、しらばっくれてるのよ。あんた、夏休みに入る少し前くらいから将輝と付き合ってるでしょ?」
「なななななな何の事かサッパリわからんな!」
「バレてないとでも思ってたの?確かに上手く誤魔化してたみたいだけど、あたし達から見れば露骨すぎて寧ろ見せつけてんのかと思ったわよ。ていうか、今の反応じゃ図星ですって言ってるようなものよ」
オレンジジュースを飲みつつ、ジト目で睨んでくる鈴に箒は思わず目をそらした。
「で、話を戻すけど、箒は将輝の何処に惚れたのよ?」
戻るというか、完全に話題が変わってしまっているが、其処は恋愛事情の気になる十代乙女。よくある事である。
箒は何回か考える素振りを見せるが、最終的に恥ずかしそうに小声で「……全部」とだけ言った。
するとその直後、バリンッ!という音がした。
驚いた箒が鈴の方に視線を向けると鈴の右手には割れたガラスの破片があり、手からはオレンジジュースが滴り落ちていた。早い話がグラスを鈴が握り割ったのである。
「り、鈴?」
「羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましいぃぃぃぃぃ‼︎」
「ひっ⁉︎」
ハイライトの消えた瞳に影の出来た表情から呪詛のように呟かれる嫉妬と羨望の入り混じった言葉に基本的にホラーの類いが苦手な箒は可愛らしい悲鳴を上げ、涙目になった。
「何であんたの所の奴はそういうのに聡いのよ⁉︎こっちは超が付くほどの鈍感なのに‼︎」
「一夏が昔から鈍感なのは鈴だって知っているだろう」
「それにしたってあれはないでしょ‼︎漫画の主人公だってもうちょいマシよ‼︎別に照れ隠しに暴力振るってるとかじゃないし、ましてや誤魔化しちゃったけどプロポーズ紛いの事までしたのに!気づけとまでは言わないけど、せめて意識くらいしなさいよ!」
頭を抱えたまま、殆ど人のいない食堂で叫ぶ鈴。
常日頃から一夏の唐変木具合に悩まされている鈴だが、何故か一夏のいない今日に限ってその不満が爆発したのだが、偶々同伴した箒からしてみればたまったものではないが。
とはいえ、一夏の鈍感さを嘆いた事は自らも過去にあり、将輝の時も互いに好意を向けている対象が違うと勘違いしていた為に想いが通じあうまでに数々の災難があった。そう思うとあまり他人事で済ませる事ができないと考えた箒は鈴の愚痴?を聞く事にした。
「まあ、なんだ、鈴。私で良ければ相談に乗るぞ?」
「あ、それはありがたいわね。ここは一つ経験者として相談に乗ってもらおうかしら」
(ふぅ、収まってくれたようだ)
鈴の暴走が収まった事にホッと胸をなで下ろす。
「それじゃあ、一夏と将輝がどういう風に違うか比較してみましょう。まずは一夏ね。背は高くて、細めの筋肉質な体型で運動神経が良くて、勉強も結構出来る、完全に天才タイプよね。家事も余裕でマッサージも出来る。しかもイケメン。最高ね」
「悪い所でいえば女心がわからない事と考えるギャグがつまらない事くらいだな」
「後者はともかく、前者は致命的よね………あたし達にとってだけど」
はぁっと鈴は溜め息を吐く。十代乙女の思考が理解出来ないのは良くある事ではあるものの、一夏は十代乙女であるから、という事を抜きにしても女心に疎い。時折、発言が失礼千万であるし、的外れの発言をする事も多々ある。おまけにそれが無自覚から来るものである為、治すにはそれなりの歳月を必要とし、それが治った頃には下手をするとIS学園を卒業している可能性すらあった。それ程までに一夏は女子の心の機微に疎かった。
「次は将輝だな。背は一夏よりやや低いくらいで体型は一夏と同じだが、能力値は千冬さんクラスで勉強は結構出来るが、将輝自身は「才能がない」と言っているし努力型だろう。家事はそこそこ、顔立ちも整っている。しかも女心には鋭い。うむ、流石は将輝だな」
「……さりげなく、惚気てんじゃないわよ。相談に乗ってくれるんじゃなかったの?」
自然に惚気られた事に地味に殺意の混じった視線を向ける鈴に箒は思わずたじろぐ。
「うっ……すまない。ついな」
(くっ………羨ましすぎる。私にもせめてあの胸からぶら下がっている女子最強の兵器さえあれば!)
「?」
箒の良く育った豊かな双丘を見て、今まで以上に羨望の眼差しを向けるが、箒はキョトンと首を傾げる。
「ま、まあいいわ。次は実際に二人を呼んでみましょう」
そう言うなり、鈴はポケットから携帯電話を取り出し、一夏に電話をかける。数回のコール音がした後に電話が繋がる。
『もしもし?どうした、鈴?』
「一夏、将輝と一緒にいる?」
『おう。今ゲームやって……あ、死んだ。で、どうしたんだ?』
「暇なら将輝連れて食堂に来てくれない?少し話があるの」
『わかった。将輝も連れて行く』
電話を切って、数分後、一夏と将輝が食堂に来た。
「鈴と箒?何か珍しい組み合わせだな」
「偶々居合わせたのよ。ついでに相談に乗ってもらってたわ」
「相談?……ああ、そういう事か」
「?将輝は何かわかったのかよ」
「大体はな(バレてるのか?俺たちの事?)」
(露骨過ぎたらしい。すまない)
ちらっと将輝は箒と軽く目配せをする事で意思疎通するが、それも殆ど一瞬の出来事であった為に一夏は疎か鈴すらもそれには気づいていない。
「で?俺達を呼んだ理由は?あんまり参考にはなれないと思うが」
「大丈夫。軽く質問するだけだから………って訳で第一問!」
「「展開早っ⁉︎」」
「うだうだ言わない。第一問は初歩も初歩よ、二人とももし女子から「付き合って下さい」って言われたらどうする?」
「俺は断る。理由は……まあ、察してくれ」
そう言って頬を掻きながら視線を斜め上にやる将輝に同調するかのように箒が俯いた。二人の初々し過ぎる反応に鈴は嫉妬を覚えるどころか逆に初々し過ぎて目も当てられないという具合に一夏の方に視線をやる。当然ながら一夏は二人の反応に疑問符を浮かべているだけである。
「俺は受けるぞ」
「一応理由を聞くわ」
「別に用事がないし、買い物くらいなら全然良いしな」
第一問目にして盛大にズッコケた。
「はぁ……まあ、あんたはそういう人間よね」
だが鈴とて伊達に一夏の鈍感ぶりを間近で見ていたわけではない。過去数十人の人間が一夏に「付き合って下さい!」と勇気を出して告白したにもかかわらず、一夏の返答は変わらず「良いぜ、何処に付き合えばいいんだ?」だった。ならばと趣向を変えてラブレターを書き、靴箱に入れたが、偶々その時二人のいた中学では不幸の手紙という古風な物が流行っていた為に届く事はなかった。その他にも様々な告白方法を取った女子はいたものの、現在の一夏を見れば結果はわかりきっている。
「続く二問目は「人伝てに自分の事が好きな女子がいると聞いた時」よ。その時、二人はどういう反応する?」
「確信が持てるまで、黙っておく」
「何かの間違いだと思う」
前者は一夏、後者は将輝の返答と先程とは返答のニュアンスが逆転した。鈴としては前者の返答を将輝がすると思っていた為、少しだけ驚いた表情をする。
「(あれ?これひょっとして攻め方があってたら普通にいけるんじゃないの?)意外ね。将輝の事だから「自分から調べに行く」くらいは言うかと思ったけど」
「生憎、俺は自信家じゃないからな。取り敢えず自滅しないように疑うところから入る」
「理由を聞くと将輝らしいわね(成る程ね、両想いぽかった割にくっつくまでに時間がかかったのはこれか)」
理由を聞いた鈴は合点がいったとばかりに心の中で何度も頷く。しかし、将輝のこの思考は基本的にモテない系の男子だった事も考えれば当然といえる。こういう事は勘違いしてしまった方が負けなのである。
「次の質問は「何だ、面白そうな事をしているな」」
鈴の言葉を遮って言葉を挟んだのはある意味この手の話とは無縁とも言える人物、ラウラ・ボーデヴィッヒだった。
「ラウラじゃない。どうかした?」
「何、お前達が面白そうな事をしていたのでな。私も混ぜてもらおうかと思ってな」
「良いわよ。何ならセシリアやシャルロットも誘ってみる?こういう話は人が多い方が盛り上がるわ」
「鈴よ。それは当初から完全に主旨が変わっているのだが…………」
「細かい事は良いのよ。取り敢えず呼びましょう」
「そういう訳で第一回!女子力高いのは誰だ⁉︎選手権の開催だよ〜」
「何故姉さんが此処に……」
「ちっちっちっ。箒ちゃん、巷ではご都合主義というありがたいお言葉が流行っているのですよ」
(おかしい。何かが決定的におかしいぞ、この状況……)
つい先程まで恋愛相談染みた話を四人でしていた。其処にラウラが入ってきて、セシリアとシャルロットを呼んできたまでは良かったのだが、どういう理屈か、其処に束が参上し、「一番手っとり早い方法がある」と言った結果、何故か一夏と将輝に質問を投げかけるのではなく、束が出したお題に対して箒達が出した結果に対する答えを出すという手っとり早いようで面倒な状況になってしまった。しかも場所も場所で学園の食堂ではなく、街の一角で行っているために当然ながら一般人も見ていた。
「司会・実況・解説は全て、この世に知らぬことなし!稀代の大天才、篠ノ之束が務めさせてもらうよ!そんな訳で参加者の紹介!先ずは我が愛しの妹!大和撫子の体現者にして現代に生きるサムライガール!ツンデレの比率は均等に5:5という絶妙のバランスを維持する素晴らしき存在!最かわの篠ノ之箒ちゃん!」
「………姉さん。後で覚えておいてくださいね」
顔を羞恥に染めながら、箒は束を睨むが、当の本人はどこ吹く風。続く参加者の名前を挙げる。
「もうメシマズだなんて言わせない!財閥のお嬢様にして、家事は日本の一般主婦よりもレベルが高い、英国淑女!セシリア・オルコットちゃん!」
「精一杯、頑張らせていただきますわ」
そう言ってセシリアは観客達に笑顔で手を振る。こういう目立つ様な事は基本的にしないセシリアではあるが、束が今回のイベントで無断で撮られた写真や動画は絶対に消すと豪語していた為に快く承諾した。因みに何故束がセシリアの紹介もテンションがアゲアゲのままなのかというと、「一回番組の司会とかやってみたかったんだよね〜」という自己の欲求から来たもので今は司会者モード(仮)である為だ。
「貧乳はステータスだ!希少価値だ!ロリツインテールというオタ発狂の絶滅危惧種にして、憧れの的!凰鈴音ちゃん!」
「こ、これから成長するから別にいいもんっ!」
怒鳴り散らしたい衝動に駆られるも相手が束である為に言い訳するのが精一杯になる。その様子を見た観客達は「ロリツインテでツンデレとか最高」と感動していた。
「やる事なす事男心をくすぐるあざとさの塊!けれど滲み出る幸薄オーラの所為で何時も損な役回りに立たされる男装系少女!シャルロット・デュノアちゃん!」
「あ、あはは、皆応援してね」
あんまりな紹介の仕方に笑みを引き攣らせるシャルロット。この時点で観客の一部はシャルロットの儚げなオーラを感じ取っていた。
「触れれば切れるどころじゃ済まない⁉︎弱冠十六歳にして軍の隊長を務めるほどの凄腕少女!時々見せる世間離れした言動が萌える萌え要素の権化!ラウラ・ボーデヴィッヒちゃん!」
「やるからには勝たせてもらおう」
腕組みをしたラウラは束の紹介にも動じることなく、ただただ瞑目していた。
「そして最後にこの少女!掛けている眼鏡は視力矯正ではなく、邪眼を封じるため⁉︎左手に巻かれた包帯が取れた時こそ世界の終焉!厨二系少女、更識簪ちゃん!」
「厨二病じゃない……それにこれは魔眼封じ」
束の紹介が箒や鈴やシャルロットとは別の意味で不満があった為、ジロリと束を睨みつつ、ボソリと不満を口にする。当然ながら束は無視を決め込む。
「続いて点数をつける男性陣の紹介。まず一人目はなんとなく一繋がりで先に紹介、イケメンで天才肌、専業主婦もびっくりな家事力と言動はまさにオカン系男子、織斑一夏くん!」
「オカン系男子って何ですか、束さん」
「父と母はIS業界でも有名な研究員!腕っぷしも頭脳も高水準!けど一夏くんとは違って、根っからの努力型!才能はないけど愛する者は命を賭して護る主人公気質!藤本将輝くん!」
(恥ずい恥ずい恥ずい恥ずい恥ずい恥ずい恥ずい恥ずい恥ずい恥ずい恥ずい‼︎)
「最後は私が無理矢理引っ張ってきたいっくんの中学時代の友人!モテる為にバンドを創ったものの、やる気はゼロ!イマイチ残念感が否めないかわりに時々見せる兄貴肌が好印象の五反田弾くん!」
「この作品初出演でこの扱いはあんまりだ!」
全力でメタ発言をかます今作初出演の弾だが、それが通じるのはごく一部の人間のみでそれ以外の人間からしてみれば「何言ってんだこいつ?」となる。
呆れている一夏に羞恥に頭を抱える将輝、扱いの雑さ加減にメタ発言するまでに至る弾と男性陣の心境は既にそれどころではなかった。
「さて、紹介も終わったところで早速本題に入りたいと思います!一つ目のお題は基本中の基本!料理でーす!食材、器材は後ろにあるから、はい、始め!」
「そんな急に……」
「因みに優勝者にはペアの宿泊旅行券がここに……」
『絶対勝つ!』
「わかりやすい子は好きだよ〜」
当初の目的などそっちのけで箒、セシリア、鈴、シャルロットの目に凄まじい闘志が宿る。ラウラと簪に関して言えば、単純に負ける事が嫌なのでそれなりに気合いが入っていた。
※料理シーンは人数が多いので割愛。
「最初に出来たのはセシリアちゃん。この料理は………おっ、ハッシュドビーフじゃん」
「はい。まだ和食の方は味付けが難しくて……」
「手堅く洋食という訳ですな。それじゃあ男性陣のお三方、点数をどうぞ!」
「はぐ………おっ、普通に美味い。けど、若干煮込み具合が甘い気がするから7点」
「うん、美味い。俺は一夏みたいに詳しい事は言えないけど、美味しいから8点」
「美少女が作ってくれた飯だから10点」
「最後の人の理由があれだけど25点です!オカン系男子のいっくんの採点がやや厳しいのは仕方ないからね」
弾の発言には流石の束も苦笑する。何せ、味だとか、完成度だとか、そういう事が全てそっちのけであるからだ。その理屈で行くと全員が満点になる。
「次の人行くよ〜、次はシャルロットちゃん。お料理の方は……」
「えっと、皆に馴染みのある肉じゃがです」
「おーっと、流石はシャルロットちゃん!チョイスがあざとい!あざとすぎる!もうわざとやっていると疑うレベルだー!」
先人曰く、「肉じゃがの美味しい女性と結婚しろ」との言い伝えのようなものが日本にはあるのだが、当然フランス人のシャルロットは知る由もないのだが、選択がいちいちあざとかった。
「うまっ!日本人の味覚をよくわかってるな、シャルは。ちょっとだけ甘過ぎるのが残念だけど、これから頑張って欲しいの意味合いを込めて8点」
「そうか?俺はちょっと甘過ぎるくらいがちょうどいいと思うけどな。9点」
「一夏お前採点厳しすぎるんだよ。小姑かっつーの、10点」
「セシリアちゃんを上回る27点!相変わらずいっくんの採点が厳しい!10点を出せる猛者はいるのかー?」
普通の採点をしている将輝と弾に対して、一夏はまるで本当の料理番組さながらの採点の厳しさがあった。それもこれも一夏自身の家事力が高すぎる事が要因しており、おそらくこのイベントに参加した場合、十中八九一夏が勝ってしまう。
「三人目はラウラちゃん!料理は………す、寿司?」
「正攻法で挑んでも勝てないのでな。シャルロット・デュノアと同じく日本人の味覚に直接訴えかける他ない」
「成る程成る程。ラウラちゃんなりに考えがあるようです!採点の程は!」
「手作り料理感があんまりないから美味しいけど6点」
「サーモンは素晴らしいけど、お酢が強い7点」
「問答無用で10点」
「ここまで来るとダンダンの採点は当てになりません!23点です!ラウラちゃん、置きに行ったのが裏目に出ました!」
「ふむ、やはり安全策では勝利を得ることは出来ないか」
まだ三人残っている時点で敗北が決まってしまった割にはラウラはさっぱりしたまま、既に思考を次のものに切り替えていた。
「はい、次は鈴ちゃん。お料理は酢豚!」
「得意中の得意料理よ!この勝負貰ったわ!」
握りこぶしを作ってそう宣言する鈴。女子に作ってもらっているという理由だけで10点を出す弾はさておき、一夏と将輝さえ如何にかして9点以上を叩き出せば良い。そう思っていたのだが………
「おっ、前に食べた時より美味しくなってる。9点」
「俺も酢豚はあんまり好きじゃないけどこれならいけるな。9点」
(よっしゃあ!後は10点確定の弾だけ!勝ち確ね!)
「うん。まさか鈴の料理が美味いとは思わなかった、9点」
「なんでよぉぉぉぉぉぉぉぉ⁉︎」
思わず鈴は慟哭した。10点確実と思っていた弾の採点がまさかの9点という結果だったからだ。なぜ自分だけ10点ではないのかという意味合いとそれにより同点となってしまった為の慟哭だった。
「え?だって、鈴だし」
そしてその答えはどうしようもないものだった。
近しいが故に鈴が飯を作ってくれたという状況に弾は心の底からありがたみを感じる事はなく、普通に味で採点をしたのだ。
「これは友人である事が裏目に出ました鈴ちゃん!シャルロットちゃんと同率首位です!」
「お、終わった……」
確かに同率の首位である事は確かだ。しかし、得意中の得意料理を出した鈴とおそらくまだ手札を残しているであろうシャルロット。そう考えると同率首位の時点で殆ど鈴に勝ち目はなかった。
「いよいよ残るは二人!先に出来上がったのは簪ちゃんの方だ〜!料理は…………え、何これ」
「特製カルビクッパ。胃も爛れ……違った。胃もたれする程の美味しさ」
(((おいぃぃぃ‼︎誰が劇薬混ぜろって言ったよ‼︎)))
この瞬間、三人の精神状態がシンクロした。
美少女が〜、と言っていた弾ですら生命本能の危機に我に帰った。
「さ、さあ、男性陣には採点の方を……」
「「「ほんっと勘弁してください」」」
「拒否権はありませ〜ん…………骨は拾ってあげるから」
目の前に置かれた劇薬料理に三人は顔を引き攣らせる。刺激臭漂う湯気の所為で涙は止まらず、喉もまるで風邪を引いたかのように痛みが走る。
(これを食べろと⁉︎俺に死ねって言うのか、束さんは‼︎)
(痛覚が鈍い筈なのに目が痛すぎるんですけど‼︎これ料理じゃなくて殺戮兵器だよ‼︎)
(短い人生だったな………はぁ……せめて可愛い年上のお姉さんみたいな彼女が欲しかった)
「早く食べて。じゃないと容器が溶け………料理冷める)
「はい。男性陣、さっさと食べる」
「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ………ぐふっ」
「もう、ゴールしても良いよね………ごはっ」
「五反田弾、逝きまーす!……… げぼっ」
※不適切な描写が含まれているため、少々お待ちください……………
二十分後。
「三途の川が見えた」
「本当にゴールする所だった……人生の」
「天使が見えたぜ………前に堕っていう字がつくけど」
「心肺停止した時はどうなる事かと思ったけど、取り敢えず復活して何より採点の方は……」
「人間の食べるものじゃない。0点」
「殺人兵器なら満点だけど食べ物だから0点」
「死にかかったけど美少女の作ったものだから10点」
「根性です!死にかけてなお、満点採点‼︎ダンダンはどれだけ女性にモテないのか⁉︎」
「美少女の料理で死ねるなら、我が生涯に一片の悔いなし!」
無駄にキメ顔でそう言う弾に観客席の男性陣は共感する。非モテ男子からしてみれば美少女の手料理が食べられる事自体が幸せなのである。
「いよいよ最後の一人となりました!最後を飾るのは私の妹‼︎箒ちゃんでーす!お料理の方はカレイの煮付けです!」
「やはり作るなら和食出ないと………将輝もいるし」
最後の言葉は誰にも聞こえないようなか細い声で呟く。幸いにもそれはマイクに拾われる事はなかった。
「流石は箒ちゃん!周りに流されず、時間をかけてじっくりと煮込んだようです!さて、先程の料理で味覚がかなりやられている三人に味はわかるのか〜?」
「「「いただきます」」」
またもや三人は同時にカレイの煮付けを一口食すと一瞬動きを止めた。
その事に箒は不安そうな表情を浮かべるが、次の瞬間、凄まじい勢いで食事を再開した三人にホッと胸をなで下ろす。
「文句無しに美味い。俺から言えることは何もないよ、10点」
「至高の料理だった。涙が止まらん、10点」
「美少女採点抜きでも美味い。料亭で出しても通用するレベル、10点」
「おおっと!満場一致の満点です!しかもダンダンの美少女補正抜きでも10点と他のメンツを置いてトップとなりました!先程の料理で味覚を破壊されているにもかかわらず、これは凄い!凄いよ、箒ちゃん!流石は私の妹だね!マジ天使だよ!」
そう言って箒に抱きつく束。箒は鬱陶しそうに引き離そうとするも人外スペックを保有する束である為、引き離せないでいた。
「一つ目の料理が終わったところで、次は「やれやれ、何を騒がしい事をしているかと思えば。お前か束」げっ、ちーちゃん」
騒がしかった観客達の声がピタリと止まり、人ごみの中を一人の女性が歩いてきた。
「おまけに小娘共も参加しているとはな。騒ぐのは一向に構わんが、節度ある行動を心掛けろと教えたはずだが?」
拳をポキポキと鳴らしながら、千冬は参加者である箒達と採点者である将輝達を一瞥した後、さりげなく逃げようとしている束の方を睨んだ。
「まずは元凶からだな。お前達逃げたらどうなるか………言わずともわかるな?」
『イエス、マム!』
千冬の静かだが重みのある言葉に全員が思わず敬礼をする。千冬はそれを見た後、逃げ出そうとした束を一瞬のうちに捕獲した。
「遺言はあるか?」
「ちーちゃんの愛は何時も過激ーーーぎゃぁぁぁぁぁぁ⁉︎⁉︎⁉︎」
「はぁ………今日は色んな意味で酷い目にあったな」
「全くだ。二度と束主催のイベントには参加しないでおこう」
束が制裁されてすぐに折檻を受けた一夏と将輝(弾は無理矢理連れてこられた事もあり、難を逃れた)は痛む身体を気遣いながら帰路についていた。夏休み中であり、今回は束が主催であった為に課題こそ出されはしなかったが、その分肉体的ダメージは大きかった。
「そういや、将輝さ。やっぱり箒と付き合ってるのか?」
「うん?まあな」
先日、夏祭りの際に一夏とシャルロットはキスをしている将輝と箒を目撃している。今までその事については言及こそしなかったが、やはり一夏としてもその事については気になっていた。
「箒、可愛いもんな。ちょっと素直じゃないのが玉に瑕だけど料理も出来るし、将輝とはお似合いだと思うぜ」
「そりゃどうも。つーか、お前も誰か好きな奴とかいないのか?IS学園には色んなタイプの女子がいるだろ」
「好きな奴……か。考えた事もなかったな」
「彼女欲しいな、とか思わねえのかよ」
「いや、思った事はあるにはあるけど………今は誰かを護れるならそれでいいかな」
それを聞いた将輝は足を止め、それに気づいた一夏も首を傾げて、足を止めた。
「一夏。お前の言う誰かっていうのは皆の事か?それとも不特定多数の誰かか?」
「どうしたんだよ、急に?」
「良いから答えろ」
「うーん、あんまり深く考えたことはないけど、多分後者だろうな」
「ッ⁉︎」
一夏の答えに将輝は一瞬目を見開くが、すぐに目を細める。
「………そうか。わかった。まあ、頑張れよ、お前の志を否定する権利は今のところ俺にはない」
一夏の胸を拳で軽く叩くと将輝は歩みを再開した。
(そういう事か、一夏。お前の願望は……)
とまあ、伏線のようなものを張りつつ、終了です。
次回からは原作5巻に突入!いよいよ、厨二病さんのお姉さんが登場します(といっても特別ストーリーには先に出演していますが)
気がついたら、お気に入り件数が2,000件を超えてました。こんなグダグダな作者ですが、今後ともよろしくお願いします、またお気に入りが2500を超えたら記念ストーリーでも書こうかなと思います。その時はまた皆さんに投票をお願いしますが、おそらく良い案は思いつかないと思うので意見の方を求める感じになると思いますので、心の準備をしておいてくださいね!