憑依系男子のIS世界録   作:幼馴染み最強伝説

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いるはずのない乱入者

「痛たた……かなり投げられたなぁ」

 

将輝に投げ飛ばされた一夏は服についた汚れを払い、立ち上がった。

 

「これってどの辺なんだ?投げられたから距離感がわからないし、向きもわからないんだよな」

 

辺りをキョロキョロと見渡すものの、セットの位置を把握していない一夏には自分が現在どの位置にいるかが把握できなかった。

 

「兎に角早く合流しよう。一人の時に接触すると色々マズいし……」

 

『さあ!ただいまからフリーエントリー組の参加です!皆さん、王子様の王冠目指して頑張ってください!』

 

「はぁ⁉︎」

 

楯無のアナウンスと共に地響きのような足音が響き渡る。

 

正体は見なくともわかる。

 

おそらくはIS学園の生徒たちであろうことはこの学園に通っている一夏からしてみれば、至極簡単な答えだった。

 

「こりゃ、こっちの方もマズいぞ」

 

いくらシナリオ通りに事を進めようとはいえ、これは些か以上にやり過ぎだ。

 

早く将輝と合流しよう、一夏がそう思った時の事だった。

 

「織斑さん、こちらへ」

 

少し離れた位置、セットの下にある扉から手招きをする人物の姿があった。

 

暗いためによく見えず、一夏が目を細めてみると、そこにいたのは、つい先刻、二人に名刺を渡した人物、巻紙礼子だった。

 

相変わらずニコニコとした笑みを浮かべたまま、手招きをする姿を見て、一夏は警戒心を上げる。

 

他でもない。

 

この舞台はこの人物をこの学園から逃さないために用意された舞台なのだから。

 

「どうかなさいましたか?織斑さん?」

 

一夏の反応がおかしいことに疑念を抱いた巻紙礼子は疑問の声を上げる。

 

疑われている、そう気づいた一夏は一刻でも時間を稼ごうとその疑念を晴らすように言葉を発した。

 

「すみません。いきなり下から人が出てきたからびっくりして。俺、幽霊とか苦手なんで」

 

別段、一夏は幽霊が苦手なわけではない。

 

オカルト的なものは寧ろ好きな方だったし、幽霊よりも怖い存在は一番身近にいるためにそんな存在に恐れ戦くこともなかった。

 

「そうですか。大丈夫ですよ、私は生きてますから」

 

(そりゃまあ、私は幽霊です、なんて言われたら、リアクションに困るよな)

 

巻紙礼子の返事に一夏は苦笑して返す。

 

おそらく誰かはこの状況に気づいているはずであることを信じて、一夏は無いに等しい弁を振るう他ない。

 

疑念を抱かれないよう歩みよりつつも、彼女の攻撃圏内に入らない立ち位置へと立つ。

 

この間合いに関しては剣道や、最近の楯無の特訓で培われたものだ。将輝であれば、相手の間合いでも躱せるのだろうかと思いながら、一夏は口を動かす。

 

「巻紙さんもこの劇に?」

 

「はい。こうして、学生の催し物に参加すると、若い頃を思い出しまして」

 

「今も十分若いですよ、巻紙さんは」

 

実に他愛のない話。

 

だが、その他愛のない話にも一夏は気を配る。

 

間違えて、相手のタイミングに持って行かれないように冷静に考える。

 

「織斑さんも大変ですね。男性は二人というのはなかなか辛いでしょう」

 

「ええ、まあ。最近はそれにも慣れてきました」

 

最初は本当に辛かったものの、最近になって大分楽になってきたのは事実だった。

 

それが感覚が麻痺してきただけなのか、女子という生き物に慣れたのかは甚だ疑問ではあるが、それでも今の学園生活はとても充実していた。

 

良い感じに時間稼ぎができている。

 

そう一夏が実感した時だった。

 

「織斑さん。そろそろ時間稼ぎがやめませんか?」

 

「……へ?」

 

「だから、下手な時間稼ぎはやめろっつってんだよ、クソガキ」

 

瞬間、空気が変わった。

 

一夏は咄嗟に横に身を投げると、空気を切るような音が耳元を掠めた。

 

「チッ。無駄に反応は良いみてぇだな」

 

(いきなり攻撃してきた⁉︎それもそうか、テロリストだもんな!)

 

距離をとりつつも、一夏は白式を出す事はしない。元からそういう手はずだ。

 

緊急事態と複数でいる時以外は誰かが来るまでISを使用しない。

 

そうすれば、ISを奪われる事はないのだから。

 

「あんた、何者なんだ!」

 

「ああん、謎の悪の組織の美女様だよ、それとも、オータム様って言えばわかんのかよ、ああ?」

 

「ふざけるな!」

 

「ふざけてねえっつーの!じゃねえとてめえらみたいなクソガキと喋るわけねえだろ!」

 

そう言って巻紙礼子ーーオータムは一夏に迫り、腹部に蹴りを放つ。

 

なんとか腕でガードする事で防いだものの、相手の蹴る威力が高かったため、後方に転がる。

 

「ったく、下手な時間稼ぎしやがって。救援でも待ってたつもりかよ。ここには誰も来ねえよ。私がそうしたからな」

 

「それじゃあ、お前の……仲間も……来れないじゃないか」

 

「はっ!てめーみたいなガキ一人。一人で十分だっての」

 

オータムの答えに一夏はニヤリと笑った。

 

「だ、そうです。楯無さん」

 

「誘導尋問ご苦労様。名演技だったわよ、一夏くん」

 

「何⁉︎」

 

突如した第三者の声にオータムは目を剥いて後ろを振り向く。

 

そこにいたのは妖艶な笑みを浮かべ、扇子を広げた少女ーー更識楯無の姿があった。

 

「ああん?何者だ、てめえ。つーか、どこから入りやがった?」

 

「どこから入ったも何も、私は初めからこの場所にいたもの。いくら閉じ込めても無駄じゃないかしら?」

 

「はぁ?何言ってんのかわかんねえが、取り敢えず、てめえは死んどけや!」

 

スーツを引き裂いて、背後から鋭利な爪が現れる。

 

蜘蛛の足によく似たそれは、刃物のような先端を黒光りさせ、そのまま楯無目掛けて突き刺した。

 

何の抵抗もする事なく、貫かれた楯無を見て、ニヤリと笑うオータムだが、すぐに眉を顰めた。

 

「なんだ、お前……?手応えがないだと……?」

 

「うふふ」

 

にこりと楯無が微笑むと、次の瞬間にはその姿が崩壊した。

 

「⁉︎こいつは……水?」

 

「ご名答。水で作った偽物よ」

 

余裕たっぷりの声で言い放つ楯無は、既にオータムの真後ろにいた。

 

ぎくりとして振り向くオータムを、楯無はランスで薙ぎはらう。

 

「くっ……!」

 

「今のを反応出来るのは流石といった所かしら。けれど、最初に私は『初めからいた』と言っていたのに、何もしていないなんて思ったの?」

 

「ちぃっ、つべこべ言ってんじゃねえぞ!」

 

「あら残念。私はお喋りが好きだから、つべこべ言っちゃうのよ」

 

振り下ろされた一撃を楯無はランスで受け止めると同時にISを展開させる。

 

「更識楯無。そしてIS『ミステリアス・レイディ』よ。覚えておきなさい」

 

楯無を包むそのISは通常のISとは異なる姿をしていた。

 

全体的に狭く小さいアーマー。

 

それをカバーするように形成されている透明の液状フィールドは、さながら水のドレスのようでもあった。

 

そんな独特の外観の中でも、一際目を引くのが、左右一対の状態で浮いているクリスタルのようなパーツ。

 

アクア・クリスタルと呼ばれるそこから同じく水のヴェールが展開され、大きなマントのように楯無を包み込んでいる。そして手に持ったランスの表面にも水の螺旋が流れ、まるでドリルのように回転し始めていた。

 

「けっ!邪魔者はさっさと殺してやらぁ!」

 

「うふふ。テンプレ発言ありがとう。これじゃあ、私の勝ちは確定ね」

 

そう言って楯無はランスによる攻防一体の攻撃を開始する。

 

八本の脚、それに加えて二本の腕で攻撃を繰り出すオータムとIS『アラクネ』に対し、一つしかないランスでそれら全てを凌ぎきる。

 

その様子にオータムに苛立ちが募る。

 

腰部装甲から二本のカタールを抜き、オータムは自らの腕を近接戦闘に、背中の装甲脚を射撃モードに切り替えて応戦するものの、嵐のような実弾射撃を、水のヴェールで全て受け止め、無効化する。

 

「そんな雑な攻撃じゃ、水は破れないわ」

 

「ただの水じゃねぇなぁっ⁉︎」

 

「あら、鋭い。この水はISのエネルギーを伝達するナノマシンによって制御しているのよ。凄いでしょ?」

 

喋りながらも、その手は止まらない。

 

オータムの巧みなカタール二刀流の攻撃を、ランスで受けては逸らし、必要に応じて脚までも使っては完全に攻撃を封殺していた。

 

「なんなんだよ、てめえは⁉︎」

 

「二回も自己紹介はしないわよ、面倒だから。それにーー」

 

自分の攻撃を完全にいなされていることにオータムは次第に苛立ちを露わにしていくが、それは完全なる愚行であった。何故ならばーー

 

「もう一人。ISを使える人間がいるのを忘れてなーい?」

 

「おおおおおっ!」

 

オータムの背後から、白式を纏った一夏が《雪片弐型》を最大出力で展開し、瞬時加速で迫っていた。

 

後の事を考えていない、その攻撃は避けられればそれで終わりだが、意識は完全に楯無にあり、一夏の事など眼中になかったオータムに一夏の奇襲は予想だにしない事だった。

 

「なぁっ⁉︎てめえーー」

 

「これで終わりだぁぁぁ!」

 

何とか反応したオータムは咄嗟に八本の脚を集中させて斬撃を頭上で受け止める。

 

だが、一夏の斬撃は止まらない。

 

「な……ッ!」

 

勢いそのままに八本の脚は切り裂かれ、破片と化す。

 

そしてそのまま返す刃でISを完全に無力化しようとする。

 

「ちぃっ!そう簡単にやられるかっつーの!」

 

懐から四本脚のついた装置を取り出し、それを攻撃のみに全意識を向けている一夏に着ける。

 

「ぐっ……ああああああああっ!」

 

やった、と確信していた一夏は突如全身を襲った激痛に苦悶の声を上げ、その場にくずれおちる。

 

オータムが一夏に着けたそれは、今回の作戦の要。

 

白式、或いは夢幻を強奪するために渡された代物。

 

その名を『剥離剤(リムーバー)』という。

 

しかし、このままではやられると判断したオータムは、任務を遂行させる事よりも、自分の身の安全を優先した。

 

結果として、一夏から白式は奪えないまでも行動は不能になり、一瞬楯無が一夏に気取られているうちに急いで距離をとる。

 

「っ……あら、もう帰るの?」

 

「気にいらねえが、今回はミスった。てめえらの勝ちって事にしといてやるよ」

 

「そう。でも、そう言うのって負け惜しみって、言うのよ?」

 

「はっ!そんな余裕ヅラでいられるのもここまでだぜ」

 

一瞬、怒りに顔を歪ませるオータムだが、なんとかなけなしの理性でそれを抑える。

 

そしてISが圧縮の空気音と共にオータムから離れた。

 

「一夏くん!」

 

何が起こるかを理解した楯無が一夏の前に躍り出て、水のヴェールを最大展開で自分達を包み込む。

 

例え、絶対防御があったとしても、近距離から自爆に巻き込まれたら無傷では済まない。

 

まして、奪われはしなかったとはいえ、一夏は白式を解除されている。もしも、そんな状態で爆発に巻き込まれようものなら、命に関わる。

 

「一夏くん、大丈夫!?」

 

「な、なんとか……ISも取られてませんし……」

 

「ISよりも一夏くんよ。目立った外傷はないみたいだけど……どう?」

 

「大丈夫、です。立てます」

 

ふらふらと立ち上がる一夏。

 

意識もはっきりしているのを確認した楯無はひとまず、プライベート・チャネルを開いた。

 

『将輝くん。作戦の第一フェーズは一応成功(・・)よ。後はそちらに任せるわ』

 

『了解。後はこっちに任せてくれ』

 

『ええ。健闘を祈るわ』

 

そう言ってプライベート・チャネルを閉じる。

 

(ここまで上手くいくと逆に怖いわね)

 

ふう、と息を吐き、楯無はほぼ予定通りに作戦を運べている事に一抹の不安を覚えていた。

 

今回の作戦。

 

この学園に襲撃してきた人物を無力化。そして捕縛するといったものだ。

 

そして一夏と楯無の役割は可能であれば捕縛。最低でもISの無力化だった。

 

立案者は将輝であり、一年の専用機持ちはもちろんのこと、楯無や千冬でさえ首を縦に振った。

 

それはひとえに将輝の知識によるもので、対策を取りやすかったからなのだが、ここまで上手くいくと、逆にイレギュラーが起きた際に一瞬で瓦解しかねないという脆さもあった。

 

機械でない以上、全てが思惑通りなどということはない。

 

出来れば自分もすぐに合流しておきたいところであるが、ダメージを受けた一夏を放置することはできないし、将輝や一夏を一人で行動させるのも今作戦中は避けるようにとなっているため、一夏を置いて合流することは出来ない。

 

「将輝達、大丈夫かな」

 

「さてね。私達はやる事はやったんだから、後は信じて待つしかないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(クソ!何が簡単な仕事だ、ふざけやがって、あのガキ!)

 

IS学園の敷地を走り抜けながら、頭の中で何度も毒づく。

 

今日の潜入はオータムにとって、予定外のものであり、本来なら寮の部屋にいるときに襲う計画だった。

 

突然の同居によって大幅に修正せざるを得なくなったものの、一人きりにならない時はない。そのタイミングを計って計画を遂行するつもりだった。

 

(大体どうなってやがる。なんでバレてやがるんだ!)

 

今回の潜入計画を用意した少女は心底気に入らないが、わざわざ作戦を漏らすような馬鹿な真似はしない。何せ、組織を裏切れない立場にあるのだ。そんな事をすれば命はない。

 

それに命令を聞いているかはともかく、反抗的な態度を見せたことは今のところない。それどころか協力的にすら見える。作戦の修正案も少女から提案されたものだ。

 

結局、計画は失敗。ひとまず逃げる事は叶ったが、少女は自分になんというだろうか。()()()()()()()()()()を覗かせながら謝罪でもするだろうか。

 

不愉快だ。あんな小娘に心配され、あまつさえ同情されるなど到底許容できない。

 

この後のことを考え、オータムは額に青筋を浮かべ、歯軋りしつつも足を止めることなく走る。

 

ようやくIS学園から離れた場所にある公園までたどり着くと、公園の水飲み場が目に付いた。

 

ここまで走ってきて、流石のオータムも喉の渇きが気になっていたところだった。

 

ちょうど良いと蛇口をひねり、水を飲もうとしてーー。

 

「ーー予想通りだな」

 

「っ!?」

 

突然頭上から聞こえてきた声にはっとして上を向くが、時すでに遅し。

 

AICによって、オータムは完全に拘束されていた。

 

「くそっ!ドイツのISだな!?」

 

「その通りだ。亡国機業(ファントム・タスク)

 

ラウラの静かな声が響く。

 

その視線はどこまでも続く氷河のごとく冷たさを感じさせた。

 

「動くな。狙撃手がお前の眉間に狙いを定めている……といっても、ここに来るより以前からの話だがな」

 

「何……っ!?」

 

「気づいていなかったのか?誘導されていた事に」

 

その言葉にオータムは驚愕に表情を染める。

 

誘導しているようなところはまるで見受けられなかった。

 

警備もさして変わらない。人通りも多くもなく少なくもなかった。

 

第一、誘導しているのならどこかに違和感を感じていてもおかしくはない。

 

なのに気がつかなかったということにオータムはただ驚愕していた。

 

ーーもっとも、特に誘導していたわけではないのだから、当然の事で、狙撃手の言葉さえもブラフであり、ここにはラウラしかいないのだが。

 

「さて、洗いざらい吐いてもらおうか。おおよその調べはついているが、詳細までは知らないからな。話してもらうぞ、オータム」

 

軍で手に入れている情報と、将輝からの情報。

 

それらを合わせても、秘密結社の情報は微々たるものだった。

 

そして分からないのなら直接聞くほかない。

 

そういった意図も含め、今回の作戦は決行されていた。

 

「はっ!誰が言うかよ!」

 

「だろうな。だが、安心しろ。私には尋問の心得も多少ある。いくら時間をかけてもいいぞ」

 

そう言って、ラウラはオータムをAICで固定したまま、空へと飛び上がる。

 

『作戦第二フェーズ終了。対象を捕縛した。そちらはどうだ?』

 

『将輝の予想通りだ!仲間と思しき奴が来た。機体は……どうやらセシリアの国のものらしい』

 

『……サイレント・ゼフィルスか。これも藤本将輝の話通りだな』

 

プライベート・チャネル越しに伝えられた情報にラウラは感嘆の息を漏らした。

 

将輝の言葉に疑惑を持っていたわけではないが、信憑性は高まり、これで確固たるものとなった。

 

よもや、亡国機業も全ての行動が事前に知られているとは思っていなかっただろう。

 

奇襲作戦を仕掛けるどころか、罠に嵌められてしまっているなど、あり得ないとさえ思っているはずだ。

 

『そちらの状況はわかった。対象を教官に引き渡し次第、そちらに合流する。二人で持ちこたえられるか?』

 

『ああ。少しセシリアの様子が気になるが、すぐに鈴とシャルロットも来る。任せておけ』

 

「私の仲間が貴様の仲間と交戦中だそうだ。もっとも、すぐに会えるだろうがな」

 

「仲間……?っ……もしかして、スコー……」

 

「さあな。どちらにしても、貴様には関係あるまい」

 

オータムを固定したまま、IS学園の方向に向かおうとしたその時だった。

 

『ラウラ!箒たちが交戦してるのとは別にもう一機行ったぞ!』

 

『何?』

 

簪と共にオペレーターに回っていた将輝からの通信を受け、空を見上げるがーー。

 

「エムからの通信で飛んできて正解だったわ」

 

ーー僅かに遅かった。

 

「なっ!?」

 

今度はラウラが驚く番だった。

 

突如飛来してきた火球がラウラを吹き飛ばす。

 

AICは解除され、オータムはなす術なく宙を舞うものの、すぐに救援に来た何者かによって受け止められた。

 

「スコール……っ!」

 

「迎えに来たわよ、オータム。大丈夫?怪我はないかしら?」

 

優しげな笑みを浮かべるスコールと呼ばれたブロンドヘアーの女性。

 

それを見て、ラウラは思わず歯噛みした。

 

計算に入れておくべきだった。

 

彼等が陣取っている場所が日本国内の、それも比較的IS学園に近い場所にあるということを。

 

仮に救援を要請したとして、一分と経たずにここまで来るということは国外ではない。例えISでも、国外からここまで来るのに一分以内というのは無理がありすぎる。

 

不意打ち気味に一撃をもらったラウラだが、幸いにもスコールがオータムの事を考えて加減していたために、大したダメージは見受けられない。

 

左目の眼帯を外すと、すぐさまラウラは態勢を立て直す。

 

「スコール・ミューゼルだな?」

 

「ええ。流石はドイツ軍人。名前ぐらいは知っているのね」

 

余裕のある表情で、スコールは肯定した。

 

それはひとえに自分の方が強いという確信からくるものであり、オータムを庇っていても遅れをとらない自信がスコールにはあった。

 

それとは対照的にラウラの表情は険しく、実力差をすぐに悟ってしまっていた。

 

(私一人ではこの女には勝てんか……ならば)

 

ラウラはその場から飛び上がり、スコールから距離をとる。

 

この作戦はあくまでも『全員無事』であることが前提条件であり、イレギュラーが起こった場合には対象よりも自分を優先するようにとラウラは特に言いつけられていた。

 

「あら、逃げるのかしら?」

 

「ああ。軍人は上官に従うもの。今作戦の上官に『無理はするな』と言いつけられている。貴様が来た時点で作戦は失敗だ。それとも、報復に出るか?」

 

「まさか。こちらも作戦が失敗した以上、ここにいる意味はないもの」

 

そう言うとスコールもまた、ラウラから距離を取り、そのまま離脱していった。

 

今回はあちらが戦うことを優先していなかったことに僅かに感謝する。

 

戦っていれば十中八九負けていた。

 

国家代表クラスの実力を有しているであろうことにはすぐに気がついていた。

 

故に、もしも戦うような事になれば、到底一人では太刀打ちできない。

 

結果として今回はお互いに痛み分け。事前に情報を得ていたにもかかわらず、芳しい結果を得られる事はなく、ラウラはひとまずIS学園へと帰還するのだった。

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