憑依系男子のIS世界録   作:幼馴染み最強伝説

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歪んだ理想

 

どうしてこうなった。

 

柔道場のど真ん中、胴着に袴の姿の楯無と対峙している将輝は心の中でそうごちた。

 

周囲には簪を除く専用機持ち達と偶々通りかかった千冬、そして多人数の生徒が観戦していた。

 

ざわざわと話し声が聞こえる中、将輝の方は何時も通りのIS学園の制服でブレザーを脱いだ格好だった。

 

「本当に胴着に着替えなくても良いの?」

 

「そっちの方が動き辛いんで」

 

「あら、そう」

 

パキパキと首の骨を鳴らしながら、将輝はここに至った経緯を思い出していた。

 

楯無の依頼で簪の専用機作成を手伝っていた時に突然かかってきた楯無からの電話。何故知られているのか、そしてさも当然のように登録されているのかという疑問を置いておき、電話に出た将輝に楯無から告げられたのは「柔道場に来て」。ただそれだけだった。

 

また面倒な事を押し付けられるのならば無視しようかと考えた将輝だが、無視をすればそれはそれで面倒であることを思い出し、結局は柔道場に来る事となり、いざついてみればトントン拍子で話が進んでいき、こうして対峙する事になった。

 

「なんで会長と闘わなきゃいけないのか、理由をまだ聞いてませんが教えてもらってもいいですか?」

 

「それは後のひ・み・つ♪取り敢えず私と闘いなさい」

 

(取り敢えずって………はぁ………やるしかないのか)

 

「ルールは簡単。相手に参ったっていわせるか、意識を奪えば勝ち。それ以外は何度ダウンしてもアリよ」

 

「ハンデはくれないんですか?」

 

「貴方には不要でしょう?」

 

苦笑する楯無だが、かなり本気でそう思っていた。

 

詳しくはわからないものの、将輝の身体能力がかなり高いというのはここ最近生徒達の噂になっていた。特に千冬の体罰を二度防いだという噂はとても信じられないものだ。いくら加減されていたとしても相手はブリュンヒルデ。そうそう防げるものでもない。防ぐにはそれ相応の身体能力を要求される。

 

(目的のためとはいえ、私も本気でかからないと負けかねないから。ハンデはあげられないのよ)

 

例えハンデを与えた上でだとしても楯無は負けるわけにはいかない。負ければ即刻生徒会長を辞任し、将輝に譲らなければならない。彼女自身、会長職に未練はないが、上手く立ち回る為には生徒会長という役職は何かと都合が良く、また楯無も負けず嫌いである為に敗北は私的にも公的にも許されなかった。

 

「ハンデはあげない代わりに初手は譲ってあげるわ。何処からでもかかってきなさい」

 

「それじゃあ………遠慮なく!」

 

ダンッ!

 

床を蹴った瞬間、周囲の生徒達が目で追える速度を将輝はゆうに超えた。

 

「ッ⁉︎」

 

すぐ目の前まで接近していた将輝に楯無は予想以上だと舌を巻くが、襟元に伸ばされた手を取るとそのまま巻き込むようにして投げ飛ばした。

 

力を一切使わず、将輝の突進力だけを利用した行動であるにもかかわらず、投げられた将輝は数メートル先の壁にぶつけられる。

 

これは流石に気を失ったか、と考える楯無だったが、将輝は何事もなく普通に起き上がる。

 

「やっぱり見えてるか。流石は学園最強の生徒会長、一筋縄ではいかないようで」

 

「さっきのは様子見のつもりかしら?」

 

「そんなところですよ。ただ、会長に対してじゃなくて、俺自身に対してですがね」

 

手を開いたり、閉じたりしながら将輝はそう言う。

 

というのも実はISとの同期を解除してからの肉弾戦はこれが初めてなのだ。

 

一体自分がどれほど動けるのか、どれくらい本気で動いていいのか、それを測りながら動かなければ怪我をするのは将輝ではなく、楯無や周囲の生徒達だ。

 

いくらリミッターが外れていない状態に戻ったとはいえ、破壊と再生を繰り返した肉体の強度や力は完全に常人のそれを少なからず逸脱している。そんな状態で本気の攻撃があたれば無事で済まないのは火を見るよりも明らかだ。

 

「それじゃあ再開しましょうか」

 

再度力強く踏み込んだ将輝は先程よりも僅かに速く、楯無に迫る。

 

違うのは攻撃の手が打撃であること。先程とは打って変わって将輝は楯無の胴体めがけて掌底を放つ。

 

それは吸い込まれるように楯無の腹部を抉るように打ち抜かれる………事はなく、またしても空を切る。

 

直前で身を屈めて躱していた楯無は踏み込んだ足を払い、宙に浮いた将輝を畳へと叩きつける。

 

ドスンという重たい音に生徒達はごくりと生唾を飲み込む。畳とはいえ、あんな勢いで叩きつけられれば無事では済まないと。そんな中で涼しげな表情でそれを見ていたのは千冬、箒、セシリア、ラウラの四人であった。

 

「更識め。加減をしていないな」

 

「あれを一般人がもらえば確実に意識は飛ぶでしょう。軍人でも下が畳でなければ戦闘能力を奪われるでしょう……もっとも藤本将輝を一般人と許容していいものか計りかねますが……」

 

「将輝さんは将輝さんですから。どんな形式の試合であったとしても負けませんわ、特に箒さんが見ている前では………」

 

「うむ。将輝は負けん。絶対に、な」

 

自信満々に頷く三人に千冬は特に何も言わず、やはり何事もなかったかのように立ち上がる将輝を見て、身体が疼くのを感じていた。

 

(久しいな。この高揚………まさか自分の教え子と闘いたいと感じるとは)

 

国家代表を引退してから久しく感じていなかった高揚を千冬は将輝に感じていた。

 

少し前に加減していたとはいえ、自身の攻撃を受け止めた事。そして今目の前で行われている試合。千冬の目から見れば大した事はないが、十分にレベルは高い。特に将輝は副産物で能力を上げられあの段階に到達している。ともすれば鍛え上げれば或いは自分に届くのではないか?そう考えて馬鹿馬鹿しいと千冬は頭を振る。

 

「うーん、ちょっと効きましたよ、会長」

 

「今のをちょっと効いたで済むなんて、随分と打たれ強いね」

 

「何分痛覚が鈍いもんで。今も軽く脳味噌を揺らされて覚束ないってだけでして」

 

とんとんとその場で軽くジャンプをする将輝に楯無は冷や汗をかく。

 

想像以上にダメージが無いこともさる事ながら、一度目よりも僅かだが速く放たれた一撃。咄嗟に身を屈めた事で躱し、反撃に移れたもののあれよりも速いと対処出来ない、楯無はそう感じた。

 

しかし、そんな楯無の心情を知ってか知らずか、将輝は一つ目の時と同じように仕掛ける。

 

それにホッとしつつ、楯無は攻撃を捌きつつ、背負い投げで投げ飛ばそうとするが………ここで異変が起きた。

 

畳に叩きつけられるはずの将輝は両足で着地をして受け身を取ると、そのまま上半身の力のみで楯無を逆に持ち上げた。

 

「よっ……と、な!」

 

楯無を持ち上げた将輝はそのまま楯無を投げ飛ばす。予想外の対処法に一瞬呆気にとられた楯無であったが、空中で身を捻って綺麗に着地をする。

 

「貴方、結構無茶苦茶するのね。おねーさん、びっくりしちゃった」

 

「完全に不意をついたから、受け身を取られるとは思いませんでしたけど」

 

肩を竦めてそう言う将輝はそう言いながらもあれで楯無を倒す事が叶うなど思ってはおらず、倒すつもりもなかった。理由は説明されていないものの、この試合はどんな事があっても勝ってはいけないのだと理解していた。

 

(んー、これは思った以上に強いわね………久しぶりに『あれ』してみようかしら)

 

「?」

 

今まで迎撃態勢だった姿勢を解除した楯無は構えを変えるとそのまま将輝に迫り、突きを放つ。

 

(遅いな……)

 

将輝はそう思った。

 

実際には鋭い突きではあるが、今の自分ならば防げない攻撃ではない。

 

このまま掴んでもう一度投げ飛ばそう。そう思い、手を掴み投げる………よりも先に掴んだ腕から肘打ちが放たれる。だが、それも大したものではなく、普通に受け止める。

 

瞬間、楯無がニヤリと笑った。

 

掴まれた右腕を起点に将輝は楯無の方に引き込まれ、また宙に放り投げられる。

 

今回は仕掛けたのが楯無である為、吹っ飛ばずに綺麗に宙を舞い、其処からフリーになっている左腕で突きのコンボを叩き込まれる。

 

そのどれもが肺や心臓など内蔵へのダメージが高い部位ばかりを狙ったもので、明らかに将輝を沈めにかかっていたのが見て取れた。

 

背中から落ちた将輝は大の字に寝転がった状態で表情をひくつかせていた。

 

「あ、あんたなぁ………コマンドサンボって、俺を殺す気かよ……」

 

「そういう割には元気そうね」

 

「んなわけあるか。頑丈なのは外面だけなんだよ」

 

「ふーん………それじゃあそういう事にしておいてあげましょうか。楽しかったわよ、将輝君♪」

 

くるりと踵を返して楯無は更衣室へと向かう。それを見て、見ていた生徒達は試合が終わった事を理解し、凄かったねー、などと言いながら柔道場を後にしていく。その中で箒だけが将輝の所に歩いてきた。

 

「お疲れ様、将輝。やはり生徒会長は強かったか?」

 

「まあね。学園最強っていうのは伊達じゃないらしい。手も足も出なかった」

 

「よく言う。その気になれば負けなかったくせに」

 

そう言って箒はジト目で将輝を見ると将輝はふいっと居心地が悪そうに目をそらした。

 

箒の言う通り、その気になれば負けはしなかった。

 

理由は至ってシンプル。将輝の人並み外れた打たれ強さは単にダメージを認識していないからである。

 

痛覚カットの残滓からか、今も将輝は痛覚が鈍ったままだ。おまけに破壊と再生を繰り返してきた肉体は数ヶ月前に比べて遥かに強靭なものとなっている。かといって脳を揺らされたり、内臓にダメージを通されれば本人は大丈夫だと思っていても動けなくなるのは事実であるため、外面だけは頑丈という将輝の言葉はあながち間違いではない。

 

だが、今回のやり取りでは其処まで内部へのダメージはなく、その気になれば続けることは容易だった。

 

「あくまで今回のやり取りは会長なりの思惑があったから乗ってあげただけだから、勝ち負けは大して問題じゃない。箒の言う通り、もう少し続けても良かったけど、会長が悪ノリし始めたからやめた。コマンドサンボなんて人体破壊しに来てるとしか思えない」

 

「コマンドサンボ?」

 

「ロシアの格闘技さ。日本の柔術をより実戦的にしたもので軍人なんかはよく使うよ」

 

「む、ということはかなり危険なものではないのか?」

 

「はっきり言って一般人に使うものじゃないな。綺麗に入れば無事じゃ済まない」

 

「将輝は大丈夫なのか?保健室に行った方が良いのではないか?」

 

マトモに入れば無事じゃ済まないと公言したその攻撃をマトモに受けているのを見ていた箒はすぐに将輝に何かないかとわたわたと慌てる。それを見て、将輝は可愛いなぁと心の中で思いつつも大丈夫だと告げる。

 

「一応加減はしてたみたいだから俺の方は問題ない………俺の方は、ね」

 

そう言って柔道場の出入り口の方を見やる将輝に箒は首をかしげる。

 

「どうかしたのか?」

 

「俺はどうも。ただ、今回ばかりは会長の思惑通り、とはいかなかったらしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合が終わり、着替えを終えた楯無と一夏は誰もいなくなった柔道場で話をしていた。

 

話題は今回の試合について。

 

今回の試合の目的は現在特訓中の一夏に将輝と自分の差は何かというものをより明確にしようと考えての事だった。途中で悪ノリしてしまったものの、概ね目的通りに事を終えられたと楯無は思っていた。

 

だが違う。此度において、楯無は理解出来ていなかった。学園最強であるからこそ、理解に及ばなかった。圧倒的なまでの実力差を見せつけられた人間が簡単に挫折してしまう事を。

 

「今回、一夏君には私と将輝君の試合を見てもらったのは前回話した事を踏まえて見たときに一夏君と将輝君の差をより明確に知ってもらおうと思ったの。実力差云々じゃなくて、もっと根底にあるものをね」

 

「………」

 

「判断力や行動力。どちらも戦闘を行う上では欠かせないわ。判断が遅れれば敗北に繋がり、慎重過ぎても先手を打たれる。素早い判断と咄嗟の行動は文字通り命を救う。私は家庭の事情でそういう事には少し詳しいけど、ああいう場で『迷う』事は許されない。スポーツでもそうでしょう?一瞬の迷いが勝敗を決めることがある。何も心を殺せとまでは言わないけど、そういう状況では余計な事を考えずに

やれるべき事だけをやればいいわ」

 

「……やれるべき事?そんなもの俺にはありませんよ」

 

「一夏君?」

 

「今回の試合を見てハッキリとわかりました。俺と将輝の間にあるのは差があるなんて生易しいものじゃない。格が違うんだ。俺に出来て、将輝に出来ない事はない。でも将輝に出来ない事は俺にも出来ない。気持ちの問題とか、考え方とか、そういうのじゃないんですよ。勝手に俺がそう思い込んでいただけなんだ。同じ男だから、親友だから、対等でありたいって思ってただけなんだ」

 

拳を強く握りしめ、一夏は力なく呟く。

 

今回の試合。楯無の言うように一夏は少しでも何か得られるものはないかと真剣に試合を見ていた。皆を守るために強くなりたい。なら、自分よりも強い人間から見て何かを得ようとそう思っていた。

 

だが、見せられたのは圧倒的な実力を持つもの同士の常軌を逸した闘い。

 

全盛期の姉ほどではないものの、それでも自らでは遠く及ばない領域を見せつけられた。それは一体どれだけの歳月をかければ縮まるのかわからない差。バネにするにはそれはあまりにかけ離れすぎていた。

 

「あんなに強いなら、迷うとか迷わないとか関係ないじゃないですか。皆を守る事だって出来るはずだ。将輝さえいれば…………俺は必要ないんじゃないですか」

 

「そんな事はーーー」

 

「ありえねえよ、一夏」

 

楯無の言葉に被せるようにそう言い放ったのは柔道場の入り口に背中を預けている将輝だった。一度は箒達と共に寮に帰っていたはずの将輝がここに戻ってきたのは理由があった。

 

「全部守る?そんなもん無理に決まってるだろうが。少なくともお前の言ってる全部なんざ俺には無理だね。俺は俺の大切な人を護るだけだよ。それ以外の人間なんざ知ったことか」

 

「なんだよ、それ。どういう意味だよ」

 

「ん?わからねえなら具体的に言ってやろうか?友達、家族、恋人。この三つに当てはまる人間だけだな。対象内でいうならお前は当てはまるかもしれねえが、会長は当てはまらねえ。つっても護る必要はねえかもしれねえが………少なくとも友達を危険に晒してまで名前も知らない人間を助けるような事はしねえよ。例え、そいつが死んだとしてもだ」

 

「ッ⁉︎」

 

「知らない奴を助ける事に何の意味がある?名前も顔もわからない奴を助けたいってのは傲慢だよ。神様じゃねえんだ。世界最強ですら護る対象を一人に絞っても護り切れない事もあった。なのに俺みたいなポンコツじゃ人間一人護るだけでも命懸けだ。それ以上になると死ぬ事もある………それはお前だって知ってるだろ?」

 

知っているというものではない。今でも一夏はあの時の事を後悔している。

 

あの時、彼処に自分が残っている事が出来ていたなら。福音を即座に叩き落とせるだけの実力があれば。少なくとも死に体の将輝にしんがりを任せる必要はなかった。

 

「そんな事言われなくても……」

 

「いいや。お前はわかってない。わかろうとしていない。お前の『誰かを護りたい』って願望は間違ってるんだよ」

 

「間違い……?そんな事あるか!自分の身一つ守れない奴が何言ってんだ、って言われるかもしれないけど、皆を護りたいっていう思うのは悪い事なのかよ!誰も不幸になって欲しくない、笑っていて欲しいって思う事が!」

 

「じゃあ聞くがな。お前の言う『皆』ってのは誰だ?」

 

「誰とかそういうのじゃない。皆は皆だ」

 

「それならやっぱりお前の願望は間違ってる。誰も不幸になって欲しくない?皆笑っていて欲しい?ふざけるのはよせ。誰も不幸にならない世界なんてのは存在しないんだよ。誰かが幸せになれば誰かは不幸になる。誰かが笑えば誰かが泣く。誰かを護れば、誰かを切り捨てる事になる。それが世の摂理だ。勝者がいれば敗者がいるのと同じようにな」

 

「でも、それじゃ誰も救われないじゃないか!誰かの不幸の上に築かれた幸せなんて………間違ってる!俺は誰も……何も切り捨てたくない!」

 

「なら示してみろよ。お前の意志を。幸い、言葉以外にも俺達には語る術があるだろ?」

 

将輝が一夏に見せるのは待機状態の夢幻。それを見た一夏は力強く頷いた。

 

「………わかった。それしか示す方法がないなら、俺はお前と闘う!」

 

そう言って二人はアリーナへと向かい始める。残された楯無は顎に手を当てて、考え込んでいた。

 

(何故ここで一夏くんの神経を逆撫でしたのかしら?今、一夏君と仲を違えるというのは彼にとっても非効率なはず………まさか)

 

 

 

 

 

 

 





そういうわけで次回一夏と将輝の激突。

クラス代表決定戦以来の男子バトルです。

実を言うと今作品を書き始めた辺りからこういう展開を書こうと思っていました。

どういうことかは次回わかりますので、お楽しみに。割と早めに投稿できると思うので。
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