憑依系男子のIS世界録   作:幼馴染み最強伝説

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辿り着いた理由

〜二年前〜

 

「あー、暇。本当に暇。死ぬほど暇」

 

とある孤島に存在する誰も知らない研究室。

 

其処では一人の天才が椅子に乗ってクルクルと回りながら、そんなことを口にしていた。

 

先の言葉通り、彼女は暇を持て余していた。

 

こんな娯楽品のない研究室であれば当然の事ではあるが、彼女のような研究員にとって、娯楽とはある意味新たな発見とそれによる思考の展開こそが娯楽とも言える。

 

そしてその娯楽を彼女はここ数年間………或いは物心ついた時から経験していなかった。

 

それは彼女が自他共に認める天才であり、彼女にとってこの地球上で知らないことなど存在し得ないからだ。

 

故に彼女は新たな発見を宇宙に求め、憧れ、ISを作ったのだが、現在ISは彼女の思惑から大きく外れた存在として世界に認知されている。それが嫌で彼女は逃げ出し、今も逃げ回っている。

 

「こーんなもの作ってもなぁ………多分、変わんないよね、何も」

 

彼女が眺める先に存在するのは一つの球体。

 

青白く発光するそれは彼女が第三世代型のISを研究するに当たって片手間で作ったものだ。

 

理論上では多数に存在する世界の壁に孔を作り、その孔から多世界を行き来するようにしたもの……という一帯何をどう考えれば行き着くかわからない結論の元に制作。結局は第三世代型のISを作るよりも熱を入れて作っては見たものの、完成してみれば何てことはなかった。

 

確率が低すぎるのだ。

 

元々そういうものであるなら一割にも満たないであろうことはわかっていたが、いざ完成してみれば確率はそれよりも更に低い上に出来る孔は僅か数十センチ。それでは生まれたての赤ん坊ですら通れるはずのないものだ。

 

「まーいっか。わかってたことだし、暇つぶしにはなったしね」

 

そう言って、天才はそれを興味を無くしたように投げ捨てる。

 

それは曲線を描き、壁にぶつかると…………砕け散って、一層輝きを強くした。

 

これには流石の天才も目を見開いた。

 

確率としてはコンマ一パーセント未満の成功率のものがあろうことか成功した。

 

科学者としてはその確率でも十分に賭ける要素はあるが、成功しても大したことがないとわかっていた為に捨てたものがあろうことか、その研究成果を発揮し始めた。

 

青白く発光した破片は散り散りなりつつも、その場に人が一人通ることが出来るほどの、想定よりも圧倒的に巨大な孔を穿った。

 

これには天才も狂喜乱舞した。自身の想像を良い方向に裏切ってくれたそれに大いに感謝した。

 

だが、その孔は彼女が近づこうとした瞬間、その場から跡形もなく消え去った。

 

不安定だったからだ。孔を一時的に開くことは出来たものの、それを維持するだけの力がない。

 

こればかりは想像通りだった。

 

「ちぇっ。上げて落とすなんて酷いや。期待して損しちゃった」

 

今はもう砕け散った球体に文句を垂れながら、彼女はまた研究に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその日、その瞬間に一つの魂が穿たれた孔から通過してきた事に気がついたのは現在、彼ーー藤本将輝のカミングアウトによるものだった。

 

「さっきの君の発言から照らし合わせてみると君の意識がこちらに飛んできたのは明白。数多に存在する平行世界から私が作った孔から偶々君はこの世界に来た。そして肉体の存在しない魂は消滅することを恐れて、この世界に存在する自分自身の肉体に乗り移った。結果、肉体はこの世界の人間でありながら、意識的には似て非なる存在になったって事だね」

 

束の盛大なカミングアウトよって、またもや全員が間の抜けた表情になるなか、話していたのが束であった為か、冷静さを失わなかった千冬が問いを投げかける。

 

「この世界に藤本が来たのは間接的にお前が原因ということだな?」

 

「そだね。事故みたいなものだし、何よりそんな事になるなんて予想だにしてなかったけど、こういう形で成果を確認できて嬉しいよ」

 

「あれ程人に迷惑をかけるなと言い聞かせておいたはずだが…………この際、過ぎたことは仕方がない。藤本がこれまでどうして全ての事件を予期できたか、理由と裏付けは得た。ならば、次は何故藤本がISを動かせた?」

 

「さあね?私にもわかんないけど、多分あれじゃないかな?ISがまーくんの存在を認識するに当たって、肉体と魂の差異を捉えきれなかったから、男でも女でもない存在として認識しちゃった事によるバグみたいなものじゃないかな?」

 

「つまり俺はバグがあるからISを動かせていると?」

 

「端的に言うとそうなるね。そのバグが治るかって聞かれたら、多分無理だし何よりそんな面白おかしい存在の君からISを取り上げるなんて絶対にしないけどね〜」

 

笑う束に将輝と千冬は頭を抱えていた。

 

かなり楽観視している束ではあるものの、その発言から考えれば、いくら平行世界の自分自身の身に移ったとはいえ、其処にはズレが存在しているということになる。

 

そのズレが大きいものか、それとも小さいものであるかは不明ではあるものの、それが何か大きな影響をもたらすのではないかと二人は心配していた。

 

「後、其処な金髪縦ロールちゃんの疑問だけど、おそらくは魂が乗り移った時に本来なら上書きされるはずのものが、なんらかの理由で上書きじゃなくて融合したからじゃないかな。理論上はどれだけ似てても一緒じゃない以上、一つの肉体に二つの魂が宿った時は奪い合いが始まるはずなんだけど………その辺も面白いよね」

 

「では何れ記憶が戻ると?」

 

「それはわからないかな。融合って言葉を使ったけど、それが五分五分かはわからないし。多分、飛んできた方のまーくん主体だから、印象的な事以外は思い出せないと思うよ」

 

「そうですか……」

 

束の言葉を噛みしめるようにセシリアは頷いた。

 

その様子に将輝は落ち込んでいるのかと思っていたが、実際のところは寧ろ喜んでいた。

 

例え還らなくとも彼にとって、自分との出会いは重要なものだった。取るに足らない事などではなく、真っ先に思い出してくれる程に印象的な出来事だったのだと実感したからだ。

 

そしてその意志はしっかりと将輝の中に残っている。それが分かれば、それでよかった。

 

「まーくんと金髪縦ロールちゃんの疑問は解消してあげたけど、他にはあるかな?」

 

束の問いかけに誰も首を縦に振らない。

 

概ねの事は理解出来たし、まだ理解し難い部分があるものの、聞くべき質問はもうなかったからだ。

 

それを見て、満足そうに頷いた後、束は箒の方に視線を向ける。

 

「ところで箒ちゃん」

 

「何ですか?」

 

「ずっと言いたかったことがあったんだけど、良いかな?」

 

「良いですけど、くだらない事なら叩きますよ」

 

そう言って自然な動作で箒は木刀を取り出した。

 

その様子に一夏は「どこから出したんだよ……」と顔を引きつらせつつ、見守っていた。

 

束の雰囲気に言い知れぬ不安を感じた将輝は彼女を制止しようとしたものの、それよりも早くに束は何でもないかのように告げる。

 

「今までこの学園で起きた事件ね……犯人は私なんだ」

 

その言葉に千冬と箒を除くメンツが目を見開いた。

 

各々によって理由は異なるものの、束の発言には驚愕させるだけの意味合いを含んでいた。

 

「無人機の時も、福音の時も、やったのは私。銀髪ちゃんのはドイツ側が勝手にやったけど、その研究所も消しとばした。だから直接的にも間接的にもここで起きた事件全てに関わってる。まーくんが一度大怪我したのも、一度死んじゃったのも、私のせい」

 

普段の人を食った表情を崩さずに束は淡々とその事実を告げる。

 

それを聞いている千冬はやはりかと頷く。

 

元々、裏付けがないだけで殆どそうだとわかっていた。それを本人がそうだと頷いた以上、彼女の中に燻っていた疑問は完全に解消された。

 

「だから、感謝なんてしなくていいよ。私は私のしたいようにやってるだけだから。箒ちゃんの為にマー君を助けたわけじゃないから。たまたまーーーあ痛ぁっ⁉︎」

 

その時、束の悲鳴が生徒会室に響き渡った。

 

あれだけ真剣そうな表情で話していたというのに、悲鳴はおふざけモードのままという何とも奇妙な事だが、そもそも束が悲鳴を上げる原因を作ったのは無言で束の所に近づいていった箒だった。

 

「話はそれだけですか?」

 

「え?」

 

「話はそれだけですかと聞いてるんです。もう一回叩きますよ」

 

「これだけ!この内容でこれだけってニュアンスもおかしいけど、これだけ!」

 

叩かれるのが嫌なのか、はたまた箒のリアクションがあまりにも薄すぎるのかはわからないが、束は早口でまくしたてるように言う。

 

すると箒は木刀を下げ、それを収納する。

 

「真剣な話をするので何を言い出すのかと思えば、その程度(・・・・)ですか」

 

「え゛っ。そ、その程度って……だって、私はまーくんを」

 

「知っていましたよ。姉さんがそういう事をしていたのは」

 

今度は束が驚かされる番だった。

 

実を言うと、束はこのカミングアウトをするためにかなり悩んだ。

 

どうすれば自然に打ち明けられるか、嫌われる事は始めから前提条件であった為、いきなり話さずにそうなる状況をセッティングできるよう努力してきた。

 

そんな時にこの場の提供は束にとって非常にありがたかった。ごく自然な流れで身内と呼べる人間全員を集め、そしてそれを説明する機会も得た。

 

将輝の存在が想像以上にイレギュラーであった事は束にとって想定外に嬉しい事態ではあったが、それよりもこれを言うためだけに虎視眈々と機会をうかがっていた。

 

だが、最愛の妹に嫌われることを覚悟で打ち明けた言葉はあっさりと知っていたと、何を今更と言われた。

 

「いつもいつも、あなたという人は言いだすのが遅いんです。そういう事はやったその日に言ってください」

 

「いやぁ、流石にそれは束さんでも厳しいものが………」

 

「自分がA級戦犯レベルの悪いことをしている自覚はないんですか?」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

ギロリと睨まれた束は本当に申し訳なさそうに謝罪の言葉を述べる。

 

本来の束なら謝る事は両手の指で事足りるほどなのだが、予想外の展開と場の空気、そしてそこまで怒っているわけではないはずの箒から感じる威圧感に珍しく気圧されていた。

 

「これに懲りたら、もうしないでください。懲りずにしでかしたら、これで叩きます」

 

「ん〜?おっかしいなぁ、箒ちゃん。それ《雨月》だよね?叩くじゃなくて、叩き斬るだよね、それ」

 

「はい」

 

「肯定した⁉︎」

 

「姉の罪を背負うのも妹の務めです。その時は問答無用で叩き斬るので、そのつもりで」

 

「き、肝に銘じておくね……」

 

何故か笑顔でそういう箒に束は僅かに怖れを抱きながら、やはり自分の妹であるのだと実感する。

 

言っていることは物騒であるが、ただ姉を思っての言葉である。

 

この姉にして、この妹。やはり不器用な姉妹だった。

 

「私達の話は終わりだ。他に何かあるか?将輝」

 

「いや、特にない」

 

「そうか。なんというか……締まらない終わり方にしてしまってすまない」

 

「気にすんな。この方が俺達っぽくていいしな」

 

そういって箒の頭を優しく撫でる将輝に箒は恥ずかしそうに頬を赤く染める。

 

「いちゃつくならあたし達のいないところでしろ、バカップル」

 

「本当に仲良しだね、将輝と箒は」

 

「そういう相手がいるってのは、羨ましいよな」

 

「……貴方の場合は目が腐ってるだけ」

 

「目どころか脳味噌も腐っているだろうがな」

 

「ものすごい叩かれようね、一夏くん」

 

「一夏さんの場合、否定できませんから」

 

「全く、何処で育て方を間違えんだ、私は」

 

各々のリアクションを取りつつ、話が終わったということもあり、生徒会室から出て行く。

 

この時ばかりは束も律儀に扉から退室したものの、そのあとは皆が視線を離した瞬間に姿を消した。相変わらずの神出鬼没具合である、

 

生徒会室に残された将輝と箒。

 

静寂に包まれたその部屋で将輝は口を開いた。

 

「箒」

 

「なんだ?」

 

「よく我慢したな」

 

「………そんな事はない」

 

箒を優しく包みこむように抱き締める将輝は褒めるように言うが、箒自身はあまり納得の言っていないような声音だった。

 

本当は箒は何も知らなかった。

 

事実、気づいたのは将輝と千冬のみであったが、箒は束からそれを聞いた時、動揺を隠し、必死に怒りを押さえ込んでいた。

 

「………私は未熟だ。何時も感情に任せて行動してばかりだ。でも、あの人は私の姉で、私はあの人の妹だ。今までも、これからも。激情に任せて、あの人を拒絶すれば二度と姉妹には戻れない。私も姉さんも、どうしようもないくらい不器用だから」

 

箒もさることながら、束自身もどうしようもないくらい不器用である。

 

コミュニケーション能力や性格のタイプ、スタイルや好みなどありとあらゆる面で似通っている。

 

姉妹だから、似た者同士だから、箒にはわかる。

 

「私か姉さん。どちらかが歩み寄らなければ……私達の関係はずっとこのままだ。それに、将輝が許したというのに、私が許さないというのは駄目だからな」

 

「ははっ、箒らしいよ」

 

「む、なんだそれは」

 

馬鹿にされたのかと思い、箒は抗議の声を上げるが、将輝は首を横に振って否定する。

 

「待たずに自分から近づいていくってところが。俺はそういう所も好きだよ」

 

「あ、あまり面と向かって言うな……恥ずかしさで死んでしまいそうになる……」

 

顔を真っ赤にした箒はその表情を隠すように将輝の胸に顔を埋める。

 

その様子に将輝は頬を緩ませるが、それもすぐに消え失せる。

 

束の口から語られた真実。

 

自身がこの世界に来た理由が神などという在り来たりなものではなく、ただ一人の天才によって連れてこられたという事実。

 

偶然も偶然によってきてしまったとは言え、将輝はその話を聞いた時、言い知れぬ不安を抱いた。

 

福音の時とは違う。もっと複雑で不明瞭なものを。

 

(でも……それでも護ってみせる。例え、世界を敵に回しても……)

 

箒を強く抱き締めながら、将輝はそう誓う。

 

火蓋は既に切って落とされた。

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