今回はタイトル通り、英国淑女さんが現れます。それではどうぞ!
二時限目。省略するが、案の定、一夏は授業についていけていなかった。
今までISに関わってこなかった為、知識が乏しいのは当然ながら必読と書かれていた参考書は電話帳と間違えて捨てているのだから、当然といえば当然だ。
将輝はというと、元々ISに関わる仕事に就く為に勉強をしていたお蔭で現時点で理解出来ていない部分はなかった。その所為でというか、同じ男子にも関わらず、全く出来ない一夏への出席簿アタックは自己紹介時よりも酷かった。
結果、一夏は後ほど劣化六法全書のような参考書を一週間で覚える羽目になり、将輝も同じ男子だからという理由で教える羽目になった。将輝が他人に物を教えられるのかは疑問だが。
果てしなく前途多難な予感に二人揃って頭を悩ませていたその時だった。
「少し宜しいですか?」
「へ?」
「はい?」
二時限目の休み時間。またしても針のむしろを味わうかと思っていた一夏は素っ頓狂な声を上げ、将輝もまた若干気の抜けた返事となってしまっていた。将輝は目の前にいる少女の顔を見ると、その反応は非常にマズいと次に来る上から目線発言に身構えたが、将輝の心配とは裏腹に少女はスカートの裾を両手で軽く持ち上げ、一礼する。
「初めまして、織斑一夏さん。わたくし、セシリア・オルコットと申す者です。未熟ながらイギリスの代表候補生をしております」
自己紹介をしたのは地毛である金髪が鮮やかな女子。白人特有の透き通ったブルーの瞳。僅かにロールのかかった髪は高貴なオーラを出してはいるが、女子の雰囲気は今の女子とはかなりかけ離れた物腰の柔らかい感じだった。
「は、はぁ………それで、オルコットさんは俺に何か?」
代表候補生って何だ。と聞きたかった一夏だが、流石にこの状況でそれはマズいだろうと聞くのを止めた。聞けばおそらく教えてくれるだろうが、何故話しかけてきたのかが聴けなくなってしまうからだ。
一夏の問いにセシリアと名乗った少女は首を横に振り、将輝へと視線を向けた。
「いえ、わたくしが用のある方は藤本さん━━━いえ、
「お、俺?」
一夏に自己紹介をしたものだから、てっきり一夏に用があるのかと別の事を考えていた将輝はセシリアに名指しで、しかもいきなり下の名前で呼ばれた事に驚いていた。他にも何故彼女が男を目の敵にしていないのか、という疑問もあったが、とりあえず話を聞くことにした。
「お久しぶりです━━━と言っても憶えていらっしゃらないでしょうね。何せ、十年も前の出来事ですから。それでもあの時誓った貴方との約束を果たす為、こうして代表候補生となり、IS学園へと馳せ参じました。わたくしは片時もあの光景、あの瞬間を忘れた事はございません。何故ならわたくしは貴方に救われたのだから」
セシリアは胸に手を当てて、語るようにそう言う。だが、将輝の反応はと言うと……。
(ま、マズい………全く話についていけん)
十年も前の事なので憶えていない事前提に話を進めてくれるのは大いに結構どころか寧ろありがたかった。何せ、彼には二年よりも前の記憶がない。それが永遠に失われたのか、それとも一時的なものなのかは知らないし、大した問題でもないだろうと思い出す努力をしなかった将輝にとって、今の状況はかなりヤバかった。
セシリアもまた将輝の反応が何処かおかしい事に気付いた。
「どうかなさいましたか?」
「い、いや、急だったからびっくりして…」
「急?将輝さんのお母様には予め伝言を頼んでおきましたが……」
「そんな話は…………あ」
思い出しているうちに将輝はあの日、自分がISを動かしてしまった日の母が最後に言っていた会話を思い出した。「せーちゃんとは仲良くしなさいね〜」と。
「も、もしかして、俺の母さんにせーちゃんて呼ばれてたりする?」
「はい。お母様には大変良くしていただいております」
ビンゴ。せーちゃんとはセシリアの事だった。思い当たる節はないわけではないが、イギリスに『せ』から始まる名前の人間などいくらでもいるし、家にでも訪問してくるのかと思っていた。まさかIS学園でとは微塵も思っていなかったというのが本音だ。
将輝が何もかもに驚いている内に休み時間の終わりと三時限目の始まりを告げるチャイムが鳴り響く。
「それでは御機嫌よう。後ほどゆっくりとお話しをしましょう」
セシリアは再び、綺麗に一礼をしてから、自らの席へと帰っていった。前途多難なのはどうやら一夏だけではないようだ。
「それではこの時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する…………筈だったのだが、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」
一、二時限目と違い、真耶ではなく千冬が教壇に立っている。クラス対抗戦の代表者を決めるという大事な事があるためか、真耶まで手にノートを持っていた。
「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会へと出席………まあ、クラス長だな。因みにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点では大した差はないが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間の変更はないからそのつもりで、自薦他薦は問わないぞ」
事前知識ゼロの一夏は全くわかっていなかったが、事前知識豊富な将輝は全力で避けたい事態であった。何故なら……
「はいっ。織斑くんを推薦します」
「私は藤本くんで!」
こうなるからだ。物珍しいからという理由と『彼ならなんとかしてくれる』という無責任かつ勝手な期待を込めた思いで他薦されるのは目に見えていた。これが将輝の知るセシリアであれば全力で噛み付いてくるのだろうが、それも期待出来ない。目の敵にしているどころか、これ以上ないくらい友好的な彼女が二人に噛み付く道理など全くない。寧ろ、良い経験なると油に火を注ぐだろう。
「お、俺⁉︎」
数十秒、経ってから一夏は勢いよく立ち上がる。あまりに急な出来事に脳がフリーズしていたのだ。因みに将輝は抗うだけ時間の無駄とわかっているので、諦めの極地に立っていた。
「織斑、席につけ、邪魔だ。さて、他にはいないのか?いないなら織斑と藤本の決選投票となるが?」
「ちょ、ちょっと待った!俺はそんなのやらな」
「自薦他薦は問わない、と言ったはずだ。他薦されたものには拒否権などない。選ばれた以上、期待には答えろ」
(入学して一日、おまけにISに関する知識の乏しい俺に何を期待するんだ)
「い、いやでも」
まだ反論を続けようとした一夏を遮ったのは、一人の女子の声だった。
「はい。織斑先生、わたくしは自薦します」
「オルコットか。これで三人。他にはいないのか?」
「だから、俺は「織斑さん」オルコットさん?」
「それ以上言われるのはよろしくありませんわ。他薦された者は理由はどうであれ、その役目を全うする義務があります。でなければ、それは自身を推薦してくれた者に対しての侮辱となってしまいます」
「うっ……」
流石の一夏もこれには押し黙った。セシリアの言っていることは尤もで、理由はかなり理不尽であるものの、推薦されれば役目を全うする義務があり、その行動は推薦した者への評価へと繋がる。一夏が自分を貶めようものなら、それは推薦した者を貶めるのと同じ行為なのだ。
「織斑、そういう事だ、わかったな」
「……はい」
いまだ納得出来ずといった返事ではあるが、少なくとも文句を言う事はしなかった。
「さて、この三人の中からどうやって選出するか………」
「はい。わたくしにとても良い案があります」
「ほう。なんだ」
「ISによる試合です。選出方法は『三人の中で一番の勝率の高い者がクラス代表になる』です。この選出方法を取った理由は二つ。勝敗に関わらず、ISによる実戦は織斑さんと将輝さんの実力向上に繋がります。もう一つは一番強い者がクラス代表になれば、後で問題にはなりませんので」
他にも理由はある。特に自薦したセシリアでは投票には百パーセント負ける。そう言った意味ではISによる実戦は代表候補生である彼女が有利になる上、それを『男子二人に経験を積ませる』という理由で覆い隠せる。それに男子二人がISをどれ程動かせるのかという興味も其処にはあった。
「ふむ。確かに選出方法としては申し分ないが………それでは織斑と藤本がかなり不利のようだが?」
「それにつきましても、わたくしが何かしらのハンデを背負えば問題ないかと」
「だそうだが、男子二人、ハンデはいるか?」
「「いりません」」
即答だった。その事にセシリアは一瞬目を丸くした後、くすりと笑った。それは嘲笑や勝ちを確信したような笑みではなく、単純に喜びを感じたからだ。
「さて、話は纏まったな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑、藤本、オルコットはそれぞれ用意をしておくように。それでは授業を始める」
ぱんっと千冬は手を打って話を締めると、そのまま授業へと移った。
かくして一週間後、一夏達はクラス代表決定戦をする事となった。
と今はまだ明かされてはいませんが、過去の出来事が原因となり、高飛車してないセシリアさんでした。
私が見てきた作品の中には高飛車してないセシリアさんは見た記憶がなかったので、こんな感じでやってみましたが、どうでしたか?
まあ結局戦っちゃうんですけどね………。