憑依系男子のIS世界録   作:幼馴染み最強伝説

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準備期間

「むぅ……将輝。これをどう思う?」

 

「背部と脚部の展開装甲の開放はいいと思うよ。ただ、これだとーー」

 

「ああ。速さは圧倒的でも、これでは折り返し地点でエネルギーが底を尽きてしまう」

 

将輝と箒は二人で並んでディスプレイを見ていた。

 

先程まで高速機動実習を行っていたのだが、それもひと段落ついて、各々の専用機持ちが高機動パッケージや増設スラスターを装備していく中、その必要がない将輝、箒、一夏の追加装備なし組は意見交換をしていた。

 

「白式の方はどうなのだ?」

 

「白式は速度特化の大型スラスターがあるんだっけか」

 

「武器は使えなくなるんだけどな。二次移行した分、エネルギー消費が増えたみたいなんだ」

 

「そりゃエネルギーの保有量は同じままで消費量が増えるんだから、そうなるだろ」

 

「だから、俺はスラスターに全振りだな」

 

「そうか………ん?全振り?攻撃を受けたらどうするつもりだ?」

 

一夏の言葉に引っかかりを覚えた箒が聞くと、一拍置いて、一夏はドヤ顔で答える。

 

「かわす」

 

「仕掛ける時は?」

 

「体当たり」

 

「猪武者かお前は……」

 

何か考えあってのものであるとはわかっていても、やはりそれは戦術というにはあまりにも稚拙というか、雑すぎた。

 

「ぐっ……これでも真剣に考えたんだぞ」

 

「まぁ、その辺が妥当かもしれないな。白式じゃ、攻撃するにしても絶対に当てねえと採算が取れないだろうしな」

 

「一夏らしいといえばらしいがな……将輝はどうだ?」

 

「俺の方は夢幻(こいつ)の謎能力に賭ける。何を犠牲にするかはわからないけど、速さは白式や紅椿に引けを取らないと思うぜ」

 

未だ詳細な情報が一切わからない夢幻の能力であるが、発動条件はわかっているために将輝はそれに賭けることにした。でなければ、他の専用機持ちに遅れをとるからだ。

 

「謎能力か……あれも束さんが関わってると思うんだが、何も教えてくれなかったのか?」

 

「ああ。本人曰く『教えたら謎にした意味がない』らしい」

 

「姉さんらしいな」

 

ふふっ、と箒が笑う。

 

以前までなら、束の話になると不機嫌になっていたのだが、今の二人に確執と呼べるものは皆無で、どちらかと言えば自己中心的な妹に手を焼き、時には鉄拳制裁も辞さない姉状態という姉妹逆転状態にあったりする。

 

「箒は確か『絢爛舞踏』があったよな?それなら、エネルギー効率は考えなくてもいいんじゃないか?」

 

一夏は思い出したと箒に問いかける。

 

確かに箒の紅椿のワンオフ・アビリティーである『絢爛舞踏』を発動させれば、エネルギーは無限に等しく、常時全力で挑めることだろう。実際、箒は福音戦以降も『絢爛舞踏』を発動させることが出来ている。

 

ただ――。

 

「いや、残念だが『キャノンボール・ファスト』では『絢爛舞踏』は使えない」

 

「?なんでだ?」

 

不思議そうな表情で訊く一夏。

 

それは、とまで言って、箒は頬を真っ赤に染めた。

 

「い、言えるわけがないだろう!」

 

「お、おう。そうか。悪いな」

 

聞いてはいけないことを聞いてしまったかと一夏はすぐに謝る。

 

正直なところ、将輝も気になってはいるのだが、箒の反応を見て、追及するのをやめた。

 

因みにその発動条件はというとーー。

 

(うぅ……言えるものか。将輝の事を考えすぎて、操縦がおろそかになるなど……)

 

『強い想い』をトリガーとして発動する『絢爛舞踏』であるが、箒の場合はそちらに意識を集中させると、他が散漫になってしまうという欠点があった。

 

タッグを組んだりした場合なら、それもなんとかなるが、今回は単独。まして高速機動で行う試合形式のレース。そんなことをしようものなら妨害を受けずとも勝手にコースアウトしかねない。

 

かといって、止まってしまったら元も子もない。

 

それゆえに『絢爛舞踏』は封印することにしたのだ。

 

「でも、『絢爛舞踏』が使えないとマズくないか?素人見になるけど、『紅椿』って『絢爛舞踏』ありきって感じがするし」

 

「ああ、私もそう思う。まったく……あまり文句を言えた義理ではないが、姉さんの作るものは求めてくるレベルが高すぎる」

 

『紅椿』の展開装甲には多目的動力が使用されていて、BT兵器同様、攻撃にも防御にも、そして機動にも転用可能な代物だ。

 

しかし、それらは『絢爛舞踏』によって安定供給されなければ、すぐさま機体がエネルギー切れを起こしてしまう。白式とほぼ同じだ。

 

「じゃあ、こっちの脚部展開装甲を閉じて、背部だけ開放したらどうだ?バランス・コントロールは通常スラスターに任せるとして」

 

「それは将輝とも考えたが、展開装甲の出力に対して弱すぎる。全て閉じることも考えたがーー」

 

「それじゃ勝てないって話になってな。理想的なのは『キャノンボール・ファスト』までに『絢爛舞踏』を使いこなせるようにすることだが……まあ、無難なのは展開装甲をマニュアル制御にして、オンオフを状況に応じて使い分けることだな」

 

「やはりそうなるか……仕方あるまい。ギリギリまで使えるように頑張ってみるしかないか」

 

一通り考えたところで、同じ結論に至った箒は、仕方ないと話を区切った。

 

「私は山田先生に模擬戦の相手を頼んでくる」

 

そう言って、箒は真耶の元に歩いていく。

 

将輝と一夏は互いにどうしたものかと考えたところで、他の代表候補生を参考にしようと、一夏はシャルロットの元に、将輝はラウラの元に向かう。

 

「調子はどうだ?ラウラ」

 

「ん……お前か。見ての通り、増設スラスターの量子変換(インストール)が終わったところだ。これから調整に入る」

 

瞑目していたラウラは、声をかけられると静かに目を開いて、淡々と答える。

 

物腰こそ柔らかくなったものの、やはりどこか冷たさを感じさせる様子は消えておらず、椅子に座って腕組みをし、目を瞑っていると近寄り難さがあった。

 

「お前の方はどうだ?篠ノ之箒と織斑一夏の両名と何やら話を……いや、これでは情報を探っているようだな。失言だ、忘れてくれ」

 

「気にしないでくれ。今の流れを作ったのは俺だし、こっちが悪い。それより、ラウラにも相談があるんだ」

 

「相談?」

 

「ああ。正直な話、高速機動下の戦闘のコツっていうのがいまいちわからないんだ」

 

「?何を今更。福音を相手にしていた時はこなせていただろう」

 

「あれは偶々だ。一夏の奴はあれで才能あるし、後一歩って感じなんだが、俺の方は雲を掴むような感じでさ。はっきり言ってお手上げだ。かといって箒や一夏に聞くわけにもいかないし」

 

「それで私のところか……まぁ、あの二人は代表候補生ではない。知識と経験の多い私達に聞こうと考えるのは当然の結果か」

 

納得した様子で頷くラウラ。

 

時折、部分展開されたヘッドギアがインストールデータを読み込むためにぴくぴくと動くため、どことなく小動物を連想させていた。

 

「本来ならばお前は敵だが……いいだろう。対等な条件での勝利でこそ、価値があるというものだ」

 

「サンキュー、ラウラ」

 

「気にするな。別にテクニックを伝授するわけではない。あくまでもコツだ」

 

塩を送るわけではない、とラウラは念を押すが、将輝としてはありがたいのも事実だった。

 

箒や一夏は、本人こそ自覚はないものの、明らかに日に日に実力をつけている。本人のやる気もあるのだろうが、それだけではそこまで上達はしない。天才でなかったとしても十分に才能を持っているだろう。だから、知識を完全に身につけずとも、ある程度は感覚でどうにかなる節がある。

 

才能というものに縁のない将輝は、やはりしっかりとした知識を得て、感覚で操作する事を覚えるため、一緒に訓練をしたところで、一歩遅れてしまうのだ。

 

特に今回は授業では初めて。

 

一夏などは見よう見まねである程度はこなしているし、箒に関しても同様だ。

 

だが、将輝だけはどうに一歩遅れていた。

 

「いいか。高速機動戦において重要なのは冷静な判断力。そして、それを迅速に実行するだけの行動力だ。回避、攻撃、防御を瞬時に判断することで、その場における最適な選択肢を取るというわけだ」

 

「そうすれば、エネルギー消費も減速もないって事だな」

 

「そういうことだ。客観的に見ても、お前は判断力と実行力は高い。となれば、求められるのはやはり高速機動戦の経験ないし、感覚を馴染ませる事だろう」

 

「……つまり」

 

「実戦あるのみだな」

 

「やっぱりか……」

 

将輝自身、それは概ね理解していたつもりだった。

 

ただ、自分だけの判断で決める事ではないとラウラの客観的な意見を求めたのだ。

 

「常時瞬時加速をしているような状態という認識があればいい。後は速度と機体制御だ。少しでもバランスを崩せば即コースアウト。かといってそちらに意識を集中しすぎて妨害を回避できなければ同じだ。復帰するのは難しいと思え」

 

「ますます訓練回数を要求されそうだな」

 

せめて、あと一つの武装が使えればと将輝は心の中でボヤいた。

 

未だに最後の武装に関しては使用できる兆しが見えない。現段階の武装ではとても妨害には向いておらず、最悪一夏のような戦いを要求されかねない状態であった。

 

しかし、ボヤいても意味はなく、早速将輝はラウラ指導のもと訓練に取り掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「訓練あるのみとはいえ、そこまでするか、普通……」

 

「まぁ……勝つためには必要な事というか、なんというか……」

 

控え室の床に大の字になって倒れている将輝を見て、箒はため息を吐いた。

 

いつものように放課後に訓練をしていたのだが、あまりにも将輝が出てくるのが遅いために迎えに来たのだ。

 

倒れている将輝を見たときは顔を青くした箒だが、すぐに寝ているのだとわかり、紛らわしいという少しの怒りとこんなところで寝ては風邪をひくという優しさのもと、将輝を叩き起こした。

 

「前とちょっと感覚が変わってるんだよ。ISと直接繋がってるときは本当にタイムラグがなかったし、制御するっていうよりも体のバランスをとる感じで難しくなかったし」

 

「感覚が変わっている……か。だが、変わったというより……」

 

「元に戻っただろ?わかってる。これが普通で………あ、福音の時の事をとやかく言うのは無しな」

 

「わ、わかっている!も、もう問題ないぞ!」

 

「ならいい」

 

福音事件の話が出ると、箒は自己嫌悪に陥る事が多々あった。

 

その度、将輝は気にするなと言ってきたのだが、やはり事が事だっただけに気にしないというのが無理な話だ。なので、将輝としては少しでも普通のように箒が振る舞えていればつっこむことはしないようにしていた。

 

「……将輝。一つ確認したい事があるのだが……いいか?」

 

「?なんだ?急に改まって」

 

先程までの様子から一転し、真剣な表情になる箒。

 

将輝はそれを不思議そうに眺めていた。

 

「前回の作戦で救援に来たテロリストがいただろう?イギリスの機体を奪ったやつだ」

 

「『サイレント・ゼフィルス』か。それが?」

 

「実はな……交戦中にあちらから通信を飛ばしてきた」

 

「通信?」

 

「ああ、そしてやつはこう言った。『藤本将輝に会わせろ』とな」

 

これには将輝は驚く以前に一層頭を悩ませた。

 

どこだ、と聞くのは理解できる。あくまでも標的であるからだ。

 

しかし、会わせろというのは一体どういう了見なのか。しかも、織斑一夏ではなく、藤本将輝をだ。パイロットが同じならば、将輝は眼中にないはずだというのに。

 

「もちろん、相手はテロリストだ。ろくな理由ではないし、任された以上迎撃に回ったのだがーー」

 

そこで箒は言葉を濁した。

 

言いづらいというよりもどちらかといえば納得できないといった具合だ。

 

しかし、それでも箒は意を決したように言葉を発した。

 

「やつからは悪意や敵意といった類のものが感じられなかったのだ。いや、それどころか、少し焦っていたように思える」

 

あくまで個人的な感想だが。と箒は話を締める。

 

確かにおかしな話だ。物語の流れを知っている将輝からしてみれば、『サイレント・ゼフィルス』のパイロットはオータムの事を見下しているはずだ。そして実力もおそらく相手の方が上だろう。その状況で焦る要素が見当たらなかった。

 

(原作キャラの性格改変を考えると、あいつにも仲間意識が……セシリアの事もあるし、考えられないわけじゃないが……それなら何故俺に会いたがる?)

 

思考を走らせるが、疲れ切った体のせいか、鈍くなっている感覚がした。

 

「まぁ、なるようになるだろ。それよりも優勝目指して頑張らないとな」

 

これ以上は今考えても無意味と判断した将輝は話題を切り替え、話を『キャノンボール・ファスト』に戻す。

 

「それは私も同じだ。誰にも負けるつもりはない。それが将輝でもだ」

 

「当然………あ、そうだ。箒」

 

「なんだ?」

 

「どっちかが優勝したら、優勝出来なかった方が優勝した方の言う事を聞くっていうのはどうだ?」

 

「なっ!?い、い、言う事を聞く、だと!?」

 

「ああ。可能な限りな。恥ずかしいからとかは無しの方向で」

 

そう言って、将輝はニヤリと笑う。

 

別に心理戦を仕掛けているわけではないし、卑猥な事を考えているわけでもない。

 

ただ、自分のモチベーションを上げるのには打ってつけだと思っていた。

 

ひょっとすると次の大会。

 

中止さえもあり得るかもしれないのだから。

 

対する箒はというと……。

 

(負けたら将輝の……ひょっとして、将輝はこれを口実に……いや、そんなはずはない!いつも将輝は私の気持ちを尊重して……しかし、もしかしたら将輝が焦れて無理矢理……ああっ!駄目だ……っ!私達はまだ学生だぞ……っ!)

 

妄想が膨らみ、沈黙していた。

 

箒がこちらに戻ってくるのはそれから十分ほど経って、将輝がもう一度疲労で寝落ちしていた頃だった。

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